トップ2023年・猫ニュース一覧4月の猫ニュース4月4日

子猫の正常な成長曲線・去勢避妊手術済みの場合

 3千頭を超える猫たちのデータから不妊手術を受けていない短毛種(非純血種)における標準的な成長曲線が発表されました。では去勢・避妊手術を受けた子猫の場合、どのような成長曲線になるのでしょうか?

手術済み子猫の成長曲線

 調査を行ったのはペットフードメーカー「Waltham Petcare Science Institute」のチーム。オス猫やメス猫に対する不妊手術が体重や体組成にどのような影響を及ぼすかを検証するため、2つの母集団を対象とした統計調査を行いました。
 まず調査対象となったのは1994年7月から2016年11月までの期間、北米を中心に900超の一次診療医院を展開するBanfield®Pet Hospitalにおいて不妊手術を受けた猫たち(2004年以降が77%を占める)。一般家庭で飼育されている短毛種(非純血種)であること、やせすぎでも太り過ぎでもない普通体型であること、体重に影響を及ぼす医学上の問題を抱えていないことを条件に絞り込みを行い、先行調査で示された未手術猫における標準的な成長曲線との隔たりを明確化しました。解析対象となった猫たちの手術時週齢と頭数は以下です。
オス猫
  • 20週齢前=712頭
  • 20~23週齢未満=2,141頭
  • 23~28週齢未満=2,453頭
  • 28週齢以降=3,007頭
メス猫
  • 21週齢前=952頭
  • 21~25週齢未満=2,662頭
  • 25~29週齢未満=3,010頭
  • 29週齢以降=3,785頭
 手術時の週齢によって猫たちをグループ分けし、標準曲線との隔たりを「Zスコア」という指標でグラフ化したところ、オスでもメスでも平均からの上方シフト(=体重が重くなる)が確認されたといいます。
Zスコア
Zスコア(Z-score)とは分布の平均値からのずれを示す値。Zスコアが0より大きければ平均以上であること、0より小さければ平均以下であることを示す。またZスコアの絶対値が大きければ大きい程、分布の平均値からのずれが大きいことを示している。
 上昇幅はオスよりもメスにおいて顕著でした。さらに一部の例外を除き、オスでもメスでも手術のタイミングが早ければ早いほど上方への振り幅が大きくなることも併せて確認されました。 猫の不妊手術のタイミングと成長曲線の関係(Zスコアベース)

去勢オスの平均成長曲線

 以下はさまざまなタイミングで去勢手術を施されたオスの子猫たちにおける平均的な成長曲線です。グレーの縦ラインは去勢手術を行ったタイミングの中央値、グレーの曲線は去勢していないオス猫における標準成長曲線です。 オス子猫の標準成長曲線(去勢20週齢前) オス子猫の標準成長曲線(去勢20~23週齢未満) オス子猫の標準成長曲線(去勢23~28週齢未満) オス子猫の標準成長曲線(去勢28週齢以降)

避妊メスの平均成長曲線

 以下はさまざまなタイミングで避妊手術を施されたメスの子猫たちにおける平均的な成長曲線です。グレーの縦ラインは避妊手術を行ったタイミングの中央値、グレーの曲線は避妊していないメス猫における標準成長曲線です。 メス子猫の標準成長曲線(避妊21週齢前) メス子猫の標準成長曲線(避妊21~25週齢未満) メス子猫の標準成長曲線(避妊25~29週齢未満) メス子猫の標準成長曲線(避妊29週齢以降)

不妊手術による体組成への影響

 次に調査チームは、不妊手術が体組成に対して及ぼす影響を明らかにするため、英国のウォルサムの研究施設内で飼育されていたメス猫を対象とした動物測定学的な観測を行いました。
 調査対象となったのは22頭のメス猫たち。ランダムで11頭ずつからなる2つのグループに分け、一方のグループにだけ生後19週齢のタイミングで避妊手術を施し、自由摂食環境に置いて1歳になるまで定期的なモニタリングを行いました。モニタリングのタイミングは11→18→30→52週齢時点で、体重のほか以下に示す体組成項目がDEXAと呼ばれる機器を用いて計測されました。
測定項目
  • 体高:立位における接地面~肩甲骨
  • 体長:胸骨柄~肛門直下
  • 胴回り:腰の一番くびれた部分の円周
  • 胸囲:胸部の最深部(第八肋骨当たり)の円周
  • 胸深:胸部中央の脊椎から胸郭最深部
  • 肘幅:上腕骨関節顆の横幅
  • 上肢長:尺骨突起~手根骨
  • 下肢長:膝蓋骨~足根骨
 計測の結果、不妊手術によって体重、体脂肪重量、除脂肪体重のすべてにおいて増加傾向が認められました。52週齢時の平均値を例に取ると、体重が34%増、体脂肪重量が91%増、除脂肪体重が23%増という顕著なものです。また動物計測学的な全項目においても大なり小なり「手術済み>未手術」という勾配が確認され、胴回りと胸囲に関しては統計的に有意なレベルの差と判断されました。
Comparison of growth in neutered Domestic Shorthair kittens with growth in sexually-intact cats.
Salt C, Butterwick RF, Henzel KS, German AJ (2023) PLoS ONE 18(3): e0283016, DOI:10.1371/journal.pone.0283016

オスもメスも肥満に注意

 一次診療施設のデータから、不妊手術によりオスメスとも「体重が増える」「早期手術の影響が大きく出る」という変化が確認されました。また研究所のデータから、少なくともメス猫においては不妊手術により「体重・体脂肪・除脂肪のすべてが増える」「胸囲・胴回りが大きくなる」ことが判明しました。

手術でなぜ体重が増える?

 不妊手術による影響は性ホルモンを介して生まれると考えられていますが、詳細なメカニズムまではわかっていません。ホルモンバランスの変化により「消費エネルギーが減る」「摂食量が増える」「骨端線の閉鎖が遅れる」といった変化が生まれ、結果として体が大きくなったり体脂肪が増えたりするものと想定されています。

早期不妊のデメリット

 近年は早期不妊手術のメリットが見直され生後6ヶ月齢未満での介入が推奨されています。その一方、背後にあるメカニズムはどうであれオスでもメスでも不妊手術によって体重が増えてしまうことは確かなようですので、デメリットとして「肥満・太り過ぎ」があるという事実を忘れてはいけないと、調査チームは注意喚起しています。
 猫に不妊手術を施した場合、最低限以下の項目は心がける必要があるでしょう。 猫の肥満 猫のダイエットを確実に成功させるには?
猫の肥満予防策
  • 定期的な目視検査基本的にはBCSで評価しますが、我が子の肥満を認識できなくなる母親と同様、飼い主による愛猫の肥満評価は甘くなりがちですので、体重測定と並行するようにします。
  • 定期的な体重測定定期的に体重を測り、表計算ソフトなどにデータを保存して増減がすぐわかるよう管理します。
  • 計量器による正確なフード計測大きめのパッケージからフードを取り分ける際は、カップで目分量ではなくキッチンスケーラーを用いてグラム単位で小分けにします。
成長曲線は生後間もない子猫を拾ったときや、子猫の里親になった時に役立ちそうですね。不妊手術を施していない子猫の成長曲線はこちらにまとめてあります。また育て方に関しては以下のページをご参照ください。子猫の育て方・準備編子猫の育て方・基本編子猫の育て方・実践編