トップ猫の栄養と食事猫のダイエット猫のダイエットを確実に成功させるには?

猫のダイエットを確実に成功させるには?~体型診断から減量計画まで

 いったいどのような計画を立てれば猫が確実にやせてくれるのでしょうか?以下は猫のダイエットを成功させるとき絶対に必要となる基礎知識です。肥満の判定方法からダイエット計画の立て方までを順を追って解説します。

肥満による猫の健康被害

 肥満とはそもそも、体中に散らばっている脂肪細胞に脂肪がたまりすぎた状態をいいます。2015年、日本獣医生命科学大学のチームが日本全国にある18の動物病院において猫の肥満判定を行った所、「太りぎみ」と「明らかな肥満」を合わせた割合が全体の56%に達したといいます。さらに「明らかな肥満」だけをみると全体の42%という高い割合を占めていたとも。 日本に暮らしている猫の半数以上は「太り気味」(BCS4)もしくは「肥満」(BCS5)に分類される  日本国内に暮らしている猫のうち半数以上が「ぽちゃ~デブ」というのは驚くべきことです。猫の肥満でも解説した通り、余分な脂肪を持っていると以下のリストで示すような病気につながりやすくなりますので、増えすぎた体重を適正体重に戻す「ダイエット」が2頭のうち1頭に必要になってきます。 小動物の臨床栄養学(4版, P461)より
肥満に伴う疾病のリスト
  • 代謝の変化高脂血症、インスリン抵抗性の増加、グルコース不耐性、脂肪肝、麻酔による合併症
  • 内分泌障害クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、甲状腺機能低下症糖尿病、インスリノーマ、下垂体前葉色素嫌性腺腫、下垂体機能低下症、視床下部の障害
  • 機能の変化関節へのストレス、筋骨格の痛み、呼吸困難、高血圧、難産、運動能力の低下、熱中症、免疫機能の低下
  • その他関節軟骨の摩耗等、変形性関節症、心血管系の疾患、転移性細胞癌
 ダイエットの最大の目的は、肥満を原因とする病気に猫がかからないよう予防することです。3~5歳の子供を持つ母親を対象とした調査(→S Carnell, 2005)によると、子供が肥満傾向であるにもかかわらず、そのことに気づいていない割合が98.1%、そして子供が明らかに肥満体であるにもかかわらず、そのことに気づいていない割合が82.9%にも達したといいます。ペットを我が子のようにかわいがっている飼い主も、同じように肥満を見落としがちになりますので要注意です。 多くの親は子供が肥満状態に陥っていてもその事実に気づかない  ダイエットはの基本的な流れは、「現在の体型と体重を知る」→「理想の体型と体重を知る」→「計画を立てる」→「実践する」→「計画を評価する」です。このサイクルを繰り返すことにより、徐々に理想体型に近づけていきます。ただし、ダイエットの対象となるのは健康な成猫だけです。ライフステージが異なる猫に無理な運動や食事制限を課すと、時に健康を損ねてしまうことがありますので、持病がある猫は病気を治し、成長期にある子猫は1歳を超え、妊娠期・授乳期にあるメス猫は乳離れが終わってからがダイエットの対象となります。またダイエットを開始する前に、基礎疾患の有無を確認するため、必ず動物病院で健康診断を受けておいてください。

猫の体型と体重を診断する

 ダイエットを開始する前に、まず自分のペットが今現在どのような状態にあるのかを診断する必要があります。猫の肥満を測る際は体型(BCS/MCS)と体重を目安にするのが一般的です。

ボディコンディションスコアによる診断

 「ボディコンディションスコア」(BCS)とは、猫の肥満とやせの度合いを短時間で診断するための指標です。肥満を診断する際は、適正体重と現体重の比率を出す方法や、骨盤周囲を計測して体脂肪率を推測する方法もありますが、簡便性と正確性を考慮した場合、このBCSが最も優れているといえます。BCSには9段階方式もありますが、以下では最も広く用いられている5段階方式をご紹介します。飼い主はこれを参考にしながら、現在猫がどの段階にあるのかを診断します。もし難しい場合は獣医さんにお願いしても構いません。
猫の肥満判定用BCS
  • BCS1・やせすぎ 理想体重の85%以下・体脂肪率5%以下
    肋骨や背骨、腰骨のアウトラインが浮き出しており、横から見ると腹部は著しく巻き上がっている。上から見ると腰がくびれて砂時計のように見える。皮下脂肪はなく、尾の付け根も明瞭に区別できる。 猫のボディコンディションスコア(BCS)・やせすぎ
  • BCS2・体重不足 理想体重の86~94%・体脂肪率6~14%
    わずかな脂肪に覆われており、肋骨や腰の骨を容易に触ることができる。腹部の脂肪もごくわずかで、横から見るとおなかが巻き上がって見える。 猫のボディコンディションスコア(BCS)・体重不足
  • BCS3・理想体重 理想体重の95~106%・体脂肪率15~24%
    わずかな皮下脂肪を通して肋骨や骨格の隆起に触れることができる。腰には適度なくびれが見て取れる。 猫のボディコンディションスコア(BCS)・理想体重
  • BCS4・体重過剰 理想体重の107~122%・体脂肪率25~34%
    皮下脂肪に覆われており、肋骨に触るのが難しい。骨格の隆起部にはかろうじて触ることができる程度。腰のくびれは不明瞭で、上から見ると背中がやや横に広がって見える。 猫のボディコンディションスコア(BCS)・体重過剰
  • BCS5・肥満 理想体重の123~146%・体脂肪率35%以上
    厚い皮下脂肪に覆われており、肋骨に触れることができない。尾の付け根が脂肪で不明瞭。横から見るとおなかが垂れ下がり、上から見ると箱や樽の形に見える。 猫のボディコンディションスコア(BCS)・肥満

