トップ猫の心を知る猫の習性縄張り意識がある

縄張り意識がある

 猫の習性の一つである縄張り意識があるという点について解説します。
 犬と同じように猫にもある程度の縄張り意識があり、野良猫や放し飼いの猫の場合、そのテリトリーはかなり広いものになります。猫はなぜこのような特性を持っているのでしょうか?

猫の6つの領域

 猫は、それぞれ特徴の異なる6つの領域をもっています。以下はその模式図です。
猫の6つの領域・模式図
猫の持つ6つの領域模式図~大きいほうから「生活圏」・「縄張り」・「社会的距離」・「逃走距離」・「臨界距離」・「個人的距離」

猫の生活圏

 生活圏(せいかつけん)とは、猫が日常的に行き来する範囲のことで、「ホームレンジ」(home range)とも呼ばれます。
 イギリス、ケンブリッヂ大学で1988年に行われた調査では、屋外で暮らしているメス猫の平均生活圏サイズは42エーカー(1.68平方キロメートル)、オス猫は153エーカー(6.12平方キロメートル)に及ぶという結果が出ています。前者は日本のディズニーランド3.5個分、後者は13個分の広さに相当しますので、ずいぶんと広い範囲を行き来している印象を受けますね。
メスの生活圏は食料資源で決まり、オスの生活圏はメス猫の密度によって決まる。その結果、オスの生活圏はメスの3.5倍にまで膨れ上がる。  しかし、猫の生活圏の広さは食料の豊かさによって大きく変動するものです。現に、十分なエサがある場所におけるメス猫の生活圏が0.2エーカー(100メートル×80メートル程度)まで小さくなり、逆に、エサがあまりない場所においては1,000エーカー(40平方キロメートル)まで広がることが、別の観察で確認されています。
 また、自由に放浪しているオス猫の生活圏は、おおむね不明瞭です。これは、メス猫の生活圏が食料の豊富さによって決まるのに対し、オス猫の生活圏が、主としてメス猫の存在によって決まるためだと考えられています。メス猫を求めてうろうろと歩き回る結果、生活圏がメス猫の約3.5倍にまで膨らんでしまうのです。
猫の通り道  ある一つの生活圏から外部へと通じる道が「猫の通り道」です。通り道自体が猫の生活圏の一部になっていることもあります。使い方は、優劣を基礎としたものではなく、「早い者勝ち」であることがほとんどです。道の交差地点で出会った猫たちは、どちらかが先に動くのを待って、長い間じっと座っていることもあるとか。
 2013年4月、イギリス、BBC2's Horizonと王立獣医大学が共同して、自由に外に出られる放し飼い猫10匹の屋外行動が観察されました。「放し飼い猫」と「野良猫」の違いは、前者は固定的な住処をもち、飼い主が定期的にエサをくれるという点です。結果は以下。
放し飼い猫の行動範囲
10匹の放し飼い猫を対象とした、屋外行動の観察データ  このように、家からの最大移動距離は、平均136.9メートル、移動範囲面積は平均14,500平方メートルという結果が出ました。行動範囲が100メートル×145メートル、すなわちサッカーグラウンドの1.5倍程度しかないというのは、野良猫の行動範囲と比較すると非常に狭いものです。これは、家に帰ればエサが用意されており、野良猫のように遠出してまで獲物を捕らえる必要性が無いからでしょう。この観察は、先述した「猫の生活圏の広さは食料の豊かさによって大きく変動する」という説を実証する、最新データと言えます。 Secret life of the cat

