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猫の熱中症はこう防ぐ!~原因・症状から応急処置法まで

 猫が熱中症にかかった場合について病態、症状、原因、応急処置法別に解説します。不慮の怪我や事故に遭遇する前に予習しておき、いざとなったときスムーズに動けるようにしておきましょう。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

熱中症が起こる理由は?

 猫の熱中症とは上がりすぎた体温をうまく下げることができず、体中の機能が低下してしまった状態のことです。平熱が37.5~39.2℃の猫においては深部体温(直腸温)が41℃を超えた場合に熱中症と診断されます。 猫における熱中症の境界線は深部体温で41℃  41℃を超えると熱によって脳にまでダメージが及び始め、43℃を超えると体中の様々な器官が機能不全に陥って急激に死亡率が高まります。さらに49~50℃というと極端な温度にまで高まると、たった5分でも細胞の構造が崩れて組織の壊疽が始まり、もはや生きていられません。
 なお熱中症と紛らわしい表現として「高体温症」「発熱」「熱痙攣」「熱疲労」「熱射病」などがありますが、全て別々の意味を持っています。簡略化すると以下です。同じ体温の上昇でも、感染症などによって引き起こされる「発熱」と熱中症とは全く別物として扱われます。 熱中症と紛らわしい表現一覧
  • 高体温症高体温症とは、猫の平熱である37.5~39.2℃(深部体温)を超えた状態のことです。「発熱」と「熱中症」の両方を含むため、熱中症と完全に同義語というわけではありません。
  • 発熱発熱(はつねつ)とは、体内に侵入した細菌やウイルスの増殖を抑えるため、体が自分の意志で体温を上げた状態のことです。体温を下げてしまっては意味がないので、通常パンティングは起こりません。
  • 熱中症体温調整能力の低下、もしくは体温調整能力を超える外気温によって、熱が体内にこもってしまった状態です。体温を下げるためのパンティングが発生します。
  • 熱痙攣熱痙攣(ねつけいれん)とは軽度の熱中症のことです。人間においては、発汗に伴う水分とナトリウムの喪失によって筋肉のけいれんが起こるため、こう呼ばれます。
  • 熱疲労熱疲労(ねつひろう)とは中等度の熱中症のことです。皮膚や筋肉への血流量が異常に増えることで血液循環がおかしくなり、体温調整機能が破綻(はたん)した状態を指します。
  • 熱射病熱射病(ねっしゃびょう)とは重度の熱中症のことです。体内に長時間熱がこもった結果、脳内の体温調整中枢が破壊された状態を指します。体温は42度を超え、細胞の壊死(えし)、タンパク質の変性から全身性炎症反応症候群(SIRS)を経て多臓器不全、そして死に至ります。

まずは血液大移動による冷却

 猫の脳内にはエアコンのコントロールパネルのような体温調節中枢があり「セットポイント」(平熱)と呼ばれる温度が生まれつき設定されています。人間の場合は36.5~37.5℃、猫の場合はそれよりもやや高く37.5~39.2℃くらいです。 体温を効率的に下げるため体の中心部から周辺部へと血液が移動する  体温が上昇してセットポイントから1℃でも高くなると、内臓の血管が縮むと同時に皮膚や筋肉に分布している血管が広がり、体の中心部から周辺部に血液が大移動を始めます。そして体の表面に集まった血液は「伝導」「対流」「放射」「気化」によって熱を外界に逃がし、なんとか体温を元の状態に戻そうとします。このときに起こるのが心臓の動きが大きくなる(心拍出量の増加)、心臓の鼓動が増える(心拍数の増加, 頻脈)、呼吸が激しくなる(頻呼吸, パンティング)といった変化です。

