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猫の作業記憶(短期記憶)はどのくらい?~目で見たものは30秒くらいで急速に忘れ去られる

 何らかの作業をする際、必要な情報を一時的に頭の中にとどめておく能力は「作業記憶」と呼ばれます。電話番号を復唱するときやメモを持たずに買い物をするときなど、人間においては日常生活で頻繁に使いますが、猫にも同じ能力はあるのでしょうか?もしあるのだとすると、一体どのくらいの間記憶を保持できるのでしょうか?

猫の作業記憶実験方法

 調査を行ったのはカナダにあるモンクトン大学のチーム。1歳を超えた24頭の成猫たち(オス猫13+メス猫11)に事前トレーニングを行い、キューブ状の対象物を目の前で4つのボックスうちどれか1つにだけ入れ、少し離れた場所から自発的に近づいてそれを正しく選べたらご褒美を与えるというセッションを繰り返しました。
 その結果、セッションが繰り返されるごとに成績が向上し、8回目には偶然(25%)を遥かに超える64.89%という正解率を収めたといいます。この結果から、少なくとも猫たちは、たとえ目の前に実物がなくても頭の中でその存在を思い描いて認識する「対象物の永続性」を理解していることが明らかになりました。「対象物の永続性」に関しては以下のページでも詳しく解説してあります。 猫も隠れんぼができる?  次に調査チームは、猫たちが頭の中に思い描いた対象物の存在が、いったいどのくらいの間、作業記憶として保持されるのかを検証するため、隠してから猫に選ばせるまでの間にさまざまなタイムラグを設けました。
作業記憶
作業記憶(working memory)とは何らかの作業を遂行する際、必要な情報を頭の中に一時的に保持しておく短期記憶能力のこと。例えばミステリ小説を読む際、登場人物の名前を一時的に記憶しながら読み進めるなど。もしこの能力がないと、名前が出てくるたびにメモを読み返し、人物たちの相関関係をその都度確認する必要が生じる。

猫の作業記憶実験結果

 タイムラグ(待機時間)に0、10、30、60秒というバリエーションを設けてトレーニングと同様のテストを行ったところ、正解率に関しては「0秒>10秒>30≒60秒」の順で高かったといいます。具体的には「0秒→72.92%」「10秒→44.38%」「30秒→35.42%」「60秒→33.96%」というもので、徐々に成績は落ちたものの、どの待機時間でも偶然レベル(25%)よりは統計的に高かったとのこと。 猫の作業記憶を検証するための自発的選択試験セッティング  実験に際しては猫たちをランダムで4つのグループに分け、1つには「地形的な目印」、1つには「地形的なパターン」、1つには「地形的な目印+地形的なパターン」、1つには「ヒントなし」という違いを設けて成績を比較しましたが、不思議なことにグループ間で正解率の格差は確認できなかったそうです。ここで言う「地形的な目印」は円、S字、X字、ダイヤモンド形を正解ボックスの表側に黒いペンキでわかりやすく描いたもの、「地形的なパターン」は半円形、水平線、垂直線、円を正解ボックスの下の床に黒いペンキでわかりやすく描いたものを意味します。
 こうした結果から調査チームは、視覚を介した猫の作業記憶は30秒程度で急速に悪化するとの結論に至りました。ただし60秒経過しても偶然(=25%)を超えるレベルで正解を選べることから、作業記憶には個体差があり、場合によっては数分に渡って保持できる可能性もあると指摘しています。
Duration of cats’ (Felis catus) working memory for disappearing objects
Sylvain Fiset, Francois Y. Dore, Animal Cognition (2006) 9: 62?70, DOI 10.1007/s10071-005-0005-4