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猫の不妊手術

 オス猫の去勢(きょせい)手術、メス猫の避妊(ひにん)手術を合わせて不妊手術といいます。興味本位の繁殖でもらい手のいない子猫を増やしてしまう一部の飼い主が後を絶ちません。 不幸な子猫を減らすには、まず不妊手術を施すことが第一の選択肢となります。

猫の殺処分について

 平成27年度(2015年4月~2016年3月)、32,702匹の成猫と、47,043匹の子猫が殺処分されました。こうした殺処分の背景には面白半分で猫を繁殖させ、生まれてから子猫の貰い手がいないことに気づき、「まぁいいや」という感覚でタバコの吸殻のように捨ててしまう一部の飼い主の存在があります。猫は多産で多いときは一度に5匹以上生むこともあります。生まれてくる子猫全てに飼い主を見つけることができないのであれば、予め不妊手術を受けさせるのが不幸な犬猫の数を減らすことへとつながるのです。
殺処分数と譲渡・返還数の割合(H27年度版)
殺処分数と譲渡・返還数の割合を示すグラフ
  • 殺処分される猫の数~67,091匹(74.4%)
  • 返還や譲渡で生き残る猫の数~23,037匹(25.6%)
 また特に猫に関しては、不妊手術を受けておらず、生殖能力を有した野良猫にエサを与えるという行為が、猫の殺処分数の増加に拍車をかけているという側面があります。「かわいそう」という優しさからくる行為が、結果として生まれてきた子猫を保健所へ送り込んでいるというのが現状なのです。
 ちなみに動物愛護センターや保健所に保護された捨て犬や捨て猫は、一定期間を置いた後、5~20分かけて窒息死させます。こうした犬や猫を窒息死させる設備は通称「ドリームボックス」と呼称されており、眠るように安らかに旅立てるという意味合いのようです。しかし酸素が薄れていく状態を「安楽」と表現するのは、かなり乱暴な気もします。 猫の殺処分について
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オス猫の去勢手術

  新しい子猫を飼う時間や経済的な余裕がない場合は、猫の計画外妊娠を避けるために不妊手術をすることがあります。オス猫の場合は去勢手術(きょせいしゅじゅつ)といって精巣(せいそう)の摘出を行います。 猫の生殖能力を人間の勝手な判断で奪うことに対する道義的な問題もありますが、 無計画で生まれた子猫が捨てられたり、毎年何万頭も殺処分されている事実と差引勘定してご決断下さい。 オス猫の去勢手術では精巣の摘出が行われます

去勢手術はいつ行うのがベストか?

 一般的に、オス猫が性的に成熟するのは9~12ヶ月齢と言われています。この事実を踏まえて「国際猫医療協会」(ISFM)では、オス猫の性成熟が始まる前の生後6ヶ月齢以内に去勢手術を行うことを推奨しています(→出典)。また2016年にアメリカのフロリダ州で開催された有識者会議では、生後5ヶ月齢が正式な手術適齢期として採用されました。ですから猫が生後5ヶ月齢に達する前のタイミングで、一度獣医さんに相談するのがベストでしょう。なお様々な研究の結果、生後7週齢~生後6ヶ月齢に行われた早期去勢に伴う、発育的、身体的、行動的な問題点は見いだせなかったとしています。詳しくは「不妊手術の適齢期はいつ?」をご参照ください。

去勢手術の手順は?

 オス猫の去勢手術は一般的に以下のような流れに沿って行われます。
  • 予約去勢手術を決断したら、手術希望日の約1週間前から予約を取ります。
  • 手術前日手術前日の夕方に餌を与えて以降は絶食します。ただし水は与えても結構です。獣医師から特別な指示がある場合はそれに従います。
  • 手術直前排便・排尿を済ませて手術に望みます。手術は短時間で終わり、日帰りや1日入院程度で退院することができます。
  • 手術後手術から7~10日後に動物病院に連れて行き抜糸してもらいます。抜糸後約1週間は入浴できません。なお最近は抜糸のないパターンもあります。

去勢手術の費用や期間は?

