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猫の慢性腎不全の原因はコアワクチン接種?~CRFKが腎臓組織に反応する抗体を形成する可能性あり

 感染機会が多い病原体に備えるため接種することが望ましいとされている猫のコアワクチン。感染症対策においては重要とされる一方、製造過程で用いられる腎臓由来の細胞が接種時に不必要な免疫応答を引き起こし、自分自身の腎臓を異物として攻撃してしまう危険性が指摘されています。

猫のコアワクチンとCRFK

 コアワクチンとは猫ウイルス性鼻気管炎(ネコヘルペスウイルス1型)、猫カリシウイルス感染症(カリシウイルス)、猫汎白血球減少症(パルボウイルス)に対する免疫応答を引き起こし、体内に抗体を作る3種混合ワクチン。感染機会が多いことから、すべての猫が接種すべきという意味で「コア」と呼ばれています。

CRFKとは?

 コアワクチンでは一部の製品を除き、ウイルスの毒性を薄めて製造した生ワクチンが用いられています。製造過程で用いられるのは猫の腎臓由来の細胞を質的に均一化した「Crandell Rees feline kidney(CRFK)」と呼ばれる細胞で、ウイルスの増殖を促しやすいという特徴を有しています。健康への悪影響はないという前提の元、用いたCRFK由来タンパク質は製剤を封入する際に一緒に入れられ、特殊な工程によって除去するという作業は行われていません。
 日本国内で流通しているコアワクチンの製造でも「NLFK-1」もしくは「CRFK」が用いられています。 猫のワクチン接種・完全ガイド

CRFKの盲点

 「コア」と呼ばれるほど重要視されているワクチンですが、CRFKを用いて製造された混合ワクチンを接種した猫の体内では、本来のターゲットである3つの病原ウイルスだけでなく、製造過程で使用されたCRFK由来のタンパク質に対する抗体も偶発的に生成されてしまう可能性が古くから指摘されています。この現象の最大の問題点は、免疫システムが自分自身の腎臓を異物とみなして攻撃してしまう危険性があるという点です。

コアワクチンと腎不全の関係

 猫の健康を守るためのコアワクチンによって逆に猫の健康が悪化してしまうということは実際に起こり得るのでしょうか?コアワクチンを接種した後における免疫応答を対象とした調査では、「腎不全の引き金になっている可能性を否定できない」との結論に至っています。

腎臓タンパクへの抗体形成

 ワクチン接種によって猫の腎臓由来のタンパク質に対する抗体が形成される可能性が示されています。
 コロラド州立大学の調査チームは生後8週齢の子猫14頭を対象とし、CRFK溶解物および製造工程でCRFKタンパクが混入した可能性が高い生ワクチンを接種した場合の免疫応答を調査しました出典資料:Lappin, 2005)
 14頭のうち8頭を2頭ずつからなる4つのグループに分け、流通している4種類の生ワクチンを生後0→3→6→50週齢のタイミングで接種しました。3グループは皮下注射、残り1グループは鼻と眼球を通じて接種するタイプです。また残りの6頭を2頭ずつからなる3つのグループに分け、「CRFK溶解物10μg」「CRFK溶解物50μg」「CRFK溶解物50μg+アジュバント」のいずれかを生後50週齢になるまでの間に11回皮下接種しました。
 その結果、溶解物接種グループ(6頭)では 接種量に関わらずすべての猫がCRFK溶解物もしくはネコ腎細胞溶解物に対する抗体を形成したといいます。また非経口的ワクチン接種グループ(8頭)では皮下接種を受けた6頭のうち5頭がCRFK溶解物に対する抗体を形成し、全頭がネコ腎細胞溶解物に対する抗体を形成しました。一方、鼻や眼球を通じて接種を受けた2頭では抗体が検知されなかったそうです。調査の前後で腎生検を行いましたが病変は確認されませんでした。
 こうした結果から調査チームは、非経口的な接種によりCRFK溶解物もしくはネコ腎細胞溶解物に対する抗体が形成されるものの、少なくとも56週間というスパンでは病変が確認されないと結論づけています。

