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猫の食生活

 猫に固有の食習慣や食生活についてまとめました。同じ哺乳類でも人間と猫とでは、食物に対するメカニズムや習性が若干違うようです。

猫の好き嫌い

 猫は味に対する独特のこだわりがあるようです。まとめると以下のようになります。
猫の好き嫌い・まとめ
  • 好きな野生動物ウサギ>ハタネズミ>その他のネズミ・食虫動物>イエスズメ
  • 好きな食用肉ヒツジ>ウシ>ウマ>ブタ>ニワトリ>魚
  • 好きな食感トロッとした濃厚な液体
  • 好きな温度熱すぎず、冷たすぎない「人肌」程度
 野生動物に対する好みでは、ウサギ>ハタネズミ>その他のネズミ・食虫動物>イエスズメといった傾向が見られます。まずドイツで行われた観察では、キヌゲネズミ科に属するハタネズミを特に好み、その他のネズミ科動物は避けるという結果が出ています。また、イエスズメに関しては、狩るけれども口にしないとか(Borkenhagen, 1978)。さらに、トガリネズミやモグラなど、昆虫類を主食とする食虫動物も、あまり好んでは食べないようです(Farsky, 1944)。
 それに対し、猫の好物がウサギであるという可能性が確認されています。1984年、Libergが行った観察では、「ウサギが豊富にいる環境で、猫はほとんどげっ歯類を狩りの対象としない」という特性が明らかになっています。ウサギ1匹(300グラム)を捕まえている間に、げっ歯類は5匹(150グラム)しか捕まえることができないという事実から考えると、単位時間当たりの「コストパフォーマンス」がものをいうのでしょう。 「ドメスティック・キャット」(チクサン出版社) 野生動物に対する猫の好みは、ウサギ>ハタネズミ>ネズミ・食虫動物>イエスズメ、という順番  食用肉に対する好みでは、ヒツジ>ウシ>ウマ>ブタ>ニワトリ>魚の順だそうです(Boudreau, 1977)。「猫は魚が好き」と思い込んでいる日本人からすると、これは意外な結果と言えます。
 食感としては、トロッとした濃厚な液体を好み、粉っぽいものや乾燥したものは好まないとか。猫がウェットフードの方を好むのもうなづけますね。
 温度は熱すぎず、冷たすぎない「人肌」程度がベストです。猫の食欲を最も刺激するものは匂いだと言われます。ちょうど食べ物が人肌程度の温度にあるとき、そこから発せられる揮発成分が最も多くなるのでしょう。エサの温度と猫の嗜好性の関係 逆に、上のグラフで示したとおり、エサの温度が40度を超えると急激に食欲が落ちます。こうした猫の特性から「猫舌」という言葉が生まれたのかもしれません。なお、猫が嫌いなにおいはサッカリン、チクロ、カゼイン、中鎖トリグリセリド、カプリル酸などです。こうした成分を含んでいるものは、必然的に嫌う傾向にあります。
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猫の栄養バランス