猫の縄張り

 縄張りとは、自分の匂いを残すことで他の猫が侵入することを積極的に拒む領域のことで、「テリトリー」(territory)とも呼ばれます。
 猫は監視できる程度の範囲を縄張りと決めたら、そこを定期的に巡回し、マーキングして歩くようになります。マーキングには通常、「スプレー」と呼ばれる尿が用いられます。これは普通のおしっことは違い、しっぽを高く上げて後方に撒き散らすように排出するおしっこのことです。一方、糞便に関しては、縄張りの辺縁部では隠さずにそのまま残されることがあるといいます。しかしこれが、縄張りを示す目印として機能しているかどうかは、いまだに不明です。なお、室内飼いの猫も縄張りをもっているため、部屋の中でおしっこを撒き散らしてしまうことがあり、飼い主の悩みの種になることもしばしばです。
猫のスプレー
 以下でご紹介するのは、猫がオシッコを後方に撒き散らす「スプレー」をとらえた動画です。 元動画は→こちら
 オス猫はメス猫より縄張り意識が強く、広くて強固な縄張りを永続的に形成する傾向が見られます。しかし、オス猫の縄張り同士が重なることはほとんどありません。これは、複数の猫が共有することもある生活圏とは大きく違う点です。このような縄張りの住み分けが自然とできるのは、おしっこの匂いを縄張りを示すマーカーとして巧みに使っているからだと考えられます。
臭跡信号説 オス猫は新鮮な尿のにおいを率先して嗅ごうとする  猫の行動学者Leyhausenは、「臭跡は路線上の信号である」と述べています。つまり、新しい臭跡が赤信号、古い臭跡が青信号を意味し、匂いが新しければ新しいほど、「今この場所は使用中だから入ってくるなよ」という「赤信号」としての意味が強くなるというものです。オス猫には、生まれつきこうした信号を読み取る能力があるからこそ、相手の縄張りを尊重するのかもしれません。
 ちなみにオス猫は、1日以上経過した尿より、出したての新鮮な尿の方を先に嗅ぐと言います。また、新しい尿の上に自分の尿を上塗りすることはなく、2日以上経過したものに対してだけ、新たに尿を噴霧するとか。こうした習性は、さながら「オス猫界のスプレーマナー」といった所でしょうか。

猫の狭い領域

 生活圏や縄張りは、歩き回らなければカバーできないほど広い範囲を指しましたが、以下で解説するのは、それよりも狭い領域です。一つの目安を挙げるとすれば「じっとしているとき、視界に入る範囲」となります。
猫の狭い領域
  • 社会的距離 社会的距離(しゃかいてききょり)とは、部外者が許される限界の距離のことです。「愉快ではないけれども、行動を起こすまでもない」と思える距離に、他の猫がいる状態とも言えます。
  • 逃走距離 逃走距離(とうそうきょり)とは、猫が争いを避けるために逃げ出す距離のことで、「フライト・ディスタンス」(fright distance)とも呼ばれます。通常は2メートル前後ですが、警戒心の強い子猫や母猫ではやや長くなります。
  • 臨界距離 臨界距離(りんかいきょり)とは、攻撃も辞さない距離のことです。猫にとっての第一方針は、「怪我を避けるため、なるべく争わないようにすること」です。しかし、やむをえないと判断した場合は、攻撃に転じることもあります。特に子猫を抱えた母猫では長くなり、かなり離れていても、シャーシャー威嚇しながら攻撃してくる危険性があります。
  • 個人的距離 個人的距離(こじんてききょり)とは、身体的な接触を含めた親密な接近を許す距離のことです。猫をなでることができるようになったら、この「個人的距離」に入れてもらえたということを意味します。
人間のパーソナルスペース 電車内で、隣の人となるべく距離が悪用に座りたがるのは、パーソナルスペースを確保するため  人間のパーソナルスペース (personal space) とは、他人に近付かれると不快に感じる空間のことで、パーソナルエリアとも呼ばれます。
 電車の座席が空いているとき、なるべく隣の人と距離ができるように埋めていく理由は、無意識的にこのパーソナルスペースを確保しようとしているからです。
 相手との接触を許す距離は特に「密接距離」(きんみつきょり)とも呼ばれ、極めて親しい家族、友人、恋人だけを受け入れます。具体的には15~45センチメートル程度です。やたら顔を近づけて話す人を不快に感じるのは、この緊密距離にズケズケと侵入しているからでしょう。