トップ猫の健康と病気猫の寄生虫症猫の寄生虫対策・完全ガイドペルメトリン

猫における「ペルメトリン」の危険性~中毒の原因・症状から治療・予防法まで

 犬向けノミダニ駆除製剤に含まれている合成ピレスロイドの一種「ペルメトリン」。この成分は猫に対して強い毒性を発揮し、死亡を含めた中毒を引き起こす危険性がありますのでご注意ください。

ペルメトリンとは?

 ペルメトリン(permethrin, ペルメスリンとも)とは除虫菊に含まれる殺虫成分を英国国立技術開発公団(現BTG)と住友化学株式会社が人工的に作り出し、持続性を付加された合成ピレスロイドの一種。ハエ、蚊、ノミなどの節足動物や昆虫の神経細胞に作用し、反復的な異常興奮を招くことで痙攣や麻痺を引き起こすと考えられています。日本では1985年に農薬として登録されているほか、動物用医薬品としては牛、豚、鶏の外部寄生虫の駆除剤および畜鶏舎内外の害虫駆除剤として承認されています出典資料:農薬・動物用医薬品評価書, 2019)合成ピレスロイドの一種「ペルメトリン」の分子構造(シス・トランス)  ペルメトリンは4種の立体異性体から構成されており、「cis体」(二重結合を軸として同じ側に2個の置換基がある形)と「trans体」(二重結合を軸として異なる側に2個の置換基がある形)の含有比率は25:75~40:60と製品によってまちまちです。
 犬や猫向けの製品としてはノミ取り首輪、ノミ取りスプレー、スポット製剤などが医薬品もしくは医薬部外品として流通していますが、実は合成ピレスロイドの中でもずば抜けて猫の中毒事例が多いことで知られています。ではなぜペルメトリンは猫にばかり強い毒性を発揮してしまうのでしょうか?
NEXT:中毒の原因は?

猫のペルメトリン中毒の原因

 猫においてペルメトリン中毒が多い理由は被毛をなめるグルーミングという習性を持っており、なおかつ肝臓における解毒作用が弱いからだと考えられます。
 ラットを対象とした調査では、ペルメトリンを経口摂取した後、消化管から速やかに吸収され、肝臓において酸化や水酸化などの代謝を受けると考えられています。また代謝産物の大部分はグルクロン酸抱合もしくは硫酸抱合を受け、主として尿中に排泄されることも確認されています出典資料:農薬・動物用医薬品評価書, 2019)
 しかし猫の場合、肝臓におけるグルクロン酸転移酵素の活性が極めて低く抑えられているため、上記したグルクロン酸抱合をうまく行えません。また硫酸抱合の方もすぐに枯渇してしまいます出典資料:M.C.Savides, 1984)。その結果、成分の解毒作用が遅れ、特に水酸化を受けにくく毒性が強い「cis体」の影響で体に有害反応が出てしまうものと推測されます出典資料:Linnett, 2008)。要するに解熱剤に含まれるアセトアミノフェンを間違って摂取したときと似たようなメカニズムを通してペルメトリン中毒に陥ってしまうということです。 人間用の解熱薬は猫のアセトアミノフェン中毒を引き起こす 猫はグルーミングを通じてペルメトリンを経口摂取してしまう危険性が高い  製薬企業がまともな常識を持ち合わせている場合、猫向けのスポット(滴下式)製剤にペルメトリンを入れることはまずありません。しかし犬に対する毒性は猫ほどではないため、犬向けの滴下薬にはいまだにペルメトリンを含んだものがあります(※フォートレオン®など)。もし犬にペルメトリンを滴下投与し、同居している猫がグルーミングを通じてなめてしまうとどうなるでしょう?たとえ猫に対して使っていなくても、犬の被毛を通じて間接的に経口摂取してしまうでしょう。
 猫においてペルメトリン中毒が多い理由は、肝臓における解毒作用が弱く、グルーミングによって成分を誤飲してしまうリスクが高いからだと推測されます。猫の福祉向上を目指す国際団体「International Cat Care」(ICC)がおどろおどろしいポスターまで作成して注意喚起を行っているのはそのためなんですね出典資料:icc)猫のペルメトリン中毒予防キャンペーンポスター NEXT:診断と症状は?

