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猫にも笑顔はあるのか?~「目を閉じる」というしぐさが人間にもたらす不思議な癒し効果

 国が異なる全く別のチームが行った調査において不思議な共通点が見られたのでご紹介します。1行で表すと「人の前で目を頻繁に閉じる猫はなぜか譲渡率が高まる」というものです。

人前での目のしぐさと譲渡成功率

 イギリスにあるサセックス大学心理学部のチームは、猫の目のしぐさを細かく分類し、それらが保護施設における譲渡率と一体どのような関係にあるのかを実験的に検証しました。
 観察対象となったのはサセックス州にある動物保護施設に収容された臨床上健康な18頭の猫たち。オスとメスは同数、平均年齢6.6歳(1~16歳)、全頭が不妊手術済みです。猫の目の動きは以下に述べる2つのテストを通して観察されました。
  • スローブリンクテスト実験者が透明な扉越しに猫と面と向かい、目を見ながらゆっくりとまぶたを細める(1分間)
  • 比較対照テスト透明な扉越しに猫と面と向かい、やや左側を向いて目を合わせずニュートラルな表情を保つ(1分間)
 実験中の猫たちの表情は習熟した評価者が「CatFACS」と呼ばれる分類システムに準拠してカテゴライズしていきました。その結果、以下のような特徴が見られたといいます。太字は統計的に有意(=偶然では格差を説明しにくい)という意味で、「S」はスローブリンクテストの結果、「C」は比較対照テストの結果です。
「人の目」と猫の反応
  • ハーフ・ブリンク上まぶただけもしくは下まぶただけが動いて目を細めるが、まぶたが完全に閉じてしまうことはない
    ✓回数:S→4.22>C→1.89
    ✓持続時間:S→2.69>C→1.06
  • アイ・ナロイング上まぶたと下まぶたが同時に接近するが目を完全に閉じることはない(ハーフブリンクの延長ヴァージョン)
    ✓回数:S→3.39>C→2.17
    ✓持続時間:S→10.58>C→8.42(傾向止まり)
  • アイ・クロージャー上まぶたと下まぶたが接近して目を完全に閉じた状態が0.5秒以上持続する
    ✓回数:S→1.28>C→1.06(非有意)
    ✓持続時間:S→10.90<C→14.72(非有意)
まぶたを細めるが完全には閉じない「ハーフ・ブリンク」  上記したように人間がゆっくりとまばたきをして見せると、猫の方も「ハーフ・ブリンク」や「アイ・ナロイング」で返してくれることが追認されました。同じチームが行った先行調査に関しては以下のページをご参照下さい。 まばたきとは違うスローブリンクの意味は?  調査開始から132日以内に18頭中14頭の譲渡が決まりました。「施設滞在期間」を「里親募集が開始されてから実際に譲渡が成立するまで」と定義し、目のしぐさとの関係性を統計的に計算したところ、 スローブリンクテストにおいて 「アイ・クロージャーの回数が多い」および「アイ・クロージャーの持続時間が長い」猫ほど、施設滞在期間が短くなることが明らかになったといいます。平たく言い換えると人が見ている前でよく目をつぶる猫は譲渡されやすいということです。一方、しぐさとしては非常に似通っているにも関わらず、ハーフ・ブリンクとアイ・ナロイングに関しては、回数にしても持続時間にしても施設滞在期間との関係性は確認されませんでした。
Slow Blink Eye Closure in Shelter Cats Is Related to Quicker Adoption
Tasmin Humphrey, Faye Stringer, Leanne Proops, Karen McComb, Animals 2020, 10(12), 2256; DOI:10.3390/ani10122256