 去勢手術の料金は、10,000~20,000円程度です。2015年のデータでは、中央値が「12,652円」となっています(→出典)。ただし地域や病院によって料金は変動しますので、詳細はかかりつけの獣医師にご相談下さい。また手術の期間は、日帰りでもできますが、1日入院させて落ち着いてから退院というケースもあります。

去勢手術のメリットとデメリット

 去勢手術がその猫にとってプラスになるのかマイナスになるのかを最終的に判断するのは飼い主です。そのためには、去勢手術がもたらす両側面についてある程度の知識を持っていなければなりません。以下は、現段階で分かっている様々な影響のリストです。最新の調査報告によって変更が加えられる可能性もありますが、参考までに記載しておきます。
去勢手術の影響・目次

去勢手術のメリット

 以下は、オス猫に去勢手術を施すことによって予防や改善が見込める項目のリストです。
  • 殺処分数の低下 平成27(2015)年度、行政によって引き取られた猫90,075匹のうち、14,061匹が飼い主自身による持ち込みで、そのうちの45.6%(6,415匹)が離乳前の子猫だったといいます。また所有者不明として行政によって引き取られた猫76,014匹のうち、76.3%(58,012匹)までもが子猫だったそうです。その結果、日本全国で1年の間に47,043匹の子猫たちが殺処分されました。こうした不幸な子猫たちの数は、あらかじめオス猫に去勢手術を施しておけば、かなりの割合を削減できるはずです。
  • 生殖器系疾患の予防 去勢手術によってほぼ確実に予防できるのは精巣腫瘍です。犬に比べて猫では稀とされていますが、オス猫の1.7%で見られるという潜在精巣がある場合は、精索捻転による腹痛や精巣腫瘍に発展する危険性が若干高まります。去勢手術によって精巣を取り除いておけば、腫瘍の土台そのものがなくなると同時に、潜在精巣の早期発見にもつながります。
  • ストレスの軽減 精巣を取り除くことで、性的な衝動に起因するストレスを軽減できると考えられます。
     オスの性欲の中枢は、脳内にある視床下部前方と下垂体という部位だと考えられています。下垂体から分泌されたホルモンがオスの精巣に働きかけてテストステロンという性ホルモンの分泌を促し、最終的に性衝動を生み出すというのが、現在想定されている生理学的なメカニズムです。極端な空腹、のどの渇き、性的な欲求不満は動物の怒りシステムを発動させ、多大なストレスを生み出すことが確認されていますので、去勢手術によって精巣を取り除いてしまえば、欲求不満の源となる性欲自体がなくなり、結果的にストレスの軽減につながると考えられます(→出典)。
  • 問題行動の減少 オス猫に対する去勢手術は、家庭内での問題行動を大幅に減らしてくれます。
     1973年に行われた調査によると、成熟してから去勢手術を受けた42頭のオス猫を観察した所、手術してすぐに喧嘩(53%)、徘徊行動(56%)、スプレー行動(78%)の減少が見られたと言います。また上記行動が徐々に減少した割合はそれぞれ35%、38%、9%だったとも。1つの行動に急激な減少が起こった猫では、その他の行動の減少は緩やかが全く見られないかのどちらかで、去勢手術のタイミングは減少率とは無関係だったそうです(→出典)。なおこの事実は、1989年に行われた調査でも「オス猫に去勢手術を施すとうろつき行動がほぼ消滅する。この効果は去勢手術を施すタイミングが性的に成熟する前だろうと後だろうとそれほど変わらない」という形で部分的に追認されています(→出典)。
  • 飼育放棄の予防 去勢手術は堪え性のない飼い主による猫の飼育放棄を予防してくれるかもしれません。
     アメリカにおいて猫を飼育放棄する際の危険因子を調べた所、家庭内における猫の役割に対する期待が大きいこと、猫を自由に外出させていること、不妊手術を受けていないこと、猫の行動に関する本を読んだことがないこと、毎週~毎日の頻度で不適切な排泄が見られること、世話に関する不適切な期待を抱いていることなどだったといいます。また「不適切な排泄」および「人間に対する攻撃性」は不妊手術を受けていない猫で多く見られたとも(→出典)。

