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猫のしつけの基本

 猫は犬に比べてしつけに対するリアクションが悪いことは確かです。だからといってむやみやたらにしかりつけたり罰したりしていては、ペットとの幸せな共同生活は営めません。 ここでは猫のしつけ効果を最大限に発揮させるためのコツを解説していきます。

期間限定のしつけ

 猫は、生まれてから2~7週齢の間に社会化期を迎えます。社会化期(しゃかいかき)とは、外界の刺激に対して順応するための学習期間のことで、ひとたび期間を逃してしまうと二度と訪れることがないというのが最大の特徴です。「期間限定のしつけ」といった場合は、この社会化期において行うしつけのことを指します。社会化期におけるハンドリングは、その後の性格形成に多大なる影響を及ぼす  具体的な内容としては、子猫を人の手でやさしく触ってあげるハンドリングが重要です。適切なハンドリングを受けた子猫は、人間の手を怖がらず人馴れのよい猫に育つと言います。つまり、猫を人懐こい性格にしたい場合は、社会化期におけるハンドリングが極めて重要だということです。具体的には、2~7週齢の間に4人以上の人間が、1日1時間程度の触れ合いを持つことが理想だと言われます。 猫の性格
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一生を通じてのしつけ

 社会化期における学習が「期間限定のしつけ」であるとすると、社会化期を終えてからの学習は「生涯学習」と言えます。つまり、人間との生活になじむため、一生を掛けて少しずつルールを学んでいく長期的な学習という意味です。猫の生涯学習は、「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」という、あらゆる動物に共通する基本的な学習パターンを通して行われます。

古典的条件付け

 「古典的条件付け」とは、自分にとって快でも不快でもない刺激と何らかの感情が結びつくことです。
 具体的には以下のような例が挙げられます。
古典的条件付けの例
  • 子猫の頃カラスにしっぽを噛まれた→黒い鳥を恐れるようになる
  • 動物病院で注射をされた→白衣を見ると逃げ出す
  • 近所のおじさんが猫缶をくれた→缶を開ける音で野良猫たちが出てくる
 これらの例の中で「カラス」、「白衣」、「猫缶を空ける音」という刺激は、当初、猫にとって快でも不快でもない中性的なものでした。しかし、「しっぽを噛まれる」、「注射される」、「おいしく食べる」という生理的な感情を経験した後では、恐怖の対象になったり、期待感を抱かせる対象になったりしています。
 このように、元は無意味だった刺激でも、生理的な反応を経験した後では、何らかの意味を持つようになる現象が、古典的条件付けです。

オペラント条件付け

 「オペラント条件付け」とは、行動の結果として快や不快を経験することで、行動の頻度が増減することです。具体的には以下のような例が挙げられます。
オペラント条件付けの例
  • 猫がおとなしくしていたらなでてあげる→積極的におとなしくなる(正の強化)
  • 猫が泣きやんだらキャリーから出してあげる→鳴かなくなる(負の強化)
  • 猫がテーブルに乗った瞬間水鉄砲を撃つ→テーブルに乗らなくなる(正の弱化)
  • 猫が甘噛みしてきた瞬間、マッサージをやめる→甘噛みをしなくなる(負の弱化)
 全ての例に共通しているのは、猫の行動に対して快・不快を与えた結果、猫の行動頻度が変化しているという点です。この「行動→快不快→行動の変化」という流れが、オペラント条件付けの基本形となります。
 なお、カッコ内は学習理論の用語で、簡単に説明すると「正=刺激を提示すること」、「負=刺激を取り去ること」、「強化=行動頻度が増すこと」、「弱化=行動頻度が減ること」です。これらを組み合わせると、上記した例のように「正の強化」、「正の弱化」、「負の強化」、「負の弱化」という4種類の学習パターンにまとめられます。
罰という表現について  多くの書籍では、行動頻度が下がることを「罰」(punishment)と表現しています。しかし日本語において、この「罰」という言葉には「行動頻度の増減」という語感がありません。そこで当サイト内では、猫に不快感を与える嫌悪刺激のことを「罰」とし、行動頻度が下がる現象を「弱化」という表現で統一しています。
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猫は小さな犬ではない

犬と猫は二大ペットといわれるが、その学習能力には大きな隔たりがある。  猫は、「古典的条件付け」、および「オペラント条件付け」という2大パターンを通して生涯学習を重ねていきます。しかしここで肝に銘じておきたいのは、「猫は小さな犬ではない」ということです。犬と猫の学習能力には違いがあるため、犬と同じ手法を用いて猫をしつけても、思ったような結果が出ないことが多々あります。猫をしつけるには、犬に掛かる以上の時間と労力が必要となることは、あらかじめ知っておきたい事実です。
 なお、犬と猫の学習能力の差は、以下のような要因によって作り出されると考えられます。