 人間には偏食・好き嫌いというものがあり、摂取する栄養素が偏ってしまうこともしばしばあります。しかし人間と違って猫は、自分の体に必要な栄養素を本能的に知っており、その本能的な欲求に合わせてえさをえり好みすることができるようです。
 2011年、ペットの栄養や健康などを専門的に研究する「ウォルサム研究所」は、猫は偏食せず、自分で栄養バランス取りながらエサを食べることができるという事実を明らかにしました。同研究所が発見した猫の食性をまとめると、以下のようになります。
猫の食事調整能力
  • 100匹以上の猫を対象に、「食べたいものを自由に食べさせる」という実験を行った。その結果、どの猫も1日における3大栄養素(炭水化物・脂質・タンパク質)の摂取量がほとんど同じであることが判明した。
  • 栄養素の割合は、タンパク質26グラム、脂質は9グラム、炭水化物は8グラムであり、この割合は、自然のなかで魚などを食べて暮らすときに近かった。このことから、猫は生まれつき自分に必要な栄養素のバランスを知っているものと考えられる。
  • 含まれる栄養素が異なる3種類のエサを用意したところ、猫たちは上記「必要栄養バランス」に合うよう、自発的に食べる比率を調整した。
  • 炭水化物の摂取量に関しては、1日あたり70kcal(300kJ)という上限があった。この上限を超えると、たとえ空腹でもそれ以上のエサを食べなくなった。
Cat Feeding Behaviour and Preference Geometric analysis of macronutrient selection in the adult domestic cat  このように猫は自分の体に必要な栄養バランスを生まれつき知っており、そのバランスを崩さないようにエサを食べるという、優れた調整能力を持っていることが明らかになりました。また当事実は2016年に行われた別の調査でも追認されています(→詳細)。こちらの調査で新たに発見されたのは、「カロリーの中でタンパク質が占める割合が最終的に50%前後に落ち着くよう猫は自動調整する」という事実です。タンパク質の優先度は食餌に加えられた味や匂いよりも高く、また炭水化物の摂取量が「3g/kg」という上限を超えるような食餌しかない場合、猫は潔く空腹を選ぶとも。
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猫の脂肪食

 人間にとって高脂肪の食事は高脂血症の原因として名高いですが、どうやら猫は比較的高脂肪の食餌を摂取しても、人間のようにコレステロール値が上昇しないようです。
 研究を行ったのは、グラスゴー大学とウォルサム研究所。健康な成猫を対象に試験を行ったところ、食餌中に含まれる飽和脂肪の割合を増やしても、人間のように猫のコレステロール値は上がらないことが判明したそうです。理由としては、「猫は進化の過程で脂質を処理するシステムが発達し、ヒトに推奨される食事よりも高タンパク・高脂肪の食餌を摂取しても、それをうまく消化できるから」といったメカニズムが考えられます。 AVMA(2012.Jan)
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猫の猫草

猫が草を食むのは、腸管を刺激して排泄を促すためともいわれています。  猫が好んで食べる草のことを猫草(ねこぐさ)と言い、イネ科の植物、パセリ、ジャコウソウを食べることが多いようです。
 猫が草を食べる理由としては、「ちくちくした葉が消化器官を刺激して毛玉を吐き出させる」という説や、葉の中に含まれる「葉酸」(ようさん)と呼ばれるビタミンの一種を補っている、という説がありますますが、はっきりとした答えは出ていません。ただ、猫はセルロースのベータ結合を切ってグルコースに分解する能力をもっていないため、体内に入った植物は消化されないまま胃腸内に残り、刺激を与えることは確かなようです。
 その一方猫にとって有毒・有害な危険植物は、一説では700以上もあるそうです。700種類を全て覚えきることなどできませんので、イネ科植物など、猫が食べても平気な 「猫草」(ねこぐさ)以外は一切口に入れさせないと覚えた方が早いでしょう。 猫にとって危険な有毒植物 猫草一覧
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猫のだらだら食い

