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猫の舌と味覚・完全ガイド~乳頭の種類から味の感じ方まで

 猫の舌の種類や構造、および舌が感じ取るさまざまな味について詳しく解説します。果たして猫は私達人間と同じ味覚をもっているのでしょうか?それとも全く違った感じ方をするのでしょうか?

猫の舌の役割

 猫に手をなめられたとき、独特の「ざらっ」とした感じがして驚いた人も多いのではないでしょうか?猫の舌のあのザラザラにはちゃんとした意味があるのです。

毛をからめとるブラシ

 猫の舌の中央はざらざらしており、のどの奥に向かってびっしりと突起(とっき)が生えています。「糸状乳頭」(しじょうにゅうとう)とも呼ばれるこの突起は、毛づくろいする際のブラシとして、また肉を骨からそぎ落とすときのスプーンかわりとして機能します。 猫の舌の中央はざらざらしており、のどの奥に向かってびっしりと突起(とっき)が生えている  猫が自分の舌で絡め取った体毛は、掃除機内のゴミ溜め袋のように、胃の中で大量にたまってしまうことがあります。通常であれば吐き出したり糞として排出しますが、余りにも大きくなりすぎた場合は毛球症(もうきゅうしょう)という病気に発展することもありますので、飼い主はまめなブラッシングなどで予防してあげたいところです。 猫のブラッシングのやり方  また近年、バイオミミクリ(生物模倣)の一環として、猫の舌を模した掃除機というものが開発され、話題を呼んでいます。これは、掃除機内部のスクリュー表面に猫の舌のような細かい突起をつけることにより、吸い込んだゴミを絡め取って膨張を抑えるというものです。
ラング・ド・シャ
ラング・ド・シャ(仏語:langue de chat)はフランス語で「猫の舌」という意味を持つお菓子のことです。形が猫の舌に似ていること、および表面がざらついていることなどからこのような呼び方になったと考えられています。フランスの伝統的なお菓子「ラング・ド・シャ」(猫の舌)

水を飲むときのひしゃく

 これまで多くの科学者たちが、猫の舌全体にある突起が水飲みに役立っていると推測してきました。しかし最新の研究により、猫の舌は水面に近づくにつれて裏側に曲がりはするものの、水面には舌先しか触れていないことが判明しました。研究により判明した事実は以下です(Roman Stocker, 2010)
猫の舌の機能
  • ネコの舌は秒速76.2センチメートルという驚くべき速さで動く
  • ネコは舐める動作を1秒間に3、4回繰り返す
  • 1回の動作でおよそ0.14ミリリットルの液体を飲む
  • 猫の舌は水面に舌先しか触れていない
 猫が水を飲むメカニズムに関し、調査を行ったマサチューセッツ工科大学のチームは「重力と慣性のバランスがちょうど取れて、水柱の大きさが最大になるタイミングがある。そのときに、ネコは舐める動作を行なうのだ」と説明しています。ちょうど以下の動画のようなイメージです。
猫が水を飲むメカニズム
 水面に触れた猫の舌先が口の中に戻るとき、液体が舌に引っ張られて水柱ができます。この水柱は、液体を地上に引き戻そうとする重力と、移動する物体は静止させられるまで動き続けるという慣性による力のバランスによって生じています。最初は慣性のほうが大きいので猫の舌とともに水柱がもりあがっていきますが、次第に重力が優勢になり、水は入れ物のほうに落ちて行きます。 元動画は→こちら

エサの温度センサー

 猫の舌と聞くと「猫舌(ねこじた)=熱いものが苦手」を連想しますが、人間以外の動物で、獲物の体温である40℃を超える食物を口に入れる動物はほぼいないといってよいでしょう。ですから、猫だけがとりわけ熱いものが苦手なわけではなく、実は人間以外の動物はほぼ熱いものを口の中に入れることが苦手なのです。 エサの温度と猫の嗜好性の関係  上のグラフで示したように、猫は対象の温度が30~35℃くらいのときに最もガツガツエサを食べますが、35℃を超えたとたんスイッチが切れたように急に食べるのをやめてしまいます。「猫舌」という言葉を考え付いた人は、ひょっとすると猫が温度に対してもつこうした極端なこだわりを観察していたのかもしれません。なお30~35℃という温度域はちょうど、しとめてすぐの獲物の体温と同じです。猫の舌は生まれつき「新鮮素材」を知っているのでしょう。 猫の食生活・完全ガイド
猫の舌を拡大するとどうなっているのでしょうか?顕微鏡を使って見てみましょう。
NEXT:猫の舌はどうなってる?

