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猫は人間の視線の先を読める?~参照シグナルがもつ意味に関する理解力テスト

 誰かが上空を見上げていると、思わず視線の先に目が行ってしまいます。「視線の先を追う」という行動は人間にとっては当たり前ですが、実は人間以外の動物で同じ行動様式はあまり見られません。では猫ではどうなのでしょうか?

猫の参照シグナル実験方法

 特定の対象物や人物に指を差したり視線を向けたりし、相手の注意を方向づけることは「参照シグナル」と呼ばれます。例えば家電量販店で店員に対して「これください」と指をさす状況や、会話中に「あれはなんだ?」と不審なものに視線を向ける状況などです。指や視線を追尾する行動は、人間においては赤ん坊の頃から自然と身につく原始的な能力の一つと考えられています。 赤ちゃんで見られる視線追尾行動~指で示した先を注視する  人間にとっては当たり前の行動で疑問に思う機会すらありませんが、実は人間と犬以外の動物においてはほとんど見られません。犬に関しては家畜化の過程で形成された選択繁殖の副産物だと考えられています。では同じく家畜化(ペット化)されている猫ではどうなのでしょうか?
 猫の「参照シグナル」に関する調査を行ったのはハンガリーにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学動物学部のチーム。実験するに当たり、候補猫99頭のうち「名前を呼んだり声を発すると自発的に近づく」「見知らぬ実験者が猫に近づいてなでようとしても逃げない」「ボウルにおやつを入れると自発的に食べる」という選考基準の少なくとも2つに合格した猫だけを選抜したところ、最終的に26の家庭で飼われている合計41頭のペット猫たち(未去勢オス5+去勢済みオス14+未避妊メス7+避妊済みメス15)に絞り込まれたといいます。年齢は4ヶ月齢~14歳半と幅広く平均5.5歳です。
 以下に述べる4つのテストを6回ずつ繰り返し、1頭につき合計24回分のデータを集めました。「選択した」の基準は猫がボウルの中を覗き込んだり前足を伸ばして触ろうとすることです。
参照シグナルテスト
  • 動的なシグナルだけ2つのボウルを用意しどちらか一方にだけおやつを入れる。ボウルを実験者から等距離に置き、猫と自然にアイコンタクトが取れたタイミングでおやつが入っているボウルに顔ごと視線を向け、猫がどちらか一方を選択するまでその状態を保持する
  • 明示的シグナル+動的なシグナル2つのボウルを用意しどちらか一方にだけおやつを入れる。ボウルを実験者から等距離に置き、猫の名前を呼んで注意を引きつけたタイミングでおやつが入っているボウルに顔ごと視線を向け、猫がどちらか一方を選択するまでその状態を保持する
  • 一時的なシグナルだけ2つのボウルを用意しどちらか一方にだけおやつを入れる。ボウルを実験者から等距離に置き、猫と自然にアイコンタクトが取れたタイミングでおやつが入っているボウルに顔ごと数秒間だけ視線を向ける
  • 明示的シグナル+一時的なシグナル2つのボウルを用意しどちらか一方にだけおやつを入れる。ボウルを実験者から等距離に置き、猫の名前を呼んで注意を引きつけたタイミングでボウルに顔ごと数秒間だけ視線を向ける。

猫の参照シグナル実験結果

 実験の結果、猫が実験者の視線の先にあるボウルを選ぶ確率(=正解率)が70.42%で、統計的に有意なレベルで偶然ではないことが判明しました。実験の前半と後半で正解率に格差が見られなかったことから、実験中の学習が結果に影響した可能性は低いと考えられています。
 明示的なシグナル(=名前を呼ぶこと)とアイコンタクトを取るまでの時間の関係性を調べたところ、少しだけ早まることが明らかになりました。一方、正解率は明示的なシグナルの有無や顔向けのタイプ(一時的 or 持続的)によって影響を受けず、唯一正解率に影響を及ぼしていると考えられたのは猫の年齢で、若い猫>老齢猫>成猫という成績の勾配が確認されました。
 この調査では選考段階で人懐こくておやつによる動機づけでき、なおかつ人間に飼われている猫だけが選ばれています。ですからこの能力を猫全体に一般化することはできません。また実験に参加した猫たちは事前にトレーニングを受けていましたので、人間の顔の向きとおやつ(報酬)とが古典的条件づけによって学習されていた可能性があります。人間の視線を認識してその先にあるものを追尾することと、ただ単に顔の向きを判定することとは別物ですので解釈は慎重に行う必要があるでしょう。
Cats (Felis silvestris catus) read human gaze for referential information
Peter Pongracz, Julianna Szulamit Szapu, Tamas Farago, Intelligence(2019) Volume 74, DOI:10.1016/j.intell.2018.11.001