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スコティッシュフォールドの骨瘤に対する治療法はない

 スコティッシュフォールドに多い骨瘤は一度発症すると治療法がありません。副作用のある鎮痛薬を一生飲み続けるか、全身麻酔を伴う放射線治療を6回に分けて受ける必要があります。それすらできない場合、痛みを抱えながら生きていかなければなりません。

骨瘤に対する治療法一覧

 スコティッシュフォールドは品種特有の遺伝病を抱えています。スコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(Scottish fold osteochondrodysplasia, SFOCD)と呼ばれるこの病気は一度発症すると治療法がありません。現在医学文献で報告されているのは鎮痛薬の投与、骨切除術、放射線治療の3つだけです。これらはすべて根治療法ではなく、症状を一時的に抑えるだけの対症療法です。 スコティッシュフォールドの後肢足底部に見られる骨瘤

鎮痛薬の投与

 スコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(SFOCD)に対して用いられる鎮痛薬としてはメロキシカムがあります(Chang, 2007 | Aydin, 2015)。猫に対する副作用は比較的少ないとされていますが、一生涯にわたるような長期的な使用は推奨されていません。また経口投与薬ですので、口から薬を受け付けない猫にはハードルが高いでしょう。さらに骨瘤の進行を食い止める作用はなく、痛みをごまかしているに過ぎません。加齢とともに骨瘤や関節の痛みが重症化すると、薬の効きも悪くなってしまいます。
 その他の補助的な薬剤としてはグリコサミノグリカンやコンドロイチン硫酸など、軟骨の再生を助けるとされる成分が投与されます。しかしこれらの成分が本当に関節に有効に働いていることを示すデータはなく、「おまじない」程度の意味しかありません。

骨切除術

 スコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(SFOCD)に対する外科療法としては骨瘤の切除術があります。これは足底部に形成された骨瘤を切り取ると同時に関節を固定してしまうという方法です。 スコティッシュフォールドの後肢足底の骨瘤に対して行われた骨切除術の前後写真  1995年の報告(Mathews GK, 1995)では、一時的な回復は見られたものの48週後に再び骨瘤の形成が見られたと言います。また2015年にトルコ(Aydin, 2015)でも同様の手術が行われましたが、こちらではわずか数ヶ月後に骨瘤の再発を見ています。
 猫の体に対する負担が大きい割に成果がイマイチなため、積極的に行われる治療法ではありません。

放射線治療

 悪性腫瘍の治療に用いられる放射線を骨瘤に対して用いると、痛みが緩和されることが報告されています。一般的なプロトコルは1回の放射線量を1.5Gy(グレイ=吸収線量の単位)と設定し、月曜→水曜→金曜のスケジュールで2週にわたり合計6回治療を行うというものです(合計9Gy)。 スコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(SFOCD)に対する放射線治療は鎮痛効果がある  2004年にスイスの医療チームが報告した症例(Hubler, 2004)によると、少なくとも治療から2年間は症状が軽減したといいます。しかし28ヶ月後に再びレントゲン撮影を行ったところ、症状が重かった右後ろ足の関節スペースは狭小化しており、近位足根関節はほぼ癒合していたとのこと。また遠位足根関節と足根中足関節の強直化が進んでおり、中足骨の近位足底端に新たな骨の形成が見られました。要するに痛みは緩和できても骨瘤形成の進行を食い止めることはできないということです。
 同様の治療は日本獣医生命科学大学でも行われました(Fujiwara, 2015)。スコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(SFOCD)を発症した3頭に対し、スイスの医療チームと同じプロトコルを用いて放射線治療を行ったところ、全例において痛みの緩和が確認されたと言います。治療後数ヶ月内で起こる急性放射線症は観察されず、59~72ヶ月間のモニタリング期間中、遅延性の放射線症も確認されませんでした。 獣医師法の改正により日本国内でも放射線治療を犬猫に適用できるようになった  上記したように、骨瘤に対する放射線治療には痛みを緩和する効果があるようです。しかしその鎮痛メカニズムに関してはよくわかっておらず、放射線症の発症リスクに関しても不明のままです。スイスの医療チームが人医学のデータから便宜的に推定した「片足につき9Gy」という放射線量もベストなのかどうかわかっていません。さらに放射線治療は1回行うごとに全身麻酔をかける必要があります。肝臓や腎臓に持病を抱えた猫や老齢の猫では難しくなるでしょう。また最低でも6回にわたって治療を繰り返す必要がありますので、たとえ内臓に持病を抱えていない比較的健康な猫であっても麻酔よるリスクが増加します。さらに、放射線を行なえる病院は以下に限られており、数十万円は下らない治療費を支払える飼い主も限られてきます。つまり放射線による緩和ケアを受けられる猫の数はかなり限定されるということです。
獣医放射線治療対応病院
  • 北里大学(青森県十和田市)
  • 日本獣医生命科学大学(東京都武蔵野市)
  • 麻布大学(神奈川県相模原市)
  • 日本大学(神奈川県藤沢市)
  • 日本動物高度医療センター(神奈川県川崎市)
  • 岐阜大学(岐阜市)
  • 大阪府立大学(大阪府泉佐野市)
  • 九州動物先端医療研究所(鹿児島市)