脳化指数

 猫の脳の重量はおおよそ27~32グラムで、体重に対する割合では約1%を占めています。脳の重量を体重の2/3で割り、適当な係数を掛けた値を「脳化指数」(のうかしすう)と呼びますが、賢いといわれている動物の脳化指数は高くなる傾向があります。具体例は以下。
動物の脳化指数
  • ヒト~7.4
  • イルカ~4.8
  • チンパンジー~2.2
  • カラス~1.25
  • イヌ~1.2
  • ネコ~1.0
 上記したように、猫の脳化指数は人間よりもはるかに低く、犬よりも少し下回っています。こうした生まれつき持っている脳の潜在能力が、猫の学習に制限を加えているという可能性は、大いにあるでしょう。

ハングリー精神が足りない

猫は犬に比べて食べ物に対する執着心が薄い。それが学習能力の低さにつながっている。  猫は犬と比較して食に対する執着が少ないようです。犬は「食べられるものなら食べる」という姿勢でエサにがっつきますが、猫は気に入らない食事だと一切口をつけなくなります。この頑固さは筋金(すじがね)入りで、食べたくないものを食べるくらいなら餓死を選ぶという意地っ張りまでいるくらいです。
 こうしたハングリー精神の違いは、ごほうびに対するリアクション、及び学習速度に影響を及ぼします。犬の場合はごほうびで簡単に動きを誘導できますが、猫の場合はなかなか難しいでしょう。また、犬の場合はたった1回のごほうびで強化できる行動が、猫の場合は数倍の労力を必要とすることもしばしばです。

「ほめて育てる」が効かない

 犬は社会的動物で集団で狩猟を行うのに対し、猫は社交性が低く単独で狩猟を行います。こうした社会性の違いは、「ほめられる」ことに対するリアクションに大きな違いをもたらします。
 犬にとって「ほめられる」、すなわち他の個体から容認されることは、「集団に受け入れられた」ことを意味し、自分の生存確率を高めてくれる重大な出来事の一つとしてとらえられます。しかし猫の場合、他の個体から容認されることと、自分の生存確率とを直結させるという思考パターンが、そもそも存在していないと考えられます。猫にあるのは恐らく、「自分に関心を向けて満足」という感情や、「なでられて気持ちいい」という感情だけであり、これは「容認されてうれしい」、「ほめられてうれしい」という感情とは別物です。 犬が集団で狩りを行うのに対し、猫は単独で行う。これが仲間への帰属意識に対する違いを生む。  正しい行動を行ったとき、犬の場合は「グッド!」、や「いいこ!」などのほめ言葉で簡単に強化することができます。しかし猫の場合は、「ほめる」という行為が報酬になりにくいため、その分、行動を強化することがなかなか難しいのです。
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猫に対するごほうびと罰

 一生を通じてのしつけでも解説したとおり、猫に何かをしつける際には、ごほうびと罰が必須です。「ごほうび」(強化刺激)とは猫に快感をもたらすもので、「罰」(嫌悪刺激)とは逆に不快感をもたらすものを指します。

猫に対するごほうび

 猫に対するごほうびの使い方は、「正しい行動ができたときに与える」か、「間違った行動を取ったときに取り去る」のどちらかです。前者を「正の強化」、後者を「負の弱化」と言います。猫に快感をもたらすごほうびの一例は以下です。
猫へのごほうび
  • なでる
  • グルーミング
  • エサ・おやつ
  • 関心を向ける
  • 遊んであげる

