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猫の食欲不振

 猫は犬と違い、「エサを食べすぎる」という点ではなく、「エサをなかなか食べてくれない」という点で、飼い主を心配させる動物です。栄養不足は肝リピドーシスのような深刻な病気を引き起こすことがありますので、食欲不振の徴候が見られたら、早急にその原因を見つけ出したいものです。

深刻な食欲不振

 深刻な食欲不振の目安として飼い主が念頭に置くべきは猫が1歳以上で、24時間全くエサを口にしないという基準です。
猫が丸一日何も食べないときは、病気の可能性を考慮する  猫が丸一日何も食べない場合、何らかの病気にかかっている可能性が大です。その場合、エサの種類を変えても改善は期待できませんし、肝リピドーシスのような深刻な症状に陥ることもあります。
 ですから猫の絶食が24時間を越えるようであれば、ひとまず獣医さんに任せ、必要とあらば点滴や胃カテーテルなどの強制給餌を行います。 食欲不振を招く病気一覧
脳の変化と食欲  脳の変性が猫の食欲を減退させるというパターンも、わずかながらあります。
 例えば、脳の「外側視床下部」(がいそくししょうかぶ)という部分を刺激すると摂食量が大きく増加し、破壊すると無食症になると言います。また「腹内側視床下部」(ふくないそくししょうかぶ)を刺激すると、逆に食欲減退が起こり、破壊されると過食症になるとも。
 このように、脳内の変化が猫の食欲を変化させる可能性もありますので、猫に「頭を打った」、「頭から血を流している」、「たんこぶができている」などの徴候がある場合は、その後の食欲に変化がないかどうかを注意深くチェックします。
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エサに対する好み

 猫の体調が万全で、おなかがすいているにもかかわらず、「エサが気に食わない」という理由で口をつけないことがあります。猫がエサを避けるようになってしまう代表的な理由は以下です。

エサの食感や味が嫌い

 猫の好き嫌いでも述べたとおり、猫は味にうるさい部分があります。味、食感、温度、匂いなど、猫にしか分からない微妙な変化が、食欲を大きく左右することもあるわけです。
 猫の好き嫌いを知る方法の一つとして、「しぐさを見る」というものがあります。2016年に行われた最新の調査によると、猫が「おいしい」と感じた時のリアクションは「目を半分以上閉じる」、「舌を突き出す」、「口を開閉する」で、逆に「まずい」と感じた時のリアクションは「口を開けて舌を出す」であるという可能性が示されました。こうした猫のしぐさを見ていると、そのエサが合っているかどうかのヒントになるかもしれません。写真付きのより詳しい解説はこちらの記事をご参照ください。 猫は食事が気に入ると目を半分以上閉じ、気に入らないと口を開けて舌を突き出す  なお、猫は食事のこだわりに関してかなり頑固です。栄養的に完璧なエサでも、口に合わないときは長い間拒絶し、中には、餓死を選ぶものもいると言います(Kane, 1987)。人間で言うと「ハンスト」と言った所でしょうか。
ヒントと対策  ドライフードの食感に変化をつける場合は、水を加えて柔らかくする、ウェットフードを混ぜる、軽くフードプロセッサに掛けて粒を小さくする、などの方法があります。またエサの温度に関しては、匂い成分が揮発しやすい人肌程度が最も好まれます。

栄養素が合わない

 猫の体内には「栄養素センサー」のようなものが備わっており、エサに含まれる栄養素が体の要求と合っていない場合、潔く空腹を選ぶことがあります。
 詳しくは猫の栄養バランスでまとめてありますが、ペットフード会社が中心となって行った複数の給餌試験によると、猫がエサを選ぶ時の基準は「カロリーの中でタンパク質が占める割合が最終的に50%になること」および「炭水化物の摂取量が3g/kg(トータルで約70kcal)という上限を超えないこと」という2点に集約されます。つまりフード中のタンパク質含量が少なかったり、炭水化物含量が多かったりすると、猫はどんなに空腹でも食べることを拒絶してしまうのです。そしてこの拒絶反応は、フードの味や匂いをどんなに調整してもリセットできないとのこと。
ヒントと対策  フードの成分をよく見て、高タンパク・低炭水化物のものを選ぶようにします。通常のフードのほか、鶏のササミのような栄養補助食品を添えるのも効果的でしょう。猫の大好物であるマグロも高タンパクですが、近年は水銀が含まれている危険性が指摘されていますので(→詳細)、1週間の摂取量が20g(刺し身2切れ)程度になるよう抑えたほうが無難だと思われます。

エサに飽きた

 たとえ完全栄養食であっても、一種類のフードを長期間与え続けると、他のフードを好む一時的な「浮気心」が出現することがあります。これは子犬、子猫、ペットを含む成猫、成犬の全てにおいて証明されている普遍的な現象です(Mugford, Hegstedなど多数)。
ヒントと対策  猫がエサに飽きたからと言って、今までのフードをいきなり総交換すると、胃腸がビックリして吐き戻してしまうことがあります。ですから、まずは全体の10%程度を他のエサに切り替えて様子を見ます。好みのエサが見つかるまで、10種類以上試すことも珍しくありませんので、「カフェテリア方式」で気長に試行錯誤を繰り返します。