冷却がうまくいかないと…

 血液の大移動でもなかなか体温が下がらず高体温の状態が続いてしまうと、そのうち今まで収縮していた内臓の血管でも拡張が起こり、静脈貯留と循環血漿量の減少が起こります。そして体を循環する血液量が低下し、熱を外に発散するメカニズムが障害を受けてさらに体温が上がってしまいます。要するに体の内側も外側もオーバーヒートしてしまうということです。 発熱メカニズムがうまく機能せず、体表温も深部体温も高くなった状態が熱中症  このとき、熱によるストレスを受けた細胞を顕微鏡で見ると、細胞膜の脂質破損、タンパク質の変性、化学反応を促進する酵素の不活性化、細胞にエネルギーを供給するミトコンドリアの機能不全などが起こり、最終的には死んでしまいます。このような細胞死が体全体で引き起こされて行き着くゴールが脳、心臓、肺、消化管、肝臓、腎臓などの多臓器不全です。具体的には以下のような症状となって現れます。

猫の熱中症の症状

 熱中症に陥った猫で見られる主な症状は以下です。外ではもちろんのこと、家の中で発症することもありますので注意深く猫の様子を観察しておきましょう。

初期の症状

 初期症状は飼い主がまっさきに気づくべき症状です。熱中症は外を出歩いている猫だけでなく、完全室内飼いされている猫でも起こりうることですので、特に暑い季節は外気温、室温、猫の様子をモニタリングしておく必要があります。
  • 呼吸が荒い(パンティング)
  • よだれをダラダラ垂らす
  • 心拍数の増加(頻脈)
  • おもちゃや呼びかけへの反応が遅い・反応しない
  • 日陰に行きたがる
  • 歩きたがらずその場にうずくまる
  • ふらつく(運動失調)
  • 歯茎などの粘膜が乾燥する
  • 口の中が鮮紅色
  • CRTが1秒未満
  • 大腿動脈拍動の亢進や弱化
  • 視覚障害(皮質性)
  • 吐く・嘔吐する
CRT
CRTとは「キャピラリテスト」(Capillary refill time)の略称です。日本語では「毛細血管再充満時間テスト」とよばれます。猫の口を開き歯茎を指で押します。すると血液が押し出されて白くなるはずです。白くなったらすかさず指を離します。血液が戻り歯ぐきが再び赤くなるまでの時間を測ってみましょう。通常は2秒程度の戻り時間ですが、猫の体温が上がっているとスピードアップして1秒未満になります。

進行したときの症状

 熱中症が進行すると脳や臓器に障害が現れ始めます。人間を始めとする霊長類においては深部体温が39~40℃になると消化器の内壁がダメージを受け、腸内細菌が作り出した内毒素、グラム陰性菌、グラム陽性菌が循環血液中に混じってしまうとされています。猫においてもおそらく同様の変化が起こり、血管内に病原体が紛れ込む「敗血症」(はいけつしょう)に似た症状を引き起こします。
  • 血液の循環不全
  • 脳症
  • 腎不全
  • 心筋症
  • 肝不全
  • 消化器の虚血や梗塞
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  • 横紋筋融解症
  • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
  • 点状出血・斑状出血
  • 血便
  • 下痢便
  • ミオグロビン尿(コーラ色)
  • 意識混濁
  • けいれん
  • 昏睡
  • 死亡
DIC
DICとは播種性血管内凝固症候群のことで、血液凝固反応が全身の血管内でランダムに起こった状態のことを指します。熱中症にかかった重症の猫では粘膜、耳介、カテーテル挿入部の皮膚などに点状出血が現れます。

遅れて現れる症状

 熱中症にかかったにもかかわらずそれに気づかなかったり、見かけ上の症状が消えたことに安心して病院に連れて行かなかったりすると、3~5日後になって以下のような遅延性症状を示すことがあります。
  • 腎不全による乏尿~無尿
  • 肝不全による黄疸
  • 心不全による不整脈
  • 呼吸器不全によるARDS
  • 播種性血管内凝固症候群(DIC)
  • 発作

猫の熱中症の原因と予防法

 猫の熱中症を引き起こす原因は以下です。生まれついての体質など変えようのないものもありますが、飼い主の心がけで十分予防できるものもあります。猫における生死のボーダーラインは43.5℃程度と推定されています。昨日まで元気だった家族の一員と突然のお別れをしなくてすむよう、一つ一つの原因についてしっかりとリスク管理を行ってください。なお暑い環境下における猫の体温調整については以下のページでも解説してありますのでご参照ください。 猫の体温調節を知ろう!

