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猫の毛球症(ヘアボール)~症状・原因から予防・治療法まで

 猫の毛球症(もうきゅうしょう)について病態、症状、原因、治療法別に解説します。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫の毛球症とは?

 猫の毛球症(もうきゅうしょう)とは、飲み込んだ被毛をうまく体外に排出できず消化管の中に止まってしまった状態のことです。塊になった被毛は「毛玉」「ヘアボール」「トリコベアゾール」(トリコビーゾア)などと呼ばれます。「tricho」は「毛髪の」、「bezoar」は「胃石」という意味です。ボールと呼ばれているものの、野球のボールのような球形ではなく、そのほとんどはラグビーボールのように細長い楕円形になっています。 グルーミングがセルフ(自己)であれアロ(相互)であれ毛を飲み込むことに違いはない  飲み込む被毛には、自分自身の毛づくろいをした時に飲み込んだ毛のほか、他の猫をグルーミングした時に飲み込んだ毛も含まれます。ですからたとえ被毛をほとんど持たないスフィンクスであっても、他の有毛品種と同居している場合はアログルーミングを通して毛球症を発症する危険性があるというわけです。
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猫の毛球症の症状

 毛球症にはヘアボールが止まる消化管内の位置によっていくつかの種類に分かれます。息遣いが荒いとか咳をするといった呼吸器系の症状はほとんど見られません。そのかわりよく見られるのが「吐く」「えづく」「餌を食べない」「便秘」「おなかがパンパンに膨らむ」といった消化器系の症状です。代表的な種類と症状には以下のようなものがあります。
毛球症の種類と症状
  • 食道型飲み込んだ被毛が食道内に留まるパターンです。多くの場合食道裂孔ヘルニア、食道憩室、食道絞扼、食道運動不全といった基礎疾患が原因となっています。主な症状は食欲不振、元気喪失、体重減少、食事とは無関係の嘔吐(吐出)です。食道に傷がついている場合、吐き出したものの中に血が混じっていることもあります(吐血)。
  • 胃型飲み込んだ被毛が胃袋の中に止まるパターンです。毛球症の中で最も頻繁に見られる種類で、胃食道重積症や胃運動不全症などが基礎疾患になることもあります。主な症状は食欲不振、元気喪失、体重減少、頻回の嘔吐、ガスや胃液による腹部の腫瘤などです。
  • 腸管型飲み込んだ被毛が胃袋を通過して十二指腸や小腸にまで到達してそこで止まってしまうパターンです。長期化すると腸閉塞など更に重篤な疾患につながります。主な症状は食欲不振、元気喪失、体重減少、嘔吐、えづき(吐こうとするが何も出ない)、脱水、腹部の腫瘤、便秘などです。閉塞が長期化すると、血流が遮断されて腸管組織の壊死が引き起こされ、血便が見られることもあります。
 毛球症を発症しやすいウサギにおける胃内ヘアボールの原因は、ストレス、痛み、恐怖、食物繊維不足、過剰グルーミングなどによって引き起こされる胃腸内容物の渋滞などです。また「飲み込んだものを嘔吐できない」という致命的な体質が発症リスクを高めています。そのためヘアボールが巨大化したり石灰化すると胃袋の破裂を招いて死んでしまうこともしばしばです。
 幸い猫は吐き出すのが比較的得意ですので、ウサギのように胃袋が破裂するということは滅多にありませんが、消化器の運動不全の原因としてはストレス、低カリウム血症、尿毒症、胃炎、抗コリン薬の投与などによる交感神経の過活動などがあります。
NEXT:毛球症の原因は?

猫の毛球症の原因

 猫における毛球症の原因を一行で表すと「被毛の排出障害」です。口からの吐出や嘔吐、もしくは直腸からの排便がうまくいかないことによって発症します。
 猫が飲み込んだ被毛は通常、胃袋の中で他の被毛と絡み合い塊を形成します。この塊は胃袋の出口である幽門(ゆうもん)をサイズ的に通過することができませんので、そのまま胃袋の中にとどまり続けます。そして塊がある一定の大きさになると猫が自発的に吐き戻し、胃の中をすっきりさせます。このようにして吐き出されたものが、私たち飼い主がよく目にするヘアボールです。
 また少量ながら、塊を形成する前に腸管内に送り出される被毛もあります。こうした「はぐれ毛」は胃の内容物と共に十二指腸→小腸→大腸→直腸と移動し、最終的には便として排出されます。
 上記したように、猫が飲み込んだ被毛をしっかりと体外に排出することができていれば毛球症を発症することはありません。しかし何らかの理由により排出プロセスがうまくいかないと、食道、胃袋、小腸などに形成されたヘアボールが引っかかり、食べ物を受け付けなくなってしまいます。毛球症におけるよくある原因は以下です。

