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猫のしゃっくりはなぜ出るの?~発生メカニズムや原因から効果的に止める方法まで

 猫がエサを食べた直後や水を飲んだ後、まるで人間がしゃっくりをするときのように首をクイッと持ち上げることがあります。通常は単発で終わりますが、なかなか止まらないときは何らかの異常や病気の可能性を考えなければなりません。

なぜしゃっくりは出るの?

 「ハクション!」というくしゃみは鼻の中に侵入した異物を体の外に出すために存在しています。「コホンコホン」という咳はのどや気管に侵入した異物を体の外に出すために存在しています。では「ヒック!」というしゃっくりは何のために存在しているのでしょうか?実はこの問いに対する答えは出ておらず、未だに医学界の謎とされています。要するに「何のためにあるのかわからない!」ということです。
しゃっくりをする猫
 以下でご紹介するのはしゃっくりが止まらなくなった子猫の動画です。横隔膜が収縮するときの音がよく聞こえます。 元動画は⇒こちら
 以下でご紹介するのはしゃっくりをしている猫を捉えた動画です。吐く前に見せる「カッコンカッコン」という動作(えづき)とは違い、ビクンという動きは見せますが単発で終わります。また人間のように「ヒック!」という声門が閉じる音もほとんど聞こえません。 元動画は⇒こちら
 しゃっくりがなぜあるのかに関しては一般的に以下のような仮説が考えられています。なお猫が吐く前に見せる「カッコンカッコン」という奇妙な音は「えづき」と呼ばれるものでしゃっくりではありません。詳しくは「猫が吐くのは病気?正常?」で解説してありますのでそちらをご参照下さい。

ゲップが出やすくしている?

 しゃっくりは哺乳動物(ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ヒトなど)でだけ見られる現象で、ヘビ(爬虫類)、カエル(両生類)、ハトやカラス(鳥類)においては確認されていません。この事実に着想を得て考えられたのが「ゲップ誘発説」です(Howes D., 2012)。
 この説によると、人間の赤ちゃんや動物の幼獣が母乳を吸い取るときに一緒に飲み込んでしまった空気が胃袋を刺激してしゃっくりを誘発し、空気が外に押し出されることで胃袋に空きが生まれ、より多くのお乳を飲めるようになるとされています。下の図では左が「しゃっくり前」、右が「しゃっくり後」です。黄色で示した「空気」の量が、しゃっくり後に減っていることがおわかりいただけるでしょう。 胃の中のガスが刺激となってしゃっくりが誘発されるとする「ゲップ誘発説」  しゃっくりに伴って食道のうねうねとした動き(蠕動)が少なくなり、食道の下についている出口(括約筋)が緩むのは、胃袋の中に溜まった空気が外に出やすくしているのではないかと推測されています。固形物による刺激が「オエッ!」という嘔吐反射を引き起こすのに対し、気体による刺激は「ヒック!」というしゃっくり反射を引き起こすという対応関係です。

遺伝的な痕跡で意味はない?

 哺乳類が見せるしゃっくりは、カエルの幼体であるオタマジャクシがエラから水を吸引するときの動きに驚くほど似ているといいます。この事実に着想を得て考えられたのが「痕跡的反射説」です(P. Kahrilas, 1997)。
 人間の赤ちゃんが母親の子宮内にいるとき、しゃっくりをしている様子を超音波検査などでも確認することができます。しゃっくりの頻度は1分間1~6回で、持続時間は8分程度です。
胎児のしゃっくり
 以下でご紹介するのは、母親の子宮内でしゃっくりをする赤ん坊を捉えた動画です。 元動画は⇒こちら
 母体内の赤ん坊では肺が十分に成熟していないため、遺伝子にプログラムされている太古の呼吸方法が優位になり、ちょうどオタマジャクシがエラから水を吸い込むようにしゃっくりが出てしまうのではないかと推測されています。この仮説を裏付けるかのように、早産の新生子おけるしゃっくりは1日の2.5%にまで達するとのこと。「人間は神によって作られた!」と信じている人には受け入れがた説かもしれませんが…。