高い気温

 外の気温が高くなる夏において発症リスクが高まります。
 太陽の直射による熱のほか太陽によって温めれた地面からの輻射熱によって体温が上がりやすい状態になっています。ちょうど上下から魚を焼く二面グリルのような感じです。また室内やトリミングサロンにおいても、ドライヤーを長時間あてることによって発症することがあります。 暑い日の外出は太陽の直射日光と地面からの輻射熱で二面焼き状態
暑い日の熱中症予防
 猫を放し飼いにしている場合はまず完全室内飼いに切り替えてあげてください。屋外には太陽光のほか感染症、交通事故、迷子、心無い人間による虐待などたくさんの危険が潜んでいます。室内環境を整えれば、たとえ外に出なくてもストレスを溜めることなく暮らしていくことも十分可能ですので、猫の健康と安全を確保するためにも外に出すのはやめましょう。 放し飼いが招く猫の死  電気代をケチってエアコンを付けないでいると、猫がたとえ屋内にいても熱中症にかかる危険があります。カーテンを閉めて日光を遮り、ちゃんとエアコンを付けて室温管理をしてあげましょう。設定温度の目安は人間も猫も快適に過ごせる24~25℃です。「窓を少し開けた状態で風通しをよくして留守番させる」とか「留守番中は扇風機をかけた状態にしておく」いう話をちらほら耳にしますが、これは猫の体温調整法を理解していない人たちによるとても危険な賭けです。猫は人間と違って汗をかきませんので、空気を当てることによって体温を下げることはあまり得意ではありません。まずは猫の体をしっかりと理解し、その上で室内環境を整えるようにしましょう。 猫の体温調節を知ろう! 猫が喜ぶ部屋の作り方

高い湿度

 湿度が高い場合、熱中症の発症率が高まります。
 猫が体温を下げるときはパンティングと呼ばれる激しい呼吸によって粘膜の表面積を増やし、そこから気化する体液の気化熱によって体温を下げます。空気が乾燥しているときは効果的に体液の気化が促されますが、空気がじめっと湿っているとなかなか気化が起こらず体温も下がってくれません。
湿度が高い時の熱中症予防
 日本では梅雨時期(5月~7月)になると湿度が高まりますので、たとえ太陽が出ていなかったとしても熱中症に気をつけておく必要があります。猫が見せる初期症状はとりわけ注意深く見ておくようにしましょう。これは屋内においても同様です。

不十分な換気

 換気が不十分な環境では熱中症の危険が高まります。
 猫が体温を外界に放出する際は、体表面と気体とが接触することによって熱を移動する「対流」という方法もわずかながら利用しています。対流が起こるには体温よりも低い温度の空気を継続的に体表面に当て続ける必要がありますが、換気が悪い場所だと空気の入れ替えが起こらず、ぬるい(体温と同じ)~生暖かい(体温よりも高い)空気が体に当たり続けます。
換気による熱中症予防
 窓を閉め切った部屋や車の中では空気の流れがよどんで対流による熱の放散が起こりません。基本的には窓を開けて通気を良くしましょう。ただし空気が体温よりも高い場合は、ちょうどドライヤーをかけたときのように逆に体温が上がってしまいます。対流熱伝達が起こるためには「空気の温度が体温よりも低い」ことが条件になりますので、流れる風があまりにも熱い時は逆に窓を閉め、エアコンで室温調整してください。

