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ラグドールに多い病気~原因・遺伝性から検査・治療法まで

 ラグドールがかかりやすい病気を原因、遺伝性、検査法、治療法などに分けて一覧リストでご紹介します。なお出典データには海外のものも含まれているため日本に暮らしている猫には必ずしも当てはまらないことがあります。

コロナウイルス

 コロナウイルスとは、ウイルスの表面にまるで太陽のコロナのような突起を持つ一本鎖RNAウイルスの総称。猫では病原性の弱い「猫腸コロナウイルス」(FeCV)と、病原性の高い変異種「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)があります。今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」(FECV)と致死性の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)を事前に見分ける有効な方法は存在していません。ひとたび後者を発症してしまうと効果的な治療法がなく、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるためのネコインターフェロンの投与、炎症を抑えるための抗炎症薬の投与などで様子を見るというのが基本方針です。猫伝染性腹膜炎の症状・原因・治療

ウイルス保有率

 2001年から2010年の期間、麻布大学の調査チームが日本国内に暮らす17,392頭の猫を対象としてネココロナウイルス(FCoV)の抗体検査を行ったところ、雑種の陽性率が31.2%だったのに対し、純血種のそれが66.7%と非常に高い値を示したといいます(→出典)。さらに品種別で見たところ、ラグドールが88.1%(59/67頭)という標準以上の値になったとも。 詳細な原因に関しては不明ですが、繁殖施設における密飼いがウイルスの伝播を促しているのではないかと推測されています。

猫伝染性腹膜炎(FIP)

 猫伝染性腹膜炎(FIP)とは、猫腸コロナウイルスが突然変異を起こして強い病原性を獲得し、腹膜炎を特徴とする激しい症状を引き起こす致死性の高い病気。今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」(FECV)と致死性の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」(FIPV)を事前に見分ける有効な方法は存在していません。ひとたび発症してしまうと効果的な治療法がなく、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるためのネコインターフェロンの投与、炎症を抑えるための抗炎症薬の投与などで様子を見るというのが基本方針です。猫伝染性腹膜炎の症状・原因・治療

有病率と発症リスク

 1986年12月から2002年12月の16年間、ノースカロライナ州立大学付属の動物病院を受診した11,535頭(純血種2,024頭)の猫を対象とし、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症リスクが検証されました(→出典)。その結果、全体の0.52%に相当する60頭の猫でFIPと診断され、雑種(0.35%)よりも純血種(1.3%)のほうが発症しやすい傾向が確認されたといいます。また品種と発症頻度を統計的に検証したところ、ラグドールの発症頻度が15.3%(2/13)で、雑種より52倍も発症しやすいことが明らかになりました。調査チームはFIPの発症メカニズムは多因子的であることを認めつつも、ある特定の品種でかかりやすい傾向がある事実は否定できないとしています。

下部尿路症候群

 下部尿路症候群(LUTD)とは、膀胱から尿道口をつなぐまでのどこかに結石などを生じてしまう病気。猫ではシュウ酸カルシウム結石やストラバイト結石が大半を占めています。診断は尿内の結晶検査やエックス線撮影で下します。治療は結石の除去と食事療法がメインです。 下部尿路症候群の症状・原因・治療

発症リスク

 ミネソタ大学の調査チームが1981年から1997年の期間、ミネソタ尿石センターを受診した尿路疾患を抱えた猫(シュウ酸カルシウム結石7,895頭+ストラバイト結石7,334頭)と北米とカナダの動物病院を受診した尿路疾患を抱えていない猫150,482頭のデータを比較したところ、ラグドールがシュウ酸カルシウム結石を発症する確率は標準の11.2倍、ストラバイト結石を発症する確率は5.3倍に達することが明らかになったといいます(→出典)。

尿酸塩結石

 1981年1月から2008年12月の期間中、同じくミネソタ尿石センターに蓄積されたデータの中から尿酸塩結石(アンモニア、ナトリウム、シスチン、キサンチンなど)を発症した猫5,072頭と発症していない比較対照群437,228頭とを選び出し、結石の発症リスクを高めている要因を検証しました(→出典)。その結果、純血種、不妊手術(12倍)、4~7歳の年齢層(51倍)という因子が浮かび上がってきたといいます。さらに品種ごとにリスクを計算した所、ラグドールで5.14倍(17/298)のリスクが確認されたとも。

難産

 難産とは出産に際して胎子をスムーズに体外に分娩することができない状態のこと。胎子が大きすぎて母猫の産道を通過できない場合は、帝王切開が行われることもあります。難産の症状・原因・治療

発症リスク

 スウェーデン農科学大学の調査チームが1999年から2006年までの期間、国内のペット保険会社に寄せられた「難産」に対する払い戻し請求を基にして、品種ごとの発生率を調査したところ、猫全体における発生率は1万頭につき22件(0.22%)、純血種では67件(0.67%)、雑種では7件(0.07%)という結果が出たと言います。さらにこの発生率を品種ごとに調べたところ、ラグドールでは標準の1.5倍も難産に陥りやすいことが明らかになりました。

子宮蓄膿症

 子宮蓄膿症とは、メス猫の子宮内に病原体が入り込み、炎症反応が起こって膿が溜まってしまう病気。診断は血液検査や尿検査、エックス線や超音波検査を通して下します。治療は抗生物質による投薬治療や外科的な子宮摘出がメインです。 子宮蓄膿症の症状・原因・治療