しゃっくりが出る原因

 イヌ、ネコ、ヒトで見られるしゃっくりは細かい物まで含めると100種類以上の原因によって引き起こされます。以下は人医学の分野で報告されているしゃっくりの引き金になりうる要因の一覧リストです。難しい漢字は飛ばして読んでも構いません。猫における一時的なしゃっくりの原因としては「食べすぎ」「早食い・ドカ食い」「のどの異物(毛玉)」など多いと考えられます。
しゃっくりの原因一覧
  • 中枢神経・末梢神経系外傷 | 感染症 | 血管の塞栓や出血 | 脳幹部の腫瘍 | 多発性硬化症 | 横隔神経・迷走神経の刺激 | 鼓膜への刺激 | シャント
  • 頭や首異物の誤飲 | 良性甲状腺腫 | 動脈瘤 | 咽頭炎 | 喉頭炎 | 腫瘍 | 嚢胞 | 粘膜への刺激
  • 外傷 | 肺炎 | 胸膜炎 | 心膜炎 | 動脈瘤 | 食道炎 | 食道狭窄 | 食道異物 | 裂孔ヘルニア | 腫瘍 | リンパ節腫脹 | 横隔膜ヘルニア
  • 潰瘍 | 嚢胞 | 胃炎 | 胃拡張 | 胆嚢障害 | 膵炎 | 胃食道逆流症 | 悪性腫瘍 | 腸閉塞
  • 代謝・感染症低カリウム血症 | 尿毒症 | 低カルシウム血症 | インフルエンザ | 帯状疱疹 | マラリア | 結核 | 糖尿病 | 過換気
  • 薬剤デキサメタゾン | バルビツレート | クロルジアゼポキシド | メチルドパ
  • 心因性ストレス | 興奮 | 悲しみ | 拒食症 | 統合失調症 | 仮病
  • 手術麻酔 | 術後 | 首の伸張
  • 特発性原因不明の場合
 上記した原因はすべて人間において報告されているものであり、猫におけるしゃっくりの原因はよくわかっていません。上咽頭(のどの奥の方)への機械的な刺激や舌咽神径咽頭枝への電気刺激でしゃっくりに似た反応を引き起こすことができることから、猫においてはこの部分への刺激がしゃっくりの原因になっていると推測されます(Kondo, 2003)。例えば「食べすぎ」「早食い・ドカ食い」「のどの異物(毛玉)」などです。 猫のしゃっくりはのどの奥(上咽頭)への機械的な刺激で誘発される  また脳の延髄網様体を電気刺激することでもしゃっくり様の反応を誘発できることから、脳内における「しゃっくり中枢」は脳幹部にあるものと考えられています(Arita, 1994)。人間で見られるように「仮病」でしゃっくりをするという猫はさすがにいないでしょう。

しゃっくりを引き起こす病気

 猫のしゃっくりは通常単発であり、そのまま放っておいても自然に収まりますので、何もする必要はありません。猫ではめったに見られませんが、48時間たってもしゃっくりが止まらない場合は何らかの病気を疑うようにします。動物病院では「いつから始まった?」「どのくらいの期間続いている?」「使っている薬は?」「持病はある?」「前にも同じ症状を示した?」といった質問されますので、あらかじめ頭の中で整理しておきましょう。

人間におけるしゃっくり病

 人間の場合、しゃっくりは1分間で4~60回のペースで出され、通常は1時間以内に収まります。しかし48時間以上継続する場合は「持続性しゃっくり」、2ヶ月以上継続する場合は「難治性しゃっくり」という病気として扱われ、治療の対象となります。
難治性しゃっくり
 以下でご紹介するのは脳内の腫瘍によって病的なしゃっくりに悩まされてきた英国人クリストファー・サンズさんの動画です。 元動画は⇒こちら
 発症頻度に関する調査はほとんど行われていませんが、アメリカのボルチモアにあるサイナイ病院で1995年から2000年にかけて行われた調査では、5年間における来院患者数約11万人中54名(およそ2千人に1人)でしゃっくり病変が認められたと言います(Tyler Childs Cymet, 2002)。
 年齢層は生後9ヶ月齢から80歳までと幅広く、平均年齢は59歳。54名の患者のうち91%は男性で占められていました。しゃっくりが48時間以上止まらない52%の患者では、しゃっくりを引き起こす基礎疾患が認められたそうです。猫においてもしゃっくりが2日以上続くような場合は、何らかの疾患によって引き起こされていると考えたほうが無難でしょう。

