トップ愛猫家の基本猫の殺処分の現状

猫の殺処分の現状~原因を知り自分たちにできる対策を実践する

 日本では毎年数万頭の猫たちがひっそりと殺処分され続けています。こうした殺処分の背景には一体何があるのでしょうか?そして、処分数を減らすために私たちにできることがあるとすれば、それは一体どのようなことなのでしょうか?(🔄最終更新日2019年12月)

猫の殺処分とは何か?

 猫の殺処分(さつしょぶん)とは、保健所や動物愛護センターに収容された猫の命を人間の意志によって断つことです。 犬猫を炭酸ガスで窒息死させる装置は、通称ドリームボックスと呼ばれます。  犬の場合は「狂犬病予防法」の規定により、飼い主のいない野良犬や野犬がいた場合は行政機関が捕獲しなければなりません。一方、猫を捕獲しなければならないという法律はありませんが、一般市民が「拾った」とか「怪我をしていたところを保護した」といって持ち込んだ場合は引き取る義務があります。また飼い主のいるペット猫の場合は「動物愛護法」の規定により、所有者から引き取りを求められたときは、これを引き取らなければなりません。
 このようにして行政機関に収容されている猫たちを、多額の税金を投入して生かし続けることは理想です。しかし現実世界ではそのような予算もないですし、「税金は人間の為に使え!」という納税者からの強い反発の声もあるため、上記したようなサンクチュアリは実現できていません。
 必然的にどこかの段階で口減らしをする必要がありますが、それが「殺処分」なのです。
NEXT:猫の年間殺処分数

2019年公開版・猫の年間殺処分数

 2019年12月、日本国内における猫の殺処分件数統計が環境省によって公開されました。データの集計期間は2018年4月1日から2019年3月31日までで、西暦で言うと「2018年度」、元号で言うと「平成30年度」の統計データということになります。
 最新のデータによると、2018年4月~2019年3月の1年間で、10,523頭の成猫と、20,234頭の子猫が殺処分されました。この頭数を具体的に「見える化」したものは、「平成30年度における猫の殺処分数(別ウィンドウ)に示しましたので、ぜひご覧ください。

都道府県別の殺処分数

 殺処分の件数データは、都道府県、指定都市、中核市において動物に関連した業務を行っている行政機関からの報告によって成り立っています。日本全国では121ヶ所あるため、具体的な件数を知りたい場合は、環境省が公開している「犬猫の引取り状況(都道府県・指定都市・中核市別)(PDF)というデータシートをご覧ください。
 以下では、都道府県を地域レベルでまとめなおしたデータをインフォグラフ化してあります。地域によって殺処分頭数に大きな開きがあることがおわかりいただけるでしょう。東北(4,882頭)、関西(6,116頭)、九州(6,312頭)だけでなんと日本全体の56.3%を占めていることが一目瞭然です。
地域別に集計した猫殺処分数一覧・2018年度版
2018年度における地域別の猫殺処分数一覧インフォグラフ
  • 北海道【殺処分数合計】=325頭
    【そのうち子猫】=212頭(65.2%)
  • 東北【殺処分数合計】=4,882頭
    【そのうち子猫】=2,023頭(41.4%)
  • 北陸【殺処分数合計】=1,039頭
    【そのうち子猫】=527頭(50.7%)
  • 関東【殺処分数合計】=3,382頭
    【そのうち子猫】=2,726頭(80.6%)
  • 中部【殺処分数合計】=3,381頭
    【そのうち子猫】=2,335頭(69.1%)
  • 関西【殺処分数合計】=6,116頭
    【そのうち子猫】=3,938頭(64.4%)
  • 中国【殺処分数合計】=1,484頭
    【そのうち子猫】=561頭(37.8%)
  • 四国【殺処分数合計】=3,364頭
    【そのうち子猫】=2,606頭(77.5%)
  • 九州【殺処分数合計】=6,312頭
    【そのうち子猫】=5,069頭(80.3%)
  • 沖縄【殺処分数合計】=472頭
    【そのうち子猫】=237頭(50.2%)

殺処分の多い県・ワーストランキング

 都道府県によって大きな開きがある殺処分件数。具体的にどの県が多いのでしょうか?2018年4月1日から2019年3月31日までの集計データを元に見てみましょう。

引き取り数が多い県

 「引き取り数」とは行政機関に収容された猫の合計数です。飼い主のいる猫、いない猫、成猫、子猫のすべてが含まれています。
引き取り数ワーストランキング
  • 福島県(県+福島市+いわき市+郡山市)=2,869頭
  • 愛媛県(県+松山市)=2,743頭
  • 広島県(県+広島市+呉市+福山市)=2,627頭
  • 宮城県(県+盛岡市+仙台市)=2,073頭
  • 群馬県(県+前橋市+高崎市)=1,968頭

殺処分数が多い県

 「殺処分数」とは行政機関によって人為的に命を絶たれたり事故や病気で命を落とした猫の数です。引き取り数と合わせ、福島県が二冠を達成しています。一方、引き取り数が多い県において、必ずしも殺処分数が多いわけではないという傾向も見て取れます。
殺処分数ワーストランキング
  • 福島県(県+福島市+いわき市+郡山市)=2,342頭
  • 愛媛県(県+松山市)=1,882頭
  • 長崎県(県+長崎市+佐世保市)=1,756頭
  • 大分県(県+大分市)=1,643頭
  • 群馬県(県+前橋市+高崎市)=1,547頭

殺処分率が高い県

 「殺処分率」とは収容した猫たちのうち、殺処分という憂き目に遭った猫たちの比率のことです。この率が高いということは、元の飼い主に対する返還や新しい飼い主に対する譲渡がうまくいっていないことを意味しています。同じ日本国内なのに、1割未満に収まっている自治体がある一方、9割以上の猫を処分している自治体があるようです。
殺処分率ワーストランキング
  • 高知県(県+高知市)=95.6%
  • 大分県(県+大分市)=91.7%
  • 長崎県(県+長崎市+佐世保市)=86.5%
  • 青森県(県+青森市+八戸市)=85.6%
  • 福島県(県+福島市+いわき市+郡山市)=81.6%

