トップ猫の体猫の生理現象猫の体温調節を知ろう!

猫の体温調節を知ろう!~夏の暑さや冬の寒さから猫はどのように身を守っているのか?

 猫は人間と同様「恒温動物」(こうおんどうぶつ)で、外の気温が変化しても体温を一定に保ちながら生きていく必要があります。では猫たちはいったいどのようにして体温調節を行っているのでしょうか?写真やイラストと共に詳しく見ていきましょう!

体温のセットポイント(平熱)

 猫は人間と同じく恒温(こうおん)動物ですので、体温を一定に保ちながら生きていく必要があります。ヘビやクマのように冬の間だけ冬眠するということはありません。猫の体温を調節しているのは、脳の中の体温調節中枢(前視床下部-視索前野)と呼ばれる部分で、ここはちょうどエアコンの調整パネルに相当します。 猫の体内における体温調整中枢は前視床下部-視索前野にある  体温調節中枢には「セットポイント」(平熱)と呼ばれる温度が生まれつきあり、人間の場合は36.5~37.5℃、子猫では出生時で34.7~37.2℃、生後1週間で36.1~37.8℃に保たれています。また1歳を超えた成猫の平熱は人間よりもやや高く、深部体温で37.7~39.2℃です。こうした体温差があるため、猫を抱っこするとぽかぽかと温かく感じます。 猫の体温のセットポイント(平熱)は37.5~39.2℃くらい  体温がセットポイントから1℃でも高くなったり低くなったりすると、体温調整システムのスイッチが入り、さまざまなメカニズムを通して平熱にまで戻そうとします。ちょうどエアコンが室温の変化を感知しての自動的についたり消えたりするようなものです。ではいったい猫たちはどのようにして体温調整しているのでしょうか?写真やイラストと共に詳しく見ていきましょう。

猫の体と熱の移動

 猫の体と外の環境との間では絶えず熱の移動が行われています。この熱の移動は「伝導」「対流」「気化」「放射」と呼ばれる4つの方法で起こります。

伝導

 伝導(伝導, conduction)とは体の表面がそれよりも温度が低い液体や固体と接することで熱の移動が起こることです。体温よりも温かい(熱い)ものに接した時は、逆に熱が体内に移動します。 「伝導」による熱移動の模式図  指先で氷を触ったときのひんやりした感じが「熱を奪われる」、舌先で熱々のラーメンをすするときの感覚が「熱をもらう」とイメージすればわかりやすいでしょう。スイッチの入っていない冬の便座に座ると飛び上がるほど冷たいのは、足の体温が熱伝導によって急激にトイレに奪われるためです。

対流

 対流(たいりゅう, convection)とは体の表面がそれよりも温度が低い気体と接することで熱の移動が起こることです。体温よりも温かい(熱い)気体に接した時は、逆に熱が体内に移動します。 「対流」による熱移動の模式図  冷蔵庫を開けた瞬間のひんやりした感じが「熱を奪われる」、ドライヤーの熱風を当てたときの熱い感覚が「熱をもらう」とイメージすればわかりやすいでしょう。

気化

 気化(きか, evaporation)とは体の表面から液体(水・アルコール)が蒸発するときの気化熱で熱が移動する現象のことです。液体分子が体から熱を奪った状態で外の環境に放出されることにより、効率的な熱の移動が起こります。 「気化」による熱移動の模式図  気化熱に関しては汗だくの状態で扇風機に当たった時の涼しさをイメージすればわかりやすいでしょう。火照った身体から熱を受け取った汗(水分子)が、扇風機の風圧によって環境中に弾き飛ばされることにより急速な熱の移動が起こり、「涼しい!」という体感となって経験されます。また、湿度が高くてじめっとした日の不快指数が高い理由は、体の表面から汗が蒸発せず、気化熱がなかなか奪われないからです。

放射

 放射(ほうしゃ, radiation)とは熱を電磁波として環境中に放出することで熱輻射(ねつふくしゃ)とも呼ばれます。 「放射」による熱移動の模式図  直接触れているわけでもなく、風が吹いてるわけでもないのに、こたつに足を入れるとぽかぽか温かいのは、赤外線ヒーターから熱が放射されて足に伝わっているからです。「人の気配」という言葉がありますが、これは他人が近づいたことで微妙な輻射熱を感じ取った結果なのかもしれません。
 4つの熱の移動パターンがわかったところで、猫がどのようにしてこれらの物理法則を利用しているのかを状況別に考えてみましょう。

暑いとき猫はどうする?