猫のペルメトリン中毒の診断と症状

 猫がペルメトリンを口から摂取したり皮膚を通じて吸収しても、血液検査値は正常範囲内であることが多く、せいぜい高血糖と好中球増加が見られる程度です。また採取した尿を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で調べてペルメトリンの代謝産物を検出するという方法がありますが、大掛かりな検査機器を有している動物病院は限られており、またそれなりに時間もかかるため診断ツールとして実用的とは言えません出典資料:Linnett, 2008)
 猫のペルメトリン中毒は多くの場合、飼い主への聞き取りと臨床症状から診断されます。複数の文献で共通して報告されている主な症状は以下です。
ペルメトリンによる中枢神経症状
  • 発作・ひきつけ
  • 振戦・ふるえ
  • 筋収縮に起因する高体温
  • 運動失調
  • 線維束性筋収縮
 以下でご紹介するのはペルメトリン中毒に陥った猫の動画です。流涎(よだれ)と同時に、まるで寒さに晒されているかのように体が小刻みに震え、足元がふらついています。飼い主が犬向けのノミ駆除製品を誤って猫に滴下投与してしまったとのこと。治療を行いましたが症状が重く、残念ながら死亡してしまったといいます。 元動画は→こちら
 その他の症状として報告があるのは嘔吐、流涎(よだれを垂らす)、食欲不振、昏倒、下痢、意識混迷、知覚過敏、元気喪失、一時的な盲目などです。また合併症としては低体温、電解質異常、誤嚥性肺炎、低タンパク血症、貧血、無呼吸・呼吸停止、胸水、尿路感染、角膜潰瘍などが報告されています。上の動画で紹介したとおり、治療が遅れた場合、最悪のケースでは死亡することもあります。
NEXT:中毒の治療法は?

猫のペルメトリン中毒の治療

 猫のペルメトリン中毒では、摂取から数分で症状が現れる例から、72時間経過してようやく現れる例までさまざまです。しかし介入が早ければ早いほど予後が良く、24~72時間以内に回復するとされています。医学文献で報告されている主な治療法は以下です出典資料:Dymond, 2008)

発作やひきつけの制御

 ペルメトリン中毒の治療における最優先事項は発作やひきつけの制御です。制御が遅れたり症状を放置すると、脳内に浮腫が生じて永続的な障害が残ったり、筋細胞の融解(壊死)で血中に遊離したタンパクがミオグロビン尿症を引き起こし、腎障害につながる危険性があります。治療に際しては抗けいれん薬、骨格筋弛緩剤、催眠鎮静薬などを静脈経由で注入して安定化を図ります。
 近年は筋弛緩剤の投与量と飼い主の経済的な負担の両方を抑えるため、脂肪乳剤を静注するという治療法も紹介されています出典資料:Ceccherini, 2015 | 出典資料:DeGroot, 2014)

輸液治療

 発作・ひきつけの制御が完了したら体液や電解質バランスを保つため輸液治療を行います。また不随意的な筋肉の収縮で高体温に陥っている場合は体温の調整も同時に行います。ただし低体温症の危険性があるため、氷で冷やすなど極端な方法はNGです。

入浴

 ペルメトリン中毒がスポットオン(滴下式)薬剤で生じた場合、症状が安定すると同時に被毛や皮膚に付着したペルメトリンを洗い落とします。このプロセスを忘れると、症状が数日間に渡って続くことがありますので省かないよう気をつけます。
NEXT:中毒の予防法は?

