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猫の飼育は思春期の精神健康状態を悪化させる?

 一生を通じてUの字型の変動を見せると言われる人間の精神健康状態。東京都に暮らす思春期の児童を対象とした長期的な前向き調査「東京ティーンコホート」により、猫の飼育が健康状態の予見因子(降下促進)になっていることが明らかになりました。

東京ティーンコホートの概要

 元データになっているのは、青少年の思春期における心身の発達に着目し、東京都の3自治体を対象として長期的な前向き調査を行う「東京ティーンコホート」(Tokyo TEEN Cohort, TTC)と呼ばれるプロジェクト。東京大学、総合研究大学院大学、東京都医学総合研究所という3機関の連携で主導されています
 2002年9月~2004年8月生まれで、2012年9月の時点で調布市、三鷹市、世田谷区のいずれかに暮らしている9~10歳の児童を対象とし、ペットの飼育状態と精神の健康状態との間に一体どのような関係性があるのかを検証しました。健康状態を測る目安として採用されたのは世界保健機構(WHO)が開発した「精神的健康状態表(PDF)で、直近2週間における気分を0~5までの6段階で評価し、最終的なポイントを4倍するという内容です。最低が0で最高が100になります。
ここ2週間私は・・・
  • 明るく楽しい気分で過ごした
  • 落ち着いたリラックスした気分で過ごした
  • 意欲的で活動的に過ごした
  • ぐっすりと休め気持ちよくめざめた
  • 日常生活の中に興味のあることがたくさんあった
 上記アンケートを子供たちが10歳時(3,171世帯)および2年後の12歳時(3,007世帯)に行い、それぞれの時点におけるポイントを比較したところ、男児に関しては、10歳時に猫を飼っている場合、猫を飼っていない場合に比べ、12歳時におけるポイントの減り方が急峻になることが判明したといいます。一方女児において同様の関連性は確認されませんでした。総合的に見て、10歳時における猫の飼育が12歳時における精神健康状態の予見因子(悪化促進)になっていると判断されました。この関係性はさまざまな変数(性別 | 年齢 | 両親の年齢 | 両親の学歴 | 世帯年収 | 兄弟姉妹の数)による偶発的な影響を補正した後でも、統計的に有意(=偶然では説明がつかない)だったそうです。
Dog and Cat Ownership Predicts Adolescents’ Mental Well-Being: A Population-Based Longitudinal Study
Kaori Endo, Syudo Yamasaki, et al., Int. J. Environ. Res. Public Health 2020, 17(3), 884; DOI:10.3390/ijerph17030884

猫の飼育と思春期の精神健康状態

 10歳時と12歳時における子供たちの精神健康状態を比較した場合、犬だけを飼っている場合が最も下降が緩やかで、猫だけを飼っている場合が最も急となり、犬も猫も飼っていない場合がその中間という結果になりました。こうした違いが見られた要因はよくわかっていませんが、犬に関しては「散歩を通じて運動量が増えた」「幸せホルモンであるオキシトシンの分泌量が増えた」「情操教育を通じて責任感が育まれた」といったメカニズムを通し、ポイントの低下に歯止めがかかったのではないかと推測されています。 思春期における子供たちの精神健康状態変化  ではなぜ猫の飼育は逆にポイント低下を助長してしまうのでしょうか?詳細な検証はなされていませんが、原文中で言及されているのはネコ科動物を終宿主とする原虫の一種「トキソプラズマ」です。この原虫に感染した人では疾患まで含めたさまざまな精神の変調をきたし、気分にまで影響を及ぼすことがありうるとのこと。なお文中ではあたかも既成事実のような論調だったので付け加えておきますが、トキソプラズマと精神疾患との関連性に関してははっきりとは証明されていません。また接触頻度から考え、原虫の感染経路としては猫の糞便よりも生肉の方が危険であると考えるのが現実的です。当コホート調査で猫を飼育している世帯は4%でしたが、調理の際に生肉を触る世帯は少なくともそれよりは多いでしょう。 「トキソプラズマに感染すると人格まで変わる」はガセネタ?  当調査で明らかになったのはあくまでも「予見因子」であり「因果関係」ではありません。不確実なデータを元に不安を掻き立て、「猫を飼う→トキソプラズマに感染する→精神の健康状態が低下する」という単純な図式を固定観念化させる論文の書き方には大いに疑問を感じますが、「猫がトキソプラズマに感染しないようしっかり室内飼いにしましょう」という部分は理に適っていますので、ここだけは真に受けてください。 猫を放し飼いにしてはいけない理由  以下は調査内容を解釈する際の制限事項です。
  • 10歳になる以前におけるペットの飼育歴が不明
  • ペットの飼育期間が不明
  • 主な世話人が不明
  • アンケート調査の直後にペットを飼った可能性もあり
  • ペットと過ごす時間が不明
  • ペットに対する愛着の度合いが不明
  • 犬猫以外のペットが不明
  • 犬と猫の両方を飼っている場合の影響が不明
猫の飼育との因果関係は不明ですが、たったの2年間で10ポイント近く急降下するのは確かに異常です。猫アレルギーが原因だとしたら10歳の時点ですでにポイントが低いはずですので、調査では考慮されなかった未知の変数が影響している可能性もあります。