トップ2019年・猫ニュース一覧5月の猫ニュース5月12日

ワクチン接種でアレルギーを引き起こしにくい猫を作り出せるかも

 猫アレルギーの予防法はいくつかありますが、体から放出されるアレルゲンの量自体を減らして「低アレルゲン猫」に変身させるという画期的な方法が報告されました。

「Fel d 1」を減らすワクチン

 報告を行ったのはスイスチューリッヒ大学のチーム。猫の体から放たれるアレルゲン8種類のうち、アレルギー反応と最も関わりの深い「Fel d 1」にターゲットを絞り、猫が備えている免疫応答を利用して総量を減らすことができるかどうかを検証しました。
 調査チームはまず「Fel d 1」を人工的に作り出し、それを「CuMVTT」と組み合わせることで異物とみなされるように変更を加えました。こうしてできたのが「Fel-CuMVTT」と呼ばれるワクチン候補です。
CuMVTT
キュウリモザイクウイルスから取り出したウイルスに似た粒子と破傷風毒から取り出したエピトープの合成分子。これを「Fel d 1」と結合させると、それまで体の一部として見逃してきた分子を、異物と誤認して排除するようになる。
 次に出来上がったワクチン候補を猫の体内に注入し、B細胞を活性化してIgG抗体を増やして免疫応答を増強しました。つまり自分で作り出した「Fel d 1」を異物とみなし、体内から排除しようとする防御システムを作り上げたのです。 図解・アレルゲン「Fel d 1」を免疫システムが攻撃するメカニズム  その結果、猫の体内において特異的IgG抗体が形成され、涙の中に含まれる「Fel d 1」の量が減ったといいます。また猫アレルギーを抱えたマウスに猫の血清を接触させたところ、ワクチン接種を受けていない猫の血清よりもアレルギー反応が軽減したとも。これはつまり、ワクチンを受けた猫のアレルギー反応誘起力が減弱したということです。
Immunization of cats to induce neutralizing antibodies against Fel d 1, the major feline allergen in human subjects
Franziska Thoms, Gary T. Jennings et al., The Journal of Allergy and Clinical Immunology, DOI: https://doi.org/10.1016/j.jaci.2019.01.050

低アレルゲンワクチンの特徴

 猫アレルギーに対する治療法の中で最も多く用いられているのが、抗ヒスタミン薬や糖質コルチコイドを投与して炎症反応を抑えるという対症療法です。また減感作療法(特異的免疫療法)と言って、低濃度のアレルゲンを投与することにより少しずつ体を慣らせていくという方法もあります。
 一方、今回の調査で示されたワクチン療法は、アレルギーを発症した人間をターゲットとするのではなく、アレルゲンを発する猫の体質自体を変えると言う従来的な方法とは観点が違う画期的なものです。まだ開発段階ですが以下のような特徴があると考えられています。

アジュバントが必要ない

 アジュバントを含んだワクチンと含んでいないワクチンを比較したところ、アジュバントの有無によって抗体価にほとんど違いは見られませんでした。この事実から注射部位関連肉腫の発症と関わりの深いアジュバントは必要ないと考えられています。 猫の注射部位関連肉腫(FISS)

副作用が少ない

 50頭を超える猫を対象とし、3~1000mgというさまざまな濃度で調査が行われましたが、大きな副作用は確認されませんでした。また注射部位の炎症、発熱、元気喪失は見られたものの全て一時的で、通常のワクチン接種と同様24~72時間以内に収まりました。 猫のワクチン接種

Fel d 1を完全には除去しない

 猫の体内における「Fel d 1」の生物学的な役割は現時点でよくわかっていません。体内から完全に除去してしまうと思わぬ健康被害が引き起こされる可能性を否定できませんが、ワクチンは「Fel d 1」の総量を減らすだけで完全に除去するわけではないため、上記したような偶発的なリスクをうまく回避できます。

費用が安い

 減感作療法(特異的免疫療法)は効果が出るまでに2~3年という長い時間がかかり、また人によっては思ったほど治療効果が出ないこともあります。
 それに比べてワクチン療法は100%に近い確率で猫の免疫応答を誘発することができ、時間もかかりません。結果として費用が安く済むと考えられています。なお3つの独立した調査に参加した合計18頭の猫から取ったデータでは、Fel d 1レベルが平均して2.7分の1にまで減少することが確認されています。

「猫アレルギー」はもう言い訳にできない?

 猫を飼育放棄する理由(言い訳)として多いのが「家族の一員が猫アレルギーを発症した」というものです。しかしワクチン接種という新たな解決策が確立すれば、そうした理由での飼育放棄が今後減るでしょう。
 例えば保健所や動物愛護センターでは、飼育を継続する努力をしていない場合、引き取りを拒絶することができます。ワクチン接種で猫のアレルゲンを軽減できる可能性があるのにそれを試していないと、然るべき努力をしていないと判断され、猫を持ち込んだけれども引き取りを断られるというケースが増えるものと推測されます。
 長期的な悪影響がないと確認された暁には、「ワクチン接種」という画期的なアレルギー回避策が登場することになります。もう「猫アレルギー」は言い訳にできない時代が来るかもしれません。 猫アレルギーについて