しゃっくりに関する記録

 人間界におけるしゃっくりのギネス記録はアメリカ人のチャールズ・オズボーンさんが保有しているもので、1922年から1990年までの68年間しゃっくりをし続けたとされています。生涯で出したしゃっくりの回数は少なく見積もっても4億3,000万回に達するとのこと。しゃっくりをしたままどうやって眠ったのでしょうね。
 ギネス記録以外では2004年、アメリカのフロリダ州に暮らすジェニファー・ミーさんが1分間で50回もしゃっくりが出るという奇妙な症状に襲われています。ちなみにこの人はしゃっくりとは全く関係ないところで殺人罪に問われ有罪判決を受けています!またイギリス人のクリストファー・サンズさんは2007年2月から2009年5月までの27ヶ月間でおよそ1000万回しゃっくりを出したことで話題になりました。彼の場合は脳内に出来た腫瘍が原因だったため手術後に収まっています。

しゃっくりはどのように出る?

 しゃっくりという単純な反応は、神経と筋肉とが複雑に絡み合って生み出されます。しゃっくりが横隔膜のけいれんによって生み出されているのではないかという考えは、早くも1833年から提唱されていました(T. Shortt)。その後、1943年には「しゃっくり反射」という概念が作られ(Bailey)、いったいどのようなメカニズムでしゃっくりが作り出されるのかに関するさまざまな研究が行われてきました。
 以下は、一般的に「しゃっくり反射弓」(hiccups reflex arc)と呼ばれている構成要素です。人間の体を元にしたものですが、猫においてもおおむね一緒だと考えられます。
しゃっくり反射弓
猫の横隔膜とそれを支配する横隔神経の模式図
  • 体から中枢への刺激伝導路胃や腸に生じた刺激を脳に送るための送電線のようなものです。
    横隔神経 | 迷走神経
  • しゃっくりを生み出す神経一般的にしゃっくり中枢と呼ばれているもので、「しゃっくりを出せ!」という指令を体の各部に出す役割を担っています。
    頚髄3~5髄節 | 延髄網様体 | 自律神経節(T6-12) | 咽頭神経叢
  • しゃっくりを生み出す筋肉実際にしゃっくりという現象を生み出す筋肉のことです。
    前斜角筋(C5-7) | 横隔膜(C3-5) | 肋間筋(T1-11) | 声門 | 食道括約筋
 脳からの「しゃっくりを出せ!」という司令を受けた後、横隔膜と肋間筋が収縮することにより急激に胸郭が広がり、その0.035秒後に声門が閉じて「ヒック!」という特徴的な音が出ます。それと同時に食道の蠕動運動(うねうね)が抑え込まれ、食道の下にある巾着状の筋肉がパカッと開きます。人間においては横隔膜のどちらか一方だけが強く収縮するということが頻繁に起こり、統計的には左に多いそうです。なお猫においては人間で聞かれるような「ヒック!」という音はほとんど聞かれません。

しゃっくりの止め方

 人間におけるしゃっくり患者では、あまりにも長くしゃっくりが続くことにより、食事をまともに取れなくなって脱水や栄養失調に陥ったり、心身が疲弊したり、傷口が離開したり、不眠症に陥ってしまうことがあります。最悪のケースでは死亡することもあるそうです。ですからしゃっくりが2ヶ月以上止まらない「難治性しゃっくり」の患者に対しては、時として積極的な治療が行われます。

しゃっくりの医学的な治療法

 アメリカにおいては、FDA(アメリカ食品医薬品局)によって認可された唯一のしゃっくり用選択薬として「クロルプロマジン」があります。この薬は視床下部に作用してドーパミンと拮抗的に働くものですが、副作用として低血圧、緑内障、意識の混濁のほか、逆にしゃっくりが引き起こされるという事例も報告されており、決して万能薬というわけではありません。その他様々な薬がありますが、それらは全て「オフラベル」、すなわち本来の使用目的とは違う目的で使うという形になります。
 その他、外科治療によって内臓の一部や神経の一部を切除して強引にしゃっくりを止めるという方法があります。しかし手術後に思わぬ副作用が生じる危険性があることから、こちらも積極的に選択される治療法ではありません。
 そもそも難治性のしゃっくりは2千人に1人くらいのとても稀なケースですので、それ以外の軽度のしゃっくりは病院ではなく自宅における「民間療法」という形で対処されます。では具体的にはどのような方法があるのでしょうか?代表的なものを見ていきましょう。