 夏になって気温が高まると、環境から受け取る熱が多くなり、高まった体温を平熱に戻す必要性が生じます。平たく言うと「暑さをしのぐ」ということです。では、夏場の猫は一体どのようにして体温を下げ、暑さをしのぎながら熱中症の危険性をかわしているのでしょうか?前のセクションで見た熱の移動方法を参考にしながら考えてみましょう。

夏の体温調整・伝導

 猫たちは液体や固体と直接接することで熱の移動が起こる「伝導」を利用して体温を下げています。具体的にはひんやりした洗面器や土鍋に寝転ぶなどです。ペット用の避暑アイテムとして売られている大理石やアルミ板なども「伝導」の原理を応用していますね。 ひんやりとした洗面台で寝転ぶと伝導によって体温が下がりやすくなる  冷たい水につかれば同じように体温は下がりますが、猫は被毛が濡れることを極端に嫌いますので、必然的にプールに入るという事はしません。一昔前、鍋に入って涼んでいる猫が「猫鍋」として人気になりました。ネーミングはひどいですが、猫が「伝導」という物理法則をちゃんと理解していることを示す好例とも言えます。

夏の体温調整・対流

 猫たちは気体と持続的に接することで熱の移動が起こる「対流」を利用して体温を下げています。具体的には冷たい風が出てくるエアコンの吹き出し口の前に陣取るなどです。 体温以下の空気に当たり続けると対流によって体温が少しずつ下がる  人間の場合は体全体に汗腺がありますので、生暖かい風でも気化熱が奪われて結構涼しく感じます。しかし猫は汗をかきませんので、夏場の暖かい風に当たるとただ単にドライヤーに当たっているのと同じ状態になってしまいます。猫がそれほど扇風機を好まない理由はきっとここにあるのでしょう。

夏の体温調整・気化

 猫たちは体温を含んだ液体が蒸発するときの「気化熱」を利用して体温を下げています。具体的には、地肌をなめて体の表面を濡らし風に当たるとか、唾液の分泌量を増やして激しく呼吸するなどです。「パンティング」(あえぎ呼吸)とも呼ばれるこの呼吸法は、人間で言うとちょうど汗をかいた部分をうちわで扇ぐ行動に相当します。 唾液で湿った舌に息を当てると気化熱によって体温が下がる  人間が全身から汗をかけるのに対し、被毛に覆われた猫では肉球以外から汗を出すことができません。猫が人間に比べて暑さに弱い理由は、気化熱が起こる体表面積が人間と比べて圧倒的に小さく、効率的に体温を逃すことができないからです。その結果、以下のような体感温度の違いが生じると考えられます。人間が「ちょっと暑いかな…」と感じているとき、猫は「死ぬほど暑いよ!」とあえいでいる可能性があるので要注意ですね。 人間と猫の体感温度を比べると、猫のほうがはるかに暑い思いをしていることが理解できるでしょう。 猫のパンティングには、首を通っている太い血管にある「頚動脈小体」と呼ばれるセンサーが関わっています(Fadic, 1991)。このセンサーが壊れると、体温が40℃に達しても舌を出してハーハーと呼吸をすることができなくなることから、血中の酸素や二酸化炭素の濃度を検知してパンティングを引き起こす役割を担っていると考えられています。猫は滅多なことでベロを出しませんので、あえぐように息をしている時はよほど暑いか、何らかの病気にかかっているということなのでしょう。
 参考までに以下は運動もしておらず暑くもないのに猫がパンティングしているときに考えられる病気のリストです。「鼻詰まり」「呼吸器疾患」「循環器疾患」など何らかの基礎疾患が関わっている可能性がありますので、獣医さんに相談しましょう。
脈絡のないパンティングから考えられる病気