去勢手術のデメリット

 以下は、オス猫に去勢手術を施すことによって悪化する危険性がある項目のリストです。
  • 下部尿路症候群 去勢手術によってオス猫の性器のトゲが消えることは確認されていますが、尿道が狭くなるという事実は未だに確認されていません。しかし何らかのメカニズムを通じ、下部尿路症候群を発症しやすくなるというリスクは否定できないようです。
     1964年3月から1973年12月の期間にカウントされた猫の尿路症候群4,111件を調査した所、去勢を受けたオス猫で発症率が高かったといいます (→出典)。また2001年、パデュー大学附属動物病院のデータベースを通じ、下部尿路症候群(LUTD)を抱えた22,908症例と症候群を持たない263,168症例を比較検討した所、去勢手術を受けたオス猫では、尿路感染症と尿失禁を除く全てのLUTDの原因項目において高いリスクを示したそうです(→出典)。
  • 糖尿病 去勢手術が直接的な原因なのか間接的な原因なのかは不明ですが、手術によって糖尿病の発症率が高まるという可能性が幾つかの調査によって指摘されています。
     1980年から86年の期間にカウントされた糖尿病猫333頭を調べた所、品種によって有病率(2.45/1,000症例=0.245%)は変わらなかったものの、体重、年齢、性別、不妊手術の有無は統計的に有意だったといいます(→出典)。また2007年、イギリス国内で保険に加入している猫を対象として調査した所、糖尿病の有病率は0.4%(1/230頭)で、単独の危険因子としてはオス猫、不妊手術、不活発、体重5kg以上、糖質コルチコイドの投与歴が挙がってきたそうです (→出典)。2016年に行われた最新の調査(→詳細)では「体重が増えれば増えるほど発症リスクが高まる」という関連性が確認されていますので、「去勢手術→肥満→糖尿病発症」という流れがあるのかもしれません。
  • 肥満 過去に行われた膨大な調査によると、去勢手術を受けた猫が肥満気味になるということは間違いないようです。
     1997年に行われた調査では、オス猫に対する去勢手術は甲状腺ホルモン濃度、休息時や空腹時の代謝率、耐糖能には影響を及ぼさなかったものの、未手術のオス猫よりも体重が増加し、脂肪の増加率も高かったと報告されています(→出典)。また2004年、精巣を除去したオス(6頭)と未手術のオス(6頭)を対象とし、術後26週に渡って給餌試験を行った所、摂取量の増加や総エネルギー支出はグループ間でそれほど変わらなかったものの、不妊手術を受けた猫では体脂肪と体重の増加が確認されたそうです (→出典)。
     手術後の肥満が摂食量の増加によるものなのか、それとも代謝率の減少によるものなのかは、いまだによく分かっていません。しかし、去勢手術によってオス猫が太りやすくなるという事実は確かなようです。
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メス猫の避妊手術

 新しい子猫を飼う時間や経済的な余裕がない場合は、猫の計画外妊娠を避けるために不妊手術をすることがあります。メス猫の場合は避妊手術(ひにんしゅじゅつ)といって卵巣(らんそう)と子宮(しきゅう)の摘出を行います。猫の生殖能力を人間の勝手な判断で奪うことに対する道義的な問題もありますが、 無計画で生まれた子猫が捨てられたり、毎年何万頭も殺処分されている事実と差引勘定してご決断下さい。 メス猫の避妊手術では、卵巣と子宮の摘出が行われます

避妊手術はいつ行うのがベストか?

