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猫のノミ取り商品に含まれる「フェノトリン」の危険性について

 ノミ取りシャンプーやスポット薬のラベルに「フェノトリン」という成分が記載されている場合、猫に用いるのはいささか危険かもしれません。海外においても日本国内においてもたくさんの中毒事例が報告されています。

アメリカでの大規模中毒事件

 「フェノトリン」(Phenothrin)はピレスロイド系殺虫剤の一種で、動物のノミやダニ、および人間の疥癬、アタマジラミの駆除などに用いられます。しかし詳しく調べてみると、この成分は猫に危害を加えたという「前科」があるようです。副作用の具体的な内容としては皮膚のかゆみ、脱毛、流涎(よだれ)、震え、痙攣などがあり、中には死亡例も含まれていたと言います。以下は簡単な経緯です。
 2000年5月、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)はペット用品メーカー「Hartz Mountain Corporation」が販売している2商品に関する副作用レポートを受け取り始める。2001年3月、その数が一向に減る気配を見せず数千件に及んだたため、EPAはいよいよ原因の調査に乗り出した。販売元、獣医師、副作用が出たペットの飼い主などへ聞き取り調査したところ、スポット式商品に含まれる「フェノトリン」と呼ばれる成分を、猫が誤ってなめてしまうことが副作用の原因である可能性が浮上してきた。
 事態を重く見たEPAは2002年、「Hartz」に対して改善命令を出し、同社は流通している商品の回収、再包装、適正ラベルへの張り替え、危険性に関する警告チラシの配布、ウェブでの呼びかけ、ダイレクトメールキャンペーン、ペット用品店や獣医師への情報開示といった予防策に奔走することとなった。Hartz Recalls 2 Flea and Tick Products

日本におけるフェノトリン製品

 このように決して安全とはいえない「フェノトリン」ですが、日本国内で流通している商品のラベルを見てみると、なぜか軒並みこの成分が含まれています。例えば以下はシャンプーです。
ノミ取りシャンプーの成分
  • ジョイペット 【商品名】ダニとノミ取り リンスインシャンプー 犬猫用
    【有効成分】フェノトリン
  • ハーツ【商品名】ノミとりケアシャンプー 犬猫用 アロマソープの香り
    【有効成分】フェノトリン
  • ハッピーペット【商品名】薬用マダニ・ノミとりリンスインシャンプー 犬猫用
    【有効成分】フェノトリン
 アメリカの「国立殺虫剤情報センター」(NPIC)が公開しているフェノトリンに関する情報によると、「特に猫はd-フェノトリンに対する感受性が高いと考えられる。神経毒症状としては、スポット式商品を使用した後の震え、過剰な流涎、発作などが報告されている。結果として2005年、d-フェノトリンを含む猫用商品は全て撤廃された」とあります出典資料:npic)。また「ペット中毒ホットライン」は、フェノトリンを含むピレスロイド系薬品が猫に危険であると警告しています出典資料:PPHL)。日本のメーカーは、一体どのようなデータを根拠に安全と判断し、フェノトリンを含んだ商品を犬猫兼用にしているのでしょうか?
 メーカーの言い分は「動物医薬品として農林水産省で認可された成分である」というものです。一方、農林水産省は「メーカーが規定通りの検査法で安全性をチェックしている」と言い張っています。結局、成分の安全性に関して具体的にどのような検査が行われたのかについては、メーカー側の「知的財産」というブラックボックスの中に隠されたままなのです。
 さまざまなデータから考えると、「フェノトリン」を有効成分として含んでいるノミ取り剤を猫に使うのは最善策ではないと言わざるを得ません。特に猫は自分の被毛を舐めるという習性を持っているため、経皮的に吸収された時よりも強い毒性を発揮してしまいます。アメリカにおいて犬よりも猫における中毒症例が圧倒的に多かったのはそのためでしょう。
 猫のノミ取り対策をする際は、前科がある成分を避けたほうが無難だと思われます。ポイントは「フェノトリン」のほか、猫に対する毒性が強いことで知られる「ペルメトリン」が含まれていないことをしっかりと確認することです。また犬と猫が同居している家庭においては、犬に用いるノミ・ダニ商品に上記2成分が含まれていないことを事前に確認した方がよいでしょう。その他、含有成分が不安な場合は、農林水産省が公開している副作用データベースをご活用ください。 副作用情報データベース 猫における「ペルメトリン」の危険性

フェノトリンとは?

