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猫の乳び胸~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の乳び胸(にゅうびきょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の乳び胸の病態と症状

 猫の乳び胸とは、「乳び」(にゅうび, chyle)と呼ばれる体液の一種が胸膜内に溜まってしまった状態のことです。乳びとは小腸で分解された脂肪分を多く含んだ乳白色のリンパ液のことで、小腸の微絨毛(びじゅうもう)から「乳び管」と呼ばれる細い管に吸収され、近くにあるリンパ管に合流します。 小腸の微絨毛と乳び管、および乳びの模式図  一方胸膜(きょうまく)とは、肺を外側から包んでいる薄い膜のことで、中には胸水(きょうすい)と呼ばれる微量の潤滑液やリンパ管が含まれています。
 本来、乳びを含んだ腸管からのリンパ液は、「胸管」(きょうかん)と呼ばれる太いリンパ管を通って体内を上行し、首の根元あたりで静脈に合流します。しかし何らかの理由でこの胸管から乳びが漏れ出し、流れの途中にある肺の胸膜内に溜まってしまうことがあります。この状態が「乳び胸」です。 乳び胸の模式図~肺の胸膜とリンパ管経由の乳び  猫の乳び胸の症状としては以下のようなものが挙げられます。特徴的な症状がないため呼吸器系の感染症と間違われやすく、また重症化するまで全く無症状であることも少なくありません。
猫の乳び胸の主症状
  • 呼吸困難
  • 呼吸が荒い
  • 元気がない
  • 食欲不振
  • 運動を嫌がる
  • 口の粘膜が青紫(チアノーゼ)
  • 線維素性胸膜炎
線維素性胸膜炎
 「線維素性胸膜炎」(せんいそせいきょうまくえん)とは、肺を包み込む胸膜が厚く変性して肺を押しつぶすようになった状態のことです。乳び胸や胸膜炎が長期化したときに発生します。

猫の乳び胸の原因

 猫の乳び胸の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫の乳び胸の主な原因
  • 胸管の拡張 蛇行した胸管のせいでリンパ液の流れが悪くなり、乳びが漏れ出すことがあります。
  • 胸管の破裂 外傷によって胸管が破裂し、そこから乳びが漏れ出すことがあります。しかし胸管は背骨に寄り添うように走っているため、この管だけがピンポイントで破損することはまれです。また交通事故や高所からの落下など、かなりの衝撃が必要となります。
  • 静脈圧の上昇 静脈の圧力が上がると、体内を循環している血液やリンパ液の流れが悪くなり、リンパ液が漏れ出すことがあります。静脈圧を亢進させる病気としては、心筋症フィラリア症、縦隔腫瘍、前大静脈血栓、肉芽腫、胸腺腫などがあります。
  • 不明 乳び胸の原因が特定されることはまれで、ほとんどは「特発性」(とくはつせい)、すなわち「原因がよくわからない」乳び胸として診断されます。原因不明なため基本的に治療法はありませんが、ごくまれに突然回復することもあります。なおシャムヒマラヤンでやや発症率が高いといわれますが、遺伝的な素因があるのかどうかはよくわかっていません。

猫の乳び胸の治療

 猫の乳び胸の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
猫の乳び胸の主な治療法
  • 胸腔ドレナージ 呼吸が苦しそうな場合は取り急ぎ胸腔内に針を差し込み(胸腔穿刺)、たまった乳び胸水を吸い取ります(胸腔ドレナージ)。乳び胸の猫に対する胸腔穿刺、および胸腔ドレナージ 吸い取った乳び胸水は通常、練乳を思わせるような乳白色をしています。しかし胸膜炎に伴う「膿胸水」や、結核に伴う「偽性乳び胸水」など、よく似た外観を呈する疾患も少なくありません。吸い取った胸水が、乳び胸に伴う「真性乳び胸水」であることを確かめるためには、胸水中のコレステロール値やトリグリセリド値と血清中のそれらとを比較することが必要です。
  • 胸腔チューブ 乳びが頻繁に溜まる場合は、度重なる胸腔穿刺による体への負担を減らすため、胸腔内に排水用のチューブを固定することがあります。
  • 食餌療法 胸腔からの乳び再吸収を促進するため、やや脂質の少ない食事に切り替えます。ただし極端に減らしてしまうと別の体調不良を引き起こしてしまいますので、猫に必要な栄養素を目安にしながら栄養バランスを調整します。
  • 外科手術 乳びが漏れている胸管自体をせき止める結紮(けっさつ)術が行われることがあります。胸管は通常細かく枝分かれしていますので、事前にリンパ管造影法や色素注入によって正確な形状を把握しておくことが必要です。この手術方法は、乳び胸に対する外科療法として最も一般的なものですが、犬での成功率は約50%、猫では20~40%と言われていますので、それほど万能な治療法とは言えないようです。なお胸管と肝臓の門脈を直接結び付けるという手術は、費用対効果の関係からあまり行われません。
  • 投薬治療 ルチンを経口投与することで胸腔における乳びの再吸収を促進します。ルチンとはかんきつ類に多く含まれるフラボノイド配糖体の一種です。