 メス猫の性成熟は生後3~9ヶ月齢と個体によってかなり幅があり、「国際猫医療協会」(ISFM)では生後6ヶ月齢以内に避妊手術を行うことを推奨しています(→出典)。また2016年にアメリカのフロリダ州で開催された有識者会議では、生後5ヶ月齢が正式な手術適齢期として採用されました。ですから猫が生後5ヶ月齢に達する前のタイミングで、一度獣医さんに相談するのがベストでしょう。なお様々な研究の結果、生後7週齢~生後6ヶ月齢に行われた早期避妊に伴う、発育的、身体的、行動的な問題点は見いだせなかったとしています。詳しくは「不妊手術の適齢期はいつ?」をご参照ください。
メス猫の最初の発情時期
  • 2月生まれのメス猫早ければ同年5~6月(生後3ヶ月)
  • 3月生まれのメス猫翌年の1~3月(生後9ヶ月)

避妊手術の手順は?

 メス猫の避妊手術は一般的に以下のような流れに沿って行われます。
  • 予約避妊手術を決断したら、手術希望日の約1週間前から予約を取ります。
  • 手術前日手術前日の夕方に餌を与えて以降は絶食します。ただし水は与えても結構です。獣医師から特別な指示がある場合はそれに従います。
  • 手術直前排便・排尿を済ませて手術に望みます。開腹手術のため最低でも1~2日の入院が必要です。
  • 手術後多くの場合、手術から7~10日後に動物病院に連れて行き抜糸してもらいます。抜糸後約1週間は入浴できません。
 近年は腹腔鏡を用いて傷口を最小限にとどめつつ避妊手術を行う病院が増えてきました。この手術法は、術後の痛みや周術期ストレスを減らすという大きなメリットを持っている反面、「卵巣遺残症候群」を引き起こしてしまうというデメリットも併せ持っているかもしれません。卵巣遺残症候群(らんそういざんしょうこうぐん)とは、手術によって卵巣を取り除いたにもかかわらず、卵巣ホルモンによる身体の変化が見られる状態のことです(→出典)。猫ではそれほど多くないと考えられていますが、術野が狭い状態で行う手術法を採用した後の数ヶ月~数年は、獣医師が取り残してしまった卵巣によってメス猫が発情期に入っていないかどうかを注意深く観察しておいたほうがよいでしょう。

避妊手術の費用や期間は?

 避妊手術の料金は、15,000~30,000円程度です。2015年のデータでは、卵巣切除が「19,833円」、卵巣子宮切除が「20,986円」となっています(→出典)。ただし地域や病院によって変動しますので、詳細はかかりつけの獣医師にご相談下さい。また開腹手術を行った場合は、最低でも1~2日の入院が必要です。

避妊手術のメリットとデメリット

 避妊手術がその猫にとってプラスになるのかマイナスになるのかを最終的に判断するのは飼い主です。そのためには、避妊手術がもたらす両側面についてある程度の知識を持っていなければなりません。以下は、現段階で分かっている様々な影響のリストです。最新の調査報告によって変更が加えられる可能性もありますが、参考までに記載しておきます。
避妊手術の影響・目次