 フェノトリンとは除虫菊から抽出されたピレトリンと呼ばれる殺虫成分を人工的に合成した成分。主として日の光に当たっても変性しにくいように手を加えられています。 フェノトリン(スミスリン)の立体異性体「トランス」と「シス」  立体異性体である「1R-trans-フェノトリン」と「1R-cis-フェノトリン」にはどちらにも殺虫効果があり、「SUMITHRIN®」という商標名で登録されています。アメリカ国内では1977年から殺虫剤として販売されており、EPA(米国環境保護庁)が1992年に行った推計では、アメリカ国内でおよそ1億回使用され、1/3は屋外、残りの2/3は室内で使われているといいます。また「International Programme on Chemical Safety」が1989年の時点で行った推計では、世界中で年間70~80トンほど使用されているとのこと。

フェノトリンの危険性

 フェノトリンに関しては多くの哺乳動物を対象とした毒性・代謝実験データがありますが、猫を対象としたものはありません。以下は一例です出典資料:WHO)。なお「LD50」とは半数が死ぬ量、「NOEL」とは有害と無害を含めたいかなる影響も認められない最大暴露量、「NOAEL」とは毒性学的なあらゆる有害事象が認められない最大暴露量のことです。
フェノトリンの毒性実験
  • ラット(雌雄)経口 | LD50=5,000mg/kg超
  • ラット(雌雄)皮膚 | LD50=5,000mg/kg超
  • ラット(雌雄)吸引 | LD50=2,100mg/立方m超
  • ラット(雌雄)吸引 | NOEL=104mg/立方m
  • ラット(雌雄)経口 | NOAEL(雄)=47mg/kg(体重)/日 | NOAEL(雌)=56mg/kg(体重)/日
  • イヌ(雌雄)経口 | NOAEL(雄)=24mg/kg(体重)/日 | NOAEL(雌)=7.07mg/kg(体重)/日
 ラット、マウス、ウサギ、イヌを対象とした調査により急性毒性、慢性毒性、肝臓(肥大)、腎臓(萎縮)、血液(貧血)、内分泌(エストロゲン様作用)、生殖機能(子宮萎縮・流産)への影響が確認されています。
 注意すべきは、ラットや犬で得られたデータをそっくりそのまま猫に転用することができないという点です。猫の肝臓では「グルタチオン抱合」や「グルクロン酸抱合」といった代謝能力が極めて弱く、犬では大丈夫な成分でも体内に蓄積して毒性を発揮してしまうことがあるのです。猫における中毒症例が圧倒的に多いのもそのためでしょう。

人間での中毒症状

 フェノトリンの効果は害虫の神経細胞内に過剰なナトリウムを流入させて興奮を促し、麻痺を引き起こすことです。人間を始めとした哺乳動物においては、蚊などの昆虫よりも体温が高いこと、および神経細胞の回復が早いことから麻痺は起こらないとされています。とは言え、大量に吸い込んだり飲み込んだりすると、人間と言えども以下に示すような中毒症状が引き起こされますので、完全に安全というわけではありません(日本中毒情報センター)
フェノトリンによる神経毒症状
  • 大量経口摂取嘔吐 | 下痢 | 唇や舌のしびれ | めまい | 顔面蒼白 | けいれん | ひきつけ
  • 大量吸入くしゃみ | 鼻炎 | 咳 | 悪心 | 頭痛 | 耳鳴り | 聴覚過敏 | 昏睡
  • 皮膚との接触知覚過敏 | 皮膚炎 | アナフィラキシーショック(重症アレルギー)
 その他、主成分である人工ピレスロイドの殺虫効果を高める共力剤としてピペロニルブトキシドが含まれていることがあります。こちらはEPAによって発がん性のほか精巣の萎縮や免疫力の低下を引き起こすことが確認されています出典資料:Insecticide Factsheet SUMITHRIN)