猫の舌にある乳頭

 乳頭(にゅうとう, papillae)とは舌の表面を覆っている突起状の構造物のことです。 人間を含むほとんどの哺乳動物が有しており、食べるものや生活習慣によって数や形が大きく異なります。
 「味覚乳頭」と言った場合は食べ物や飲み物の味を感知するセンサーを備えており、味覚成分の入り口である味孔(みこう)や味蕾(みらい)を有しています。一方「機械乳頭」と言った場合は丈夫な角質層を備えており、舌表面の保護、食べ物の保持、咀嚼(噛むこと)、嚥下の補助、グルーミングなどに役立っています。猫の舌の上における乳頭の種類と分布は以下です。 猫の舌における乳頭の種類と分布図

猫の糸状乳頭

 糸状乳頭(しじょうにゅうとう, filiform papillae)とは舌の中央エリアを占めている三角コーンのような乳頭のことです。グルーミングするときに見えるトゲトゲと言ったほうがわかりやすいでしょう。糸状乳頭が全体的に喉の奥(咽頭)に向かって傾いている理由は、食べ物が逆流しないようせき止めると同時に、グルーミングする際のヘアブラシとして機能しているからです。 【画像の元動画】→Deep Look 猫の糸状乳頭を拡大すると小さな三角コーン形を確認できる  大きさは舌の前方で小さく(直径0.1mm/高さ0.2~0.3mm)、中間部で大きくなり(直径0.2~0.4mm/高さ0.5~0.8mm)、後方で再び小さくなります。 舌の前方に生えている小さめの糸状乳頭には、よくみると細かい枝のようなものが生えています。この枝は乳頭が大きくなるにつれて消えていき、舌の中間部では完全になくなります。 猫の糸状乳頭は中間部あたりで形状が変化する  1つの糸状乳頭を拡大したときの基本構造は以下です。前方面は主に顆粒層、後方面は主に角質層から構成されています。後方の角質化が進んで硬くなっている理由は、毛づくろいするときに毛がからみやすくなるからでしょう。 猫の糸状乳頭の組織学的断面模式図  乳頭と乳頭の間を占める糸状乳頭間部で角質化は見られませんが、「微小堤」(びしょうてい, microridge)と呼ばれる構造がはっきり確認できます。摩擦によって生じた適応的な構造だとか、粘液を保持して広げる作用を有しているといった仮説がありますが、上皮細胞の角質化が終わると消えることから、細胞の角質化が進行する過程で現れる一時的な構造ではないかと推測されています。ちなみにこの微小堤はイタチ、マングース、コウモリ、スナネズミ、モルモット、イヌの舌においても確認されています。 舌体前部の糸状乳頭間部で見られる微小堤(microridge)の顕微鏡写真  なお2018年、猫の糸状乳頭に関する詳細な分析が行われ、ストローとしての役割を果たしている可能性が示されました。自分自身の唾液が毛細管現象によって糸状乳頭に蓄えられ、被毛に効率的に塗りつけて体温調整に役立っているとのこと。詳しい内容は以下のページをご覧ください。 猫の舌にはストローのような驚きの機能がある!