短頭種・鼻ぺちゃ

 マズルが短い短頭種の猫では熱中症のリスクが高まります。
 つぶれた鼻先によって空気の通りが悪くなり、効果的な気化が妨げられます。また空気を吸ったり吐いたりする時の空気抵抗が大きくなる分、呼吸筋を激しく収縮しなければならなくなり体温が上がりやすくなってしまいます。 呼吸に努力(筋収縮)を要し、気道が狭い短頭種の猫においては熱中症のリスクが高まる  2015年、英国のプリマス大学とエジンバラ大学からなる共同チームは中国、イギリス、その他の国に暮らす猫の飼い主に対してオンラインでアンケート調査を行い、猫の「鼻ぺちゃ」の度合いと呼吸との間にどのような関連性があるのかを検証しました。その結果、猫の鼻が低いほど呼吸に努力を要し、また「活動性の低下」や「涙やけ」の報告率も高まったと言います。 猫が鼻ぺちゃであるほど呼吸に難があることが判明
短頭種の熱中症予防
 ペルシャエキゾチックショートヘアなどの品種が生まれつき備えている解剖学的な構造を変える事はできません。夏場はこまめに水分を補給させる、激しい運動させないといった配慮によって、鼻ぺちゃというハンデを補ってあげましょう。ただし「短頭種気道症候群」を発症している場合は外科手術によっていくらか改善する可能性もあります。呼吸するたびに「グーグー」と鼻の奥から奇妙な音が出るような重症例の場合は、いちど動物病院に相談してみましょう。 猫の鼻腔狭窄(短頭種気道症候群)

肥満

 猫が太り気味だったり明らかな肥満だと熱中症にかかりやすくなります。
 体脂肪にはエネルギーの貯蔵庫のほか寒いときの防寒具としての役割があります。丸々と太った北極のアザラシのように冬の間は役に立ってくれるかもしれませんが、夏になっても天然の防寒具を着込んだままだと、体温が効果的に外に逃げ出せません。人間でも「太った人は汗っかき」とよく言いますが、体が重くて筋肉への負担が増えることのほか、体脂肪が放熱を妨げていることが関係しています。
肥満と熱中症予防
 丸々して可愛いという外見とは裏腹に、猫の肥満は様々な疾病の発症率を高めるサイレントキラーです。飼い主が責任を持ってダイエットを施し、標準体型にまで戻してあげましょう。具体的には以下のページでまとめてありますのでご参照ください。 猫のダイエットを確実に成功させるには?

黒い被毛

 太陽光を吸い込みやすい黒い被毛の場合、熱中症にかかりやすくなってしまいます。夏場に黒い服を着た時、体温が上がりやすくなってしまうのと同様、黒い被毛は太陽光を吸い込みやすいため、その分温度が上がりやすくなってしまいます。
 2016年、オーストラリアにあるアデレード大学獣医科学部のチームがレース犬(グレーハウンド)を対象とし、被毛色と体温との関連性を調査したところ、明るいタイプの被毛(フォーン・ホワイト)よりも暗いタイプの被毛(ブラック・ブルー・ブリンドル)の方がレース後の体温上昇率が高かったといいます。猫でも同じ現象が起こると考えても不思議ではありません。
被毛色と熱中症予防
 猫の被毛色を変えることはさすがにできないでしょうが、濃い被毛色の飼い主は熱中症のリスクが高いことを理解し、むやみな外出をさせないよう気をつけます。また被毛色が薄くても、ファッションのつもりで濃い色のキャットウェアを着せるのはやめたほうがよいでしょう。日向ぼっこをしているうちに、まるで夏場に放置された黒い車のボンネットのように熱々になってしまうかもしれません。