避妊手術のメリット

 以下は、メス猫に避妊手術を施すことによって予防や改善が見込める項目のリストです。
  • 殺処分数の低下 平成27(2015)年度、行政によって引き取られた猫90,075匹のうち、14,061匹が飼い主自身による持ち込みで、そのうちの45.6%(6,415匹)が離乳前の子猫だったといいます。また所有者不明として行政によって引き取られた猫76,014匹のうち、76.3%(58,012匹)までもが子猫だったそうです。その結果、日本全国で1年の間に47,043匹の子猫たちが殺処分されました。こうした不幸な子猫たちの数は、あらかじめメス猫に避妊手術を施しておけば、かなりの割合を削減できるはずです。
  • 生殖器系疾患の予防 避妊手術によって卵巣や子宮を取り除いてしまえば、これらの器官に発生する疾患をほぼ確実に予防できます。卵巣では卵巣ガン、子宮では子宮内膜炎子宮蓄膿症などです。
  • 乳ガンの予防 メス猫に対する避妊手術は、乳腺の悪性腫瘍である乳ガンの発症率を大幅に下げる効果を有しています。
     1968年、カリフォルニア州アラメダ郡に暮らす犬と猫を対象とし、悪性腫瘍の発症率に関する統計調査を行った所、犬の発症率は0.38%、猫の発症率は0.16%で、メス犬にしてもメス猫にしても不妊手術を施していない場合、乳ガンを発症する確率が7倍に高まる(避妊手術で発症率が1/7になる)ことが明らかになったといいます (→出典)。また1991年の調査では、卵巣切除術は乳腺の良性腫瘍に対する予防効果は持っていないものの、悪性腫瘍に対する予防効果はあると報告されています(→出典)。さらに2005年に行われた調査では、乳ガンと診断された猫と乳腺に腫瘍を抱えていない猫を対象として比較調査を行った所、不妊手術を受けていない猫では乳ガンの発症率が2.7倍になることが明らかになったといいます。また手術を受けていない猫と比較し、1歳未満で手術を受けた猫では乳ガンの発症率が86%減少し、生後6ヶ月齢未満で手術を受けた猫では91%減少したとも(→出典)。
  • 妊娠や出産に伴う疾患の予防 妊娠や出産には難産、帝王切開、糖尿病、妊娠中毒症、子宮捻転、子宮破裂、妊娠性腎盂腎炎といったリスクが伴います。基本的に発症頻度は低いとされていますが、難産のリスクが高いとされている品種においては、避妊手術によって受ける恩恵が大きくなります。例えば以下は、スウェーデン農科学大学が保険会社のデータを元に行った統計調査の結果です。1999年から2006年までの期間、猫全体における難産の発生率は1万頭につき22件(0.22%)、純血種では67件(0.67%)、雑種では7件(0.07%)という結果が出たと言います。さらにこの発生率を品種ごとに調べたところ、大きな格差があることが判明しました。標準の難産発生率を「1」とした時の、各品種における相対的な割合は以下です。ちなみに帝王切開は56%において行われ、母体の死亡率は2%だったとのこと。 品種ごとに見た難産の発生割合
  • ストレスの軽減 卵巣を取り除くことで、性的な衝動に起因するストレスを軽減できると考えられます。
     メスの性欲の中枢は、脳内にある視床下部腹内側(VMH)と下垂体という部位だと考えられています。下垂体から分泌されたホルモンがメスの卵巣に働きかけてエストロゲンやプロゲステロンといった性ホルモンの分泌を促し、最終的に性衝動を生み出すというのが、現在想定されている生理学的なメカニズムです。極端な空腹、のどの渇き、性的な欲求不満は動物の怒りシステムを発動させ、多大なストレスを生み出すことが確認されていますので、避妊手術によって卵巣を取り除いてしまえば、欲求不満の源となる性欲自体がなくなり、結果的にストレスの軽減につながると考えられます(→出典)。
  • 飼育放棄の予防 避妊手術は堪え性のない飼い主による猫の飼育放棄を予防してくれるかもしれません。
     アメリカにおいて猫を飼育放棄する際の危険因子を調べた所、「猫を自由に外出させていること」や「不妊手術を受けていないこと」、そして「毎週~毎日の頻度で不適切な排泄が見られること」などだったといいます(→出典)。メス猫に避妊手術を施せば、発情期におけるスプレー(尿の撒き散らし)がなくなると同時に、オス猫を探して外に出るという機会も減ると考えられます。結果として飼い主による飼育放棄が減ってくれるかもしれません。