猫での中毒症状

 アメリカにおいては猫に投与したときの十分なデータがないままノミダニ駆除薬として市場に投入されました。その結果が2000年代初頭に起こった大規模な中毒事件だと考えられます。見方を変えれば、一般のペット猫を利用した毒性実験をしたとも言えるでしょう。Hartzが製造した2商品による被害の詳細は以下です出典資料:EPA Memo)
 2003年1月から9月の期間、HartzとASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)に寄せられた2商品に関する苦情の件数は1,636件で、このうち1,331件(81%)で発作などの神経毒症状が報告された。
 同期間、ASPCAに寄せられた2商品に関する苦情の件数は275件でこのうち210件(76%)で発作などの神経毒症状が報告された。さらにこの210件と商品との因果関係とを検証した結果、「関係が疑わしい or ない=9.5%」、「関係性は薄い=9%」、「関係性は中等度=17.1%」、「関係性が強い=64.3%」と判断された Hartzが製造したフェノトリン含有商品と神経毒症状との因果関係  強い関係性が60%以上の割合で見られたことから、製造元であるHartzは商品の回収、再包装、適正ラベルへの張り替えといった対応に奔走することとなりました。猫の体内におけるフェノトリンの代謝経路は完全に解明されていませんが、おそらく犬に比べると体外への排出能力が相当劣るものと推測されます。この体質がけいれんや運動失調と言った神経毒症状を引き起こしたのでしょう。
 以下でご紹介するのはピレスロイド中毒を発症した猫の動画です。神経毒症状の典型であるけいれんや流涎(よだれ)が見て取れます。 元動画は⇒こちら

日本では医薬部外品

 農林水産省の動物用医薬品データベースによると、日本国内においては2020年6月の時点で犬向けのフェノトリン商品が128、猫向けの商品が86ほど承認されているようです。これらのほとんどは医薬部外品、すなわち医師による処方箋がなくても購入できるものですので、スーパーやペットグッズ店、ネット通販などでも簡単に入手することができます。形状は首輪(カラー)、シャンプー、パウダー、スプレー、スポット薬など様々です。 日本国内で承認されているフェノトリン含有猫向け医薬品  医薬部外品は簡単に入手できますが、ノミやダニを本気で駆除したいならしっかりと動物病院を受診し、動物用医薬品を処方してもらうことが大事です。ノミダニ駆除薬には「医薬品」と「医薬部外品」とがあり、前者の特徴は効果が高いけれども副作用の危険性も高いという点、後者の特徴は効果はあまり期待できないけれども副作用の危険性も低いという点です。フェノトリン含有商品のほとんどは「医薬部外品」ですが、副作用の危険性が大きいくせに効果はほどほどという、よくない側面を併せたような形になっています。これでは選ぶ理由がありませんね。

日本でのフェノトリン中毒

 農林水産省の副作用情報データベースで「フェノトリン」と検索すると、なぜか1件も登録されていません。このことは「フェノトリンに毒性がない」ということを意味しているのではなく、報告システムがうまく機能していないことを意味していると考えられます。このシステムは医薬品医療機器等法第68条の10に基づき、製造販売業者及び獣医師等から報告された情報が掲載されています。例えば製造販売業者は自社製品の副作用情報を積極的には公開したくないでしょうし、獣医師は因果関係がかなり明白でない限り、時間と労力を割いてまで報告しないでしょう。実際には存在している中毒症例が、報告されないままもみ消されている可能性を否定できません。
 消費者の声を忠実に反映していると考えられるのは、行政が公開している片手落ちなデータベースではなく、むしろネット通販サイトのレビューやSNSなどの方です。実際2018年10月にはフェノトリン含有成分を使用した人のツイートが話題となり、猫の飼い主の間で爆発的に情報が拡散したという実例があります。ツイートを見て「うちの猫も同じ商品を使って具合が悪くなった!」という連鎖反応もあるようです。これまで獣医師やメーカーのレベルでせき止められていたクレームが、どっと流れ出たというところでしょうか。

