トップ猫のしつけ方猫のトイレの失敗

猫のトイレの失敗・うんち編

 猫がトイレ以外の場所で糞便(うんち)をしてしまった場合、トイレに行こうとしたけれども我慢できずに途中で漏らしてしまったのか、それともトイレを自らの意思で避けたのかが問題になります。前者の場合は「便失禁」、後者の場合は「トイレの忌避」や「ストレス」であり、まったく別物として扱われます。ではよくあるパターンを1つずつ見ていきましょう。なお小便に関しては猫のトイレの失敗・おしっこ編をご参照ください。

便失禁

 「便失禁」(べんしっきん)とはトイレに行こうとしたけれども我慢できずに途中で漏らしてしまうことです。多くの場合、病院における治療を必要とするような重い病気や怪我が前提となっていますので、まず真っ先に考えなければなりません。よくあるパターンは以下です。

若すぎる

 子猫が生後半年未満で体がまだ完全に成熟していないような場合、神経や筋肉の発達が未熟でうんちを漏らしてしまうことがあります。人間でも小学校の低学年生やベロンベロンに酔っぱらった大人がうんちを漏らしてしまうことがありますが、これと同じことです。
 神経による排便反射や肛門括約筋による便のホールドは体の成熟とともに完成していきますので放っておいても構いません。なお猫がトイレの場所を知らずに漏らしてしまった場合は、まずトイレのしつけから始めてください。 猫のトイレのしつけ

下痢

 何らかの理由によって便が緩くなり、肛門のすき間から水分の多い便が漏れ出てしまうことがあります。人間の場合と同様、くしゃみや咳などをして腹圧が高まった瞬間が要注意です。床やカーペットの上に液体状のうんちが落ちているような場合は、下痢による便失禁の可能性を考慮しましょう。
 下痢を引き起こす原因は非常にたくさんあり、ここではとても全てを書ききれません。具体的には「下痢便・うんちがゆるいときに考えられる病気」をご参照ください。いずれにしても動物病院における治療が必要となります。 下痢便・うんちがゆるい

しっぽへの外傷

 しっぽを踏んづけたり引っ張ったりして生じる外傷は「仙尾部外傷」(せんびぶがいしょう, Sacrocaudal Injury)、もしくは「しっぽ引っ張り外傷」(Tail Pull Injury)と呼ばれます。 骨盤内の重要な神経と連結しているため猫のしっぽをむやみに引っ張ってはいけない  しっぽの神経に加わった外力が、それに連なる「骨盤神経」「下腹神経」「陰部神経」「坐骨神経」といった末梢神経にまで波及し、自力でおしっこやうんちができないといった症状として現れます。しっぽが動かない、後足の動きがおかしいといった症状とともに便失禁が見られる場合は、しっぽに何らかの外傷を抱えている可能性を考慮しましょう。
症状や治療法に関しては「猫ふんじゃった症候群」というページでも詳しく解説しています!

椎間板疾患

 腰の骨(腰椎)にある椎間板に障害があり、付近の神経に不具合が生じると、尿失禁、便失禁といった症状を示すことがあります。その他ジャンプしない(できない)、しっぽをあげられない、歩きたがらない、後ろ足が動かない、便秘気味であるなどの症状がみられる場合は椎間板疾患の可能性を考慮しましょう。 猫の椎間板ヘルニア

骨盤筋の損傷

 肛門に分布している内外の括約筋や骨盤に付着している筋肉に損傷があると、直腸にたまった便を支えきれず、外に漏れ出してしまうことがあります。よくある原因は手術に伴ううっかりミスで筋肉に傷をつけてしまった、交通事故や落下事故で筋線維が断裂したなどです。便失禁を示す前に手術を受けていたり、事故に遭っていないかどうかを確認しましょう。

マンクス症候群

 マンクス症候群とは脊椎(背骨)の奇形や脊髄の不全によって引き起こされる様々な障害のことです。具体的な障害は仙骨の無形成や異形成、仙髄(脊髄の下の方)の欠損、脊髄破裂、後肢の麻痺や不全麻痺、失禁や排便障害などで、病名が示す通りマンクスという品種において多発します。
 T-boxタンパクの生成に関わるT-box遺伝子の変異4種がマンクスの短尾、およびマンクス症候群の原因になっていると推測されています。遺伝病ですので根本的な治療法はありません。詳しい内容は以下のページでも解説してありますのでご参照ください。 マンクスに多い病気 短尾マンクスの20%はしっぽ以外の奇形を抱え、そのうちランピーが90%を占める

高齢

 猫が高齢になり足腰が弱っているにもかかわらず、トイレまでの距離があまりにも遠いと、たどり着くまでの間に我慢できなくなり漏らしてしまうことがあります。病気と言うよりは自然な老化現象ですので、トイレをアクセスしやすい場所に移動し、敷居が低いものに切り替えてあげましょう。それでもうまくいかない場合はペット用のオムツなども利用します。
具体的な介護の仕方に関しては「老猫の介護の仕方」というページでも詳しく解説してあります!
NEXT:トイレが嫌われる原因

