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猫にGPSをつけてみたらとんでもなく危険であることが判明

 GPSを装着した猫を対象とした行動調査により、屋外での行動は生態系を乱すと同時に、猫が死亡事故に巻き込まれる危険性を高めることが明らかになりました(2018.7.25/ニュージーランド)。

詳細

 調査を行ったのは、ニュージーランドにあるユニテック工科大学のステファニー・ジーン・ブルースさん。2016年11月から2017年4月の期間、ニュージーランド最大の都市オークランドに暮らしている猫37頭(26家庭)を対象とし、行動範囲を記録するGPS装置(Petrek© | 30g)と、猫の視界を画像として記録する装置(KittyCam© | 90g)を首輪に装着した上で、猫たちの自由行動を観察しました。 猫たちの行動観察が行われたニュージーランド・オークランド周辺地域  合計180時間(3日分22頭+2日分9頭+1日分6頭 | 1頭平均4.9時間)に及ぶ行動記録を「捕食行動」「危険行動」「活動時間」「行動範囲」という4項目に分けて整理したところ、以下のような結果になったといいます。
猫たちの基本属性
  • 平均6.7歳
  • 1~6歳=18頭(48.6%)
  • 7歳以上=19頭(51.4%)
  • 去勢オス=18頭(48.6%)
  • 避妊メス=19頭(51.4%)
  • 都心部居住=5頭(13.5%)
  • 都心周辺部=26頭(70.3%)
  • 郊外居住=6頭(16.2%)
  • 常に外出可能=24頭(64.9%)
  • 日中だけ外出可能=13頭(35.1%)
捕食行動
  • 23頭で合計121回
  • 平均トライ数=5.3回/頭
  • 平均捕獲数=3.3匹/頭(8.25匹/週/頭)
  • 行動平均時間=48秒(2秒~2分38秒)
  • 若い猫(103回/85%)>老いた猫(18回/15%)
  • 夜間(89回/73.6%)>昼間(32回/26.4%)
危険行動
  • 32頭による326回
  • 全体では8.8回/頭
  • 危険行動をした猫に限ると10.2回/頭
  • 若い猫(222回/68%)>老いた猫(104回/32%)
  • 若い猫は路上にとどまる時間が長い
活動時間
  • 日中の活動=0.58時間
  • 夜間の活動=1.06時間
  • 1日平均=2.03時間
  • 捕食行動と正の連動
行動範囲
  • 平均行動範囲=0.88ha(0.0018~3.23ha)
  • 平均移動距離=2189.2m(42.8~6114m)
  • オス(1.29ha)>メス(0.51ha)
 こうした結果から、野生動物の捕食による生態系への影響を減らすと同時に、猫自身が命を落とす危険性を減らすため、「夜の間だけ外出禁止にする」といった中途半端な方法ではなく、昼だろうとよるだろうと猫を家の中で飼育する完全室内飼いを徹底しなければならないと指摘しています。そのためにはまず、飼い主自身が屋外における猫のリスクをしっかり理解しておく必要があるとも。
Behaviour characterisation of companion cats in Auckland, New Zealand via the use of camera and GPS technologies : predation, risk behaviours, activity levels and home range
Bruce, Stephanie Jean, An unpublished thesis presented in partial fulfilment of the requirements for the degree of Master of Applied Practice, Unitec Institute of Technology, New Zealand

解説

捕食行動
 捕食行動は23頭で合計121回観察されました。そのうち40回で捕獲に成功し、うち18回は土着の野生動物がターゲットになっていたといいます。外をうろついている猫による捕食行動と、その結果としての生態系の乱れは日本(奄美大島)を含めた世界中の至る所で懸念されている問題です。今回の調査に参加した猫たちはすべて、自分で獲物をとらえて生きていく野猫ではなく家庭で飼育されているペット猫でした。「安易な放し飼いをすると生態系の乱れに拍車をかけてしまう」という因果関係を見て取ることができます。 屋外を徘徊する猫たちは昆虫などえげつないものを平気で口にしている  捕食行動のターゲットとして多かったものは無脊椎動物(45.5%)、爬虫類(6.6%)、鳥類(0.8%)などでした。無脊椎動物にはウェタ(巨大なバッタ)、クロバエ、セミ、コオロギ、クモ、カマキリ、ガ、オオカバマダラなどが含まれます。食べる食べないは別として、多くの場合口に入れますので、帰宅した猫に飼い主が手や顔をなめられたら、上記したような昆虫達と間接キスをしていることになりますね。
危険行動
 危険行動は32頭による326回が観察されました。具体的な内訳は以下です。
  • 他の猫とのケンカ=11回(5頭)
  • 道路を横断する=132回(12頭)
  • 車の下にもぐりこむ=3回(2頭)
  • 固形物を食べる=33回(15頭)
  • 液体を飲む=98回(22頭)
  • 屋根に登る=40回(8頭)
  • 排水管に登る=1回(1頭)
 11回観察されたケンカのうち3回(27%)は身体接触を伴う激しいものでした。ケンカによって皮膚の裂傷を伴う怪我を負ってしまうと、猫エイズウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)といった感染症にかかってしまう危険性が劇的に増加します。猫エイズウイルス感染症猫白血病ウイルス感染症のリスクファクターとして「屋外に出ることができる」という項目が挙げられている理由はここにあるのでしょう。
 猫が口にした固形物には棒きれ、ブロッコリー、古いキャットフード、植木の植物、マーガリンなどがありました。古いキャットフードに毒物が混ぜられていたり、植木の植物がユリ科のものだったら、そのまま体調不良に陥って死んでしまうこともあるでしょう。また、猫が口にした液体には水たまり、小川、プール、雨樋など不衛生なものが含まれていました。 猫が交通事故に遭うリスクは都会だろうが田舎だろうがさほど変わらない  猫たちは極めて頻繁に道路を横断する(12頭 | 132回)ことが明らかになりました。この傾向は特に若い猫で顕著だったと言います。こうした行動が交通事故に遭ってしまう危険性を高める事は言うまでもありません。実際この調査の後、観察対象となった猫のうち1頭が、交通事故によって命を落としたといいます。「田舎だから安全だろう」という話をたまに耳にしますが、田舎道の方がスピードを出していることが多いため、実は都会に暮らしている場合とリスクはさほど変わりません。 猫が交通事故に遭うリスクを高める要因
行動範囲
 23頭の移動データから、猫たちの平均移動距離が2189.2m(42.8m~6114m)であることが明らかになりました。これらの移動距離と危険行動との間に統計的な関連性を見出されなかったと言います。要するに家の近くだけうろちょろする猫だろうが、隣町まで遠出する猫だろうが、同じくらい危険行動に関わっていると言うことです。「交通事故のうち半数近くは自宅の前の道もしくは自宅の近くで発生している(Rochlitz 2003)」というデータがこの事実を如実に物語っています。
まとめ
 筆者が指摘している通り、生態系を保全すると同時に猫の安全を確保するためには完全室内飼いを徹底するしかないようです。外で日向ぼっこをしている猫を見て「毎日が日曜日でいいねぇ~」などと言っている人や「猫にGPSをつけてみた」などというお気楽な本を出している人、あるいは外猫の写真で生計を立てているような人たちは、日向ぼっこしていないときの猫たちが一体どのような行動をとっており、どのようなリスクにさらされているのかを、一度真剣に考えたほうがよいでしょう。 放し飼いが招く猫の死