殺処分数の推移

 全国の合計数で見ると殺処分件数は年々減少傾向にあります。例えば以下は過去10年間における猫の「引き取り数」「殺処分数」「譲渡・返還数」の推移を表したグラフです。
過去10年間の殺処分推移
日本国内における過去10年間の猫の引き取り数、譲渡返還数、殺処分数の推移(2009年~2018年)
  • 引き取り数2009年・177,785頭→2018年・56,400頭
  • 譲渡・返還数2009年・10,621頭→2018年・25,631頭
  • 殺処分数2009年・165,771頭→2018年・30,757頭
  • 殺処分率2009年・93.2%→2018年・54.5%
NEXT:殺処分数減少の背景

殺処分数減少の背景

 2009年には177,785頭だった引き取り頭数が、2018年には56,400頭にまで減っています。また2009年には165,771頭だった殺処分数が、2018年には30,757頭にまで減っています。こうした減少の背景には何があるのでしょうか?

引き取りの拒否

 行政機関に対して猫の引き取り依頼があったとき、断ってもよいという新たなルールが定められました。このルールによって殺処分数が減ったという側面があります。
 2012年に改正された「動物愛護法(35条1項)により、保健所や動物愛護センターは猫の販売業者(ブリーダーやペットショップ)や民間人から引き取り要請があっても、場合によっては断ることができるようになりました。また「動物愛護法施行規則(21条2項)により、拒否できるときの事由が明記されました。具体的には以下です。
引き取り拒否事由
  • 販売業者から引き取りを求められた
  • 引き取りを繰り返し求められた
  • 繁殖制限措置に関する都道府県等からの指示に従っていない
  • 老齢や疾病を理由として引き取りを求められた
  • 飼養が困難であると認められない
  • 譲渡先を見つけるための取組を事前に行っていない
 上記したような拒否事由が具体的に明記されたことにより、悪質な繁殖業者が年老いた繁殖猫や疾患を抱えた子猫を行政機関に丸投げすることができなくなりました。また一般市民の引取依頼も断られるケースが増えました。この変化が殺処分数の減少に一役買ったと考えられます。

民間ボランティアの助力

 本来行政機関が行うべき猫の保管、飼養、譲渡業務を民間のボランティア団体に委託することにより殺処分数の減少が実現しています。
 民間の動物愛護団体に引き出された割合は全国平均で犬が46.5%、猫が43.8%。団体譲渡を行う90自治体と行わない25自治体では、殺処分率に10~17%の格差が出ることが確認されています(2017年度)
 殺処分数減少の背景にあるのは、縁の下の力持ちとでも言うべき民間ボランティアの存在です。殺処分の対象となりやすい離乳前の子猫たちを預かる人たちは特に「ミルクボランティア」と呼ばれ、命のリレーにおいて重要な役割を担っています。

数字のからくり

 「殺処分」という言葉の定義を行政機関が勝手に書き換えることによって数字上は殺処分が減ったように見えることがあります。
 例えば2017年度、東京都における猫の殺処分数は192頭と発表されています。しかし東京都福祉保健局が公開している統計データをよく見ると「動物福祉の観点からの致死処分」や「収容後に死亡」という項目があり、年間469頭の猫が死んでいることがわかります。こうした猫たちが殺処分数にカウントされていない理由は、東京都が「動物福祉の観点からの致死処分は殺処分に含めない」と定義付けているからです。
 また2018年度から殺処分に3つの区分が設けられ、各自治体は定義に沿って分類するよう義務付けられました。環境省がおおまかなガイドラインを示しているものの、最終的な判断は現場に任されているため、自治体によって命の線引きが異なるという事も起こりえます。具体的には以下の3区分です。 動物愛護管理行政事務提要の「殺処分数」の分類
殺処分の区分法
  • 譲渡が適切ではない獣医師が動物愛護管理法の趣旨に照らして譲渡することが適切ではないと判断したときに行われる殺処分です。具体的には以下。
    治癒の見込みが無い怪我や重度の認知症 | 動物衛生又は公衆衛生上問題となる感染症等に罹患(パルボウイルス感染症・猫白血病・猫後天性免疫不全症候群 etc) | 重篤な病気に罹患(毛包虫症による皮膚炎等難治性の重篤な疾病や著しい奇形 etc) | 人や他の動物に危害を及ぼす恐れが高い(飼い主等を再々咬んだ履歴を持つ etc)
  • 家庭で飼養できる愛玩動物や伴侶動物として一般家庭に譲渡できるにも関わらず行われる殺処分です。具体的には以下。
    適切な譲渡先が見つからない(軽度の疾病・怪我・先天性疾患、高齢、人に馴染まない etc) | 収容スペースが足りない | つきっきりの世話ができない(幼齢や病気 etc)
  • 引取り後の死亡人為的な操作以外で収容動物が命を落としたときの区分です。厳密な意味で殺処分ではありません。具体的には以下。
    病気 | 老衰 | 事故 | 闘争 | 幼齢 | 輸送
 上記したように一応の定義はあるものの、分類の裁量は各自治体にあり、けっこう怪しげな数字も見られます。例えば「譲渡不可動物」の割合に関し、兵庫県が99.3%(825/831)であるのに対し、岐阜県が67.5%(560/830)、福岡県が14.7%(121/825)などです。現場の職員は国から「殺処分ゼロ」というプレッシャーを掛けられており、住民からの苦情の電話に忙殺されることもあるでしょう。そうした状況の中で「家庭で飼養できる動物(殺処分)」を「譲渡が適切ではない動物(仕方のない致死処分)」として区分し、殺処分数が減ったように見せかける誘惑に、果たして勝てるでしょうか。
NEXT:殺処分の方法は?

猫の殺処分はどのように行われる?