新しいエサが嫌い

 猫にはネオフォビアと呼ばれる現象がしばしば見られます。これは、目新しいものを避ける傾向のことです。
 6ヶ月齢までに様々な食物を経験しなかった場合、食物に対する好みは極めて限られたものとなり、数種類以外の食事以外は拒否することもあると言われます。こうした環境で育った子猫は、後に新しい食事に対してネオフォビアを示し、食べ物を一切受け付けなくなることがあります。
ヒントと対策  新しいエサに切り替えた途端、食欲がなくなったという場合は、元のエサに戻してみます。もし食欲が回復するようでしたら、猫に多少ネオフォビア傾向があると考えたほうが良いでしょう。
 それでもどうしてもエサの切り替えを行う必要がある場合は、まず全体の10%程度を他のエサに切り替えるところから始めてみます。

味覚嫌悪

 「味覚嫌悪」(みかくけんお)とは、一度口に入れて不快感を味わったものに対し、強い嫌悪感を示す現象のことです。この現象は新しいエサに対してのみならず、今まで食べていたなじみのエサに対しても生じる現象です。
味覚嫌悪~一度嫌いになったものに対しては、容易に心を開かない  実験では、不快な塩化リチウムの入った食事を1回口にしただけで、その後3日間、同じフードを食べようとせず、10~20日後の間でようやく2回ほど口を付けるようになったと言います。また、もう安全であると学習した後でも、同種のフードを避ける傾向が40~80日間続いたとか(Mugford, 1977)。このように猫は、一度「まずい!」と思ったものに対しては、その後、長期間に渡って嫌悪感を抱き続ける傾向があるのです。
 この味覚嫌悪には、さらにやっかいな点があります。それは、口に入れたものが体調不良を引き起こしたかどうかに関わらず、直前に食べたものを嫌いなるという点です。例えば、朝にホタテを食べた猫が、夕方になって腹痛に見舞われたとします。腹痛の原因がホタテではなかったとしても、猫は「ホタテのせいでおなかが痛くなった!」と勝手に解釈し、以後、ホタテ嫌いになってしまうのです。ですから、昨日まではガツガツと食べていたにもかかわらず、翌日になると急に食欲不振に陥るということが、大いにありえます。
ヒントと対策  「いつも与えているエサ」と「新しいエサ」を別々の容器に入れて猫の前に出してみましょう。体調不良の原因を「いつものエサ」と誤解してしまった猫でも、新しいエサなら食べてくれるはずです。このとき、においや食感がなるべく異なるエサを用意した方がうまくいくでしょう。
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季節的な問題

 季節の変動に伴って猫の食欲が影響を受けることがあります。季節に関連した食欲不振の要因としては、主に以下のようなものがあります。

食欲周期

 猫の体内では、およそ4ヶ月周期で摂取カロリーの変動が起こり、それに伴って体重、エサの摂取量、甲状腺機能も周期的に変化するそうです(Houptら, 1980)。こうした体内リズムが原因で、一時的に食欲がなくなったように見えることもあるでしょう。また38頭の猫を対象とした最新の研究によると、食餌量は「春=普通」→「夏=小食」→「秋=普通」→「晩秋~冬=大食」というサイクルで変動するといいます(→出典)。理由としては、「運動量と必要エネルギー量が連動している」、「日照時間」、「外気温」、「体内における消化率の変化」などが考えられますが、定かなことはわかっていません。
 猫の食事量を日々記録してグラフにしておくと、下のグラフで示したように、3~4ヶ月サイクルで上下動していることを確認できるかもしれません。食欲不振がグラフの「谷」(7月頃)の時期に当たっている場合は、しばらくすると「山」(11月頃)の時期に入り、自然回復する可能性があります。 猫の食事量は、夏に最低となり、晩秋から冬にかけて最大となる

繁殖期で食事どころじゃない

 猫が繁殖期に入っている場合、異性への興味が強すぎて食欲が減退することがあります。オス猫の場合、「恋わずらい」といったデリケートなものではなく、ただ単に性欲の衝動が止まらないためです。またメス猫の場合、妊娠初期において食欲不振を示しますが、これは正常な変化です。
 性欲に起因する食欲不振に関しては、避妊・去勢手術を施すことで軽減できるでしょう。 猫の不妊手術

暑い!