夏の体温調整・放射

 猫たちは体温を下げようとする時、体の表面から自然に出て行く放射熱を利用しています。具体的には太陽からの放射熱を避けるため日陰やベッドの下に潜り込むなどです。また大の字になって体の表面積を広げたり、舌先に血液を集めて外に突き出すのも放射を利用した体温調整法です。 血流が多い場所を外気にさらすと放射によって体温が逃げやすくなる  暑いと感じたときの猫の体内では、内臓に集まっていた血液が体の表面に移動します。こうすることで熱を豊富に含んだ血液と外界との距離を縮め、血液から放射熱が出て行きやすいようにしています。さらに脇の下、首元、おなか、ももの付け根など、比較的太い血管が通ってる場所をさらけ出すことにより放熱を効率化しています。暑い時に猫が手足を広げて大の字になり、夏の風物詩である「猫の開き」を見せるのはそのためなんですね。 体温を効率的に下げるため体の中心部から周辺部へと血液が移動する  被毛が長い品種においては外気温が上がる夏の間だけ「サマーカット」を施し、放熱性を高めることがあります。人間で言うとちょうど、ダウンジャケットをTシャツに着替えるような感じです。しかし犬に比べて猫はトリミング中に動いてしまうことがあるせいか、手っ取り早くバリカンで地肌が見えるくらい短く刈り込んでしまっている人を多く見かけます。猫をこのような状態にすると以下のようなデメリットが生じますので注意しなければなりません。
猫を丸刈りにするデメリット
地肌が透けて見えるまで刈り込んでしまうサマーカットは行き過ぎ
  • 外気温がもろに体に伝わる外気温が体温よりも高い37℃を超える猛暑日においては、本来被毛がブロックしてくれるはずの温度がもろに体に入ってしまい、猫の熱中症を助長してしまう危険性があります。
  • 紫外線を浴びやすくなる本来被毛がブロックしてくれるはずの紫外線が地肌に当たりやすくなり、紫外線に起因する日焼け、皮膚がんなどの疾患にかかりやすくなります。
  • すり傷などを負いやすくなる本来被毛がガードしてくれるはずの外力が直接皮膚に当たるため、擦り傷や切り傷を負いやすくなります。
  • 他の猫との体感温度に違いが生まれる多頭飼いの家庭で1頭だけを丸刈りにすると、他の猫との体感温度に違いが生じ、室内の温度管理が難しくなります。
  • ストレスの原因になる(?)猫にとって毛づくろいは日課です。あるべき場所にあるべき毛がないという状態は、猫にとってストレスの原因になってしまう可能性があります。
  • おなかが冷える腹部の皮膚と外気が直接接しているため、温度を奪われやすくなります。その結果、本来しなくてもよい体温調整を余儀なくされ、下痢や自律神経の失調など、思わぬ不調につながる可能性があります。
 多くの猫には、夏を目前にして自然と被毛量を減らす「換毛期」があります。しかし、換毛期で被毛がすっかり抜け落ち、つるつるのスフィンクスのようになってしまう猫はいません。このことは、被毛をある程度残しておくことには、猫なりの意味があることを示しているのではないでしょうか。ロングヘアーをミディアムにするくらいなら「猫の換毛期をお手伝いしている」と言えるでしょうが、地肌が見えるほど刈り込んでしまうのは、「過ぎたるはなお、及ばざるが如し」の実例です。

脳のラジエーター「奇網」

 猫が暑さをしのぐ時の基本的な戦略は直射日光を避けるとか無駄に動き回らずじっとしていることです。さらにそれだけでなく、猫の脳の中には神経細胞がオーバーヒートしないよう食い止めてくれる巧妙なメカニズムがあり、熱中症の予防に役立っています。霊長類(ヒトやサル)では見られない「奇網」(きもう)と呼ばれる不思議な器官がそれです。 頚動脈奇網(rete mirabile)は脳を冷やすためのラジエーター  脳につながる酸素を豊富に含んだ太い動脈のことを頚動脈(けいどうみゃく)、脳内に広く分布した酸素濃度が低い血管網のことを海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)と言います。この2つは脳の中心付近で交差しますが、頚動脈から分岐した顎動脈が海綿静脈洞を通過するとき急に枝分かれを始め、静脈洞との接触面積を大きくします。これは熱い動脈血と冷たい海綿静脈洞との接触面積を増やすことで効率的に血液を冷やすための構造です。
 鼻先で冷やされた静脈血は、まるでプールに注ぎ込むように静脈洞に集まり、そこで動脈と交差して血液を程よく冷やします。冷やされた動脈血はその後脳内に入り、神経細胞に酸素や栄養を与えます。つまり奇網と海綿静脈洞とは、脳内におけるラジエーターとして機能しているのです。
 犬は奇網を一つしか持っていませんが、猫には内側と外側に2つの奇網を持っています(Gillilan, 1976)。犬に比べて猫で熱中症の症例が少ない理由はいくつかありますが、この「奇網」の機能もその一つなのかもしれません。

寒いとき猫はどうする?