猫の茸状乳頭

 茸状乳頭(じじょうにゅうとう, fungiform papillae)とはキノコの形をした乳頭のことです。猫においては舌の周囲を取り巻くように配置されおり、舌全体における数はおよそ250個です。最も多いのが舌の先端で、奥に行くほど数が減少します。左右で数の隔たりはありません。直径で見たときの大きさは子猫で0.15×0.18mm、成猫で0.42×0.55mm程度とされています(Robinson, 1990)糸状乳頭、茸状乳頭、有郭乳頭の比較写真  舌の中央に位置する糸状乳頭間にもはっきりと判別できる茸状乳頭が点在していますが、その数は15~17個とかなり少数で、舌の後方1/3エリア(有郭乳頭の手前あたり)に差し掛かると10個ほどに減少します。また乳頭の平均直径は先端部分で0.28mm、奥に行くと0.48mmに巨大化します。 糸状乳頭の間に挟まれる茸状乳頭の拡大写真  上皮にはよく発達した角質層があり、上面には味の成分を受け取る味孔および味蕾が開口しています。ここに食べ物や飲み物の分子成分が入ることにより電気信号が作られ、求心性の神経線維を通じて味覚情報が脳に送り込まれるという仕組みです。
 1つの茸状乳頭に含まれる味蕾の数は、先端部分で平均6.9個、奥に行くと16.6個に増加します。つまり舌の先端では少数の味蕾を含んだ茸状乳頭が細かく並んでおり、舌の奥の方では多数の味蕾を含んだ茸状乳頭がまばらに並んでいるといったイメージです。 猫の茸状乳頭と上面に開口している味蕾の拡大写真  生まれたばかりの子猫においては、茸状乳頭の数もそこに含まれる味蕾の数もそれほど多くありません。成猫とほぼ変わらないくらいに増えるのは、生後2~4ヶ月齢に達してからです。
 不思議なことに、茸状乳頭はそれに連なる味覚神経(鼓索神経)を切断すると萎縮してしまいます。神経が回復すると同時に乳頭も元に戻りますので、脳との連結が形状の維持に関わっているのでしょう。なお人間の味覚と猫の味覚は同じではありません。詳しい内容は後述する「猫の味覚」をご参照ください。

猫の有郭乳頭

 有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう, vallate papillae)は楕円~円形で大型の乳頭のことです。大きさは成猫で「縦0.65×横0.9×高さ0.58mm」、離乳前の子猫で「縦0.25×横0.42×高さ0.15mm」程度とされています(Haddad, 2019)成猫の舌にある有郭乳頭(vallate  papillae)の電子顕微鏡写真  猫においては舌の後方1/3エリア(舌体と舌根の境界部)に位置しており、数は4~6個と少なく、左右対称のこともあれば非対称のこともあります。全ての猫に共通しているのは「V」の尖った方をのどの奥に向けた形で配置されているという点です。
 上皮はやや角質化されて層を形成しており、長さも形もバラバラな上皮線条が結合組織の中心部に向かって伸びています。辺縁部は明瞭な溝(環状小窩)で区切られており、乳頭の側面に味蕾が存在しています。乳頭の上面に味蕾がある茸状乳頭との違いはここです。味蕾は茸状乳頭のものより大きく、0.06×0.07mm程度とされています(Haddad, 2019)有郭乳頭の側面に位置する味蕾

猫の葉状乳頭

 葉状乳頭(ようじょうにゅうとう, foliate papillae)とは舌の後側方にあるやや大きめな乳頭のことです。上皮は層状でやや角質化が進んでおり、上皮線条が結合組織に向かって伸びています。
 味蕾を備えていないことから、味覚乳頭ではなく機械乳頭の一種と推測されているものの、猫における明白な機能は解明されていません。ニホンツキノワグマ、アライグマ、ギンギツネでは豊富な味蕾を有した葉状乳頭が確認されており、また人間、カニクイザル、ラット、マウス、ハムスターも洗練された葉状乳頭を持っています。こうした事実から、完全肉食動物(猫)および完全草食動物(ヤギや牛)においては、何らかの理由により退化してしまったのではないかと考えられています(Robinson, 1990)

子猫の辺縁乳頭

 辺縁乳頭(へんえんにゅうとう, marginal papillae)とは舌の先の外側を縁取っている不整形な乳頭のことです。形には葉、指、三角コーンといったバリエーションがあります。角質化が進んだ層状の扁平上皮で覆われており、高さは0.05~0.1mmです(Haddad, 2019)離乳前の子猫の舌尖でだけ見られる期間限定の辺縁乳頭(marginal papillae)  辺縁乳頭は生まれたての子猫でしか見られず、 同様の構造は猫のほか人間、犬、豚、クジラ、イルカといった哺乳動物で確認されていることから、母猫の乳首からミルクを吸い取る時に何らかの役割を果たしているか、もしくは飲み込んだミルクが口から逆流しないように防いでいると推測されています。すべての動物に共通しているのは、成長が進むにつれて自然消滅するという点です。猫においては生後2週齢頃から少しずつ消え、茸状乳頭や糸状乳頭に置き換わっていきます。
猫のベロの構造がわかったら、そこで感じ取る味覚についても知っておきましょう!
NEXT:猫が感じるさまざまな味

