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マグロ~安全性と危険性から適正量まで

 キャットフードのラベルに記された「マグロ」。この原料の成分から安全性と危険性までを詳しく解説します。そもそも猫に与えて大丈夫なのでしょうか?また何のために含まれ、猫の健康にどのような作用があるのでしょうか?

マグロの成分

 マグロ(tuna)はサバ科マグロ属の総称。種類にはタイセイヨウクロマグロ、クロマグロ、メバチ、ミナミマグロ、キハダ、コシナガ、ビンナガ、タイセイヨウマグロなどがあります。
 一般的なラベル表記例は以下です。「ミール」や「パウダー」は素材となる魚をまるごと砕いて粉状にしたもののこと、「エキス」とは素材となる魚を茹でたときに出た煮出し汁のことです。
まぐろ系統
  • まぐろ
  • まぐろエキス
  • まぐろペプチド
  • まぐろミール
  • まぐろ節
  • ツナミール
キャットフードの成分として用いられる「キハダマグロ」  ペットフードに用いられているマグロは、スーパーの鮮魚売り場やお寿司屋さんで出されるようなおいしい部分ではなく、主として人間用のマグロ製品を加工した際に出る不要部分です。
 例えばツナ缶の原料となるマグロはビンナガやキハダマグロです。製造工程ではまず「ハラモ」と呼ばれるおなかの部分を切り取ります。ここは特に脂が乗っており、お寿司では「トロ」と呼ばれます。
 ハラモを取り除いたマグロはゆっくり時間をかけて加熱する蒸煮(じょうしゃ)工程に回されます。変色して柔らかくなったマグロは「身割り」という工程に回され、皮や血合肉(ちあいにく)など食用にならない部分を削り取ってきれいにします。ペットフードの多くで用いられるのは、骨の周りについているこの血合肉です。 缶詰ができるまで(サイエンスチャンネル) 蒸して柔らかくなったマグロの身から不要部分を取り除く「身割り」 ペットフードの原料として用いられるのは骨の周りについた「血合肉」  ウェットフードに含まれるマグロをよくみると、お刺身の赤身よりもずいぶん深紅色に近いことに気づきます。これは血液成分が多い血合肉が用いられているからです。

マグロは安全?危険?

 マグロを猫に与えても大丈夫なのでしょうか?もし大丈夫だとするとどのくらいの量が適切なのでしょうか?以下でご紹介するのはマグロに関して報告されている安全性もしくは危険性に関する情報です。

水銀

 マグロに含まれる水銀が猫の健康を害している可能性が指摘されています。
 京都大学と複数の動物病院からなる共同研究チームは、何らかの病気を抱えた疾病猫67頭と、持病をもたない健常猫33頭とを対象とし、被毛中に含まれる水銀濃度と疾病との関連性を検証しました。その結果、口内炎を主症状として病院を訪れた猫4頭のうち、ちょうど50%の2頭において水銀の過剰摂取が確認されたといいます。
 水銀の過剰摂取によって猫が病気になったという明確な因果関係は確認されませんでしたが、調査チームは魚に含まれる水銀に注意するよう呼びかけています。詳しくは以下のページをご覧ください。 マグロに潜む水銀が猫の健康を害しているかもしれない

有機ハロゲン化合物

 キャットフードに含まれている魚介類が有機ハロゲン化合物の供給源になり、甲状腺機能亢進症を引き起こしている可能性が示唆されています。
 愛媛大学・沿岸環境科学研究センターは愛媛県内にある動物病院を受診した犬や猫の血液、および県内のペットショップで購入した市販のペットフード(ドライフード+缶詰とパウチのウェットフード)を対象とし、中に含まれる有機ハロゲン化合物の濃度を測定しました。その結果、猫では海産物(魚)由来のキャットフードを食べることによって体内に「OH-PBDE」が蓄積し、環境ホルモンとして体に悪影響を及ぼしている可能性が見えてきたといいます。 海産物(魚)由来のキャットフードが環境ホルモンになる危険性あり

活動性の低下?

 離乳したばかりの子猫12頭(オス6頭+メス6頭)をランダムで2つのグループに分け、一方には牛肉ベースのフードを、もう一方にはマグロベースのフードを188日間にわたって給餌するという実験が行われました出典資料:Houpt, 1987
 その結果、マグロベースのキャットフードを食べているグループでは活動性の低下、発声量の低下、食事に費やす時間の延長などが確認されたと言います。人間のハンドリングに対するリアクション、及び学習能力に違いは見られなかったものの、15分間のオープンフィールドテストにおいてはおもちゃにコンタクトする回数が少ないという特徴が見られました。またマグロベースのグループでは組織内から高い濃度の水銀とセレンが検出されたとも。
 水銀やセレンといった微量元素と行動の変化との因果関係は証明されませんでしたが、 調査チームはマグロベースのウェットフードが猫の活動性を低下させる可能性があるのではないかと指摘しています。

イエローファット

 半世紀以上前、アメリカ・マサチューセッツ州で不飽和脂肪酸の過剰摂取とビタミンE不足が原因と考えられる脂肪組織炎(イエローファット)の症例が報告されました出典資料:Munson, 1958
 この報告では、マグロの赤身を主体としたウエットフードを食べていた4頭の猫(うち2頭はもっぱらマグロ)で活動性の低下、発熱、皮下脂肪の硬化もしくは柔軟化が見られたと言います。また白血球レベルが高く好中球と好酸球の増加が顕著だったとも。マグロの給餌を止めたところ回復しました。
 さらに同じチームは別の8頭(6ヶ月齢~8歳)においても同様の症状が現れたことを報告しています出典資料:Munson, 1960。これらの猫でも食事の大部分はマグロの赤身でした。給餌期間は短いもので4~6週間程度だったと言います。すべての猫はビタミンEの添加と抗生物質の投与および糖質コルチコイドの投与で回復しました。 猫の黄色脂肪症(イエローファット)
「猫は魚がすき」と勘違いし、魚ばかり与えているとイエローファットを発症するかもしれません。与えるときはほどほどに…。