トイレが原因のおもらし

 猫のトイレの失敗が病気以外の原因によって引き起こされている場合、まず真っ先に「何らかの理由でトイレが嫌われた」という可能性を考慮します。 猫がトイレを忌避する原因は多種多様ですが、近年行われた調査によると「汚れ」や「におい」が忌避の原因になることが多いようです。
 2017年、アメリカ・ミズーリ州にある「Nestle Purina PetCare」が行った調査では、猫が最も好むトイレのタイプは「使用した痕跡が全くない無臭のトイレ」であり、おしっこの成功率は90%超、うんちの成功率は70%超を記録したといいます。また2007年、タフツ大学の調査チームが行った報告によると、猫のトイレ臭を消す「Zero Odor」という製品を用いた所、使う前に比べてトイレが気に食わないときに示す行動や、トイレの外で行う不適切な排便の回数が明らかに減ったとのこと(Nicole Cottam, 2007)猫がトイレの使用を拒絶する理由は臭いよりも汚れ 猫がトイレを忌避する原因の筆頭は汚れと匂い  こうしたデータから考えると、トイレの忌避を原因とする不適切な排便を予防するためには「とにかくトイレをきれいにすること!」がポイントであるようです。システムトイレを使っている家庭では、放置する癖が付いてついついトイレを汚れたままにしておく傾向がありますので気をつけなければなりません。
過去に複数の国で行われた別の調査では、トイレの中に先客猫の尿臭や肛門嚢腺臭が残っていると、おしっこであれうんちであれ排泄行動が阻害されてしまうことがわかっています。猫がトイレを使わない理由は先客猫の残した臭いオス猫の尿臭は「猫よけ」として他の猫の排泄行為を抑止する
NEXT:不安やストレスとの関係

分離不安やストレス

 病気にかかっているわけでもなく、トイレが嫌いなわけでもないのに、なぜかトイレの外でうんちをしてしまう猫がいます。その場合「分離不安やストレス」という可能性を考慮しなければなりません。
 「分離不安」とは猫が飼い主から離れること病的に嫌がり、まるでストーカーのように絶えずまとわりつこうとする状態のことです。猫の分離不安について2002年に行われた調査によると、1~3歳のうち26.5%、4~5歳のうち32.4%、6~7歳のうち17.6%に見られるとされています。そして分離不安の症状を見せる猫のうち、70.6%は不適切な場所での排尿、35%は不適切な場所での排便、8.8%は破壊行動、11.8%は過剰な鳴き声、5.9%は過度のグルーミングを見せるとも出典資料:Schwartz, 2002分離不安には、粗相や便のお漏らしなど、様々な問題行動が付随する  飼い主が外出しているときに限って猫がトイレの失敗をするような場合、分離不安にかかっている可能性が大です。これは病院に行って解決する問題ではありませんので、飼い主が生活スタイルを見直すことによって改善していくしかありません。
具体的な対策については「猫の分離不安」というページでも詳しく解説してあります!
NEXT:ミドニングとは?

ミドニング?

 おしっこを周囲に撒き散らすことで自分の存在をアピールすることを「スプレー」というのに対し、うんちによって自己アピールすることを「ミドニング」(middening)と言います。ミドン(midden)とは「肥やしの山」という意味ですので、ミドニングとは「意図的に肥やしの山を築く」と言った所でしょう。

猫もミドニングする?

 ミドニングは、以下のような動物で頻繁に観察されます。 Dr.ハートの動物行動学入門(チクサン出版社)
色々な動物のミドニング
  • レイヨウ類ガゼル、トピ、ハーテビーストなどのレイヨウ類は、縄張りの中の特定の場所で糞をし、以後、定期的にやってきては新たな糞を追加していく。
  • 大型のネズミ後足で壁や直立した物体によじ登り、糞を地面よりなるべく上の目立つ場所に排泄する。
  • オオカミ岩の上や獣道の交差点など、目立つ場所に糞を残す。
  • ヤマネコ生活の中心地域においては糞を隠すものの、縄張りの辺縁地域では隠さずにそのまま放置する。
猫がトイレ外でウンチをした場合、マーキングと考えるのは軽率 このように、ある種の動物には自分の糞によって環境ににおい付けをするという習性があるようです。では猫がトイレ以外の場所でウンチをしてしまったとき、それはミドニングと言えるのでしょうか?
 猫がトイレ以外で糞をするときは、リビングのじゅうたんや飼い主のベッドの上など、目立つ場所を選ぶことが多いようです。この事実から考えるとマーキングとしての意味合いが強いように思われます。しかしこの問いに対する答えは定かではありません。なぜなら、猫がそもそも縄張りのマーキングとして糞を用いるかどうかについては、いまだによくわかっていないからです。

うんちに含まれる個体情報

 猫にもミドニングがあるのかどうかはよくわかっていませんが、近年行われた調査により、猫の排泄物の中には性別と年齢に関する情報が含まれている可能性が示されました。
 調査を行ったのは麻布大学獣医学部が中心となった共同チーム。オス猫36頭とメス猫19頭の糞便から空気中に発散される物質を調べたところ、含まれている物質の数に性差は見られなかったものの、「1-ブタノール」の量はオス猫の方が多く、オス猫に限り年齢とともに増える成分が6つあることが明らかになったといいます。こうした事実からオス猫のうんちには性別と年齢に関する情報はある程度含まれているのではないかと推測されています。猫の排泄物には性別と年齢に関するプライバシー情報が含まれているかも 猫のウンチには性別と年齢に関する個人情報が含まれているかも  もし家の中で突然うんちの失敗をしたのが、去勢手術を行っていないオス猫の場合、「ミドニング」である可能性を否定できません。例えば、うんちを分かりやすい場所に残すことによって匂いを撒き散らし、メス猫の気を引こうとしたなどです。ちょうど思春期に入った男子が異性を意識し、突然コロンをつけ始めるようなものですね。
 この場合の解決策は猫に不妊手術を施して性腺ホルモンの分泌を抑制し、異性に対する興味を薄くしてしまうことです。アピールすべき相手がいなければ、必然的にうんちによる求愛行動もなくなってくれるでしょう。 猫の去勢と避妊手術
病気が原因でない場合、うんちのおもらしは分離不安によって引き起こされているケースが大半です。室内環境を見直してストレス管理を徹底しましょう。また小便に関しては「猫のトイレの失敗・おしっこ編」をご参照ください。