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カンピロバクター症~症状・原因から治療・予防法まで

 人獣共通感染症の内、カンピロバクター症について病態、症状、原因、治療法別に詳しく解説します。人にも犬猫などのペットにも感染する病気ですので、予備知識として抑えておきましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

カンピロバクター症の病態と症状

 カンピロバクター症とは、カンピロバクターと呼ばれる細菌が感染することで発症する病気です。
 「カンピロバクター」(Campylobacter)はグラム陰性のらせん状桿菌。30種類以上ありますが、そのほとんどは病原性を持たない無害なものです。しかし「C. jejuni」と「C. coli」に関しては人間の食中毒を引き起こす原因菌として有名であり、サルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌に次ぐ発生頻度を示しています。特に「C. jejuni」の方はカンピロバクター性食中毒の95~99%を占めるという強い病原性を保有しています(→出典)。 カンピロバクター(jejuni)の電子顕微鏡写真  猫にも様々な種類のカンピロバクターが感染しますが、種類に関しては「C. upsaliensis」と「C. helveticusa」が多いようです。以下は過去の調査で報告された種類別のカンピロバクター菌保有率です(→出典)。2004年の日本における調査でも、「C. upsaliensis=25.0%」、「C. helveticus=7.5%」と報告されています。
種類別カンピロバクター保有率
  • C. jejuni→0~16%
  • C. upsaliensis/helveticusa→4.5~35%
  • C. coli→0~1%
  • C. lari→0~1%
 人間においてはひどい食中毒を引き起こすカンピロバクター菌ですが、猫においては症状を示さない「不顕性感染」(ふけんせいかんせん)で終わることが多いようです。例えば以下のような報告があります。
カンピロバクター菌の猫に対する病原性
  • 1978年・イギリスC. jejuniに感染した子犬では軽度の臨床症状を示したが、子猫では感染後数日の間糞便サンプルから菌が検出されたものの臨床症状は見られなかった(→出典)。
  • 2002年・ノルウェー2000年5月から2001年6月の期間、ノルウェー国内にある6つの小動物病院で行われた調査によると、健康な猫301頭のうちカンピロバクター菌を保有していたのは54頭(18%)、下痢症状を示す猫31頭のうち保有していたのは5頭(16%)で、カンピロバクターの内訳は「C. jejuni=11頭(3%)」、「C. upsaliensis=42頭(13%)」 、「C. coli=2頭(0.6%)」というものだった。猫における危険因子は見つからず、健康な猫と下痢症状を示す猫との間で統計的な格差はなかった(→出典) 。
  • 2005年・アメリカアメリカ・ミネソタ州のミネアポリス・セントポール都市圏にある3ヶ所の動物病院と動物愛護協会で152頭の猫から採取した糞便を調べた所、37頭(24%)でカンピロバクター陽性だった。菌種の内訳は「C. upsaliensis=29頭」、「C. jejuni=2頭」、「C. coli=1頭」、不明5頭だった。1歳以下に限って見た時の陽性率は30%(36/122)、1歳超に限って見た時の陽性率は3%(1/30)で、夏と秋に採取したサンプルで多くなる傾向があった。カンピロバクター陽性だからといって何らかの臨床症状を示すわけではなかった(→出典)。
 こうした事実から、カンピロバクターは種類にかかわらず、猫に対してあまり病原性を発揮しないものと推測されています。しかし全ての猫に対して同じ振る舞いをするというわけではなく、体質や免疫状態、菌の量によって以下のような臨床症状を引き起こすこともあります。
カンピロバクター症の主症状
  • 下痢
  • 腹痛
  • 発熱
  • 嘔吐
  • 頭痛
  • 寒気
 発症メカニズムに関しては不明な部分があるものの、恐らくこの菌がエンテロトキシン、サイトトキシン、インベーシンといった有害物質を産生することで、腸を機能不全に陥れているものと推測されています。なお2016年にイギリスで行われた調査により、カンピロバクターのうち「C. coli」が好中球性の炎症性腸疾患(IBD)を引き起こしている可能性が示されました。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

カンピロバクター症の原因

 カンピロバクター症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
カンピロバクター症の主な原因
  • 経口感染  保菌動物の体内から糞便を通して外に出たカンピロバクターを、何らかのルートによって摂取してしまうことで感染します。感染源として多いものは、生肉、生野菜、殺菌していない水や牛乳などです。また不顕性感染(ふけんせいかんせん)の犬猫の糞便を掃除した後、手洗いが不十分だと、誤って口に入れてしまう可能性もあります。
  • 免疫力の低下 特に犬や猫においては、免疫力の低下が症状を悪化させることがあります。具体的には、6ヶ月未満という若齢、ジアルジア回虫コクシジウムといった寄生虫感染症、サルモネラ菌との混合感染などです。
 上記した理由の他にも、臨床症状の有無にかかわらず、猫が非常に高い確率でカンピロバクターを保有していることが、間接的に発症原因になっている可能性があります。例えば以下は、日本を含めた世界におけるカンピロバクターの保菌率です。16~42%というかなり高い確率で保有していることがうかがえます。共同生活している猫では、菌が容易に集団内に広がってしまうことでしょう。
世界各国における猫のカンピロバクター保有率
  • ノルウェー(2002年)=18%(出典
  • アメリカ(2001年)=20.7%(出典
  • 日本(2004年)=32.5%(出典
  • アメリカ(2005年)=24%(出典
  • バルバドス(2005年)=37.3%(出典
  • スイス(2005年)=41.9%(出典
  • イタリア(2008年)=16.8%(出典
  • ニュージーランド(2016年)=16%(出典

カンピロバクター症の治療

 カンピロバクター症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
カンピロバクター症の主な治療法
  • 対症療法・投薬治療  カンピロバクター症の治療は、患者の多くが自然治癒して重篤な症状に至ることは少ないため、積極的に行われることはありません。しかし、敗血症や重篤な症状を呈した場合に限っては、対症療法と共に適切な投薬治療が必要となります。薬剤としてはマクロライド系が第一選択薬剤として推奨されています。
  • カンピロバクター症の予防策  カンピロバクター症の予防策は、食物は十分に加熱調理することと、肉類に触れた器具や手指の洗浄すること、生食する野菜と肉類を接触させないこと、などの注意事項を厳守することです。カンピロバクターは60℃、1分程度の加熱でほぼ不活性化されますが、冷凍や「湯引き」などの方法では不活性化出来ません。
     なお以下は、手洗いにおいて洗い残しが生じやすい部位です。おざなりに手を洗っていると、図の黒い部分に菌が残ってしまう可能性があります。 手の中で洗い残しが発生しやすい部位