施設内での行動と譲渡成功率

 スウェーデン農科大学の調査チームは、保護施設内で猫たちが見せる様々な動作やしぐさと譲渡成功率との間にどのような関係性があるのかを検証しました。
 観察対象となったのはアメリカ中西部にあるシェルターに収容された合計83頭の猫たち。他の猫に威嚇や攻撃性を見せる「猫見知り」な13頭は単頭ケージ内、他の猫とうまくやっていけそうなその他の70頭は多頭ルーム内で飼養されました。猫1頭につき午前2回(1分間×2)と午後2回(1分間×2)の合計4回にわたって行動観察を行い、20日間でトータル80時間分の記録を集めました。
 次にこれらの行動データを、過去の研究などから猫のストレス指標として有力視されている行動要素85個に分類していったところ、いくつかの要素が施設滞在期間と統計的に連動していたといいます。ここで言う「施設滞在期間」とは里親募集が開始されてから実際に譲渡が成立するまでのことです。
  • 滞在期間短期化の予見行動✓多頭→14個
    ✓単頭→2個
    ※14個は正の相関関係、2個は負の相関関係
  • 滞在期間長期化の予見行動✓多頭→12個
    ✓単頭→3個
    ※7つは正の相関関係、7つは負の相関関係
 短期化とつながりのあった行動要素のうち83%はキャットストレススコア3以下(=わずかに緊張)に該当し、逆に長期化とつながりのあった行動要素のうち44%はキャットストレススコア4以上(=中等度以上の緊張)に該当していたといいます。平たく言うと「リラックスしている猫ほど譲渡されやすい」ということです。ストレス指標である「キャットストレススコア」については以下のページをご覧ください。 猫のストレスチェック  興味深いのは「目を閉じる」という行動要素と施設滞在期間の短期化とが連動しており、午前と午後に渡って行われた4回の観察セッション中、発現頻度の高い行動として3回も繰り返し記録されたという点です。猫がこのしぐさを見せた場合、滞在期間が短縮化する可能性は2.1~3.6倍に高まると推計されました。
Development of existing scoring systems to assess behavioural coping in shelter cats
Elin Netti Hirscha, Maria Anderssona, Jenny Lobergab, Lena Maria Lidfors, Applied Animal Behaviour Science, Volume 234, January 2021, DOI:10.1016/j.applanim.2020.105208

「眠り猫効果」は存在するのか?

 国が異なる2つの保護施設で行われた調査により、「人前でよく目を閉じる猫は譲渡されやすい」という不思議な共通点が浮かび上がってきました。「眠り猫効果」とでも言うべきこの現象の裏には、いったいどのようなメカニズムが働いているのでしょうか? 日光東照宮にある国宝「眠り猫」の彫刻

目を閉じるのは信頼の証?

 目を閉じるというしぐさは相手に対して警戒心を抱いていないことの裏返しです。過去にイギリスのチャリティ団体「Cats Protection」が行ったアンケート調査でも、猫の飼い主1,100人のうち69%が「猫がリラックスしているときにゆっくりとまばたきをする」と回答しています。里親候補者と猫が施設内で対面した時、目を閉じた姿を頻繁に見せたのだとすると、「自分のことを信頼して警戒心を解いてくれた。なんて可愛いんだろう!」という印象につながり、結果的に譲渡率が高まった可能性が考えられます。 人間は目を閉じた表情の中に「信頼」や「安心」を読み取る  似たような動作でも目を半開きにするハーフ・ブリンクやアイ・ナロイングでは譲渡率に影響がありませんでしたので、これらの動作は少なくともリラックスの証とは認識されなかったようです。調査チームもこれらのしぐさがもつ二重の意味(ポジティブに言うと相手に敵意がないことを伝える=ネガティブに言うと敵対関係からくる緊張感を前提として抱いている)を指摘していますし、過去に行われた別の調査では実際に不安を抱いた猫でゆっくりとしたまばたきが出やすいと報告されています。 猫は親しさにかかわらず人と見つめ合うのが嫌い

目を閉じるのは猫の笑顔?