厚い被毛

 猫の被毛が厚いと体表面から放射と対流によって放出される熱が減り、熱中症にかかりやすくなります。
 猫における厚い被毛を人間で例えると、真夏にダウンジャケットを着込むようなものです。外からの熱は弾いてくれますが、内側の熱が全部こもってしまいます。具体的にはペルシャノルウェジャンフォレストキャットメインクーンラグドールなどです。
被毛の長さと熱中症予防
 被毛が長い猫種においては外気温が上がる夏の間だけ「サマーカット」を施し、放熱性を高めると効果的です。人間で言うとちょうど、ダウンジャケットをTシャツに着替えるような感じです。 地肌が透けて見えるまで刈り込んでしまうサマーカットは行き過ぎ  ただし地肌が見えるくらい短く刈り込んでしまうと、太陽光がもろに皮膚に当たって体温が上がりやすくなると同時に、紫外線による皮膚ガンの危険性も高まります。また被毛が元の長さに戻るまでに10週間以上かかりますので、外気温が下がる秋から冬にかけて被毛が短いまま過ごす羽目になります。サマーカットを施す時は地肌が見えない程度にとどめておきましょう。 夏の体温調整・放射

持病

 スムーズな呼吸を妨げるような様々な呼吸器系の病気や、体温の放出を促す循環器系の障害によって熱中症の発症リスクが高まります。具体的には心不全で心拍出量が少なくなるなどです。その他甲状腺機能亢進症 による基礎代謝の増大など、内分泌系のパターンもあります。
持病と熱中症予防
 猫が持病を抱えている場合は、まず基礎疾患に対する治療しっかりと行います。特に猫が高齢(6歳)になってからは1年に1回だった健康診断を半年に1回に増やし、病気の早期発見に努めましょう。

子猫・老猫

 猫があまりにも幼いと体温調整がうまくいかず熱中症にかかる危険性が高まります。例えば生後7週齢に満たない子猫などです。神経系がまだ未成熟で体と脳の間のコンビネーションがうまくいかないとか、自分の限界を知らず後先考えずに動き回ってしまうことなどが主な原因です。
 逆に猫の年齢があまりにも高いとやはり体温調整がうまくいかず熱中症にかかりやすくなります。呼吸筋が弱くてパンティングをうまくできないとか、生体を高熱から守ってくれる熱ショックタンパク質の減少などが主な原因です。
猫の年齢と熱中症予防
 子猫にしても老猫にしても、太陽が照りつける屋外に出すことは避けましょう。何度も言いますが換気や扇風機による風で猫の体温はなかなか下がってくれませんので、室内の温度は必ずエアコンで行ってください。皮膚感覚が鈍い老猫の場合、日向ぼっこをしているうちに熱中症にかかってしまうということもありえます。 子猫の体温調整

熱ショックタンパク質の減少

 細胞内において生成される熱ショックタンパク質の少なさが熱中症に対するかかりやすさを左右している可能性があります。
 熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン, HSP)とは急激な温度上昇に反応しほとんどすべての細胞内で作られるタンパク質の一種で、細胞内における酵素の能力を高めることで細胞の耐性を高め、タンパク質の構造を保つ役割を担っています。この熱ショックタンパク質の産生能力には個体差があり、遺伝的に産生量が少ない猫においては、熱耐性(thermotolerance)が低く熱中症にかかりやすくなってしまう可能性が指摘されています。その他加齢や馴化不足によってもタンパク質量が低下する可能性があります。