猫の味覚

 味覚(みかく)とは飲み物や食べ物に含まれる成分と舌とが接触することによって生み出される感覚のことです。人間においては甘い、しょっぱい、すっぱい、苦い、うまい、という5種類の味覚が確認されています。
 では猫における味覚は人間のものとまったく同じなのでしょうか?解剖学的および神経学的に確認されている猫の味覚は以下です。「」は 存在している、「×」は存在していない、「」はかろうじて存在していることを意味しています。なお厳密な意味では味覚ではありませんが、便宜上、痛覚神経や温度覚神経で感じる「辛い」という感覚も含めています。 猫の味覚一覧  上記したように、猫においては甘いと感じる神経学的な構造が欠落しており、またしょっぱいと感じる神経も弱くしか存在していません。甘いものやラーメンを好む人間とは味覚が随分異なっていることがお分かりいただけるでしょう。以下は猫の味覚に関する詳細です。

猫が感じる「甘味」

 「甘い」とは糖類、糖アルコール、一部のテルペン配糖体、一部のアミノ酸、一部のペプチドが生み出す味覚です。「甘味」(かんみ)とも呼ばれます。犬や人間ではよく発達していますが、実は猫は甘味を感じることができません。 猫は遺伝子レベルで甘みを感じることができない  アメリカにあるモネル化学感覚研究所の調査チームは、猫がそもそも甘味受容器の形成に関わる「Tas1r2」と「Tas1r3」遺伝子を有しているかどうかを調査しました。その結果、「Tas1r3」遺伝子は正常に機能しているものの、「Tas1r2」遺伝子の方は偽遺伝子になっており、受容器の形成に必要なT1R2タンパク質が欠落していることが判明したといいます。要するに猫の舌の上にはそもそも甘味を感じる受容器自体が存在していないということです。
 完全肉食の猫にとって、果物に含まれる糖分を感じ取ることはそれほど重要ではないということなのでしょう。ちなみにトラもチーターも猫と同様、遺伝子レベルで受容器が形成されず、甘味を感じることができないと推測されています。より詳しい内容については以下の記事をご覧ください。 猫が甘味を感じないというのは本当か?

猫が感じる「塩味」

 「しょっぱい」とは塩化ナトリウム(NaCl=食塩)によって生み出される味覚の一種です。「塩味」(えんみ)や「鹹味」(かんみ)とも呼ばれます。
 犬、猫、ラット、ヤギという異なる4種類の動物における塩味感覚を調べた所、ラットとヤギにしか存在しておらず、犬と猫では欠落していたといいます(Boudreau, 1985)。とは言え全く塩味を感じないというわけではなく、猫ではアミノ酸や核酸の存在を感じ取るアミノ酸ユニットが、塩化ナトリウム(食塩)や塩化カリウムにも反応します。しかし閾値(感じ取れる限界値)は50mM(0.3%)超とかなり鈍感です。かつては肉食動物にも塩味を感じ取る「塩ユニット」という神経があるとされていましたが、現在はそのような独立した感覚ユニットではなく、アミノ酸ユニットが高濃度の塩分にだけ反応すると考えられています。