 猫が目を閉じたときの表情は、人間で言うところのデュシェンヌ・スマイルに近いのではないかという仮説があります。「デュシェンヌ・スマイル」(Duchenne smile)とは 口角を上に引き上げる大頬骨筋と、頬を引き上げて目尻にシワを作る眼輪筋が動員される笑顔のことで、「smiling with the eyes」から「smizing」(スマイジング)と呼ばれたり、作り笑いに対して「本物の笑い」などと呼ばれたりします。 作り笑顔と「本物の笑顔」と称されるデュシェンヌ・スマイルの比較画像  目を閉じた猫の顔に、無意識的に人間の笑顔を重ね合わせると「自分に対して微笑みかけてくれた。なんて可愛いんだろう!」という印象につながり、結果として譲渡率が高まった可能性が考えられます。 猫の口角は最初から上がっていますので、より一層人間の「本当の笑顔」に見えるのかもしれません。 ドラゴンボールに登場する猫のキャラクター「カリン様」の目は笑って見える  ちなみに動物の顔に人間の表情を重ねるという現象は犬においても確認されています。2013年にイギリスのポーツマス大学が行なった調査では、眉毛の内側を上に引き上げて「ハ」の字を作る犬の方が早く譲渡されることが確認されており、理由としてはどことなく哀れっぽい表情が里親候補者の母性(父性)本能をくすぐり、「自分が保護しなければ!」という気持ちにつながったのではないかと推測されています。なお進化の過程で必要なかったためか、猫にこの表情はできません。 犬が心ここにあらずの表情をする 人と犬が見せる「AU101」(物憂げ顔)の表情

眠り猫効果を応用する

 今回得られた知見を便宜上「眠り猫効果」とすると、一体どのような応用の仕方があるのでしょうか?

猫の里親募集ページ

 例えば地方自治体が運営する動物愛護センターや保健所では、里親候補の猫を写真で公開していることがあります。しかし時間や人手が足りないためか、耳を後ろに寝かせて瞳孔を最大限に開いた姿を無神経にもアップしているところが少なくありません。こうした表情はリラックスとは対極にあるものですので、どう考えても譲渡率のアップにはつながらないでしょう。例えば猫の殺処分数が多いことで知られる福島県によると、以下の黒猫は「すり寄って人に甘えてくる」そうですが、写真からはイマイチそのキャラクターが伝わってきませんね。 猫がもつ本来の性格をうまく捉えきれていない自治体の写真  ネガティブな印象を与える写真の代わりに、猫が寝ている時の姿を写真に撮って見せてあげれば、里親候補者は自宅の窓辺でまどろむ猫の姿を想像しやすくなり、「おうちに迎えてあげたい!」という気持ちが強まるのではないでしょうか。

猫の譲渡会

 民間の保護団体が主催する譲渡会では通常、ケージに入れられた猫たちが1つの会場内に並べられ、来場した里親候補者たちとぶっつけ本番でご対面を果たします。しかしこの状況は猫にとって多大なストレスです。見知らぬ場所に連れてこられた移動ストレス、見知らぬ環境から受けるストレス、見知らぬ人間にじろじろ見られるストレス、拘束されて身動きが取れないストレスなどの多重ストレスにより、ケージの奥に引っ込んだまま丸まって動かないことも少なくありません。 大なり小なりストレスを抱えている譲渡会場の猫たちは本来の性格が見えにくい  インターネットにおける写真紹介と同様、ケージの分かりやすい所に猫が目を閉じてリラックスしている時の姿を貼り付けておけば「今は緊張しているけれども家に慣れたらこういう感じになるのかな」と想像しやすくなり、譲渡率のアップにつながるのではないでしょうか。
 また近年はコロナ禍により「オンライン譲渡会」といった中継企画も頻繁に行われています。ライブで猫の姿を見せようとすると、慣れないシチュエーションや身体的な拘束に緊張感を抱いた猫が本来の姿を見せてくれないかもしれません。あらかじめ猫がリラックスした時の姿を撮影してPR動画として見せてあげれば、里親候補者たちが家に迎えた時の様子を想像しやすくなるでしょう。
猫に笑顔があるのかどうかは不明ですが、少なくとも人間の方は目を閉じた猫の表情を「リラックス」や「笑顔」と結びつけてとらえるようです。猫は1日の大半を寝て過ごしますので、眠ることで人間に癒やしを与えているという側面はあるでしょうね。猫の顔やしぐさが可愛い理由は?