密閉空間への閉じ込め

 犬の熱中症で多く報告されているのが車内への閉じ込めによって発症するというパターンです。
 実験では気温が22℃のとき、1時間で車内温度は47℃に達するとされています。また気温が31℃のときはわずか10分で40℃に達し、1時間で60℃に達するとも。さらに気温が29℃、湿度90%の車内に閉じ込められた猫の50%は平均48分で死ぬという恐ろしいデータもあります。 夏場に猫をクレートなどの密閉空間に閉じ込めるのは動物虐待  例えば上の写真は2018年5月、アメリカ・インディアナ州にあるバルパライソの動物保護施設前に遺棄されていた猫です。きつきつのキャリーに詰め込まれて熱中症寸前でした。この猫はなんとか一命を取り留めましたが、クレートや車のような密閉空間においては換気が悪くなって対流による放熱が妨げられます。また飲み水がない場合パンティングによる気化が行われず、体温がこもってしまいます。さらに上昇した空間温度によって放射熱をもろに浴びますので、人間でいうとちょうどサウナに入っているときのような状態になってしまいます。
閉じ込めと熱中症予防
 室温が調整されておらず、猫が自力で逃げ出せない場所には絶対猫を閉じ込めないよう注意します。具体的にはキャリーバッグ、箱、押入れ、クレート、車の中、空調のない閉め切った室内などです。「少し窓を開けて部屋の通気を良くして留守番させる」というのもNGです。

激しい運動

 激しい運動によって筋肉を収縮させると体温が上がり、熱中症にかかりやすくなってしまいます。
 「おしくらまんじゅう」に代表されるように、筋肉が収縮すると熱が発生し、体がぽかぽかと温かくなります。冬ならば体温の維持に役立ってくれますが、夏の場合はオーバーヒートに陥る危険性が高まります。
運動と熱中症予防
 犬に比べて猫の熱中症症例が圧倒的に少ない理由の一つは、「暑い時に猫はあまり動こうとしない」ことです。猫たちは外気温と体温とのバランスを見て自動的に運動量を決めますので、基本的には放っておいてよいでしょう。ただし猫を放し飼いにしている場合は、気温が高いにもかかわらず家に帰るために無理して歩くという状況が生まれるかもしれません。季節にかかわらず猫は室内飼いすることが推奨されます。また遊び盛りの子猫をおもちゃで釣ると、自分の体温を無視して遊びに興じてしまうかもしれません。室内の空調が甘いとあっという間に体温が上がってしまいますので、しっかりとエアコンで室内温度をコントロールしましょう。

飲み水不足

 猫が体温を下げるときの主なメカニズムは、体の表面から電磁波によって体温を逃がす「放射」ですが、放射でも体温調整が間に合わない時は窮余の策として「パンティング」を行います。これは舌を外に出して激しく呼吸することによって気化熱を増加させることです。飲み水が少ないと気化する体液の量が減り、また脱水症状につながりやすくなります。
飲み水と熱中症予防
 パンティングによって唾液を気化させると体温は下がります。しかしそれを続けていくと次第に体の水分量が減り、脱水症状に近づいていきます。「高体温」と「脱水症状」という2つのピンチに見舞われた時、困り果てた猫はパンティングの方を諦めて脱水予防に努めるようになります。つまり体温が上がりっぱなしになるということです(Baker, 1982)。ちょうど水無しでサウナに閉じ込めるようなものですので、絶対にこのような状況を作ってはいけません。飲み水は常に新鮮な状態で家の複数箇所に置き、絶対に切れないようにしてください。

馴化不足

 動物の体は寒い環境から暑い環境、逆に暑い環境から寒い環境に順応することができます。しかしこうした順応が完了していない普通のペット猫が暑い中で動き回ったり急に暑い環境下に置かれると、熱中症に陥る危険性が高まります。
 温暖馴化において体内で起こる具体的な変化は、深部体温の低下、心拍数の減少、心臓予備力の上昇、気化冷却能の増進などです。しかしこの順応プロセスは短くとも10~20日、通常は60日程度かかるものですので、2~3時間で完了するパソコンのアップデートと同等視してはいけません。
温暖馴化と熱中症予防
 馴化不足による熱中症が危険なのは、温暖馴化が完了していない春の終わりから夏の初めです。カンカン照りの中、外出しようとする猫はあまりいないでしょうが、万が一にも猫が外に出てしまわないようしっかりと戸締まりをして室内飼いを徹底するようにします。また室内は日向ぼっこできるエリアと、日光を避けて涼める日陰の部分を設けるようにしてください。後は猫が自発的に選んでくれるはずです。

