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猫があくびをする意味は?~正常な生理現象と病気の徴候を読み取る

 猫が見せる生理現象のうち「あくび」について詳しく解説します。異常徴候の読み取り方も併記してありますので、病気の早期発見に役立ててください。

猫の正常なあくび

 「あくび」(yawning)とは、疲れているときや寝起きばなに出る生理現象です。哺乳類以外の爬虫類や鳥類などでも起こることが確認されています。
 猫のあくびは、一瞬口をすぼめてから一気に広げます。通常は目を閉じますが、強引に目を開けようとして、「貞子」のような恐ろしい形相になる猫もいます。あくびが終わったタイミングでペロッと舌を出して口周りを舐める個体が多いようです。なお、犬では人間のあくびがうつることが確認されていますが、猫ではないようです。 猫のあくびは、一瞬口をすぼめてから一気に開口する  非常にありふれているにもかかわらず、いまだに存在意義が不明という不思議な現象ですが、猫のあくびには「ただ単に眠い」「寝起きに酸素を取り込む」「そわそわしているときの転位行動」のような意味があると考えられます。 寝ている猫をなでたらあくびをする
猫のあくび
 以下でご紹介するのは、猫があくびをする瞬間をとらえた動画です。無理やり目を開けようとして三白眼の怖い顔になっています。 元動画は⇒こちら
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あくびに現れる病気の徴候

 あくびに関連する病気はそれほどありませんが、猫の口の中をチェックする時あくびが非常に役に立ちます。口を大きく開けた瞬間を写真や動画で撮影できたら、ストップモーションにして歯や歯茎、口腔粘膜などを調べてみましょう。以下に述べるような異常が見られた場合は何らかの疾患にかかっている可能性があります。具体的な病名は「口の変化や異常」にまとめてありますのでご確認ください。
あくびから見る病気の兆候
猫のあくびを写真に収めておくと、口腔内チェックに役立つ
  • 口が臭い
  • 歯がぐらぐらしている
  • 歯が変色している
  • 口の中が腫れている
  • 口の中が赤い
  • 口の中が青紫
  • 口の中が蒼白
  • 口の中に点状出血
  • 口の中が黒い
  • 口の中に潰瘍がある
 あくびに関連する病気はそれほどないと言いましたが、口が開いたまま閉じなくなる顎関節症(locked jaw syndrome)には注意が必要です。 口を開けたまま閉じようとしない猫のジャクソン  考えられる原因は「顎関節の脱臼」「顎の骨折」「後天的不正咬合」「下顎の麻痺」などいろいろありますので、猫の様子がおかしいときはすぐ動物病院を受診しましょう。猫の顎関節症に関しては以下のページでも詳しく解説してあります。 猫の口が開いたまま閉じない閉口障害の原因と対策  また猫の顎は解剖学的に、あまりにも口を大きく開けてしまうと、下顎骨の一部が顎動脈を圧迫し、脳への血流障害を招いてしまうことが確認されています。長時間の血流障害が目に出た場合は「視力の喪失」、耳に出た場合は「聴力やバランス感覚の喪失」という形で発現します。さらに症例は少ないものの、大脳が低酸素状態に陥って呼吸器症状につながる危険性もあります。
 ほとんどは動物病院で用いるスプリング式の開口器が原因ですが、先述した「顎関節症」を発症した猫では脳への血流が低下してしまう危険性がありますので、猫の口が閉じないという場合はすみやかに動物病院に連れていきましょう。
口を開けると血流が止まる解剖学的なメカニズムに関しては「猫が口を大きく開けると脳への血流が止まる」で詳しく解説してあります。
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脳が大きいほどあくびは長い

