トップ2020年・猫ニュース一覧5月の猫ニュース5月17日

キャットフード中の食塩と飲水量や結石リスクとの関係

 フード中の食塩含有量を増やすと猫の飲水量と尿量が増え、結果としてストラバイトとシュウ酸カルシウム両方の結石予防になるかもしれません。

食塩含有量と猫の尿の変化

 ペットフードメーカー「ロイヤルカナン」の調査チームは、キャットフードに含まれるナトリウム含有量が尿中における結石原因物質の相対過飽和度にどのような影響を及ぼすかを検証しました。相対過飽和度(RSS)とは溶媒の中に溶質分子がどのくらい溶けているかを示す指標の1つで、数値が高いほど分子が多く溶けており結晶化しやすい(=結石を形成しやすい)ことを意味します。 溶媒中の溶質濃度が過飽和状態になると、溶けきれなかった分子が結晶を形成する  給餌試験に参加したのはメス7頭とオス6頭からなる13頭の猫たち。平均年齢は4.1歳、平均体重は4.79kgで、ラグドール6頭、バーマン1頭、その他は短毛種という内訳です。ナトリウム含量が異なるA~Dという4種類のフードを10日間にわたって給餌した上で最後の3日間で尿を採取し、様々なパラメーターを分析しました。
1,000kcal中の食塩濃度
  • A:(Na)0.67+(Cl)2.22=(塩)2.89g
  • B:(Na)1.68+(Cl)3.58=(塩)5.26g
  • C:(Na)2.41+(Cl)4.39=(塩)6.80g
  • D:(Na)3.27+(Cl)6.05=(塩)9.32g
 給餌試験の結果、猫の尿で以下に示すような変化・特徴が見られたと言います。「CaOx」はシュウ酸カルシウム、「MAP」はストラバイト、「RSS」は相対的飽和度を示しています。「MAP RSS」の数値は中央値、その他の数値は最小二乗平均を示しており、飲水量と尿量の単位は「mL/kg/日」です。
ABCD
飲水24.528.830.336.7
尿量10.913.715.519.6
尿比重1.0671.0631.0611.051
尿pH6.366.516.396.27
CaOx RSS3.392.802.411.64
MAP RSS0.810.830.410.16
Increasing dietary sodium chloride promotes urine dilution and decreases struvite and calcium oxalate relative supersaturation in healthy dogs and cats
Yann Queau, Esther S. Bijsmans, Alexandre Feugier et al., Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition, doi.org/10.1111/jpn.13329

食塩で猫の尿結石は予防できる?

 フード中の食塩(ナトリウム)量が増えるのにほぼ連動する形で、飲水量、尿量、尿中ナトリウムイオン濃度が増加しました。また逆に、尿比重、尿pH(酸性の度合い)、ナトリウム以外の尿中イオン濃度、ストラバイトの相対過飽和度(MAP RSS)、シュウ酸カルシウムの相対過飽和度(CaOx RSS)は低下しました。

シュウ酸カルシウム結石予防

 人医学においては、結石患者が塩分の高い食事を摂ると尿中へのカルシウム排出量が増えて結石ができやすくなるため控えるのが基本とされています。一方、猫においては人間や犬で見られるような大幅な排出量の増加が見られず(7.08→7.92μmol/kg/24hr)、尿量の増加によって希釈され、尿中濃度が減るという傾向(0.66→0.41mmol/L)が確認されました。また尿中シュウ酸カルシウムの相対過飽和度(CaOx RSS)の低下も確認されましたので、食塩の摂取がシュウ酸カルシウム結石の予防にはなっても、形成リスクにはならないと考えられます。
 なおこの事実は過去に行われた調査(ナトリウム2.8g/1,000 kcal, Hawthorne 2004)で確認されていたり、いなかったり(Passlack, 2014)まちまちです。調査間におけるこうした違いには、フードに含まれる繊維質の量が関係しているのではないかと考えられています。

ストラバイト結石予防

 ストラバイトを構成しているのはリン、マグネシウム、アンモニウムです。尿中濃度に関しては食塩の摂取(フードD)によりリンが63→36mmol/L、マグネシウムが3.53→2.38mmol/L、アンモニウムが229→136mmol/Lに減少し、またストラバイトの相対過飽和度(MAP RSS)の低下も同時に確認されました。この事実から、食塩の摂取がストラバイト結石の形成に対し予防的に作用することはあっても、リスクになることはないのではないかと考えられます。

給餌する際の注意

 今回の調査は13頭という少数の猫を対象として行われた短期の給餌試験です。また猫種はなぜか半数近くがラグドールで占められているという極端な偏(かたよ)りもありますので、結果をすべての猫種や年齢層に拡大することはできないでしょう。さらに人間においてちらほら報告されている食塩摂取と高血圧の関係性に関しても十分に検証されているとは言えません。なお猫における食塩の許容摂取量に関しては別の調査が行われていますので以下のページなどをご参照ください。 猫における塩分(ナトリウム)の許容最大値と最小値  猫の体全体を総合的に考えた時の安全性や危険性ははっきりしませんが、少なくとも結石症の既往歴がある猫においては、フード中の食塩によって飲水量と尿量が増え、尿中の結石成分量や相対過飽和度が減ることにより、結果として結石予防になる可能性はあるでしょう。
 研究主体が大手ペットフードメーカーですので、おそらく試験結果は猫向けの療法食という形で反映されるものと推測されます。なお飼い主の自己責任で市販のキャットフードに食塩を混ぜることもできますが、当調査における含有量の単位は「フード1,000kcal中」ですのでご注意ください。「フード1,000g中」や「体重1kg当たり1日」と混同すると、全く違う量になってしまいます。 猫の腎結石
猫の飲水量を増やすコツは「水を飲まない猫の飲水量を増やすコツは鶏肉フレーバー?」をご参照ください。ただし慢性腎不全などを抱え、腎臓のろ過能力が低下している猫においては逆に負担になる可能性がありますのでご注意を。