薬剤や有毒成分

 摂取した薬によって体温の上昇が引き起こされることがあります。犬において報告があるものはヘキサクロロフェン、アンフェタミン、利尿薬、メタアルデヒド、βブロッカーなどです。麻酔の一種ハロタンによって引き起こされる熱中症は特に悪性高熱症とも呼ばれます。
 また有毒成分が高体温を引き起こすというパターンもあります。犬において報告があるものは殺虫剤(有機リン酸エステル)、マイコトキシン(チーズやくるみ)、マカデミアナッツなどです。猫においても用心するに越したことはありません。
薬や毒と熱中症予防
 上記したような薬や毒物を摂取した後で運動したり暑い環境にとどまると、熱中症にかかってしまう危険性が高まるでしょう。猫の誤飲誤食については以下のページに予防法が詳しく書かれてありますのでご参照ください。 猫にとって危険な毒物

感染症

 ウイルスや細菌といった病原体に感染すると、体は病原体が繁殖しにくくするように体温を高め、その間に免疫細胞でやっつけようとします。これがいわゆる「発熱」で、体温を調整している前視床下部のセットポイントが高まることで引き起こされます。特徴は熱中症にかかったときのようにパンティングが起こらないことです。感染症にかかって熱っぽいのに室温調整を怠ると、体温が上がりすぎて熱中症に陥ってしまう危険があります。
感染症と熱中症予防
 猫の体温を日常的に測り、その猫の平熱を理解してれば、急な発熱にも気づくことができます。近年は耳の鼓膜で体温を計れるアイテムも売られていますので、猫のバイタルチェックは習慣化しておきましょう。具体的なやり方は以下のページをご参照ください。 猫の正常を知る

猫の熱中症の治療

 熱中症の原因がわかりしっかり予防していたにもかかわらず猫がオーバーヒートしてしまった場合、飼い主は一体どうすればよいのでしょうか?猫の命を救えるかどうかは飼い主が行う適切な応急処置にかかっています。

熱中症の応急処置

 熱中症にかかった犬の死亡率は36~50%程度と推定されています。猫におけるデータは乏しいですが死亡率に大きな影響を及ぼすのが飼い主による応急処置であることに変わりはありません。「熱中症にかかったかな?」と気付いたら、できるだけ早く処置を行い、動物病院に連れて行くようにしましょう。具体的な応急処置の方法は以下です。優先度が高い順に並べてあります。

猫を涼しい場所に移動する

 猫の熱中症の初期症状でも説明したとおり、猫がよたよたと歩き始めたとか倒れ込んだという時は熱中症にかかった可能性があります。そうした時は、取り急ぎ猫を涼しい場所に移動してあげましょう。 猫の熱中症応急処置~まずは日陰につれていき体温よりも低い場所に横たわらせる  太陽の直射日光が当たると体温が上がってしまいますので、日陰を見つけてください。また地面が体温より高い状態だと逆に体温が上がってしまいます。断熱性のある毛布などを敷いた上で寝かせてあげてください。

水をかけて風を当てる

 猫を涼しい場所に移動したら水をかけて風を当てましょう。猫は汗をかかないため皮膚からの気化熱による熱の放散がありません。汗の代わりにペットボトルの水や濡れタオルなどで地肌を濡らし、そこに風を当ててあげると気化熱が大量に奪われて効果的に体温を下げることができます。ポイントは、地肌を濡らして地肌に風を当てるという点です。被毛を濡らして被毛に風を当てても、ドライヤーで髪を乾かす時のように毛は乾いてくれるものの体温の方はなかなか変わってくれません。 気化による体温の低下を引き起こすときは地肌に水をかけて風を当てる