 猫の殺処分は、通称ドリームボックスと呼ばれる殺処分用の機械で5~20分かけて炭酸ガスで窒息死させます。一昔前は脳天をバットで叩き割ったり、「硝酸ストリキニーネ」と呼ばれる毒薬を用いた殺処分が行われていましたが、コストや職員の安全性を考慮して炭酸ガスによる窒息死が採用されるようになりました。 犬猫を炭酸ガスで窒息死させる装置は、通称ドリームボックスと呼ばれます。  ちなみに以下は、各都道府県における猫の処分方法、および保護した動物の収容期間を一覧化した資料です。ちらほら薬剤注射(安楽死)という言葉が見られるものの、ほとんどの地域では苦痛を伴う「炭酸ガス」を採用している現状が見て取れます。 自治体における犬・猫の引取り等の業務実施状況(環境省発行)  ドリームボックスとは、「眠るように安らかに旅立てる」という意味をこめて名づけられたようですが、こうした表現は動物を保健所や愛護センターに持ち込む飼い主の罪悪感を緩和してしまう恐れもあります。また動物愛護センターという名称自体も、「捨てた動物を職員が愛護してくれるんでしょ?」という単純な思い込みを助長する危険性をはらんでいます。結果として、飼い犬や飼い猫を安易に動物愛護センターへ連れてくる人が増えるのではないかと思えてなりません。
動物愛護センターは、猫や犬を一定期間保護した後、殺処分する施設という側面を持っているのが現実です。都道府県によってまちまちですが、一般的に保護された猫は3~7日以内に飼い主が見つからない限り、殺処分されます。
 以下でご紹介するのは愛媛県動物愛護センターにおける犬猫殺処分業務の動画です。愛媛県では「センターがやっていることを隠すから現実が伝わらない。隠さなければ県民が現実を知り、変わってくれるはず」という信念の元、情報公開を徹底しています(📖:今西乃子著「犬たちをおくる日」)
【閲覧注意】猫の殺処分動画
ここでご紹介(しょうかい)する映像(えいぞう)の中には残酷(ざんこく)なシーンが含まれています。現実(げんじつ)を直視(ちょくし)する覚悟(かくご)を決めた人だけご覧下さい。
殺処分の現実(前半)⇒こちら 殺処分の現実(後半)⇒こちら
『殺処分するとき。通常は一匹ずつ猫室から手でつまみ出し、鉄カゴに移し替えている。収容数が多いときは一匹ずつ移し替える作業が面倒だ、との理由でそのまま鉄カゴに入れっぱなし。殺処分の開始と同時に処分機の中へ運び入れてしまう』 犬房女子(大月書店)
 以下は殺処分数の中において幼齢個体、すなわち離乳も終わっていないものも含めた1歳未満の子猫が占める割合の一覧グラフです。どの地域も異常に高い値を示していることがわかります。青い棒グラフが殺処分の総数、赤い文字が子猫の占める割合です。なお、殺処分数筆頭の福島県(1,693頭)のほか、和歌山県(1,188頭)と山口県(372頭)が子猫の区分を行っておらず、すべて成猫としてカウントされているため、実際はこの数値より大きくなります。 猫の殺処分数の中に占める子猫(離乳前の幼齢個体)の割合一覧グラフ(2018年度)  日本全国で平均すると殺処分される猫のうちおよそ65.8%が1歳未満の子猫によって構成されています。ではいったいなぜ、愛玩動物であるはずの猫を人為的に殺す必要があるのでしょうか?具体的な背景を見ていきましょう。
NEXT:殺処分の理由は?

猫の殺処分はなぜ行われる?

 猫の殺処分が減らないのは、猫を捨てる飼い主がいること、及び、不妊手術をしていない野良猫にエサを与える人間がいることが大きな原因です。

飼育放棄された猫の殺処分

 殺処分される猫のうち、およそ18%は飼い主による飼育放棄が原因です。
 環境省が公開している最新の統計データ「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」の平成30年度(2018)版を見ると、以下のような現実を読み取ることができます。「行政による引き取り」とは、動物愛護センターや保健所で、殺処分や譲渡を前提に動物を収容することです。
平成30年度・飼い主からの引き取り要請
平成30年度における、行政による猫の引き取り~飼い主からの引き取り要請
  • 行政による引き取り猫数の合計=56,400匹
  • 飼い主からの引き取り要請=10,450匹
  • 引き取り要請中の子猫(赤)=3,490匹
  • 引き取り要請中の成猫(青)=6,960匹
 行政によって引き取られる猫56,400匹のうち10,450匹、すなわち18.5%近くが飼い主自身による持ち込みだという事実が浮き彫りになっています。さらに飼い主が持ち込む猫のうち、約33.4%近く(3,490匹)が離乳前~1歳未満の子猫です。これは不妊手術を施していない猫が産み落とした子猫を、そのまま保健所や動物愛護センターに丸投げしているものと考えられます。
 このように、飼い主がいとも簡単に猫を捨ててしまう原因は以下です。
飼い主が猫を捨てる理由
  • 引越し先がペット禁止なので
  • 猫が大きくなって可愛くなくなったから
  • 予定外の出産で、たくさん子猫が産まれてしまったから
  • 面白半分で繁殖してみたけど、子猫のもらい手を探していなかったから
  • 言うことを聞かず、爪とぎで部屋の中が傷だらけになるから
  • 赤ちゃんをひっかいたら大変!
  • 猫が病気になったけど経済的に余裕がないから
  • 老猫の介護がしんどくて
  • 飼い主が他界して面倒を見る人がいないから
 どの理由をとっても、飼い主の側に知識や予測さえあれば防げるものばかりだということはお分かりいただけるでしょう。キツイ言い方が許されるのならば、猫を捨てることに元来理由などなく、捨て猫とは飼い主の無責任と無知の代償を、猫に押し付ける行為なのです。
 特に高齢者の健康問題に伴う飼育放棄、不妊手術を怠った飼い主による多頭飼育崩壊、そしてブリーダーや引き取り屋の廃業に伴う一斉放棄は、もはや社会問題化していると言っても過言ではありません。こうした行為が猫の殺処分数を増やしています。