しゃっくりの民間療法

 以下でご紹介するのは、世界中で報告されている様々なしゃっくりの止め方一覧です。誰しも1つや2つくらいは試したことがあるでしょう。ほとんどは体に害のないものですが、人間にはできても猫にはできないものがたくさん含まれています。猫にもかろうじてできそうなものには「※」を付けてありますので後半の注意点を読んだ上で試してみてください。
呼吸・動脈血への刺激
  • 驚かせてはっと息をのむ
  • 息を止める
  • ヴァルサルヴァ法
  • 甲状軟骨の圧迫
  • 過換気を誘発
  • 紙袋やビニール袋で呼吸をする
  • 水を飲む
  • グラスの向こう側から水を飲む
  • ピーナツバターや粉砂糖をスプーンから食べる
  • レモンをかじる
  • コショウを鼻から吸い込んでわざとくしゃみをする
  • ペパーミントで食道下部を弛緩させゲップを誘発する
舌咽神経への刺激
  • ベロを引っ張る
  • うがいをする
  • カテーテルで咽頭を直接刺激する
  • スプーンや綿棒で口蓋垂を持ち上げる
  • 氷水をちびちびと飲む
  • 耳をしっかり覆いながら水を飲む
  • 氷やパンのかけらを飲み込む
  • 水を一気飲みする
  • 鼻からカテーテルを入れて咽頭を直接刺激する
  • ハチミツビネガーを飲む
迷走神経への刺激
  • 眼球圧迫(※)
  • 鼓膜・耳道への刺激(※)
  • 頚動脈マッサージ
  • 直腸マッサージ
横隔神経の分断
  • 横隔神経の外科的な切除
  • 三角筋をつねる(※)
  • 第5頚椎(C5)あたりをマッサージ(※)
  • 頚部への鍼(電気)治療
  • 冷却スプレーや氷を首に当てる
横隔膜の刺激
  • 腹部を圧迫する(※)
  • 胸部を圧迫する
  • 催吐剤で胃の中を空にする
  • 胃洗浄を行う
  • 経鼻胃管吸引

猫のしゃっくりを止める方法

 猫のしゃっくりは多くの場合のどの奥(上咽頭)への機械的な刺激で引き起こされますので、のどに詰まっているものを吐き出したり飲み込んでしまえば自然と収まります。まずは水を飲ませてしばらく様子を見ましょう。万が一2時間以上しゃっくりが止まらない場合は、上のリストで「※」をつけたものくらいは試してみても害はないと考えられます。

眼球や耳道への刺激

眼球や耳道への刺激は迷走神経の発火に干渉してしゃっくり反射を分断する  「眼球圧迫」や「鼓膜・耳道への刺激」は迷走神経を刺激することでしゃっくりを強引に止めるという手法です。顔のマッサージをするついでに、両方の眼球を軽く親指で10秒ほど圧迫してみましょう。猫が嫌がる場合は綿棒などで耳の穴の入り口付近を掃除してあげるという方法でも構いません。これらはともに迷走神経を刺激し、しゃっくりの伝導路に干渉します。 猫マッサージの実践 猫の耳かきの仕方

肩や首への刺激

三角筋や後頚部への刺激が脊髄節レベルで横隔神経と干渉ししゃっくり反射を分断する  「三角筋をつねる」や「第5頚椎(C5)あたりをマッサージ」は横隔神経を刺激することでしゃっくりを強引に止めるという手法です。肩(三角筋)や首の後ろの皮膚や筋肉は、横隔膜を支配している脊髄(C3-5)と同じ領域で支配されていますので、ここに刺激を加えることで間接的に横隔膜に干渉することができます。 猫マッサージの実践

腹部への刺激

腹部へのマッサージで横隔膜に機械的な刺激を与えしゃっくり反射を分断  「腹部を圧迫する」というのは、直接的に横隔膜を刺激することでしゃっくりを強引に止めるという手法です。猫がおなかのマッサージを嫌がらないようでしたら、下腹部に手のひらを当て円を描くようにマッサージしてあげましょう。 猫マッサージの実践
 人間に対しては自己責任で「ワッと驚かせる」「紙袋やビニール袋で呼吸をする」「コショウでくしゃみをする」「ベロを引っ張る」といった方法を選ぶこともできます。しかし同じこと猫に対して行うと動物虐待になりますのでくれぐれも注意してくださいね。