発症リスク

 2014年、スイス農科学大学の調査チームはペット保険会社に対する1999年~2006年の請求データを元に、猫における子宮蓄膿症の発生率を調査しました(→出典)。その結果、猫全体における発生率が1万頭中17ケースだったのに対し、ラグドールでは80ケースと4.7倍近い発症が確認されたといいます。調査チームは明確なメカニズムまではわからないものの、猫の中には当疾患を発症しやすい品種があるようだとしています。

肥大型心筋症

 肥大型心筋症とは、心臓の壁が厚くなりすぎて収縮に支障が生じ、血液をしっかり全身に送れなくなる病気。診断は胸部エックス線や心エコー検査、心電図検査などを通じて下します。治療は心臓の収縮力を高めるための投薬、およびストレス管理がメインです。 心筋症の症状・原因・治療

疾患遺伝子

 2007年、アメリカ・ワシントン州立大学などからなる共同チームは、肥大型心筋症と診断された21頭のラグドール(メス10頭)を対象とした遺伝子調査を行いました。調査ターゲットは、過去にメインクーンを対象として行われた調査で疾患遺伝子として確認されている「MYBPC3」のエクソン3と呼ばれる領域です。その結果、メインクーンで見られた変異領域(ドメインC0)に異常は見られなかったものの、そこから遠く離れた別の領域(ドメイン6)に変異が見られたといいます。そして両親から1つずつ受け継いだホモ型が9頭、両親のどちらか一方から受け継いだヘテロ型が11頭だったとも。さらにホモ型における診断年齢が平均21ヶ月齢だったのに対し、ヘテロ型におけるそれは39ヶ月齢と18ヶ月もの開きが見られたそうです。
 調査チームは、ラグドールだけに見られるドメイン6における変異によって本来アルギニンであるはずのアミノ酸がトリプトファンに置き換わり、心筋を構成しているタンパク質を変質させて心筋症を引き起こしているのではないかと推測しています。なおこの変異による心筋症はラグドールだけで確認されていることから「ラグドール心筋症」とも呼ばれます。なお心筋症の遺伝子検査に関しては日本国内においても可能です(→検査機関1 | 検査機関2)。

動脈血栓塞栓症(FATE)

 動脈血栓塞栓症(FATE)とは心臓で形成された血の塊(血栓)が動脈内で目詰まりを起こし、血液循環が遮断されて周辺組織が酸欠死してしまう状態のこと。猫においては腹部大動脈の三叉分岐部(サドル部)に詰まることが圧倒的に多く、両後肢への血流が途絶えて「急に後ろ足がフニャフニャになって歩けなくなった!」という症状として現れます。 動脈血栓塞栓症(FATE)の症状・原因・治療

発症リスク

 1992年1月から2001年10月の期間、ミネソタ大学獣医医教育病院において診察を行った猫の動脈血栓塞栓症127症例のうち、短毛種が103頭、純血種が24頭を占めており、24頭中3頭までもがラグドールだったといいます。2.4%(3/127頭)という割合は同期間に病院が診察を行った猫全体の中におけるラグドールの割合よりも高いことから、この品種では動脈血栓塞栓症の発症リスクが高いものと推測されています。標準の発症リスクを1とした場合のオッズ比に関しては「14.40」(=14倍ほど発症しやすい)と推定されました(→出典)。
 動脈血栓塞栓症の原因はほとんどが心筋症ですので、肥大型心筋症の発症リスクがそのままFATEの発症リスクに連動しているものと考えられます。

慢性腎不全

 慢性腎不全とは、体液を濾過して不純物を取り除く腎臓に異常が発生し、有害成分が少しずつ蓄積していく病気。診断は血液検査や尿検査を通して下します。治療は食事療法や投薬がメインです。慢性腎不全の症状・原因・治療

有病率

 2012年、ベルギーにあるゲント大学獣医学部のチームは、8年間で244頭の臨床上健康なラグドールに対して行われた腎臓の超音波検査データを後ろ向きに調査しました(→出典)。その結果、多発嚢胞腎が7頭、慢性腎不全の疑いありが21頭、臨床上の意味が不明な異常所見が8頭、片方の腎臓が確認不可能が2頭で確認されたといいます。慢性腎不全の疑いありと判断された猫たちの特徴は、年長、血清尿素とクレアチニン濃度が高いというものでした。125頭は遺伝子検査を受けていましたが、多発嚢胞腎の疾患遺伝子は確認されませんでした。調査チームは、慢性腎不全の所見が8%超の個体で見られたため、ラグドールにおける好発疾患である可能性を否定できないとしています。

発症要因

 2013年、ゲント大学のチームは、133頭のラグドールと62頭の比較グループとを対象とした腎臓の検査を行いました(→出典)。その結果、ラグドールにおいては血清尿素の濃度が低く、尿比重が高い傾向が認められたものの、クレアチニン、尿蛋白/尿中クレアチニン比に関しては格差が見られず、検査値が基準範囲を超えていた猫の割合に関してもラグドール群と比較群との間に差は見られなかったといいます。また超音波検査による腎臓の異常所見に関しては、ラグドールで49.6%(66/133)と高かったものの、比較群でも40%(25/62)と高い割合で確認されました。
 ラグドールで有意に多いと判断された項目は、腎皮質の部分的病変(7.5% vs 0%)、腎被膜の異常形成(19.5% vs 8%)、エコー源性の尿(51.9% vs 25.8%)でした。慢性腎不全(CKD)の所見はラグドールで5.3%(7/133)、比較群で0%と格差が見られましたが、統計的に有意ではありませんでした。多発嚢胞腎の疾患遺伝子を抱えている個体はいなかったそうです。
 こうした結果から調査チームは、ラグドールで確認された皮質の部分的な病変から、梗塞(血流不全と細胞死)が腎不全の遠因になっている可能性を否定できないとしています。