野良猫や野猫の殺処分

 所有者不明として引き取られる猫の多くは、野良猫が産み落とした子猫です。そして、子猫を産み落とす野良猫を養っているのは、一部のエサやり人だという現実があります。
 環境省が公開している最新の統計データ「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況(平成30年度)を見ると、以下のような現実を読み取ることができます。「行政による引き取り」とは、動物愛護センターや保健所で、殺処分や譲渡を前提に動物を収容することです。
平成30年度・所有者不明猫の引き取り
平成30年度における、行政による猫の引き取り~所有者不明の捕獲
  • 行政による引き取り猫数の合計=56,400匹
  • 所有者不明猫の引き取り=45,950匹
  • 所有者不明中の成猫(緑)=11,898匹
  • 所有者不明中の子猫(紫)=34,052匹
 行政によって引き取られる猫56,400匹のうち45,950匹、すなわち81.5%近くが「所有者不明」(野良猫)という内訳なっています。さらにそのうちの74.1%(34,052匹)までもが子猫で構成されています。つまり不妊手術を受けていない野良猫が産み落とした子猫たちの多くが「近所迷惑」という形で行政に持ち込まれているのが現状なのです。
 こうした子猫の殺処分に拍車を掛けているのは、野良猫たちに定期的に食料を与るエサやり人の存在です。エサやり人の多くは「エサはあげるけれども、しつけや不妊手術、糞尿の世話や生まれた子猫のことなどは知りません」というスタンスで猫と接します。その結果、エネルギーの余った猫たちが交尾行動に走り、救われない命を産み落とすという悪循環が生まれているのです。  つまり殺処分される所有者不明の子猫の一部は、後先を考えずに猫を餌付けしているエサやり人が間接的に産み出しているという側面があるのです。 

こうして野良猫は引き取られる

 野良猫にエサを与えている人が自分の行為の重大性に気づかない理由は、「あんな可愛い生き物を嫌いな人がいるのだろうか?」という錯覚に陥っているためだと考えられます。こうした錯覚を抱いていると、「仮に子猫が生まれたとしても、どこかで誰かがエサを与えてくれるでしょ?」という楽天的な思い込みにつながり、「エサやり」という行為が引き起こす重大な悲劇に気づかないまま、どんどん子猫を増やしてしまいます。
 世の中には、猫に対して不快感を示す人がたくさんいるというのが真実です。環境省が公開している「飼い主のいない猫の繁殖制限について(PDF)というデータによると、2009年度、81の自治体において猫に関する苦情が83,110件寄せられ、そのうちの51.6%が「飼い主のいない猫」に関するものだったといいます。具体的な苦情の内容は以下です。
飼い主がいない猫への苦情内容
飼い主がいない猫への苦情内容(2009年度)
  • 捨て猫や野良猫がいる(青)~20.2%
  • 引き取ってほしい(赤)~16.9%
  • 糞尿や悪臭(緑)~16.4%
  • 捕まえにきてほしい(紫)~15.7%
  • その他(内容不明・翡翠)~10.8%
  • 誰かが餌やりをしている(オレンジ)~6.8%
  • その他(内容判明・薄紫)~6.0%
  • 敷地を荒らしている(肌色)~5.1%
  • 鳴き声がうるさい~1.9%
  • 誰かが虐待している~0.2%
 上で示したように、猫に対して不快感を示し、行政に「引き取ってほしい」と持ち込んだり、「捕まえてほしい」と捕獲依頼をする割合が、全体の32.6%を占めています。こうしたルートを経て保健所や動物愛護センターに収容された猫たちが、殺処分数の増加に拍車をかけているのです。さらに、ここで示したデータは、わずか81の自治体から集められた断片的なものに過ぎません。日本全国には1,700を超える自治体がありますので、実際の苦情件数はこれよりもはるかに大きくなり、その分だけ行政に引き取られる猫の総数も大きくなります。
 道路にキャットフードをばら撒いている人は、「猫が嫌いな人間もいる」という認識をもち、「誰かが子猫の面倒見てくれるでしょ?」という希望的観測ではなく、「誰かが保健所に持ち込むかもしれない!」という危機感をもつことが重要です。
そうすれば、飼育される見込みのない子猫を増やすことが、いかに残酷なことであるかも見えてくるでしょう。
NEXT:殺処分数の減らし方

猫の殺処分はどうしたら減らせる?

 毎年多くの猫が殺処分されていますが、下のグラフに示すとおり、毎年少しずつその数が減ってきています。この数を今後さらに減らし、「ノーキル」を実現するため、私たちにもできることがあります。 行政機関による引き取り数・殺処分数・譲渡返還数の年次推移
殺処分減少の対策・目次

まずは現実を知る

 まず、動物愛護センターは負担になったペットを引き取ってくれるホスピスではないという現実を知ることが、最初の一歩です。「ホスピス」とは、動物が死ぬまで付き添ってくれる施設のことを指します。「愛護」という名称に釣られ「動物愛護センター=終生飼養センター」と勘違いしている人が、少なからずいるのが現状です。
 動物愛護センターや保健所に引き取られた猫のうち、54.5%までもが殺処分と言う憂き目に遭っており、譲渡や返還などで生還を果たすものは、わずか45.5%に過ぎません。つまり、ひとたび愛護センターに預けたら、5割以上の確率で死が待っていると言っても過言ではないのです。
殺処分数と譲渡・返還数の割合(H30年度版)
殺処分数と譲渡・返還数の割合を示すグラフ
  • 殺処分される猫の数~30,757匹(54.5%)
  • 返還や譲渡で生き残る猫の数~25,631匹(45.5%)
 こうした殺処分の現実を知らないがために、「ちょっと負担になってきたから…」といった軽い気持ちで、ペットを動物愛護センターに連れて来る人がいます。「飼育を放棄すること」と「ペットを殺すこと」とはほぼ同義であり、「動物愛護センターはお荷物になったペットを愛護してくれる受け皿ではない」という現実をまずは知る必要があるでしょう。そしてこの事実を多くの人に知らせることは「ペットにホスピスはない。ひとたび迎え入れたら、終生飼うしかない」という自覚を高めることにつながります。
🔔今すぐできる対策