 冬になって気温が低くなると、環境中に逃げ出す熱が多くなり、低下した体温を平熱に戻す必要性が生じます。平たく言うと「寒さをしのぐ」ということです。では、冬場の猫は一体どのようにして体温を上げ、寒さをしのぎながら低体温症の危険性をかわしているのでしょうか?前のセクションで見た熱の移動方法を参考にしながら考えてみましょう。

冬の体温調整・伝導

 猫たちは液体や固体と直接接することで熱の移動が起こる「伝導」を利用して体温を上げています。具体的には体温が近い猫同士で「猫だんご」を作るとか、ペットヒーターの上で寝るなどです。 猫団子を作る作ることにより、お互いの体温を熱伝導で分け合う  人間、カピバラ、サルなどは温泉が好きですが、猫は濡れることが嫌いですのでバスタイムを楽しむということはないでしょう。その代わり、ほどよく温まった飼い主のパソコンの上に寝転がり、作業の邪魔するという事は間違いなくあります。

冬の体温調整・対流

 猫たちは気体と持続的に接することで熱の移動が起こる「対流」を利用して体温を保っています。具体的には冷たい風を避けるために家の軒下に隠れるとか、暖かい風を受けるためにパソコンの送風口前に陣取るなどです。寒い季節が到来する前に被毛を厚くし、自前のコートを作って冷風を避けるというのも「対流」を応用した体温調整法の一つと言えるでしょう。 冷たい風を遮ってくれる場所に潜み対流による体温の喪失を防ぐ  冷たい風の「対流」によって体温を奪われることを防ぐのは冬の正攻法ですが、場所によっては命に危険が及ぶこともあります。具体的には屋外に駐車してある車のエンジンルームです。JAF(日本自動車連盟)が受ける相談のうち「エンジンルームから猫の鳴き声がする」というものが冬になると増えるといいます。運転手が気づくのはいい方で、中にはエンジンベルトに挟まれて不運な最期を迎える猫たちもいます。 寒い季節になると猫たちが車のエンジンルームに避難するようになる  「猫バンバン」が推奨されている理由は、事前に猫がいないかどうかを確かめて悲惨な死亡事故を予防できるからです。寒い季節に車に乗る時は、ぜひエンジンルームを軽く「コンコン」と叩き、中に猫が潜り込んでいないかどうかを確かめるようにしてください。

冬の体温調整・気化

 猫たちは体温を維持するため、熱を含んだ液体が蒸発するときの「気化熱」に気をつけなければなりません。具体的には、口を閉じて完全鼻呼吸に切り替えるとか、体が濡れないようことさらに気をつけるなどです。 気化熱による体温の喪失を防ぐため寒い季節はことさら雨に気をつける  被毛が濡れることを猫が病的なほど嫌う理由の一つは、気化熱によって体温を奪われ、低体温症になってしまう危険性があるためです。猫の祖先であるリビアヤマネコは、夏と冬の寒暖差が激しい砂漠地帯で暮らしていました。こうした環境に暮らす動物にとって冬場の気化熱は大敵です。外気温が低い上に濡れた体から気化熱が奪われてしまうと、時として死に直結してしまいます。
 リビアヤマネコの子孫であるイエネコはもはや砂漠には暮らしていませんが、祖先が持っていた水嫌いは依然としてDNAに残っており、季節にかかわらず水に濡れることを嫌うようになりました。猫がプールにも温泉にも興味を示さない一因はここにあります。

冬の体温調整・放射

 猫たちは体の表面から自然に出て行く放射熱を利用して、体温の放出を食い止めたり、体温を上げようとします。具体的には丸くなって体の表面積を小さくしたり、布団の中に潜り込むなどです。こうした行動によって体から逃げていく放射熱をなるべく少なくしています。またコタツに潜り込むとかストーブの前に陣取ることもあります。こうした行動は体に入ってくる放射熱を増やすための工夫です。 日光やストーブに当たることで放射熱を体内に取り込む  寒いと感じたときの猫の体内では、体の表面から内臓に血液を集中し、外に逃げていく体温がなるべく少なくするように努力しています。また暑いときとは逆に、脇の下、首元、おなか、ももの付け根など、比較的太い血管が通ってる場所を隠すことにより、放射熱のロスを最小限に食い止めています。寒い時に猫が丸くなって「眠り猫」状態になるのはそのためです。最近では「アンモニャイト」と言ったほうがわかりやすいでしょうか。 猫は丸くなることによって外気との接触面積を減らし深部体温を保つ  体から自然に出て行く放射熱を減らすため、冬場の猫は被毛がやや厚くなります。また冬になると食事量を増やし、体温を維持するため必要なエネルギーを確保すると同時に、皮下脂肪を厚くして断熱性を高めます。エアコンの効いた室内で暮らしている猫の場合、食事量の増加によって太り気味になってしまうかもしれませんので気をつけたほうがよいでしょう。また、暖房器具としてストーブやコタツを利用している家庭においては、放射熱による火傷や低温やけどにも注意が必要です。

