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猫は受けた恩を3日で忘れる?~見たものを数十分くらいは長期記憶できるが個体差あり

 毎日ごはんを用意してマッサージしているにも関わらず、外出から帰宅して飼い猫とご対面した時、「こいつ誰?!」みたいなリアクションを取られて悲しい思いをすることがよくあります。実際、猫たちはどのくらいの間、目を通してとらえた視覚的なイメージを長期記憶として脳内に保持していられるのでしょうか?受けた恩を3日で忘れるという風説は本当なのでしょうか?

猫の長期記憶実験方法

 調査を行ったのはジョージアにあるトビリシ国立大学神経学部のチーム。4頭の猫を対象とし「遅延見本合わせ課題」(delayed match to sample, DMS)と呼ばれるタスクをマスターさせた上で長期記憶能力の検証を行いました。
遅延見本合わせ課題
正解となるサンプルを提示し、任意のインターバルを置いた後で複数の選択肢を示してその中から正解サンプルだけを選んでもらう課題。被験者の記憶保持能力の限界を測るときに用いられる。 Delayed Matching to Sample
 「見せたものと同じものを選んでください」と猫に口頭でお願いするわけにはいきませんので、動機付けにはおいしいおやつが用いられました。具体的には、目の前に置かれた3つのお皿の中から正解のサンプルが載ったお皿を選んだときだけおやつがもらえるというデザインです。 猫を対象として行われた遅延見本合わせ課題(delayed match to sample)の実施手順  正解サンプルの提示から実際の選択までの間に10秒から30秒のインターバルを設け、「5日間に分けて行われた100回の試技のうち最低80回正解する」という基準を満たすまで猫たちをトレーニングした結果、4頭すべてが基準をクリアできたといいます。インターバル10秒をマスターするまでに間違った回数の中央値は84回、インターバル30秒をマスターするまでのそれが90回で、大差は見られませんでした。

猫の長期記憶実験結果

 次に調査チームは、DMSをマスターした同じ猫たちを用いてインターバルを5分から10分に伸ばし、先述した基準をクリアするまでトレーニングを繰り返しました。その結果、インターバル5分をマスターするまでの間違い回数中央値が6回、10分をマスターするまでのそれがわずか2回で済んだといいます。
 こうした結果から、猫たちは少なくとも10分という長い時間にわたって視覚的なイメージを記憶の中に保持できる可能性が示されました。また8頭の猫を対象とした別の調査では、同様の実験デザインでインターバル20分に伸ばしても20回の試技中18回以上正解という基準を満たせたと報告されています出典資料:Okujava, 2009)
 「猫の作業記憶(短期記憶)はどのくらい?」でご紹介したとおり、猫の視覚的な作業記憶(短期記憶)に関しては、わずか30秒程度で急速に悪化するとされています。しかしこちらの調査では「猫が自らの足で対象物に近づいた上で選ぶ」という微妙な違いがありますので、目の前にある対象物を手を伸ばして触れるという単純なデザインの場合、もう少し長い間記憶の中に留めておけるのかもしれません。
 なお「ハチに刺されて痛かった」など、生死に直結するような強烈な不快体験を伴う場合は記憶力が増強しますので、数年~一生レベルで視覚的なイメージが「ブラックリスト」として超長期的に保持されると考えられます。またちゅ~るがメチャうまかった!」など強烈な快感を伴う場合も記憶力が増強しますので、こちらは逆に細長いものが「ホワイトリスト」として保持され続けることでしょう。記憶力に影響を及ぼす因子に関しては以下のページで詳しく解説してあります。 猫はいじめられたことを忘れない?  「猫は受けた恩を3日で忘れる」とはよく聞く風説ですが、恩自体は覚えていても、人の顔を忘れてしまったため恩知らずと勘違いされているケースがあるのではないでしょうか。
One trial visual recognition in cats
Vazha Okujava, Teimuraz Natishvili, et al., Acta Neurobiol Exp 2005, 65:205-212