避妊手術のデメリット

 以下は、メス猫に避妊手術を施すことによって悪化する危険性がある項目のリストです。
  • 下部尿路症候群 詳細なメカニズムは分かっていませんが、避妊手術が下部尿路症候群のリスクを高めてしまうという可能性が指摘されています。
     1964年3月から1973年12月の期間にカウントされた猫の尿路症候群4,111件を調査した所、避妊手術を受けたメス猫で発症率が高かったといいます (→出典)。また2001年、パデュー大学附属動物病院のデータベースを通じ、下部尿路症候群(LUTD)を抱えた22,908症例と症候群を持たない263,168症例を比較検討した所、手術を受けていないメス猫ではLUTDのリスクが低く(※神経系失調と医原性外傷を除いて)、避妊手術を受けたメス猫では尿管膀胱結石症、尿路感染症、悪性腫瘍のリスクが高かったそうです(→出典)。
  • 糖尿病 避妊手術が直接的な原因なのか間接的な原因なのかは不明ですが、手術によって糖尿病の発症率が高まるかもしれません。
     1980年から86年の期間にカウントされた糖尿病猫333頭を調べた所、体重、年齢、性別、不妊手術の有無は発症率と統計的に関連していたといいます(→出典)。また2007年、イギリス国内で保険に加入している猫を対象として調査した所、糖尿病の有病率は0.4%(1/230頭)で、単独の危険因子としてはオス猫、不妊手術、不活発、体重5kg以上、糖質コルチコイドの投与歴が挙がってきたそうです (→出典)。2016年に行われた最新の調査(→詳細)では「体重が増えれば増えるほど発症リスクが高まる」という関連性が確認されていますので、「避妊手術→肥満→糖尿病発症」という流れがあるのかもしれません。
  • 肥満 過去に行われた膨大な調査によると、避妊手術を受けた猫が肥満気味になるということは間違いないようです。
     1997年に行われた調査では、メス猫に対して避妊手術を施すと、摂食量が増え、空腹時の代謝率が減少すると報告されています(→出典)。また2004年、卵巣を除去したメス(6頭)と卵巣を残して卵管結紮しただけのメス(6頭)を対象とし、術後26週に渡って給餌試験を行った所、摂取量の増加や総エネルギー支出はグループ間でそれほど変わらなかったものの、不妊手術を受けた猫では体脂肪と体重の増加が確認されたそうです (→出典)。代謝(支出)の減少も摂食量(収入)の増加も、肥満のリスクファクターです。避妊手術がどちらか一方、もしくは両方を引き起こしてしまうのだとすると、メス猫が肥満に陥ってしまう事態は避けられないでしょう。
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避妊・去勢手術後の猫の性格

 避妊・去勢手術を受けた猫は、体内における男性ホルモンと女性ホルモンの割合が近づくため、理論上、性格的な差は少なくなると考えられます。しかし実際には、「ややオスよりのメス」、「ややメスよりのオス」といった個性が多少存在しているようです。 避妊・去勢手術を受けた猫の性格は、ホルモンバランスの影響で中性化すると推測される  1999年、完全室内飼いで2頭の猫を飼っている60の家庭が観察されました。猫は1頭を除いて全て不妊手術を受けており、構成は「オス/オス」、「メス/メス」、「オス/メス」のいずれかで、年齢は6ヶ月~8歳です。各家庭において10時間観察を行った結果、以下のような傾向が見られたといいます(→出典)。
手術済み・完全室内飼い猫の観察結果
  • 「オス/オス」ペアにおいては、至近距離で過ごす時間が多く観察された
  • 「メス/メス」ペアにおいては、互いの体をこすり付ける「アロラビング」は全く観察されなかった
  • 性別によって攻撃行動や親和行動に差は出なかった
  • 家の広さや猫の体重など、他の要因は行動に影響を及ぼさなかった
 通常であれば単独行動を基本とし、メスを巡って他のオスと対立するはずのオス猫が「至近距離で過ごし」、通常であれば近親のメス猫同士でコロニーを作るはずのメス猫が「まったくアロラビングしない」というのは奇異な感じがします。見方によっては、「オスとメスの性格が逆転した」とも取れるでしょう。しかし上記観察はサンプル数が少なく、そもそもオス特有の性格やメス特有の性格といったもの自体があいまいですので、何とも言えません。ただ少なくとも、避妊・去勢手術をした後、猫の性格が微妙に変化し、まるで性別が逆転したかのような印象を与えることがあるという点は覚えておいた方がよいでしょう。
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不妊手術の適齢期はいつ?