骨瘤は世界的な問題

 日本国内においてスコティッシュフォールドが占める割合は飼育猫全体の3%(ペットフード協会)~14%(アイペット)と推定されています。2017年度の「952万頭」という飼育頭数を例にとると28~133万頭という膨大な数です。このうちの半分をスコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(SFOCD)のリスクが高い「耳折れ」と仮定すると、推計で14~67万頭もの猫たちが遅かれ早かれ骨瘤による痛みを抱えるものと推定されます。 国は違えどスコティッシュフォールドの耳が折れている限り疾患のリスクは伴う  スコティッシュフォールドの症例報告がある国はスイス、トルコ、ブルガリア、韓国、日本など世界中に散らばっています。報告を行ったすべての医療チームが口を揃えて発しているのは「病気を予防するためには耳折れ個体の繁殖自体を放棄しなければならない」という警告です。スコティッシュフォールド骨軟骨異形成症(SFOCD)はもはや日本のみならず世界的な問題なのです。

骨瘤を予防するために

 骨瘤を予防するためには、スコティッシュフォールドが背負わされている疾患遺伝子に関する啓蒙を行っていかなければなりません。そのためには、保険料の支払いをなるべく少なく抑えたいペット保険会社などが中心となってキャンペーンを展開していく必要があるでしょう。現状はペットの飼育頭数と保険への加入者を増やすことしか頭にないようですが…。
 なお動物愛護法がペットの販売を行うもの(ペットショップやブリーダー)に対して定めている対面説明が必要な18項目の中に「当該動物がかかるおそれの高い疾病の種類及びその予防方法」というものがあります。スコティッシュフォールド買った人は、購入時に上記したような説明をちゃんと受けたのでしょうか?予防方法が「そもそも耳折れを繁殖しないこと」であることを聞いたのでしょうか??
【 遺伝病撲滅にご協力ください 】
 スコティッシュフォールドは人間の金儲けのために骨軟骨異形成という疾患を背負わされた品種です。この事実は多くの飼い主が知りません。なぜならブリーダーやペットショップ自体がこの事実を知らなかったり、知っていても飼い主(購入者)に積極的に教えようとしないからです。 重度の骨関節炎を抱えたスコティッシュフォールドは歩くこともままならずスコ座りをするようになる  当サイト内では、スコティッシュフォールドに関して報告されている様々な健康上の問題を日本語でご紹介していきます。目的は、この品種が置かれている苦境を一般の飼い主に広く知ってもらうことです。そして金儲けのことしか頭にない質の悪いブリーダーやペットショップが「そんなこと知らなかった」という言い訳ができないようにすることです。
 運良くこのページにたどり着いた方は、なるべく多くの方にこうした事実を教えてあげてください。
  • 品種の歴史スコティッシュフォールドは前方に折れ曲がった小さな耳を特徴とする猫の一種。1960年の初頭、スコットランドの農場で偶然発見された「スージー」という名のメス猫が持っていた突然変異遺伝子を固定し、強引に作られた品種です。 スコティッシュフォールドの歴史
  • 耳折れ遺伝子2016年、アメリカ・ミズーリ大学の遺伝学チームが行った調査により、スコティッシュフォールドの耳折れと関節の障害を同時に生み出していると考えられる原因遺伝子が特定されました。 耳折れと病気に関わる遺伝子が特定される
  • 遺伝好発疾患スコティッシュフォールドはたった1頭に生じた突然変異を固定して作り出された品種です。遺伝子プールを広げるためさまざまな種類の血統が用いられてきましたが、それでも品種特有の疾患があります。 スコティッシュフォールドに多い病気
  • 折れ耳と関節疾患折れ耳同士のスコティッシュフォールドを交配させることは禁忌とされています。しかし「折れ耳×立ち耳」のような交配で健康優良児が生まれるかというと、そういうわけではありません。このことは40年以上前から警告されています。 折れ耳と立ち耳をかけ合わせると高い確率で関節に異常が生じる
  • 骨瘤の治療スコティッシュフォールドに多い骨瘤は一度発症すると治療法がありません。副作用のある鎮痛薬を一生飲み続けるか、全身麻酔を伴う放射線治療を6回に分けて受ける必要があります。それすらできない場合、痛みを抱えながら「スコ座り」をして生きていかなければなりません。このページを冒頭からお読みください。
  • 繁殖への非難猫の福祉向上に勤める国際的なチャリティ団体「International Cat Care」(ICC)は、耳が折れたスコティッシュフォールドを繁殖することの非倫理性を改めて強調しました。 ICCがスコティッシュフォールドの乱繁殖を非難
  • 猫好きの進むべき道これから猫好きたちが目指すべきゴールは、拝金主義のブリーダーやペットショップを駆逐し、スコティッシュフォールドを遺伝病から開放してあげることです。 耳折れ繁殖の撲滅に向けて