飼育放棄しない

 猫を家に迎え入れたにもかかわらず、何らかの理由で飼育を放棄してしまう人がいます。こうした飼育放棄を減らすことが猫の殺処分数減少につながります。
 飼育放棄の理由としては、迎え入れる前のシミュレーション不足、猫アレルギー、飽き、猫の問題行動、かさむ費用、介護の苦労など様々なものが考えられますが、そのほとんどに人間の側の知識不足が関わっています。欲しいときに欲しい情報がすぐに手に入るという状況が、飼育放棄に歯止めを掛けてくれるのなら、以下のページがいくらか役に立つでしょう。
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飼い猫に不妊手術を施す

 飼育放棄される子猫の数を減らすためには、飼い猫に対する不妊手術の徹底が不可欠です。
 環境省が公開している「犬猫の不妊去勢の義務化について(PDF)によると、平成23年度では、犬で62%、猫で19%が生殖能力を保ったまま飼育されています。またペットフード協会の統計データ「全国犬猫飼育実態調査」の2019年度版でも、やはり13.6%の猫が不妊手術を受けていないと報告されています。飼い主が不妊手術に対して二の足を踏む理由は以下です。
なぜ不妊手術をしない?
猫に不妊手術を施さない飼い主の言い分
  • 手術する必要が無い~36.8%
  • 手術費用が高い~32.9%
  • 可哀相~22.4%
  • まだ若い~10.5%
  • 面倒~9.2%
  • 子猫を産ませたい~6.6%
 「子犬や子猫を産ませたいから」と言う人の中には、飼育空間や経済力が欠けているにも関わらず、面白半分で犬猫を繁殖させる人もいます。こういう人たちはたいてい、実際に子犬や子猫が生まれると、「生まれちゃったからもらってよ!」と友人に泣き付いたり、「飼い猫が子猫を生みました。里親さん急募です!」とネットに助けを求めたりします。さらにひどい飼い主になると、子犬や子猫をダンボール箱に入れて道端に遺棄したり、動物愛護センター、動物病院、猫カフェの入り口に置き去りにすることもありますが、これはもはや犯罪行為です。
愛護動物を遺棄した者は、百万円以下の罰金に処する(動物愛護法・第44条その3)。 動物愛護法をもっと知ろう
 不妊手術には、飼育放棄される子猫の数を減らすと同時に、繁殖期におけるストレスを軽減したり、生殖器関連の病気を予防するという重要な意味があります。こうした知識とペットに対する愛情があれば、「必要がない」「費用が高い」「面倒だ」という意見は、そうそう出てこないはずです。
 また、子犬や子猫を産ませる理由として「可愛いペットの子犬や子猫を見てみたい」「メスとして生まれたなら出産という一大イベントを経験したいはず」「赤ちゃんが生まれる姿を見せて情操教育につなげる」といったものを挙げる人がいます。しかしこうした理由で犬猫の繁殖をするのは、生まれてきた子犬や子猫全てに対して責任を負える人だけでしょう。
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猫を迷子にしない

 猫を迷子にしないことが殺処分の減少につながります。
 「所有者不明」として行政に引き取られる猫の中には、迷子になった末に捕獲されるというパターンがあります。ペットフード協会が公開している「全国犬猫飼育実態調査」によると、2019年における猫の飼育場所は、以下のような比率になっています。
2019年・猫の飼育場所
11%近くの飼い主は、猫を屋外に自由に出している
  • 完全室内=75.6%
  • 散歩時以外は室内=12.8%
  • 室内・屋外半々=8.8%
  • 主に屋外=2.8%
 完全室内飼いが75.6%と、全体のおよそ3/4を占めている一方、猫を自由に外に出している「主に屋外」、「室内・屋外半々」の合計が11.6%に達しています。このように放し飼いされている猫の方が、完全室内飼いの猫よりも迷子になりやすいことは、言うまでも無いでしょう。  また交通事故などで負傷し、行政機関に収容された後に殺処分される猫たちの数は、平成30年度で年間7,673頭に達しています。さらに路上死動物として人知れずゴミ回収業者に処理されている猫たちの数は、殺処分数の3倍超に達する可能性が示唆されています。こうした数字の一部を構成しているのが迷子猫です。屋外を出歩く猫たちの過酷な現実を知っていれば「外を出歩くのは猫の自然な行動だ」とはもはや言えなくなるでしょう。負傷動物や路上死動物に関する詳細は「猫を放し飼いにしてはいけない理由」にまとめてありますのでご参照ください。
 飼い主にできることは、まず完全室内飼いにすること、そしてマイクロチップをした上で猫の逃亡を予防することです。さらに、猫の放浪衝動を抑制するため、不妊手術を受けさせることが望まれます。
🔔今すぐできる対策

衝動買いをしない

 「猫を飼いたい」という気持ちがあっても、じっとこらえて衝動買いに走らないことが、殺処分数の減少につながります。
 平成20年6月に公正取引委員会事務総局が公表した「ペット(犬・猫)の取引における表示に関する実態調査報告書」によると、ペットと出会って24時間の内に衝動的に購入してしまう人の割合は、およそ13.5%と推計されています。しかしたった24時間で、この先10年以上にわたる猫との共同生活を完全にシミュレーションすることなどできません。その結果、衝動的に買ったはいいものの、手術費用、病気の医療費、猫の問題行動、引越し、自身の出産、猫アレルギーの発症など、当初は考えてもいなかったような事情が発生し、最終的には猫を手放してしまうというケースも少なからずあります。
 上記したような衝動買いを促している要因の1つは、「猫ブーム」や「ネコノミクス」に便乗する形で放映される軽薄な動物番組です。こうした番組がどのようにして視聴者の購買意欲を煽り、生体販売を助長して殺処分数を増やしているかに関しては以下の記事にまとめてありますのでご参照ください。 「猫ブーム」や「ネコノミクス」が招く悪影響  猫の殺処分数を減らすには、「猫を飼いたい」と思ってもペットショップに直行するのではなく、まずはじっくりと猫との生活を吟味し、「飼っても大丈夫だ!」と自信を持って言えるまで、クールダウン期間を設けることが大事です。
🔔今すぐできる対策