マッスルコンディションスコアによる診断

 「マッスルコンディションスコア」(MCS)とは猫の筋肉の付き具合を確認するための指標です。食餌中のタンパク質が不足すると、時に筋肉の萎縮を招いてしまいます。こうした事態に陥らないよう、日常的に猫の筋肉の状態をチェックすることも大事です。なお毛が長い猫種の場合、シルエットが判然とせず、太っているのか痩せているのかがわからない場合があります。そういう時は、飼い主がマッサージブラッシングのついでに猫のボディラインをチェックし、肉の付き具合を細かくチェックしておきます。 WSAVA Global Nutrition Committeeより
マッスルコンディションスコア(MCS)
  • 通常の筋肉量頭部の咀嚼筋は緩やかな丸みを帯びている。肩甲骨、背骨、大腿骨、肋骨は適度な筋肉に覆われており、浮き出ていない。 猫のマッスルコンディションスコア(MCS)~通常の筋肉量
  • わずかな筋肉の喪失頭部の咀嚼筋はやや失われている。肩甲骨、背骨、大腿骨、肋骨がうっすらと浮き出ている。 猫のマッスルコンディションスコア(MCS)~わずかな筋肉の喪失
  • かなりの筋肉の喪失頭部の咀嚼筋はかなり失われ、顎のラインがシャープになる。肩甲骨、背骨、大腿骨、肋骨は明瞭に浮き出ている。 猫のマッスルコンディションスコア(MCS)~かなりの筋肉の喪失
  • ひどい筋肉の喪失頭部の咀嚼筋はほとんど失われて頬もこけ、顔の形が明瞭な逆三角形になる。肩甲骨、背骨、大腿骨、肋骨に筋肉はほとんどなく、骨と皮ばかり。 猫のマッスルコンディションスコア(MCS)~ひどい筋肉の喪失

体型を写真にとる

 猫の体型はBCSやMCSを確認して終わるのではなく、必ず写真に収めておきます。明るさが一定な撮影場所を決めておき、そこで猫の前、横、後ろ、上からの姿を撮影しましょう。ダイエットの前後で写真を見比べれば、どこがどのように変わったのかが一目瞭然でわかるはずです。

体重を測る

 体重は決められた時間に測るようにします。食事の前と後、排泄の前と後では、微妙に体重が変動しますので、計測するタイミングを決めておけば、こうした誤差を減らすことができるでしょう。
 測り方は、飼い主が猫を抱えたまま体重計に乗り、そこから自分の体重を差し引くというやり方が簡便です。しかし成人用の体重計は0.1kg(100g)単位で計測することが大半で、大雑把になるというデメリットがあります。猫が嫌がらない場合は、2~5gという細かな増減まで計測できる赤ちゃん用のベビースケールなどに乗せて体重を測った方がよいでしょう。

猫の理想体型と体重

 理想の体型は、BCSで言えばちょうど中間の「BCS3」です。この体型を目指してダイエット計画を進めていくことになります。また理想の体重は「(現体重×除脂肪率)÷0.8」という公式で求められます。「脂肪率」が体の中において脂肪が占めている割合を示しているのに対し、「除脂肪率」は体重全体から脂肪だけを除いた部分、すなわち「除脂肪体重」が占めている割合を示しています。おおまかな目安は、「BCS4(体重過剰)→体脂肪率30%/除脂肪率70%」、「BCS5(肥満)→体脂肪率40%/除脂肪率60%」です。統計的に、現体重に除脂肪率を掛けて出てきた値を0.8で割ると、理想体重に近い値が出ます。
理想体重の計算式(kg)
体重過剰や肥満状態の猫における理想体重の求め方  多くの方にとっては計算が面倒でしょうから、おおまかな理想体重を以下で一覧化しました。ご自身のペットが「BCS4」(体重過剰)と判断される場合は「BCS4の猫の理想体重」を、そして「BCS5」(肥満)と判断される場合は「BCS5の猫の理想体重」をご参照ください。例えば現状が6kgでBCSが4の場合は「5.3kg」が理想体重となり、現状が10kgでBCSが5の場合は「7.5kg」が理想体重となります。
BCS4の猫の理想体重(kg)
現状理想現状理想
32.6 87.0
3.53.1 8.57.4
43.5 97.9
4.53.9 9.58.3
54.4 108.8
5.54.8 10.59.2
65.3 119.6
6.55.7 11.510.1
76.1 1210.5
7.56.6 12.510.9
BCS5の猫の理想体重(kg)
現状理想現状理想
32.3 86.0
3.52.6 8.56.4
43.0 96.8
4.53.4 9.57.1
53.8 107.5
5.54.1 10.57.9
64.5 118.3
6.54.9 11.58.6
75.3 129.0
7.55.6 12.59.4

