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猫のピルビン酸キナーゼ欠損症~症状・原因から予防・治療法まで

 猫のピルビン酸キナーゼ欠損症(PK def)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫のピルビン酸キナーゼ欠損症の病態と症状

 ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKdef, Pyruvate Kinase Deficiency)とは、エネルギーを作り出すのに必要なピルビン酸キナーゼ(PK)と呼ばれる酵素が血液の赤血球に存在していないため、赤血球の寿命が短くなって貧血に陥ってしまう病気。
 成熟した赤血球の中には有酸素的にエネルギーを生み出すミトコンドリアがないため、エネルギーは無酸素的な「解糖」というメカニズムを通して補給しなければなりません。しかしピルビン酸キナーゼ(PK)がないとこの解糖がうまくいかず、赤血球のエネルギーが不足して餓死してしまうのです。 ミトコンドリアを持たない赤血球は解糖系によってエネルギーを賛成しなければならない  ピルビン酸キナーゼ欠損症は、「PKLR」という遺伝子の変異を両親から1本ずつ受け取ったときに発症する常染色体劣性遺伝です。しかし1本だけ受け取った「キャリア」の猫においても、ピルビン酸キナーゼの酵素活性が50%程度しかないと推測されていますので、健康優良児というわけではなく場合によっては「欠乏症」というくくりになります(→出典)。
 症状は軽度のもの、断続的なもの、重度のもの、若い頃(6ヶ月齢)から発症するもの、成猫(5歳頃)になって初めて発症するものなど個体によってさまざまで、予測することはできません。おそらく環境やストレスなどが発症パターンに影響を及ぼしているものと推測されています。ピルビン酸キナーゼ欠損症で見られるのは、以下に示すような貧血症状です。
ピルビン酸キナーゼ欠損症の症状
  • すぐに疲れる
  • 運動したがらない
  • 口腔粘膜の蒼白化
  • 脈が早い
  • 心臓の収縮期雑音
  • 脾腫・肝腫
  • まれに黄疸
  • 網状赤血球の増加
  • 高グロブリン血症
  • 高ビリルビン血症

猫のピルビン酸キナーゼ欠損症の原因

 ピルビン酸キナーゼ欠損症の原因は遺伝です。病気を発症したアビシニアンとソマリの肝細胞から採取したDNAをもとに調査を行った所、PKLR遺伝子のエクソン5と呼ばれる領域に特異的な変異(c.693+304G>A)があることが確認されています。人間においてはPKLRの変異が190種類近く確認されていますが、今のところ猫においては上記1種類だけです。
 この病気は1992年、アメリカのアビシニアンで最初に報告されていますので、おそらくこの時期以降、変異遺伝子を偶然持って生まれたアビシニアンを元にたくさんの繁殖を行ってしまった結果、この疾患遺伝子が品種内に広まってしまったものと考えられます。 ピルビン酸キナーゼ欠損症の疾患遺伝子を広めたのはアビシニアン  保有率が高いのはアビシニアンとその長毛種であるソマリですが、アビシニアンの血統を作出や遺伝子プールの拡大に用いた他の品種にも、偶発的に遺伝子が広がってしまいました。例えば2012年、アメリカとイギリスに暮らす38品種の猫を対象として行われた大規模調査では、以下のような疾患遺伝子の保有率が報告されています。最初のリストはピルビン酸キナーゼ欠損症とは無関係の病気を検査するために遺伝子ラボに送られてきたサンプル、2番目のリストはピルビン酸キナーゼ欠損症の疑いがあるとしてラボに送られてきたサンプルが元データです。
疾患遺伝子保有率(unbiased)
猫のピルビン酸キナーゼ欠損症・疾患遺伝子保有率(疾患バイアスなし)
疾患遺伝子保有率(biased)
猫のピルビン酸キナーゼ欠損症・疾患遺伝子保有率(疾患バイアスあり)  ノルウェージャンフォレストキャットやメインクーンなど、アビシニアンの血統が入っていないはずの品種においても保有が確認されていることから、アビシニアン以外にも変異遺伝子をもった別の個体が関わっているのではないかと推測されています。

猫のピルビン酸キナーゼ欠損症の治療

 猫のピルビン酸キナーゼ欠損症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。なお当疾患の遺伝子検査に関しては日本国内においても可能です(→検査機関1 | 検査機関2)。商売で繁殖を行っているブリーダーであれ、趣味の延長で繁殖を行っている素人であれ、猫の繁殖に関わっている全ての人が責任持って疾患予防に努める必要があります。
ピルビン酸キナーゼ欠損症の主な治療法
  • 軽症例 変異遺伝子を1本しか保有していない「キャリア」猫の場合、貧血症状は全く無いかあっても軽度だと考えられます。その場合は激しい運動を避けるとか無理に運動させようとしないなどの注意を守っていれば十分に生活の質を保てるでしょう。
  • 重症例 変異遺伝子を両親から1本ずつ受け継いだ「アフェクテド」猫の場合、貧血症状は比較的重いと考えられます。基本的には軽症例の場合と同様、激しい運動を避けるという保存療法がメインです。骨髄移植という選択肢もありますが、ドナーを見つける手間、手術の危険性、費用などを総合的に考えると現実的とはいえません。また発症パターンには環境やストレスも影響していると考えられますので、猫の生活空間の中から可能な限りストレスを減らしてあげるという配慮も重要です。 猫の幸福とストレス