猫に対する罰

 猫に対する罰の使い方は、「間違った行動を取ったときに与える」か、「正しい行動を取ったときに取り去る」のどちらかです。前者を「正の弱化」、後者を「負の強化」と言います。猫に不快感をもたらす罰の一例以下です。
猫に対する罰
  • 叩く・鼻ピン
  • 無視する
  • 拘束・閉じ込め
 猫に対する罰は、与える際に多くの注意点があり、またデメリットもあるため基本的に扱いません。特に人間の体を用いて与える「体罰」は、猫の警戒心を高め、時に共同生活の破綻を招いてしまうため、最もやってはいけない行為と言えます。罰に伴う難点をリスト化すると、以下のようになります。 臨床行動学(インターズー, P27)
罰を与えることの難点
  • 正しいタイミングが必要  問題行動と嫌悪刺激を関連付けるのには、オペラント条件付けの基本にのっとり、行動が発生して1秒以内(できれば0.5秒)に罰を与える必要がある。しかしこのタイミングを常に守るのは困難。
  • 罰には一貫性が必要  問題行動に対して罰を与えたり与えなかったりという状況を作ると、それは結果的に動物を間欠強化していることになる。しつけを成功させるには、家族全員が一貫して同じ行動を徹底する必要がある。
  • 適度な強度が必要  動物が我慢できる程度の弱い罰からスタートすると、動物はどんどんその罰に慣れていく。その結果、業を煮やした飼い主が罰の程度を徐々に上げていくことが予想される。
  • 過度の罰は身体的障害を与える  猫の体は小さいため、人間が力いっぱい叩いたりすると容易に捻挫や骨折を起こしうる。
  • 刺激への鋭敏化を招く  飼い主の手で叩かれたことのある猫は、なでようとして手を伸ばしてきた来客を引っ掻いてしまうかもしれない。これは、「人の手」という刺激に対して、感覚が鋭敏化したために起こる現象。
  • 攻撃行動の誘発  猫を力づくで押さえつけようとすると、時に反撃を誘発する。
  • 問題行動の根本原因を放置する  夜鳴きという行為が欲求不満などによって引き起こされている場合、しつけによって仮に問題行動が見られなくなっても、根本的な原因を解決したことにはならない。
  • 人と罰を関連付ける危険性  罰が加わった瞬間、猫を取り囲んでいる環境と不快感をリンクしてしまうことがある。例えば、飼い主の膝に乗っているときに雷が鳴ったため、以後、膝に乗ることを怖がるようになるなど。
  • 望ましい行動をとらせることが難しい  罰を与えることで、ある特定の行動をやめさせることはできても、ある特定の行動を取らせることは困難。
 このように様々な注意点があるため、犬や猫に対する罰はもはや実用的とはいえません。そこで、登場するのが「サプライズ」という軽度の罰です。
サプライズとは、猫を驚かせて行動を中断するための驚愕刺激  サプライズとは、猫を「ハッ!」と驚かせ、取り組み中の行動を強制的に中断させる刺激の事です。猫は急な刺激に対して強い恐怖心を抱くため、驚かせること自体が十分な罰になってくれます。
 当サイト内で用いる「サプライズ」という表現は、罰を与える主体が不明確な「遠隔罰」や「天罰」に近い概念と言えます。ただ、猫に不快感を与えるよりも、驚かせることが主目的であるため、誤解を招きやすい「罰」という表現を避けて「サプライズ」(驚かせる)という表現を採用しています。なお、英語では「startling stimulus」(驚愕刺激)や「distracting stimulus」(陽動刺激)と言いますが、日本語でもなじみやすいように「サプライズ」という表現を採用しました。
 さて、猫を驚かせるサプライズを具体的に示すと以下のようになります。
猫へのサプライズ
  • 風船を割る
  • 猫だまし(手をパン!)
  • クラッカー・カンシャク玉
  • 水鉄砲・霧吹き
  • トレーニングディスク(小型のシンバル)
  • キーボードクリーナー(圧縮空気)
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猫をしつける際の注意

 猫の基本的な学習パターンや、猫にとってのごほうびと罰を理解していても、そうした知識を適切に使わなければ、猫の行動はなかなか変わってくれません。ここでは、猫をしつける際の様々な注意点について解説します。

ごほうびや罰のタイミング

 猫に対し、中性的な刺激と生理的反応とを結びつける「古典的条件付け」を用いる際は、生理的反応の直前に刺激を加えるようにします。例えば、「名前(中性刺激)を呼んだ直後に、おやつ(生理的反応)を与える」などで、これを「延滞条件付け」といいます。
 刺激と同時に生理的反応を引き起こす「同時条件付け」や、刺激が終了した後に生理的反応を引き起こす「痕跡条件付け」だと効果が不十分で、刺激の後に生理的反応を引き起こす「逆行条件付け」では、多くの場合全く学習が成立しないとされます。中性刺激と生理的反応(無条件刺激)との関係性をまとめたものが以下。 古典的条件付けにおける4つの対提示パターン~延滞・痕跡・同時・逆行  また、猫に対してごほうびや罰を与え、行動頻度を変える「オペラント条件付け」を用いる際は、行動を起こした直後に賞罰を与えることが重要です。行動の3秒前でも3秒後でもなく、行動を起こそうとしたその瞬間がベストなタイミングです。具体的には、「テーブルに乗った瞬間、水鉄砲で撃つ」など、行動をとった0.5秒くらい後に賞罰を与えるのが最も有効とされます(Kimble, 1956)。
 要するに、「古典的条件付け」を用いるにしても、「オペラント条件付け」を用いるにしても、ごほうびや罰を与えるタイミングが極めて重要ということです。