猫が感じる「酸味」

 「すっぱい」という味覚は、水素イオン(プロトン)を多く含む成分によって生み出される感覚です。「酸味」(さんみ)とも呼ばれます。1本の味覚神経線維(鼓索神経)が支配している茸状乳頭の数は、ヤギが5.4、犬が3.4、そして猫が3個程度です。ラットやヤギにおいては舌の前方が酸味に敏感であるのに対し、猫においては逆に舌の後方が敏感になっています。以下の図における黄色い部分が酸味に反応するエリアです。 猫の舌の上で酸味(すっぱさ)を感じるエリア  酸味を感じ取る茸状乳頭は太い神経線維によって支配されており、反応を素早く脳に伝えることができます。犬と猫においては刺激のスタートで強く反応した後、急激に鈍くなるのが特徴です。大抵の場合「すっぱい!」と感じた瞬間に口に入れたものを吐き出してしまうため、持続的に反応する必要性がそれほどないのかもしれません。
 舌の上にある酸味ユニットが反応する物質(濃度=50mM)は以下です(Boudreau, 1985)。上に記載してある物質ほど反応が大きく、下にある物質ほど反応が小さくなります。犬においてもほぼ同様の並びで反応しますが、反応の強さに関しては猫よりも小さめです。
猫にとって「すっぱい」物質一覧
  • リンゴ酸
  • ATP(アデノシン三リン酸)
  • ITP(イノシン5'-三りん酸)
  • リン酸ナトリウム
  • O-ホスホリルエタノールアミン
  • L-ヒスチジン
  • IDP(イノシン5'-二りん酸)
  • 塩化ブチリルコリン
  • L-システイン
  • L-トリプトファン
  • L-プロリン
  • L-イソロイシン
  • ピロリン酸四ナトリウム
  • フィチン酸
  • L-アルギニン
  • L-リシン
  • IMP(イノシン-5'一リン酸)
 特に酸味の強いリンゴ酸(pH2.2)、ATP(pH3.0)、ITP(pH2.8)、リン酸ナトリウム(pH4.64)、L-ヒスチジン(pH7.4)では強く持続的な反応が生み出されます。
 なお、かつては水に特異的に反応する「水感知線維」があると考えられてきました(Cohen, 1954)。しかし酸ユニットが酸性物質のみならず、蒸留水やキニーネ(苦味)に対しても反応することから、現在は「水感知線維」と酸ユニットは同一のものだろうと推測されています。

猫が感じる「苦味」

 「にがい」とは苦味物質によって生み出される味覚のことです。日常的に用いられる「苦味」(にがみ)と区別するため、生理学的には「苦味」(くみ)と呼ばれます。代表的な苦味物質としてはアルカロイド、テルペン、配糖体、一部のアミノ酸、一部のペプチドなどがあります。人間における感度は、砂糖(ショ糖)が0.7%、塩が0.055%であるのに対し、苦味成分であるキニンが0.00005%ですので、いかに敏感かがおわかりいただけるでしょう(Hagiwara、1980)
 猫の舌の上において苦味を感じるエリアは以下です。苦味成分の代表格であるキニーネ、カフェイン、タンニン酸などに反応することから、苦味は主として後述する「ユニットXb」と呼ばれる感覚ユニットによって感知されているものと推測されています(Boudreau, 1985)猫の舌で苦味を感じるエリア  猫の舌では「ユニットX」と呼ばれる味覚神経ユニットのうち「ユニットXb」と呼ばれるサブユニットが苦味の感知に関わっていると考えられています。この「ユニットXb」は非常に広い範囲の成分に反応する味覚受容ユニットで、ヌクレオチドを代表とするリン含有物質以外のあらゆる物質によって電気信号が生み出されます。以下は一例です。
リン含有成分, 塩化ブチリルコリン, リンゴ酸, フィチン酸, アセチルアセトン, ヒドロキシフェニル酢酸, ヴァニリン, メチルマルトール, ラクトン, キニーネ, カフェイン, タンニン酸, 胆汁酸塩, デオキシコール酸, タウロコール酸
 苦味を感じるエリアが舌の前の方に集中している理由は、体に有害な成分をいち早く感知するためでしょう。なお2015年、アメリカにあるモネル化学感覚研究所の調査チームが、苦味受容器である「Tas2r」の形成と発現に関わっている遺伝子を調べたところ、猫では12の遺伝子が機能を保っていることが確認されたと言います。つまり猫も苦味に敏感であるということです。調査内容に関する詳細は以下の記事をご参照ください。 猫の舌は苦味に敏感にできている