 好きなときに好きなだけエサを食べられる環境に猫をおいた場合、1日9~16回に渡って少量の食事を同量ずつ食べるといいます(Brackshawら, 1988)。こうした「だらだら食い」をする理由としては、猫の祖先であるリビアヤマネコの食生活が大きく関わっていると考えられます。 自由摂食の場合、猫は1日9-15回に分けて少量ずつをだらだらと食べる  リビアヤマネコは、獲物があまり豊富とはいえない砂漠地帯で、小型のげっ歯類などを主食として進化を遂げてきました。一度の狩りで10匹も20匹も獲物を捕まえることなどできませんので、必然的に、休み休み獲物を捕まえて食べるという食生活になります。そして、こうした食生活を長年続けることにより食欲が小刻みに上下動するようになったと考えられます。
 現代の猫が、豊富にエサがあるにもかかわらず一気食いせず、だらだらと10回以上に分けて食べる理由は、ひょっとすると、小動物を断続的に捕らえて生きてきた祖先の食生活を、遺伝的に受け継いでいるからかもしれません。
 また、この仮説を裏付けるかのように、成猫がネズミだけで食事をまかなおうとした場合、1日10匹程度食べる必要があるといいます(Timmins, 1994)。これは、成猫の必要エネルギーを1日1キロ当たり80キロカロリー、ネズミ1匹あたりの平均エネルギー量を30キロカロリーとしたときの逆算データです。このデータに基づくと、猫が一回の食事で摂取する適正カロリーは、30キロカロリー程度でよいということになります。
 なお、時間を決めて規則正しくエサを与えた場合、自由に食べさせた場合に比べ、猫は攻撃的になり、協調性も失うと言います。また、一度に食べる量が多くなるため、尿のペーハー、マグネシウムやリン酸のレベルの変動も大きくなるとか(Finco, 1986)。 自由摂食と定時摂食における、猫の尿中PHの違い  「猫は本来、食事を10回以上に分ける」、「食事回数を少なくすると攻撃的になる」といった事実を見て来ましたが、これらは、私たち人間の「1日3食」という食生活に猫を付き合わせることが、実は大きな間違いである可能性を示しています。猫がちょびちょび食べている姿を見ると、「あれ、食欲ないのかな?」と心配しがちですが、人間視点ではなく猫視点から見ると、ごく普通のことなのかもしれません。
 ただし、体調不良などで本当に食欲がない場合もあります。以下のページを参考にしながら、猫の食欲が正常か異常かを、常に監視する習慣をつけておくとベターです。 猫の食欲不振
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猫の手作りフード

 猫の食事をキャットフードではなく手作りフードにするという選択肢もあります。しかし手作りフードはいい面ばかりではありません。まず食費がかかる、手間隙がかかる、せっかく作ったのに猫が口を付けてくれない、など飼い主のやる気をくじくような側面があります。またエネルギーと必要栄養素のバランスを取るのが難しいという技術的な側面もあります。例えば1992年に行われた、アメリカの獣医師116人を対象にした調査によると、自家製フードを処方した獣医師のうち、犬や猫の栄養要求を満たしていたものは、わずか10%しかなかったそうです(1992, P.Cowell)。獣医師にすら難しいことを、素人が行うのは容易でない事がお分かりいただけるでしょう。
 もしペットの猫に手作りフードで給餌したいとお考えの方は、「エネルギー源となる炭水化物・脂質・タンパク質の三大栄養素」、そして「体の微調整をしてくれるビタミン・ミネラル」のバランスを考えながら与える必要があります。1日に必要なカロリー数に関しては、猫が必要とするカロリーが役に立つでしょう。また栄養素のバランスに関しては、AAFCO(米国飼料検査官協会)が最低摂取量を公開しています。食品成分表を確認しながら、フードの中に必要な栄養素が十分量含まれているかどうかを常に確認しながら作る必要があります。 猫の必須アミノ酸と必須脂肪酸 猫に必要なビタミン一覧 猫に必要なミネラル一覧 食品成分データベース
 なお、猫のための手作りレシピを扱った書籍がたくさんありますが、こうしたレシピのほとんどは、長期的に給餌した場合の猫に対する影響を追跡調査していません。また2015年にブラジルで行われた調査では、106種類のペット用手作りレシピのうち、栄養要求を完璧に満たしているものは1つもなかったといいます(→詳細)。不安を覚える方はいさぎよく市販のフードに切り替えることをお勧めします。
 選ぶ時の一つの基準は、「この製品はAAFCO(米国飼料検査官協会)の定める基準を満たすことが証明されています」と記載されていることです。この記載があれば、少なくともAAFCOが推奨している必須栄養素の最低量が満たされていることを意味しています。また一定のプロトコル(試験手順)にのっとって数週間~半年間の追跡調査を行ったことが保証されます。ただし犬用フードにしても猫用フードにしても、素材に一体何が使われているかを厳密にたどることは困難です。
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