β-エンドルフィンと産熱

 鎮痛薬の一種として有名な「β-エンドルフィン」が体温の上昇に関わっているかもしれません。
 β(ベータ)-エンドルフィンとは、生物の脳内で生成される鎮痛剤の一種。鎮痛効果は非常に高くモルヒネの18~33倍と推定されています。この分子は鎮痛剤としての側面が有名ですが、脳の第三脳室と呼ばれる場所に40μgのβ-エンドルフィンが投与された猫においては、体温の上昇が確認されたと言います。その効果は環境温度が4℃、22℃、34℃でも変わらなかったとのこと(Wesley G. Clark, 1981)。
 寒い日に猫たちが猫団子を作る目的は、体温が逃げないようにガードすることです。しかしその他にも、触れ合うことによって体内でβ-エンドルフィンの分泌を促そうとしているのかもしれません。 猫を優しくなでてあげるとき、脳の中ではβ-エンドルフィンが放出されているかも  サルを対象とした調査では、仲間内で行うグルーミングによってβ-エンドルフィン濃度が変化すると言います(Keverne, 1989)。また人間を対象とした調査では、優しくなでることによって脳内におけるオピオイド受容体(β-エンドルフィンと結合しやすい器のこと)の活性化が見られると言います(Nummenmaa, 2016)。寒い夜に猫が寄り添ってきたら優しく撫でてみませんか?それだけでβエンドルフィンの濃度が高まったりオピオイド受容体の活性が高まり、人も猫も体がぽかぽかになる可能性があります。

シバリングによる産熱

 風雨を避けて納屋の中に逃げ込んだり、丸くなって体温の損失を防いでも、外の気温が低すぎると平熱を維持しきれず、どんどん体温が下がっていきます。こうした状況において発生するのが「シバリング」(shivering=震え)です。
 シバリングとは意思とは関係なく起こる筋肉の震えのことで、人間で言うと「寒すぎて顎がガクガクなる」状態に相当します。筋肉の収縮には発熱を伴いますから、筋肉を震わせることによって低下しつつある体温を食い止めるという寸法です。猫ではめったに見られませんが直腸温(深部体温)が35℃に達すると脳幹にある震え中枢(橋-網様体)が活性化し、人間と同じようにブルブルと体を震わせるようになります(Stuart, 1966)。 凍てつくような寒さの中ではシバリングによる産熱が追いつかず体が凍ってしまう  しかしシバリングによってキープできる体温にも限界があります。外の気温があまりにも低かったり、あまりにも長時間寒い環境中にとどまっていると、いくらブルブル震えても産熱が追いつかず、いずれ寒さに屈してしまいます。例えば上の写真は、アメリカ・ニューハンプシャー州の凍てつくような寒さの中、文字通り屋外で凍りついていた野良猫です。地元の消防隊によって救助されて温かいお湯をかけられましたが、体力が持たず、結局安楽死となりました。
 北海道など雪の降る地域で猫を放し飼いにしていたり迷子にしてしまうと、同じような悲劇が起こってしまうかもしれません。しっかりと戸締まりをして温かいベッドを用意し、猫が外に出る気力を失わせてやりましょう。 猫が喜ぶ部屋の作り方

子猫の体温調整

 子猫が自力で体温調整して成猫と同じ38℃前後の体温をキープできるようになるのは生後7週齢からです。それまでは体温を上げるにしても体温を下げるにしてもそれほど上手ではありませんので、熱中症低体温症に気を付けなければなりません。生後間もない子猫の標準的な体温は以下です。
子猫の標準的体温
  • 1週齢=35.5℃~36.7℃
  • 2週齢=37.2℃
  • 3週齢=37.8℃