 ネコ科動物を対象とした調査により、脳が大きければ大きいほどあくびが長くなることが確認されています出典資料:Gallup, 2017
 ネコ科に属する10種類の動物があくびをしている様子を観察し、持続時間と脳のサイズを検証したところ、脳の重量および脳の容積とあくびの長さが連動していたといいます。特に「脳の重量」と強い相関関係を示したとのこと。
【ネコ科動物】脳の大きさとあくびの持続時間
ネコ科動物では脳の重量とあくびの持続時間は連動している  観察対象となったのはボブキャット、リンクス、チーター、クーガー、ジャガー、コドコド、ヒョウ、ライオン、マーゲイ、トラの10種です。猫(イエネコ, felis catus)は含まれていませんでしたが、脳の重さは約30gでボブキャットよりは小さいでしょうから、あくびの持続時間が2秒を越えることはまずないでしょう。言われてみれば確かに、猫が口を開けてから閉じるまでは一瞬でなかなか写真には撮れませんね。
【哺乳動物】脳の大きさとあくびの持続時間
哺乳動物では脳の重量とあくびの持続時間は連動している  実はネコ科動物だけでなく、哺乳動物全般において脳の重量や皮質に含まれている神経細胞の数とあくびの長さが相関している可能性が示されています出典資料:Gallup, 2016。平たく言うと「脳が大きければ大きいほどあくびが長くなる」というものです。人間の脳の重さは1,250~1,450gとされていますので、あくびの長さは6~7秒といったところでしょう。
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あくびは脳を冷却している?

 ネコ科動物のみならず哺乳動物全般で確認されている「脳が大きいほどあくびが長くなる」という奇妙な現象。ではそもそもあくびは何のために存在しているのでしょうか?
 あくびの意味に関する問いに対しては非常に多くの仮説が提唱されていますが、近年注目を集めているのが「脳を冷却している」という説です。 あくびによって脳内の血流が交換され冷却効果が生まれる  あくびでは口を大きく開けて息を吸い込みます。このとき、熱を含んだ血液が頭蓋骨の中から押し出され入れ、逆に冷やされた血液が脳に流れ込みます。また動脈を取り囲んでいる静脈血を冷やすことにより、「向流熱交換」のメカニズムを通して動脈血も冷やされます。

あくびで顔面温度が下がる

 ラットを対象とした調査では、あくびの直後に顔面の温度が低下するという現象が確認されています出典資料:Eguibar, 2017
 1時間に平均20回のあくびをするラットを赤外線カメラで観察し、あくびの前後で眼球の角膜や鼻の鼻甲介温度がどのように変化するかをモニタリングしたところ、あくびをしてから10秒後における鼻甲介温度が0.3℃、角膜温度が0.4℃低下したといいます。また低下が確認されてから20秒後には元の温度に戻ったとも。 あくびの直後、ラットの顔面温度が低下する  猫があくびをしている様子を赤外線カメラで観察してみると、同じ現象が見られるかもしれませんね。

あくびがうつるのは気合い?

 あくびが脳を冷却するために存在しているとする仮説は人間にも当てはまります。
 夏の期間、アメリカ・フロリダ州の路上で142人の通行人にあくびを見せ、他人のあくびに釣られて自然とあくびが出てしまう「あくびの伝染」(contagious yawning)が起こるかどうかが観察されました出典資料:Gullap, 2007。その結果、外気温が体温より高い時のあくびの伝染率が60.5%だったのに対し、外気温が体温と近い時の伝染率が23.8%だったと言います。この格差を生み出している要因を突き止めるため、あくびの発生因子とされている様々な仮説を検証したところ、「外気温」だけが予見因子として残ったと言います。
 こうした結果から調査チームは、あくびの意味は温度域仮説(Thermal window hypothesis)によって説明できるのではないかと主張しています。これは外気温がある特定の温度域にあるときだけあくびが誘発されるとする仮説のことです。 体温と外気温の関係であくびの頻度が変わるとする「あくびの温度域仮説」  ラットを用いた実験、及び人間を対象とした観察から、あくびには脳を冷却する効果がある可能性が強まりました。人間を始めとした霊長類や犬などで確認されている「あくびの伝染」という奇妙な現象には、あくびがうつることによって集団の脳に同時に気合いが入り、外から来る脅威に対する警戒心が強まるという意味があるのではないかと推測されています。 あくびの伝染は社会性動物で起こりやすい?  猫は基本的には群れを形成しませんので、上記した「あくびの伝染」というメカニズムがあるかどうかはわかりません。コロニーを形成しているメス猫と、独立して放浪しているオス猫のあくびを比較し、うつるかどうかを観察すると違いが見えてくる可能性があります。
じっと見つめたり話しかけたときに猫があくびをするのは、ストレスに起因する「転位行動」かもしれません。「落ち着かないなぁ…」という意味ですので、向こうから自発的に近づいてくるまでそっとしておきましょう。