ストレス・舐性皮膚炎

 猫が何らかのストレスを抱えているとき、転移行動の一種として自分の被毛を病的に舐め続けることがあります。舐性皮膚炎とも呼ばれるこうした行動は、過剰なグルーミングとそれに伴う被毛の過剰な飲み込み行動につながります。過剰な飲み込みと連動してヘアボールも巨大化しますので、なかなか吐き出すことができず胃袋の中にとどまり続けます。

ノミ・アレルギー性皮膚炎

 猫がノミ皮膚炎アレルギー(アトピー)性皮膚炎を患っているような場合、皮膚のかゆみを緩和しようとして過剰なグルーミングにつながってしまうことがあります。過剰なグルーミングは飲み込む被毛の量を増やしますので毛球症を発症しやすくなります。実際、毛球症を発症したカナディアンリンクスの症例における原因はノミによるアレルギー性皮膚炎でした出典資料:Kottwitz, 2013)。また猫ジラミ(Lynxacarus radovskyi)の寄生によって毛球症を発症したペルシャの症例も報告されています。 寄生虫(猫ジラミ)による毛球症の症例

長毛種

 飲み込む本数が同じでも、短毛種と比べ長毛種では飲み込む量が2~3倍に激増してしまいます。ヘアボールを原因とする腸閉塞を発症した5頭の猫においても、リスクファクターとして「長毛種」が挙げられています出典資料:Barrs, 1999)長毛種は短毛種に比べて飲み込む毛のボリュームが大きくなる

腸の蠕動不足

 胃袋から腸管内に送り出された少量の被毛は、通常であれば腸管の蠕動(ぜんどう)運動によって直腸まで運ばれ、そのまま糞便として排出されます。しかし腸管内容物を送り出す蠕動運動が不足すると、被毛がスムーズに送り出されず一箇所に止まってしまいます。このようにして発症するのがヘアボール性の腸閉塞です。

消化器系の基礎疾患

 消化管に何らかの基礎疾患があると正常な排出プロセスが阻害され、ヘアボールが一箇所に留まりやすくなります。食道では食道裂孔ヘルニアや食道憩室、胃袋では重積症、腸管では蠕動運動不全症、炎症性腸疾患などが報告されています。
NEXT:毛球症の検査法は?

毛球症の検査・診断

 消化管の閉塞原因はヘアボールだけでなく、腫瘍(リンパ肉腫・腺腫・肥満細胞腫)、誤飲した異物、腸重積症、胃捻転、腸捻転、ヘルニアに伴う腸嵌頓、癒着、絞扼、膿瘍、肉芽腫、血腫、先天的奇形など多岐にわたります。本当の原因がどれかを確認するためには、血液学検査、血清生化学検査、尿検査、レントゲン(エックス線)撮影、超音波検査などを行わなければなりません。
 また特に老齢の猫ではガン(悪性腫瘍)が疑われますので、微細針吸引生検などによってがん細胞の有無が確認されることもあります。この検査を行わないと、単なるヘアボールを悪性腫瘍と取り違え、予後を悲観した飼い主が治療を拒んだり安楽死を選択するということもあります。
 日本国内における一般的な検査費用は以下です。平成27年度に日本獣医師会が公開した「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査及び飼育者意識調査」を元にしています。
猫の毛球症・検査費用
  • 血液検査=1,000~3,000円
  • 血清生化学検査=3,000~7,500円
  • 内視鏡検査=10,000~25,000円
  • レントゲン検査=2,000~7,500円
  • 腹部エコー検査=1,000~5,000円
  • 生検針検査=3,000~15,000円
NEXT:毛球症の治療法は?