猫が感じる「旨味」

 「うまい」とはアミノ酸や核酸と言った有機酸によって生み出される味覚です。漢字では「旨味」と書かれます。1908年、東京帝国大学(現:東京大学)の教授だった池田菊苗氏が、昆布の煮汁の中からグルタミン酸を発見して以来、人間における5番目の味覚として知られるようになりました。国際的な認知を得たのは、2000年に舌の味蕾でグルタミン酸受容体が発見されてからです。その他の旨味物質には鰹節のイノシン酸、シイタケのグアニル酸などがあります。猫の舌の上において旨味を感じるエリアは以下で、「アミノ酸ユニット」とも呼ばれます(Bordeau, 1985)猫の舌の上において「旨味」(アミノ酸)を感じ取るエリア  犬や猫では舌の広範囲に存在しており、特に舌の先端にある茸状乳頭で豊富です。ラットでは舌の中間や口蓋でも確認されていますが、草食動物であるヤギでは完全に欠落しています。1本の味覚神経が支配する茸状乳頭の平均数は、猫で3.2、犬で4.1、ラットで4.6個程度です。犬でも猫でも刺激から1秒ほどで順応し、発火速度が低下してすぐに味に慣れてしまいます。
 アミノ酸ユニットは基本的に、リンや窒素を含む物質に強く反応します。具体的にはヘテロ環式窒素化合物(ピロリジン)、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、二リン酸ヌクレオチド、三リン酸ヌクレオチド、ある種のアミノ酸などです。逆に抑制的な作用を持つのはアルカロイド、ある種のヌクレオチド、ある種のヘテロ環式窒素化合物です。
 例えば猫が特に強く反応するアミノ酸は以下で、タイプはすべて自然界に存在する「L型」です。共通しているのは「リンもしくは窒素を含んでいる」という点です(Bordeau, 1985)
猫が強く反応するアミノ酸
  • プロリン
  • システイン
  • オルニチン
  • リシン(リジン)
  • ヒスチジン
  • アラニン
 逆に猫の舌において抑制的に働くアミノ酸は以下で、タイプはすべて自然界に存在する「L型」です。共通しているのは「アミノ酸が側鎖に疎水基を含んでいる」という点です。
猫が反応しないアミノ酸
  • トリプトファン
  • イソロイシン
  • ロイシン
  • アルギニン
  • フェニールアラニン
 2017年、フランスとイギリスからなる共同研究チームは、実験室内に猫のアミノ酸受容器(ネコ型T1R1-N末端)を模擬的に再現し、一体どのようなアミノ酸に反応するのかを調査しました。その結果、以下のような特徴が確認されたといいます。
猫のアミノ酸受容器の特徴
  • 6種類のアミノ酸と結合能力を示す
  • 特にアラニンとイソロイシンとの親和性が強い
  • システインとは結合しない
  • 低濃度のIMPやGMPによってN末端とアミノ酸の結合が促進される
  • IMPの存在によって特に結合力が強化されるのはヒスチジン、それについでアラニン、イソロイシン、アルギニン
 人間ではL-グルタミン酸とL-アスパラギン酸の2つだけが旨味成分とされていますが、猫においては少なくとも6種類のアミノ酸が受容器と結合することが確認されました。完全肉食で動物性タンパク質を食べることが多い猫において、筋肉を構成するアミノ酸に敏感なのはうなづけますね。アミノ酸受容器とアミノ酸が結合した結果、人間より多くの「うま味」を享受している可能性は高いと言えるでしょう。詳しい内容は以下のページをご覧ください。 猫は人間よりもうま味(umami)に敏感である可能性あり