企業の責任

 猫向けのフェノトリン含有商品が承認された日付を見ると、およそ半数が平成15(2003)年以降になっています。これはアメリカでHartzが大規模な中毒事件を起こした2002年の後です。医薬品メーカーがこの事件を知っていてフェノトリン含有商品を猫向けとして販売しているのなら倫理的な問題です。またこの事件を知らずに販売しているのなら、やはり問題と言えるでしょう。要するに猫に対する毒性が高いと思われる商品を、十分な下調べ、情報開示、警告ラベルもない状態で市販している時点で問題ということです。

薬機法違反に問う

 先述したように、猫に対する毒性が強く、アメリカにおいて「前科」をもっているフェノトリンを商品として販売することには問題があります。
 まず自分に都合の悪いデータを隠蔽することは薬機法(※旧薬事法のこと/医薬品医療機器等法)が定める「虚偽・誇大広告」(第66条)に違反している疑いがあります。また米粒のような小さい文字でしか警告を記載していない状態は「使用者が当該医薬品等を適正に使用することができるよう、正確な情報の伝達に努める」という義務に違反しているとも言えます。さらに消費者からのクレームを受け付けた医薬品メーカーが「因果関係がはっきりしない」ことを理由に、副作用事例を農林水産省に報告しないのは報告義務(第68条)違反です。
第六十八条の九
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者又は外国特例承認取得者は、その製造販売をし、又は第十九条の二、第二十三条の二の十七若しくは第二十三条の三十七の承認を受けた医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の使用によつて保健衛生上の危害が発生し、又は拡大するおそれがあることを知つたときは、これを防止するために廃棄、回収、販売の停止、情報の提供その他必要な措置を講じなければならない。
 実際に企業を訴えたとしても、因果関係を証明することが困難だったり、法律家への相談料がかさんだりといった事情によりうまくいかないかもしれません。ネット上で商品の悪口を言うことは簡単ですが、因果関係がはっきりしていない状態で中傷すると業務妨害や不法行為責任で逆に責められてしまう危険性すらあります。
 ちなみにアメリカでは2010年、飼っていたブルドッグ「ディーゼル」がスポットオン製品が原因で死亡したとし、72歳になる男性が販売元であるHartzを相手取って訴訟を起こしました。テキサス州で行われた裁判では男性の主張が陪審員の心に刺さり、$4,440という賠償金を勝ち取っています出典資料:Animal Law Source)。その後、バイエル、メリアル、サージャンツペットケアプロダクツ、ファーナム、セントラルガーデンといった企業を相手取った集団訴訟が相次ぎましたが、いずれも棄却されています。

PL法違反に問う

 PL法(製造物責任法)では、「製造物に欠陥が存在していたこと」「損害が発生したこと」「損害は製造物の欠陥により生じたこと」という3つの事実を明らかにした場合、製造者に損害および拡大損害を賠償する義務があると定められています。上記したような賠償を受けるためには、買った時点で既に商品に欠陥があったことを証明しなければなりません。
 取扱説明書に書かれている使用法や注意書きを守っておらず、無茶な使い方をしたことで猫が体調不良に陥ってしまったような場合は、賠償を断られることもあります。たとえば使用量を間違えたとか、使用期限が過ぎたものを使ってしまったとか、スポット薬を使った後、猫がなめないよう気をつけて監督していなかったといった場合は、飼い主の側にもある程度の責任があるでしょう。
同じく合成ピレスロイドに属する「ペルメトリン」の危険性についてもご確認ください。海外において非常に多くの中毒症例が報告されています。