猫のダイエット計画

 現在の体型と体重、および理想の体型と体重がわかったら、今度はダイエット計画を立ててそれを実行していきます。猫が自主的にダイエットするわけではありませんので、飼い主がしっかりとリードしてあげなければなりません。 ダイエットに成功したデブ猫のビフォーアフター写真

ダイエット計画を立てる

 無理のないダイエットは、1週間で体重の0.5~1.5%前後、1ヶ月で体重の2~6%くらいを落とすペースです。週2%までは許容範囲と考えられていますが、あまり急激に体重を落とすと脂肪以外の組織が減ってしまう可能性があるため、上限としては1.5%くらいが妥当だと考えられます。
 例えば適正体重が4kgなのに現在5kgある猫がいたとします。減らしたいのは脂肪1kgです。スローペースを採用し、1ヶ月で2%減量しようとすると、現体重の2%は0.1kgですので、余分な1kgを減量するには「1.0÷0.1=10」で10ヶ月程度かかるという計算になります。またハイペースを採用し、1ヶ月で6%減量しようとすると、現体重の6%は0.3kgですので、余分な1kgを減量するには「1.0÷0.3≒3.3」で3ヶ月強かかるという計算になります。3~10ヶ月と、ずいぶんのんびりとした印象を与えますが、急激なダイエットは猫の心身への負担が大きいですし、運動につきあう飼い主の負担にもなりますので厳禁です。
 以下は「理想体重が4kg/現在5kg」を例にとった1kgのダイエット計画グラフです。グラフの縦軸を「体重」に、そして横軸を「ダイエット期間」に設定してあります。ご自身のペットを基にして同じようなグラフを作ってみてください。
1kgのダイエット計画
ダイエットの適正なペース
  • 現在の体重5kg
  • 現在のBCSBCS5の「肥満」
  • 理想体重(現体重×0.6)÷0.8≒4kg
  • 1ヶ月の適正減量値5kg×2%=0.1kg(下限)~5kg×6%=0.3kg(上限)
  • ダイエット期間余分な脂肪1kg÷1ヶ月の適性減量値0.1~0.3kg=3.3~10ヶ月

ダイエット計画を実践する

 ダイエット計画を立てたらいよいよ実践です。猫の脂肪を減らす唯一の方法は、体の中で「摂取カロリー<消費カロリー」というエネルギーバランスを作り出すことです。摂取カロリーを減らす際は「食事制限」が、そして消費カロリーを増やす際は「遊び」がメインのアプローチ方法となります。具体的な方法や注意点に関してはここで書ききることができませんので、フードによる猫のダイエット運動による猫のダイエットに分割して記載しました。実践中は、最低でも1週間ごとに猫の体型と体重を記録しておきましょう。体型は写真に収め、体重は事前に作っておいた計画グラフに数値を書き込むようにします。

ダイエット計画を評価する

 ダイエット計画に沿って1ヶ月実践してみたら、ひとまず体重や体型の変化をチェックしてみます。猫の体重がハイペースとスローペースの間にある「適正ペース」に入っていれば順調です。また体型が少しでも理想に近づいていたら大成功といえます。その調子で1週間ごとに記録をとり、目標体重に到達するまで残りの期間を頑張ってみましょう。
 もし体重の減少が下限に届いておらず、計画グラフの「遅すぎ」の範囲に入っていたら、エネルギーバランスが適正でない可能性を考慮しなければなりません。その場合は、摂取カロリーを少し減らし、消費カロリーを少し増やしてダイエット計画を再スタートしてみましょう。また逆に、体重の減少が上限を超え、計画グラフの「速すぎ」の範囲に入っていたら、急激に体重を減らしすぎです。目減りした体重は脂肪ではなく、筋肉やその他の組織である可能性があります。その場合は摂取カロリーを少し増やし、消費カロリーを少し減らすように微調整します。細かいやり方については以下のページで解説してありますのでご参照下さい。
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