ごほうびは、じらせてから

 猫にごほうびを与えるときは、じらせておくのが原則です。この原則を理解するためにはまず、「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」について知っておく必要があります。
 ヤーキーズ・ドッドソンの法則とは、心理学者のロバート・ヤーキーズとJ.D.ドットソンがネズミを用いた実験で発見した法則です。内容は「覚醒レベルが高くなるに従って効率(パフォーマンス)は増すが、最適なレベルを越えて、強い情動が喚起されるような状態になると、逆にパフォーマンスは低下する」というものです。つまり期待感や緊張感が適度な場合は学習効果が上がるけれども、感情が高ぶりすぎた状態では、気もそぞろになり、学習効果が逆に薄れてしまうということです。
猫に語法日を与える前に、適度にじらせておくと、ごほうびへの執着心が高まり、結果として学習効果も高まる。  この法則を踏まえると、猫にごほうびを与えるときは、なるべくがっつきをよくするため、適度にじらせておく必要があることがおわかり頂けるでしょう。このテクニックを「刺激遮断」と言います。
 例えば、エサやおやつをごほうびとして利用する場合は、事前に6時間~12時間程度、食事を抜いておくという方法が効果的です。また、スキンシップや遊びをごほうびとして用いる場合は、事前に1~2日、猫を無視しておくことも有効でしょう。こうした下味をつけておくと、猫に対するごほうびが通常よりも強い快感をもたらし、結果として学習効果が高まってくれます。

しつけの方針を一貫する

 猫をしつける際はまず、OK行為とNG行為を細かく取り決め、家族全員がその方針を貫き通すことが重要です。この重要性を理解するにはまず、間欠強化について理解する必要があります。
 間欠強化(かんけつきょうか)とは、「たまに報酬が与えられることで、行動の頻度が高まること」を言います。この間欠強化の例としては、「パチンコに行ったら大当たりした」、「ガリガリ君を食べたら当たり棒が出た」、「ハッピーターンの中に、一枚だけ濃い味があった」などが挙げられます。ランダムで与えられる報酬を求め、もう一度同じ行動を取りたくなりますよね。間欠強化の特徴は、「行動パターンが固まるまでに時間が掛かるけれども、ひとたび習慣化してしまうと、その行動がなかなかやめられなくなる」ことです。 パチンコでたまにでる大当たりは「間欠強化」に相当する。だからパチンコ通いは習慣化しやすい。  この知識を踏まえてもう一度、方針の一貫性について考えて見ましょう。例えば、「テーブルに乗ると、お母さんには怒られた。けれども、お父さんはなでてくれた」という状況があったとします。この場合、お母さんが叱って行動をやめさせようとしても、お父さんがなでてしまうことで間欠的に報酬を与えてしまっています。その結果、たまに与えられる「なでられる」という報酬を求め、猫のテーブル乗り行動は逆に増加してしまうでしょう。また、「ニャーニャー鳴いたら、ある時は抱っこしてなでてくれた。けれども、違う時はうるさいと怒鳴られた」というのも良くない例です。「うるさい」と怒鳴ることで猫の要求鳴きをやめさせようとしても、たまに「わかったわかった・・」と根負けして猫をなでてしまうと、それは間欠強化になってしまいます。その結果、たまに与えられる「なでられる」という報酬を求め、猫の要求鳴きはますます激しくなるでしょう。
 このように、しつけの方針に一貫性がないと、知らないうちに猫を間欠強化してしまい、本来やめさせるべき行動が、逆に激化してしまうという現象も、大いに起こりうる訳です。

芸を仕込むことは諦める

 猫に芸を仕込むことは諦めたほうがよいでしょう。犬は物覚えがよく、行動のレパートリーを増やすことで人間社会に溶け込んでいく動物です。それに対して猫は物覚えが悪く、不適切な行動のレパートリーを減らすことで、人間と共生できるようになる動物と言えます。ですから、猫に何か新しい芸を教えるよりも、猫の行動をやめさせるための適切な方法をマスターしておいた方が、はるかに実用的でしょう。
 しかし以下の動画でご紹介するように、サーカスをする猫や、アジリティをする猫も、一部にはいるようです。「猫もやればできる」ことの証拠ですが、時間と労力が有り余っている方は、挑戦してみてはいかがでしょうか。
芸をする猫たち
 以下でご紹介するのは、ロシアで有名な猫サーカスの動画です。輪くぐりや玉乗りなど、犬顔負けの芸を披露してくれます。 元動画は⇒こちら
 以下でご紹介するのは、猫がアジリティの特訓をしている動画です。「アジリティ」とは、数々の障害物を乗り越えていく競技のことで、犬では有名ですが猫ではマイナーです。 元動画は⇒こちら
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