猫が感じる「コク味」

 「コク味」とは味(味覚)、香り(嗅覚)、食感(触覚)に関する複数の刺激から構成される複合感覚のことです。「コク味物質」と言った場合は特に、独立した状態では味を持たないものの、基本味(特に甘味、塩味、うま味)と合わさることで味覚の持続性(Lastingness)、厚み(Complexity)、広がり(Mouthfulness)を修飾する物質とされます。 コク味における持続性(Lastingness)、厚み(Complexity)、広がり(Mouthfulness)  2021年、コンピューターシミュレーション(in silico)、研究室(in vitro)、そして生身の猫(in vivo)を用いた検証実験により、猫も「コク味」を認識できる可能性が示されました。具体的には「旨味」に塩化カルシウムを加えると、より強く「おいしい!」と感じてくれるというものです。
 一方、人間におけるコク味物質であるグルタチオンに対しては逆に嫌悪感を示すことが確認されましたので、人と猫とでは感じ方が違うのかもしれません。ちなみにRT-PCRと呼ばれる手法で解析した結果、コク味を感じ取るカルシウム感受性受容器(CaSR)は猫の舌の後方1/3エリア(舌体と舌根の境界部)にある「有郭乳頭」に発現していることが確認されています。詳しい内容は以下のページをご覧ください。 猫にも食べ物のコク味(kokumi)がわかる

猫が感じる「辛味」

 「からい」(辛味)とは痛みを感じる神経によって生み出される感覚の一種です。猫の舌に対して電気刺激や唐辛子の辛味成分であるカプサイシンで刺激を与えると、唇における血流量が増加すると報告されていることから、猫も「辛い」と感じている可能性があります。
 この反応における求心性線維(舌→脳)は、顔面神経の鼓索枝(鼓索神経)に含まれるカプサイシン非反応性線維、および三叉神経喉頭枝(喉頭神経)に含まれるカプサイシン反応性線維だと推測されています。また遠心性線維(脳→唇)は脳幹や舌咽神経から耳神経節を通過して伸びている神経線維だと考えられています(Karita, 1993)
 細かい名称はさておき「辛味刺激→唇の血流量増加」という反射が猫の脳内に存在していることから、カレーを食べたときの人間と同じように「辛っ!」という感覚を味わっている可能性が大です。ただし痛みや温度と同じ神経経路によって感じられているため、厳密な意味では味覚ではありません。
猫はベロの上だけでなく、のどの奥の方でも味を感じ取ることができます。どういうことでしょうか?
NEXT:猫の喉頭の役割

猫の喉の奥における感覚

 猫の舌の奥に位置し、気管や肺への入り口に相当する喉頭(こうとう)にも、乳頭に似た構造物や味を感じ取る味雷が豊富に存在しています。特に多いのが喉頭蓋の喉頭面、声皺襞の後方、喉頭室などで、下の図で言うと水色の部分に当たります(Hatakeyama, 1960)猫の咽頭と喉頭・断面模式図  喉頭の最前部にある喉頭蓋の味蕾を例に取ると、生後1週齢の子猫で76個、1歳を超えて体重が増えた成猫では800個に達すると言います(Stedman, 1983)。また喉頭蓋に分布する上喉頭神経と呼ばれる神経を対象とし、化学物質に対する感受性を電気的に調べた調査では、塩化カリウム、塩酸、 塩化アンモンニウム、蒸留水、クエン酸に反応することが確認されています。一方、「しょっぱい」という感覚を生む塩化ナトリウム(食塩)や塩化リチウムには無反応だったとも(Stedman, 1980)
 喉頭に分布する神経としては、刺激に対して素早く反応するユニットと、ゆっくり反応するユニットが確認されています。早い反応性ユニットは水、ミルク、胃の内容物、唾液、ショ糖の等張液などに反応し、反応速度は1秒未満、1~3秒後に興奮がマックスに達するという特徴を有しています。一方、遅い反応性ユニットは刺激が加わってから数秒後に反応が始まり、取り除かれてからもしばらく発火が続くという特徴を有しています。 喉頭付近に分布している神経は機械・化学的刺激に反応して肺への誤飲を防いでいる  どちらのユニットも、生まれたばかりの子猫にも備わっており、水に敏感に反応することから、喉頭に加わる化学的な刺激を検知して咳反射や無呼吸反射を引き起こし、母乳(人工ミルク)が間違って気管や肺の中に入らないようにガードしているものと推測されます(Harding, 1978)
猫の味覚は嗅覚の異常や鼻詰まりによって変わることがあります。詳しくは「猫の鼻と嗅覚・完全ガイド」をご参照ください。また猫の好きな食べ物に関しては「猫の食生活・完全ガイド」をご参照ください。