免疫系による腎障害

 コアワクチンを接種することによって免疫システムが自分自身の腎臓を攻撃するようになり、最終的に腎障害が引き起こされるというはっきりした証拠は今の所ありません。しかし残念ながら、その可能性が完全に否定されているわけでもありません。
 コロラド州立大学の調査チームは猫を2頭ずつからなる3つのグループに分け、CRFK溶解物の1回接種量に「10μg」「50μg」「50μg+アジュバント」という違いを設けた上で2年間のうちに13回(うち12回は最初の50週間に集中)接種しました出典資料:Lappin, 2006)。また製造工程でCRFKを用いた生ワクチンを4週間の間隔を開けて経鼻的に3回接種した後、50週後と102週後のタイミングで再接種(ブースター接種)を行いました。
 溶解物接種とワクチン経鼻接種の両群を対象とし、最後の接種から2週間後のタイミングで腎臓の組織を生検したところ、ワクチン接種群では腎炎が確認されなかったのに対し、溶解物接種群では各濃度グループ内に1頭ずつリンパ球性形質細胞性の間質性腎炎が認められたといいます。

ワクチンと慢性腎不全リスク

 ワクチン接種と腎障害との直接的な因果関係は証明されていませんが、ワクチンの頻回接種と慢性腎不全との関係性を示す不気味なデータもあります。
 イギリス・ブリストル大学の調査チームは一般家庭で飼育されている9歳を超えた148頭の高齢猫たちを対象とし、高窒素血症を伴う慢性腎不全の予見因子が何であるかを統計的に調査しました出典資料:Finch, 2016)
 その結果、ハザード比(※一定期間中にある集団内で特定の出来事が起こる頻度と、別の集団内で同じ出来事が起こる頻度とを比較した値)に関して以下のような結論に至ったといいます。
CKDのハザード比(HR)
  • ワクチン接種→5.68
  • 中等度の歯牙疾患→13.83
  • 重度の歯牙疾患→35.35
 ワクチンの接種頻度が少なくとも2年に1回である場合、ハザード比が5.68倍に跳ね上がるとのこと。ワクチンがコアかどうかまでは明記されていませんが、接種と慢性腎不全との因果関係を示唆する怖いデータであることは記憶に値するでしょう。

CRFKの抗原タンパク

 コロラド州立大学の調査チームは、CRFK溶解物から免疫応答を引き起こしうる抗原を精製し、いったいどのタンパク質が異物として認識されるかを検証しました出典資料:Whittemore, 2010)。実験に用いられたのはCRFK溶解物もしくはCRFK由来ワクチンを接種された子猫の血清です。
 抗原抗体反応を調べた結果、CRFKに含まれる3つのタンパク質が同定されたといいます。具体的には以下です。
CRFKの抗原タンパク
  • α-エノラーゼ
  • アネキシンA2
  • マクロファージキャッピングタンパク質(MCP)
 血清に含まれる抗体が上記タンパク質を認識できるということは、タンパク質を豊富に含む臓器が免疫システムの攻撃ターゲットになりうるということを意味しています。つまり腎臓です。自己免疫疾患との関連性がとりわけ深い2つのタンパク質について以下で解説します。

α-エノラーゼ

 α-エノラーゼは全身に存在している解糖酵素の一種。特に腎臓と胸腺で豊富とされています。プラスミノゲン結合タンパク質の受容体として赤血球以外の細胞表面で機能し、細胞の種類によっては低酸素状態により発現量が増えるとされています。
 人間においてはα-エノラーゼに対する自家抗体(=抗α-エノラーゼ抗体)が全身性エリテマトーデス、自己免疫性腎症、自己免疫性肝炎、重度の喘息、橋本脳症に関わっているとの報告があります。しかしそもそもなぜ抗α-エノラーゼ抗体が形成されるのかに関しては解明されていません。免疫複合体や補体を介した自家細胞への攻撃、プラスミノーゲンの結合阻害による線維素溶解システムの乱れ、細胞死プロセスの直接的な誘引などが関わっているのではないかと推測されています。

アネキシンA2

 アネキシンA2はカルシウムやリン脂質結合性タンパクの一種。全身の細胞内や細胞膜に存在し、エンドサイトーシス、エクソサイトーシス、細胞分裂、細胞分化、細胞死、血管内皮における線維素溶解の調整に関わっています。
 このタンパク質は急性腎障害に続発する形で腎臓における発現量が増えることから、尿細管上皮細胞の増殖と復元に関わっているものと推測されています。また酸化ストレスによって過剰に増加した状態が発がん性を有しているのではないかと疑われています。
 人医学においては抗アネキシンA2抗体が原発性および全身性エリテマトーデスに関連した抗リン脂質抗体症候群の発症に関わっているとも指摘されています。
現状をまとめると「はっきり証明はされていないものの、CRFKを用いて製造されたコアワクチンによって偶発的に形成された抗体が、自分自身の腎臓を異物として攻撃対象にしてしまう危険性を否定できない」となります。猫のワクチン接種・完全ガイド