寒い環境中の子猫

 子猫が生後2週齢(生後14日)になるまでは、きょうだい猫や母猫からはぐれて熱源を失うと、1分間に0.02℃のペースで体温を失っていきます(Olmstead, 1979)。同様の変化は23~25℃の環境下に置かれた時にも生じます。これは2時間で2.4℃体温が低下するペースですので、生後2週齢の子猫(37.2℃)が親元から2時間はぐれただけで体温が35℃以下になり、低体温症のリスクが一気に高まることがおわかりいただけるでしょう。ちなみに低体温症の目安は、出生時で34.4℃未満、3日齢で35.6℃未満、7日齢で37.2℃未満です。 生後間もない子猫は体温を失いやすいので、母猫からはぐれてはいけない  上記したのは、人間の感覚で快適と感じる23~25℃という環境温における話です。もし環境温度が氷点下に達するような極端な寒い状況では、さらに低体温症の危険性が高まります。例えば「-15℃」というシベリアのような極端に寒い環境下にいる子猫の場合、生後10日の時点では「0.2℃/分」、生後40日の時点では「0.1℃/分」のペースで体温を失うと推計されています。いずれにしても10~20分程度で低体温症に陥り、そのうち死んでしまうでしょう。自律的な体温調整や本能的な保温行動により体温を37.5℃にキープできるようになるのは生後45日を過ぎてからで、この頃になるとシバリングや立毛(piloerection)ができるようになります。
急激な復温はNG!  生後間もない子猫を拾ったとき、体温が低くてミルクを受け付けないことがあります。一刻も早く体温を元に戻したいところですが、急激に復温してしまうと逆に多臓器不全を招き、最悪のケースでは死んでしまいますので要注意です。ドライヤーをかけたりお風呂に入れるのではなく、濡れた体をしっかりと拭いて毛布などで包んであげましょう。1時間に1℃のペースで体温を回復するようにします。詳しくは以下のページもご参照ください。 子猫の育て方・基本編 子猫の育て方・実践編

暑い環境中の子猫

 子猫はたとえ生まれたばかりでも、鼻先の温度センサーで温度勾配を感知することができ、暖かい所に向かい冷たい場所を避けるという行動を見せます。センサーは結構高性能で、わずか0.2度の温度上昇、および0.5度の温度低下に反応するといいます。これは万が一母猫からはぐれてしまったときでも、母猫が体から発散される放射熱を感知して元の場所に戻りやすくするための生得的なメカニズムです。鼻先を左右に振って温度を確かめる動作を「ルーティング反射」、温かい場所を見つけて体を押し付ける動作を「もぐりこみ反射」などといいます。 生まれたばかりの子猫でも環境中の温度勾配の感知して暖かい場所を探し当てることができる  子猫は皮下脂肪も被毛も薄いため、成猫に比べると体温を失いやすい体の構造になっています。しかしその放熱能力にも限界があり、砂漠のど真ん中の60℃という極端な環境温度にさらされると、生後10日の時点では「0.05℃/分」のペースで体温が上昇していきます(Olmstead, 1979)。40分もすれば体温が2℃上昇してしまいますので、熱中症にかかってそのうち死んでしまうでしょう。生後45日を過ぎるとパンティングを覚え、気化熱によって体温を下げることができるようになりますので、体温の上昇ペースは「0.02℃/分」まで抑えることができます。とは言え、熱中症にかからずに耐え切れるのはせいぜい1.5~2時間でしょう。屋外で生まれた猫の場合、カラスに襲われる前に熱中症によって命を落としてしまうパターンが結構あります。

極寒中のサバイバル能力

 子猫の体内には成猫では見られない方法によって寒い環境から身を守るメカニズムがあるようです。
 体温が30℃まで低下した子猫の体内では、酸素消費量が急激に減ります(Moore, 1959)。通常であれば脳が酸欠に陥って死んでしまいますが、子猫の体の中には「無酸素的なエネルギー産生への切り替え」「血管トーヌスの変化」「心拍出量の制限」「エネルギーを消費しやすい体温維持機能のオフ」といった独特のメカニズムがあり、成猫に比べると低酸素環境に対する抵抗性がかなり高いと考えられています。
奇跡の生還猫・ラザラス
 2015年の感謝祭の日、降り積もった雪の中から凍り付いた子猫が救出されました。「ラザラス」と名付けられたこの子猫は奇跡的に息をふき返し、その後救助にあたった家族の一員となっています。 元動画は⇒こちら
 上でご紹介したのは雪の中に埋もれて仮死状態だった子猫の「ラザラス」の動画です。1時間に及ぶ看護の末、奇跡的に息を吹き返すことに成功しました。こうした奇跡的な蘇生術が実現した背景にあるのは、子猫が持つ低温・低酸素環境における脳の保護メカニズムなのかもしれません。子猫を拾った方は、以下のページを参考にしつつ育ててみてはいかがでしょうか。 子猫の育て方・基本編 子猫の育て方・実践編