ペット流通の闇を知る

 ペット流通の闇を知ることは、ブリーダーの元からペットショップに至るまでの間に死亡してしまう「流通死亡数」の数を減らすことにつながります。
 2019年11月に発売された『「奴隷」になった犬、そして猫(📖:朝日新聞社)の中では、繁殖から小売に至るまでの間に命を落とす猫の総数が試算されています。元データとなったのは、2013年9月に施行された改正動物愛護法により、ペット関連業者に提出が義務付けられた「犬猫等販売業者定期報告届出書」。この届出書の内容を年度ごとに独自集計したところ、以下のような実態が明らかになったと言います。
猫の流通死数と殺処分数の比較
繁殖から小売までの間に死ぬ猫の流通死数・年次統計
  • 2014年度=4,664頭
  • 2015年度=5,088頭
  • 2016年度=5,556頭
  • 2017年度=5,679頭
 「犬猫等販売業者定期報告届出書」に死因については報告義務がないため、4~5千頭に達する猫たちが一体どのような理由で死に至ったのかはわかりません。しかし記事内で推計されている死亡数の多さは、同年度の殺処分数と比べても到底無視できるものではないでしょう。殺処分数が年々減っているのに対し、流通死数は逆に増えているという恐ろしい傾向も見て取れます。
 こうした死亡数を押し上げている原因は、オークションを経由して、まるで野菜のように次から次へとペットショップに子猫を送り出している日本のペット産業です。ショーケースの中で無邪気に戯れる子猫の背後では、少なからぬ犠牲が払われているという事実は知っておかなければなりません。知っていれば、安易なペット購入に歯止めがかかり、結果として流通死する猫たちの数を減らすことができます。
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ペットのオークション会場で箱詰めされたトイプードル

保護施設から引き取る

 猫の殺処分数を減らすためには、ペットを迎えようと思ったとき、まずは「保護施設から譲り受ける」という選択肢を考えることが必要です。
 猫の養子縁組を斡旋(あっせん)している機関には、公的な動物愛護センターや保健所のほか、民間の動物愛護団体があります。特徴は「審査があること」「猫はほとんどが雑種であること」などです。前者に関しては自分自身が猫を飼える状態かどうかを見極める、ちょうどよいきっかけになってくれるでしょう。また後者については「ペットショップで猫を買う前に」をお読みいただき、ペッショップで販売されている「純血種」の子猫たちが、一体どのようなルートを通じて店頭に並んでいるのかを知って頂ければと思います。
 保健所や動物愛護センターに引き取られる猫のうち、譲渡や返還などで生き残れるものは、わずか4割程度に過ぎません。こうした保護機関から里親として猫を引き取れば、殺処分という運命から猫たちを救うことができるのです。また里子となる猫の一時預かりなどの形で関わることもできます。
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  • ペットショップに行こうとしている人にこのページを見せる
  • 猫・子猫の里親募集案内を読む
  • 里子となる猫の一次預かりになる
  • ミルクボランティアになる

ボランティア・寄付をする

 「ボランティア」という形で労働力を提供したり、「寄付」という形で金銭や物品を提供することで、犬や猫の殺処分数を減らすことができます。
 近年は「認定NPO法人制度」や「ふるさと納税制度」といった新しいシステムが誕生したことにより、犬や猫の保護活動を行っている団体に寄付をすることで、自分自身の節税にもなるという新たな流れができあがりました。ボランティアという形で保護活動の前線に行くことも、寄付という形で後方支援することも、犬や猫の殺処分低下のためには重要な要素です。詳細は以下のページにまとめてありますのでご参照ください。
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里親情報の拡散

 現代はブログやTwitter、Facebookなどのソーシャルメディアが発達しており、個人からでも気軽に多くの情報を発信することができます。こうしたメディアを利用して、里親情報を拡散することも、立派な動物愛護活動の一つです。
 Twitterを利用する場合は、里親情報をリツイートするだけで、自分のフォロワーに情報を拡散することができます。以下は一例です。
Twitterを用いた里親情報拡散の例
 譲渡会や里親会の情報拡散を行う場合は上記したように、「譲渡 里親 犬 猫 住所 会場 日付」といった内容を具体的なテキストデータにすると分かりやすく、また人の目につく確率も高まります。よくある例は、情報を一つの画像にまとめたために検索に引っかからなくなる、「明日行います!」と宣言するだけで日付を明記しない、「いつもの場所で恒例の譲渡会を開催!」と告知するだけで場所や時間を明記しないなどです。これではせっかくの機会が情報の海の中に沈んでしまいます。
 なお里親会や譲渡会の拡散を行う場合は、一部の里親詐欺を防ぐため保護団体がしっかりとした譲渡条件を設けているかどうかも確認するようにします。「猫を持ち帰るためのケージをご用意下さい」という場合、里親希望者の身元や飼育環境をしっかり確認していないということになります。また里親希望者が勢いで猫を引き取ってしまうのを防ぐため、猫を飼う前に必要な条件が整っているかどうかを念押しする必要もあるでしょう。具体的には以下のような情報も合わせた方が理想です。
拡散に必要な付随情報