毛球症の治療と予防策

 ヘアボールが食道にとどまっている場合は内視鏡と鉗子(医療用マジックハンド)を用いて物理的に除去します。一方、ヘアボールが胃や腸管内にある場合は、検査と治療を兼ねた開腹手術が行われます。手術費用は腸切開だけの場合が20,000~75,000円、腸切除と吻合の場合が30,000~100,000円程度です。
ヘアボール摘出手術
 以下でご紹介するのは猫の胃袋に溜まった巨大なヘアボールを摘出する時の外科手術動画です。一部血液が混じっていますので閲覧する際はご注意ください。不妊手術を施すため屋外を放浪していた長毛の三毛猫を捕獲したところ、腹部に異常な腫瘤が見られました。毛球症を疑って開腹手術を行ったところ、案の定、胃袋で超巨大なヘアボールが見つかったといいます。 元動画は→こちら
 毛球症の再発を予防するためには以下のような対策が有効だと考えられます。飼い主の心がけによって十分に予防が可能な生活習慣病ですので、時間、労力、費用を惜しまず猫の被毛のケアをしてあげましょう。

消化管の基礎疾患の治療

 消化管に何らかの基礎疾患を抱えている場合は、まずそちら治療を優先します。排出プロセスが正常化すれば被毛を飲み込んでも自力で排出することができますので、自然と毛球症も治ります。

皮膚炎の治療

 猫がノミ皮膚炎を発症していたり何らかのアレルギーを抱えている場合、皮膚のかゆみや痛みを緩和しようとして一箇所を舐め続け大量の被毛を飲み込んでしまいます。ですから皮膚炎が基礎疾患としてある場合はまずそちらを治療します。皮膚の違和感がなくなれば必然的にグルーミングの頻度や時間が減り、飲み込む被毛の総量も連動して減ってくれます。 猫の皮膚病

ストレスの緩和

 猫が何らかのストレスを抱えており、転移行動として過剰なグルーミングをしている場合は、ストレスの緩和が根本的な治療法です。以下のページを参考にしながら猫の福祉を損なっていないかどうかを徹底的にチェックしましょう。 猫のストレスチェック

被毛のトリミング

 猫が長毛種の場合、短毛種の猫と比べてどうしても飲み込む被毛の総量が多くなってしまいます。あらかじめ短くカットしておけば自力で吐き出せるようになるでしょう。
 ただし地肌が見えるくらい短く刈り込んでしまうと、体温調整がうまくいかなかったり逆にストレスの原因になったりします。カットする長さは通常の短毛種と同じくらいを目安にした方が良いでしょう。 猫の体温調整

食物繊維の摂取

 ある種の食物繊維は直腸からの被毛の排出を促してくれる可能性があります。
 例えば18頭の短毛猫を対象とした調査では、食物繊維を8.8%(うちビートパルプ0%)、17.5%(うちビートパルプ8%)、23.8%(うちビートパルプ16%)の割合で含んだフードを31日間給餌するという試験が行われました出典資料:Loureiro, 2017)。その結果、糞便に含まれる飲み込んだ被毛の量に変化は見られなかったものの、ビートパルプでは糞便量が増えて消化管通過時間が減少したといいます。
 また短毛種と長毛種の猫を対象とし、サイリウムハスクを6%、11%、15%の割合で含んだキャットフードを用いた給餌試験が行われました出典資料:Weber, 2015)。その結果、短毛種においては糞便中の被毛量に変化は見られなかったのに対し、長毛種においては含有比率11%のときが181%、15%のときが213%に増加したと言います。
 短毛種においては「ビートパルプ」、長毛種においては「サイリウム」が毛球症の予防につながってくれるかもしれません。詳しくは以下のページでも解説してあります。 毛球症対策フード完全ガイド

猫草?

 猫が食べても平気な植物として猫草があります。エンバク(えん麦)を代表としたこうした植物は、胃袋の中で被毛と絡み合い、ヘアボールの形成を助けてくれることがあります。ヘアボールが巨大化する前に嘔吐を促してくれますので、毛球症の予防になってくれるでしょう。ただし猫草の効果を科学的に実証した調査はありませんので、「おそらく」という逸話扱いになります。猫草に関する詳しい栽培の仕方や与え方については以下のページをご参照ください。 猫草の種類と栽培方法

飼い主によるブラッシング

 飼い主が日常的にブラッシングを施し、抜け毛の量を減らしてあげれば、飲み込む毛の量が減って毛球症の予防につながります。猫が飲み込みやすいのは胸元から腹部にかけての毛ですので、頭や背中だけでなく体の前面も念入りにブラッシングしてあげましょう。 詳しいやり方は以下のページをご参照ください。 猫のブラッシングの仕方
猫の毛球症対策を目的としたさまざまなフードやサプリが市販されています。効果、安全性、危険性に関しては「毛球症対策フードとサプリ完全ガイド」で詳しく解説してあります。