トップ猫の体猫の知能因果関係

猫は因果関係がわかる?~道具を使う習性がないので重要とはみなしていない

 AとBが互いに関連しあっており、一方が原因で他方が結果の場合は特に「因果関係」と呼ばれます。人間の幼児では2歳までに能力が芽生え、それから少しずつ理解力が増していくとされますが、猫ではどうなのでしょうか?

猫の紐引き実験

 因果関係の理解に関する調査に参加したのは生後5ヶ月齢~6歳(平均年齢20.9ヶ月齢)の猫たち15頭。紐の先におやつを結びつけ、猫が自力で引っ張ることでのみゲットできる状況を設定しました。3つのセッティングでテストを行ったときの成績は以下です。
紐引き実験・成績
猫における因果関係理解力を検証するための紐引き実験セット
  • 紐が一本直結→成功率93.3%
  • 2本の紐が平行→成功率49.3%
  • 2本の紐が交差→成功率44.7%
 紐が一本だけある状況においてはすべての猫が成功し、全体の成績が93.3%と非常に高いものでした。一方、平行テストにおいては成功率が偶然レベル(=50%)を超えることができず、なおかつトライアルを重ねるにつれ成績が上がるどころか逆に下がるという奇妙な現象が確認されたといいます。交差テストの成功率も偶然レベルで、平行テストと交差テストの間に統計的に有意な成績格差は見られませんでした。また猫の年齢、性別、テストの実施順、おやつの置く位置と成功率とは無関係だったそうです。
Domestic cats (Felis catus) do not show causal understanding in a string-pulling task
Emma Whitt, Marie Douglas, Britta Osthaus , Ian Hocking, Animal Cognition volume 12, pages739-743(2009) DOI:10.1007/s10071-009-0228-x

猫に因果関係は重要でない?

 人間の幼児におけるPiagetの発達段階に当てはめると、感覚運動期(生後~24ヶ月齢)のステージ3ではものごとの連結を理解するようになるとされています出典資料:Malik)。当テストで言い換えると「紐を引くとおもちゃが近くに来る」ことを覚えるということです。またステージ4では因果関係を理解するようになるとされています。同様に当テストで言い換えると「おもちゃに結びついている紐と結びついていない紐がある場合、前者を的確に見分けて選ぶことができる」となるでしょう。テスト結果から類推する限り、猫の理解力はステージ3で止まっているようです。 紐が2本になったり交差してしまうと、猫は紐と先端の物体の連結を理解できなくなる  人間の幼児においては、感覚運動期に「対象物の永続性」を理解できるようになるとされます。これは目の前にあったものが何かに遮蔽されて見えなくなっても、変わらず同じ場所にあると頭の中で把握している状態のことです。猫を対象として行われた「対象物の永続性」テストでは、12~18ヶ月齢の幼児と同等のステージ5の能力を有しているという報告があったり出典資料:Dore, 1990)、実験環境を猫向きにアレンジすればステージ6(18~24ヶ月齢の幼児と同等)の能力すら発揮できるという報告があったりします出典資料:Dumas, 1992)
 「因果関係の理解」と「対象物の永続性」との間で見られる能力格差には、猫の狩猟スタイルが影響しているのではないかと考えられます。言い換えると、待ち伏せ型の狩猟を行う猫にとって、獲物が隠れている場所をじっと見つめて飛び出す瞬間を狙うことは重要だが(=対象物の永続性)、弓を引いて鳥を撃ち落とすわけではないので事物の関連性を理解する必要性は低い(=因果関係)となるでしょう。