太い血管に氷水を当てる

 氷をすぐ用意できるようなら、ビニール袋に氷と水を入れて氷嚢(ひょうのう)を作り、首、腹部、腿の内側、脇の下など比較的太い血管が存在している温かい場所に当ててあげましょう。また脳が熱くなって神経細胞が死んでしまわないよう、頭のてっぺんに当てるのも効果的です。 猫の体を氷水などで冷やすときは太い血管が通った部位を冷やすと効果的
  • 短毛種の場合 猫が短毛種の場合、氷嚢を当てると接触部分の毛細血管が収縮し、放射による血液から環境中への体温の放出が妨げられてしまいます。また部分的なシバリング(筋肉の反射的な震え)が起こり、逆に体温が上がってしまう危険性もあります。皮膚と氷嚢の間にタオルを1~2枚くらい挟むとちょうどよい温度勾配になり、熱伝導によって体温が効果的に氷水に移っていきます。人間においては「体表温28℃以下にしない」となっていますので猫にも応用できる目安になるでしょう。
  • 長毛種の場合 猫が長毛種の場合、被毛が緩衝シートになってくれますのでタオルを敷く必要はありません。

水風呂に入れる

 家庭用プールなど、すでに水が溜まっている状態でしたら猫を水につけるという方法もあります。
 外が無風状態だったり、近くに扇風機やあおぐものがないときは猫を水につけ、体表面を冷やしてあげましょう。ただし水の温度が体温より低いことを確認してください。体温より高いと水風呂ではなく単なるお風呂になってしまいます。
 適度な風が吹いていたり、近くに扇風機やあおぐものがあるような場合は、猫を水につけてすぐ外に出し、風に晒した方が効果的です。
 いずれにしても熱中症にかかった猫はぼーっとしているため、水に入れている間に溺れてしまわないよう十分注意してください。

冷やしすぎに注意!

 猫の直腸温が39.4~39.7℃に達したらひとまず冷却治療をストップします。これ以上体温を下げてしまうと逆にシバリング(ぶるぶるという震え)が起こって再び体温が上がってしまうかもしれません。
 体温を耳の鼓膜で計測する場合は、直腸温度よりも0.6℃ほど低くなるという誤差がありますので、39℃を目安にするようにします。体温が安全域に届いたら猫に水を飲ませてすぐ動物病院に向かいましょう。なおこの時、猫を歩かせたら再び体温が上がってしまいますのでエアコンをかけた車を使って移動してください。

病院での治療

 飼い主の応急処置によって猫の体温がすでに下がっていたとしても、臓器に対するダメージは多かれ少なかれ起こっていますので、24~48時間は病院に入院して様子を見たほうが無難です。飼い主の自己判断で「もう大丈夫ですから」と言って勝手に帰らないようにしましょう。最悪のケースでは、自宅に着いた後で遅延性症状を示し、悪化して死んでしまうこともあります。
 応急処置を施した猫が動物病院に着いたら、以下のような治療が行われます。仮に生き延びたとしても腎臓、心臓、肝臓などの臓器に後遺症が残る可能性を覚悟しなければなりません。また神経系の障害が残って体温調整が下手になり、熱中症にかかりやすくなる可能性もあります。
病院での主な熱中症治療
  • 輸液
  • 血液検査
  • 酸素吸入
  • 糖分(デキストロース)の投与
 かつては冷やした生理食塩水などで浣腸、腹膜洗浄、胃洗浄を行って体温を内側から下げるという方法がありましたが、手間がかかって侵襲性が高く、また体温を正確に測ることが難しいといったデメリットが大きいため、現在ではあまり推奨されていません。
おわりに
 熱中症は飼い主の注意によって十分に予防が可能な疾患です。原因別の予防策をしっかりと把握し、絶対にかからないようにケアしてあげましょう。「完全室内飼いにすること」「エアコンで室温調整すること」「飲水を切らさないこと」という3点を守るだけでほとんどのケースは防ぐことができます。以下のページを参考にしつつ、室内環境を整えてあげてください。 猫が喜ぶ部屋の作り方