 人間同様、あまりにも暑いと体温調整の方に神経を奪われ、食事どころではなくなってしまうことがあります。食欲の減退が夏季の間に限定されている場合、暑さが一因と考えられます。
 夏バテが原因の食欲不振に関しては、猫が体温を調整するメカニズムを理解し、部屋の中の環境整備に努めることが重要です。 猫の体温調整

ワクチンを打った

 感染症予防のためのワクチンを打った直後、一時的に食欲を失うことがあります。同様に、虫下しのスポット薬を滴下したり、錠剤を飲ませた後、一時的に元気を失うことがありますが、多くの場合、時間と共に回復します。 猫のワクチン接種
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その他の原因

 猫の食欲不振を引き起こす原因は、私たち人間が気にも留めない些細なことだったりします。

食器が気に食わない

 不潔、キラキラ輝く、他の猫の唾液がついているなど、様々な理由で食器を嫌うことがあります。そうした場合は、いさぎよく食器を買い換えてあげることが最短の解決策です。また底の深い器の場合、器のへりがヒゲに触れていらつくというパターンもあります(ウィスカーストレス)。その場合は、エサを平べったいお皿に入れ替えたり、きれいなシートの上にばらまくように広げると、急に食べてくれることがあります。

環境が気に食わない

猫はやや暗くて周囲を囲まれた食餌環境を好むことがある 食餌中の猫を取り巻く環境に何か気に食わない点があると、食欲に影響することがあります。例えば、「お客さんが来ている」とか、「新参の猫がやってきた」とか、「引っ越して部屋の様子ががらりと変わった」とか、「見知らぬ猫がたくさんいるペットホテルに預けられた」などです。
 こうした環境の変化に起因する食欲不振に関しては、猫が安心できる状況をセッティングしてあげることが解決策です。具体的には、壁際にキャリーを置いたり、部屋の一角をパーティションで仕切るなどして、猫専用の食餌スペースを作ってあげるという方法があります。人間でいう「個室ダイニング」のように、周囲を囲まれていた方が落ち着いて食事ができるという猫もいるでしょう。ポイントは、「食餌中の姿が見えないようにする」ことと、「周囲をやや暗くする」ことです。こうしたセッティングによって「外敵に邪魔されるかもしれない!」という本能的な防衛心を解除できれば、自然な摂食行動を促せる可能性があります。

食事の時間が変わった

 普段、一定の時刻にエサを与えている猫の場合、その給餌時間が変わることで食欲を失うことがあります。これは、生活のリズムが狂わされたことによる一時的な食欲不振だと思われます。

エサやりおばさん

 猫が自由に外出できる家庭においては、近所のエサやりおばさんが勝手にエサを与えている可能性があります。もちろん、「おじさん」ということもあります。こうしたつまみ食いをしている猫においては、食欲が無いように見えるのは当たり前です。
 事故や病気を予防するという意味でも、猫の放し飼いをやめ、完全室内飼いに切り替えることをお勧めします。 猫をどこで飼うか?

加齢

 猫が年を取ると、基礎代謝が低下して必要エネルギー量が少なくなります。それに伴ってエサの量が減りますが、飼い主の目には「食欲がない」と映るかもしれません。また、経年による歯の劣化により、あまり固いものを食べなくなるということもあるでしょう。
 これらは全て自然な現象ですので、エサの量を減らして柔らかいものに切り替えるなど、老猫に配慮した配膳が必要となります。 猫の老化と介護

鼻詰まり

鼻が悪い猫は食欲を失う  猫が食事を選ぶ際の最大の要因は匂いです。匂いを脳に伝える「嗅球」(きゅうきゅう)を切除した猫では、極端な食欲の低下が見られたといいますので、単純に鼻づまりなどの呼吸器系疾患が食欲の減退を招いている可能性もあります。
 解決策は、ウイルスと接触する可能性の高い放し飼いをやめ、ワクチン接種を施すことです。そうすることで、猫の鼻詰まりの原因となる感染症を予防することができるでしょう。また猫ヘルペスが再発して鼻が詰まっているような場合は、猫の免疫力が落ちないようストレス管理をすることが最善策となります。 猫のワクチン接種 猫の鼻の変化や異常

よく分からない…

 猫の食欲不振の原因がどうにもこうにもわからない場合は、最後の手段として以下でご紹介する方法を試してみてはいかがでしょうか。
猫のフェイシャルフェロモンを商品化した「フェリウェイ」  2000年に行われた実験で、人工のフェイシャルフェロモンが、猫の食餌量を増やすという可能性が示されました。「フェイシャルフェロモン」とは、猫の頬から分泌される、猫にしか感知できない微量分子のことです。
 実験では、「健康な猫2匹+病気の猫8匹」、及び「健康な猫5匹+病気の猫5匹」とに分けられ、観察が行われました。前者の環境が「フェイシャルフェロモン+キャリー」であるのに対し、後者の環境は「フェイシャルフェロモンのみ」です。その結果、どちらのグループでも食べ物に対する興味と摂取量が増え、特に「フェイシャルフェロモン+キャリー」のグループにおける増加が顕著だったとのこと。
 この事実から、身を隠せる場所とフェイシャルフェロモンを組み合わせると、猫の食欲を増進できる可能性が示されました。何をやってもうまくいかないときは、室内環境を見直し、市販されている「フェリウェイ®」などを利用してみるのも一案でしょう。 猫のフェイシャルフェロモン Effects of a synthetic facial pheromone on behavior of cats
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