猫のペルメトリン中毒の予防

 オーストラリア出典資料:Linnett, 2008)、イタリア出典資料:Caloni, 2012)、イギリス出典資料:Sutton, 2007)、アメリカ出典資料:Richardson, 2007)など複数の国において膨大な数のペルメトリン中毒が発生しています。これらの事例をもとに発生原因や状況を整理すると、猫の体内にペルメトリンが入ってしまうルートを遮断する方法は以下のように集約されます。

犬向け製剤を猫に使わない

 犬向け製剤を誤って猫に使ってしまうというのが一番多いパターンです。各種団体のキャンペーンにより、ペルメトリンを含む犬向け医薬品(部外品)には警告が表示されるようになっているものの、パッケージや添付文書をよく見ないまま猫にスポットオン(滴下式)製剤を使用する飼い主が跡を絶ちません。ペルメトリンは要指示薬ではないため、量販店や通信販売で手軽に入手できる状況が一因になっていることは間違いないでしょう。 ペルメトリンを含む犬向け製剤には「猫への使用不可」の警告ラベルがある  犬を飼っていようといまいと、使おうとしているノミダニ駆除薬に「ペルメトリン」が含まれていないことをよく確かめることが重要です。なお2000年から2008年の期間、オーストラリアのシドニーにある二次診療施設に報告された42件のペルメトリン中毒症例のうち、およそ60%に相当する25頭が夏に発生していたといいます出典資料:Boland, 2009)。日本においても蚊が発生する時期には注意が必要です。

犬の被毛を猫になめさせない

 犬と猫が同居している場合、スポット製剤を滴下した犬の被毛を猫がなめるという経口摂取のパターンが多く発生します。先述したように猫にはグルーミングという習性があり、自分の被毛だけでなく同居している他の猫や犬の被毛もなめようとしますので、どうしても成分と接触するリスクが高まります。
 犬と猫を同時に飼っている家庭においては、まずペルメトリンを含んだ犬向け製剤を使わないことが重要です。もし何らかの理由でどうしても使わざるを得ない場合は、必ず飼い主が猫の動きを観察し、十分に乾ききるまで接触させない配慮も必要となります。なお日本国内において認可されている、犬の被毛に垂らす滴下タイプのペルメトリン製剤は以下です。
ペルメトリン含有商品
  • フォートレオン®
  • フロントライントリプルアクト®
 トリプルアクト®の方は認可されているだけで実際には流通していないようです。フォートレオン®は犬向け製剤であるにも関わらず、医薬品データベースではなぜか猫の死亡症例が報告されています。動物病院の獣医師が、猫には禁忌とされている本剤を飼い主に何の説明もなくノミ予防目的で処方したという信じられないパターンもあるようです。

使用済みのピペットをなめさせない

 犬に対してペルメトリン製剤を使用した後、ピペットをその辺に放置してしまうと、猫が誤ってなめてしまう危険性があります。また好奇心旺盛な猫の場合、ゴミ箱に顔を突っ込んでまで妙な臭いを発するプラスチック容器を調べようとするかもしれません。
 ペルメトリン製剤を使った後は、猫が絶対アクセスできない場所に速やかに廃棄することで成分の誤飲を予防できます。

猫向けのペルメトリン商品を使わない

 世界中でたくさんの中毒症例が報告され、危険性に関する注意喚起がなされるに連れ、猫向け製品からペルメトリンがほぼ駆逐されました。例えば以下のデータベースの「主成分」という部分にペルメトリンと入力してみてください。ほとんどは犬向けや家禽向けの商品で、猫向け商品として残っているのはノミ取り首輪など、成分を経口摂取する可能性が低いタイプだけです。 農林水産省・動物用医薬品等データベース  とは言え、首輪から放出される微量の成分によって皮膚炎を起こしたり経皮吸収される可能性もありますので、完全に安全というわけではありません。

治療を断念しない

 2008年、オーストラリア国内で働く獣医師を対象とし「過去2年間のうちに猫のペルメトリン中毒に出くわしたことがあるか?」というアンケートを行ったところ、207名の獣医師が合計750件に及ぶ症例を報告し、そのうち死亡症例が22%(166件)を占めていたといいます。さらにそのうち23%(39件)は、飼い主が治療費の負担を拒んだ末の安楽死だったとも出典資料:Malik, 2009)
 猫のペルメトリン中毒は飼い主の知識不足や不注意によって起こるものです。確実に予防ができる事故ですが、万が一発生しても突然の出費に対応できなくて治療を断念するということがないようにしたいものです。
同じく合成ピレスロイドに属する「フェノトリン」の危険性についても確認しておいてください。