無節操なエサやりをしない

 野良猫に対して無節操にエサを与えないことが殺処分の減少につながります。 エサやり→出産数の増加→糞・鳴き声→近隣住民の不満→保健所→殺処分、という無限の悪循環  食料が豊富にある生活中心域よりも、食料が乏しい周辺域のメス猫の方が、繁殖能力が低く、産み落とす子猫の数も少なくなるといいます(Macdonaldら, 1988)。つまり、人間がエサやり人として猫にとっての食料中心域になってしまうと、メス猫の活力が増し、産み落とす子猫の数が増えてしまうのです。そしてこのようにして生まれた子猫の多くは「所有者不明」の猫として、遅かれ早かれ行政施設へ送り込まれるという悪循環ができあがります。
 ですから殺処分数を減らすためには、まず悪循環のスタート地点である「無節操なエサやり」をやめることが必要なのです。ここで言う「無節操」とは、捕獲や地域猫活動(※後述)を視野に入れていない状態のことを意味します。  「飢えた野良猫を見殺しにすること自体が動物虐待だ! 」という考え方もあります。しかし下の図で示したように、「エサやり」という行動と子猫の死とが密接に連動していたらどうでしょう。全ての人が「ちょっとだけなら大丈夫!」という根拠のない思い込みを持って「道路にキャットフードをばらまく」といった好き勝手な行動に走ってしまうと、遅かれ早かれ点火ボタンが押され、子猫たちにしわ寄せが行ってしまいます。こうなると逆に「エサやりという行為自体が動物虐待だ!」と反論されてしまうでしょう。 野良猫にエサをやることは、子猫たちを殺すことにつながる  猫たちにとって空腹は苦痛ですが、寄生虫やノミダニ、腎不全、寒風吹きすさぶ中での睡眠もまた苦痛です。そして交通事故や病気などで、人知れずゴミ回収業者に処理されている屋外猫の数は殺処分数の3倍超と推計されています(→猫を放し飼いにしてはいけない理由)。
 空腹がかわいそうと思うなら、怪我や病気に遭うことも同じようにかわいそうと考え、窓際に猫用のベッドを用意してぜひその猫を家の中に迎え入れてあげてください。食料と同時に糞尿と健康の面倒も見てあげられないのなら、少なくとも猫に不妊手術を施し、地域猫として飼養することが子猫の殺処分低下につながります。

野良猫に不妊手術を施す

 野良猫に不妊手術を施すことが、殺処分の減少につながります。
猫の繁殖力は、家畜動物の中でもトップレベル  不妊手術を受けていない野良猫を野放しにすると、繁殖期に合わせて子猫がどんどん増えてしまいます。猫の繁殖力は家畜動物の中でもトップレベルで、Wynne-Edwards(1962)の試算によると「自由に交配できる環境で暮らすメス猫の場合、10年間で50~150匹の子猫を出産する」という結果が出ています。またBloomberg(1996)の試算では「1世代ごとに8匹の子猫が生まれたとすると、始めは1匹だった猫が7年後には174,760匹にまで増える」そうです。
 このようにすさまじい精力を持った野良猫の繁殖を抑制する方法は、大きく分けて2つあります。まず一つはむやみにエサを与えないこと。そしてもう一つはあらかじめ野良猫に不妊手術を施しておくことです。
 以下では野良猫に不妊手術を施す代表的な方法をご紹介します。

地域猫活動

 「地域猫」とは、エサや水をやる場所が決められ、簡易のねぐらをもち、不妊手術を施されて野良猫とは区別される猫のことです。また「地域猫活動」とは、地域住民が上記「地域猫」を共同で世話し、頭数を増やさないようにする事を指します。
 1997年(平成9年)、神奈川県横浜市磯子区の猫好きな住民たちから始まったこの活動は、その後全国に広がっていきました。地域猫を飼う際の一般的なルールは以下です。
地域猫活動の基本ルール
  • 不快感を催させるほどに増えないよう不妊・去勢手術を行う
  • 健康管理を行って伝染病や寄生虫の蔓延を防ぐ
  • 公共の場所や他人の敷地に放置された糞を、ネコを世話する側が掃除する
  • 入って来てほしくない場所には侵入防止用の措置を行う
  • 個体の把握と管理のため、管理されたネコには首輪や耳カットといった目印をつける
  • 餌を与える場所を定め、給餌行為で他人に迷惑を掛けないよう配慮する
 このように、むやみやたらにエサを与えるのではなく、しっかりと繁殖管理をした上で、地域全体が猫を共同飼育するのが地域猫活動です。 磯子区・猫の飼育ガイドライン 東京都・「飼い主のいない猫」との共生モデルプラン

TNR活動

 「TNR活動」とは、「Trap」(捕獲)、「Neuter」(不妊手術)、「Return」(戻す)の頭文字をとった表現で、簡潔に言うと「野良猫を一時的に捕獲して不妊手術を施し、また元の場所に戻してあげる」ことです。
 2004年に行われた調査によると、TNRを受けた猫の群れでは、2年間で約36%個体数が減少したのに対し、受けなかった猫の群れでは、逆に47%増加したといいます。また2003年に行われた調査では、11年間で個体数が66%減少したとしています。すべての地域で同様の結果が出るわけではありませんが、TNRが目標としているのはこのような緩やかな個体数の減少です。
不妊手術を施した証として耳の先をカットされた、通称「さくらねこ」  不妊手術を施された野良猫は、その印として左耳の先を少し切り取られ、「さくらねこ」と呼ばれるようになります。これは、耳の形がちょうど桜の花びらに見えるからです。この目印は、1983年、Cuffeという名の獣医師によって考案されました。
 地方自治体によっては、野良猫の去勢・避妊手術に対して助成金を設定しているところがあります。以下は、各都道府県における助成金の有無一覧です。ご自身の所属している地域に、助成制度があるかどうかご確認ください。 犬・猫の引取り等手数料及び不妊・去勢手術助成金(平成30年度版)