 猫に対して不妊手術を施す適齢期に関し、アメリカ国内では長らく「6ヶ月齢以降」が採用されてきました。しかし驚くべきことに、このタイミングには明白な科学的根拠がなく、ただ単に「昔からそうだった」とか「獣医学校でそう教わった」といった漠然とした理由しかないことが判明してきたと言います。その結果、従来よりも早いタイミングで手術を行ってもよいのではないかという考え方を持つ獣医師が徐々に増えてきました。

不妊手術の新適齢期

 2016年1月15日、アメリカ・フロリダ州のオーランドで猫の不妊手術に関する有識者会議が開かれ、過去に行われた様々な研究や調査をまとめあげた上で、手術の適齢期に関する見直しが行われました(→出典)。その結果、6~14週齢のタイミングで不妊手術を行った猫において、合併症や長期的な健康的デメリットが生じるという科学的な証拠は無いという事実に基づき、生後5ヶ月齢を不妊手術の適齢期とするという結論に至りました。また手術の時期に多少の違いはありますが、従来の「6ヶ月齢以降」という目安の代わりに、早期手術を推奨する獣医学団体が増えつつあります。以下はその一例です。
猫の早期不妊手術・支持団体
  • International Society of Feline Medicine(ISFM)→6ヶ月齢未満(出典
  • The Association of Shelter Veterinarians(ASV)→6~18週齢(出典
  • American Veterinary Medical Association(AVMA)→時期は明記せず(出典
  • American Animal Hospital Association(AAHA)→早ければ8週齢で(出典
  • Canadian Veterinary Medical Association(CVMA)→5ヶ月齢未満(出典