TVHR活動

 TVHRとは「Trap-Vasectomy or Hysterectomy-Return」の略で、「野良猫に精管切除/子宮摘出手術を施して元の場所に戻す」ことです。TNRとの違いは不妊手術の内容で、TNRの「N」(Neuter)は「睾丸切除/卵巣摘出」手術を指します。
 2013年にアメリカ・タフツ大学が行ったシミュレーションにより、「野良猫の頭数調整には、TNRよりもTVHRの方が効果的である」という可能性が示されました。生物学者マイケル・リード氏らは、TNRとTVHR両方の効果を比較するため、「200匹の猫を6,000日間に渡って観察する」という大規模なコンピューターシミュレーションを行いました。その結果は以下出典資料:Robert J. McCarthy, 2013
TVHR
 11年で猫の集団を消滅させるには、全体の35%に対してTVHRを施す必要がある
TNR
 11年で猫の集団を消滅させるには、全体の82%に対してTNRを施す必要がある
 このようにシミュレーションレベルでは、「野良猫の頭数調整においては、TVHRの方が圧倒的に効果的である」という可能性が示されました。
 TVHRがもつ効果の背景には、以下のようなメカニズムがあると考えられます。
TVHR効果のメカニズム
  • 群れの中にボス猫がいる限り、序列が下のオス猫はメス猫に手を出しにくく、交尾機会が減る
  • 群れの中でハーレムを作るボス猫にTVHRを施すと、交尾を行うものの、繁殖力はなくなる
  • メス猫はボス猫を受け入れるが、精子が出ないため、偽妊娠で終わる
  • 偽妊娠中のメス猫は他のオス猫の求愛を拒むため、群れ全体における交尾の機会が減る
 こうした様々なメカニズムが作用して群れの中における交尾回数が減り、結果として個体数の減少につながるというのが、現在考えられている説明です。
 しかしTVHRはいいことずくめではなく、以下のようなデメリットもあります。「オス猫の精巣を残し、パイプカットだけする」というTVHRの特性が主な原因です。
TVHRのデメリット
  • 繁殖期の鳴き声やケンカ
  • マーキングや敷地への侵入
  • 下位にいるオス猫の放浪と他所での繁殖
 TVHRには頭数制限という大きなメリットがある一方、上記したようなデメリットもあります。ですからこの方法がいきなり従来のTNRに取って代わるということはないでしょう。それよりも、TNRとTVHRがもつそれぞれ特性を、状況に応じて使い分けるという柔軟な姿勢が、今後の殺処分数減少のためには重要だと思われます。

外猫ビジネスに加担しない

 屋外で命を落とす猫の数を減らしたいのならば外猫ビジネスに加担しないよう注意しなければなりません。
 外猫ビジネスとは「外にいる猫=のんびりして幸せ」という誤った印象を与える画像や映像を売りにしたあらゆる商売のことです。具体的にはドキュメンタリー風テレビ番組、アニメーション、カレンダー、写真集、地方で開催される写真展などが含まれます。また放し飼いにされている猫や野良猫をSNSなどに投稿して集客に利用している施設(カフェ・美術館・猫の島 etc)も含まれます。
 多くの人は気づいていませんが、実はこうした外猫ビジネスは以下に述べるような影響を及ぼすことによって間接的に猫の殺処分や路上死に加担しています。
外猫ビジネスの悪影響
  • 外猫の当然化画像や映像を繰り返し人目に晒すことにより単純接触効果が生まれ、猫が外にいることが当然であるという印象を与える
  • 外猫の美化悲壮感があると写真や映像が売れないため、外での暮らしを美化し、猫たちが幸せで楽しいかのような印象を植え付ける
  • 無責任な餌やり外猫をマスコットかなにかと勘違いした人が無責任な餌やりに走る
  • 捨て猫を増やす「外にいても元気に暮らしていける」と勘違いした飼い主が平気で猫を遺棄するようになる
  • 放し飼いを助長するテレビ番組を見て猫を外に出すことが当たり前であると勘違いした飼い主が、深く考えもせず放し飼いをする
  • 外猫の居場所を晒す外猫写真家のマネをした素人が野良猫の写真を撮り、ネット上で不用意に居場所を公開して虐待や連れ去りの温床となる
  • 潜在的支援者のミスリード「のんびりしているなら別に何もしなくていいよね」という安心感を招き、本来なら過酷な環境に暮らす外猫を支援してくれるはずの人たちが腰を下ろしたまま立ち上がってくれなくなる
 上記したような様々な悪影響を通し、外猫ビジネスは間接的に猫の殺処分と路上死に加担しています。驚くべきことに、国や地方自治体が猫の室内飼いを推奨しているにもかかわらず、一般企業だけでなく国営放送や市営の施設までもが外猫ビジネスに関わっているというのが現状です。
 猫に関しては殺処分数よりも屋外で命を落とす路上死数の方がはるかに多いという現実があります。こうした悲惨な死に方をする猫を少しでも減らしたいのなら「見ない」「買わない」「広めない」をモットーにして外猫ビジネスに一切関わらないようにしなければなりません。2019年の末から始まった新型コロナウイルスの世界的な大流行により、多くの人が自分の死を身近に感じたことと思います。安全な家があるのに猫を屋外に出したり、常に死と隣り合わせの外猫たちを美化する行為は、病気が蔓延する屋外に子供を置き去りにするのと同じことです。
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NEXT:皆様へのお願い

お願い

 行政機関による猫の殺処分や、その数倍と推計される路上死を減らすためには、繁殖を抑えると同時に譲渡を促進し、ウチ(内・家)猫を増やしていく必要があります。そのためには「外にいる猫=幸せ」といった印象を与える外猫ビジネスを一掃し、生体販売の背景にある闇や猫たちが置かれている過酷な現状を多くの人に知ってもらい、結果的に「手術を終えた猫を預かってもいいよ」「譲渡会の手伝いをしてもいいよ」「ペットショップで売られている猫ではなく保護猫を迎えよう」といった支援者を増やしていくことが必要です。
 お金だけでなく、猫の収容スペース、物資(猫砂・ケージ)、労力(預かりさん)、情報の拡散といったすべてが支援につながります。人々が団結し、少しずつでもリソースを出し合えば、かなり大きな力になるはずです。
具体的な支援の方法は「犬や猫のためのボランティア・寄付」にまとめてあります。ぜひご検討ください🙏