早期不妊手術の科学的根拠

 猫に対して不妊手術を施す目的は、不幸な子猫の数を減らすと同時に、猫の健康を増進して長生きしてもらうことです。生後5ヶ月齢未満という早いタイミングで不妊手術を施した結果、猫の寿命が逆に縮んでしまったと言うのではお話になりません。以下では、早期不妊手術が猫の健康にもたらす影響について調査した結果をいくつかご紹介します。
猫の早期手術・エビデンス
  • 1984年の調査 生後6~10ヶ月のタイミングで手術を施した猫を観察したところ、オス猫の喧嘩やスプレーの頻度を増やす要因は、手術のタイミングではなくメス猫と同居している事だった(→出典)。
  • 1996年の調査 オス猫とメス猫合計31頭を「生後7週で手術」、「生後7ヶ月で手術」を、「手術なし」という3つのグループに分け、6つの行動に関して観察した。その結果、「生後7週で手術」グループと「生後7ヶ月で手術」グループの間に行動の違いは見られなかった。猫達が1歳になったタイミングで比較調査した所、「手術なし」グループでは「生後7ヶ月で手術」グループよりも体重が軽く、猫同士の攻撃性が高く、人間に対する愛情が少なく、性的な行動が多く観察された。生後7週齢という早期手術は短期的には7ヶ月に行う手術と同等の効果をもたらす(→出典)。
  • 1997年の調査 775頭の猫と1,213頭の犬を対象とし、不妊手術を施すタイミングを12週齢未満、12~23週齢、24週齢以降の3つに分け、麻酔、手術、術後1週間における合併症の発症頻度を観察した。その結果、24週齢以降グループにおける合併症の発症率(10.8%)は、12週齢未満グループ(6.5%)よりも顕著に多かったが、12~23週齢グループ(8.8%)との違いは小さかった。重大な合併症の発症率はどのグループでも変わらなかったが、マイナーな合併症に関しては24週齢以降グループ(7.8%)の方が12週齢未満グループ(3.6%)よりも顕著に多かった。12週齢未満の早期不妊手術が周術期における犬や猫の合併症を高めるという事実はなく、むしろ減らしてくれるかもしれない(→出典)。
  • 1997年の調査 オス猫6頭とメス猫6頭を「生後7週齢のタイミングで不妊手術」、「7ヶ月齢のタイミングで不妊手術」、「未手術」という3つのグループに分け、4ヶ月齢から橈骨遠位骨端線が閉鎖するまで(もしくは24ヶ月齢に達するまで)の期間、右手のエックス線撮影を行って成長過程をモニタリングしたところ、以下のような特徴が見られた(→出典)。
    ●オス猫では去勢手術を受けたグループで閉鎖の遅延が見られた
    ●メス猫では橈骨遠位骨端線の閉鎖遅延が避妊グループで見られた。また早期手術グループでは橈骨近位骨端線の閉鎖遅延が顕著だった
    ●成長が止まったときの年齢と橈骨の長さ、及び最終的な橈骨の長さは、手術を受けたグループで顕著に増加した
    ●手術の時期は成長が止まったときの年齢と橈骨の長さには無関係だった
  • 2000年の調査 動物保護施設に収容された263頭の猫を2つのグループに分け、一方には24週齢未満のタイミングで不妊手術を施し、他方には24週齢以降のタイミングで施した。すべての猫が里親に引き取られた後、中央値で37ヶ月間の追跡調査を行った所、早期手術グループで感染症、問題行動、身体に関する問題が増えるという傾向は現れなかった。性的に成熟する以前の24週齢未満の早期手術が、身体的・行動的な問題につながるという事実は、少なくとも術後3年間の追跡調査では確認できなかった(→出典)。
  • 2004年の調査 1歳になる前に動物保護施設から引き取られた1,660頭の猫たちを対象に、長期(中央値は3.9年で最長11年)に渡る追跡調査を行った。飼い主に対して47項目に及ぶ医学面・行動面のアンケート調査を行ったところ、5.5ヶ月齢以前に去勢手術を受けたオス猫では、膿瘍、獣医師に対する攻撃性、性的な行動、尿スプレーが減少し、隠れる頻度が増えた。また5.5ヶ月齢以前に手術を受けた猫では、オスでもメスでも喘息、口内炎、過剰な活動性が減少し、人見知りの度合いが増加した。早期の不妊手術が、死亡率や飼育放棄率、および重篤な医学的・行動的な問題を増加させるという事実は認められなかったため、慣習的に用いられている6~8ヶ月齢という適齢期に替え、「5.5ヶ月齢以前」を推奨しても良いと思われる(→出典)。
 海外において各種の獣医学団体が早期不妊手術を支持している背景には、上記したような科学的なエビデンス(証拠)があると考えられます。一方、2016年時点で日本獣医師会は猫の不妊手術の適齢期に関して明確な時期を示しておらず、どのタイミングで手術に踏み切るかは、飼い主と獣医師の知識レベルに任されているというのが現状です。すべての猫にとってベストとなる時期を探り当てるのは難しいかもしれません。しかし「メス猫として生まれたのだから出産という一大イベントを経験させてあげたい」といった理由で手術を遅らせると、世話をしきれずに里子に出される子猫が増えてしまいます。1年の間に殺処分される4万頭以上の子猫の数を減らすためには、飼い主が責任を持って猫の繁殖を制限することが必要です。
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