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猫の排尿に現れる健康と病気~おしっこタイムは必ずチェック!

 猫が見せる生理現象のうち「排尿」(おしっこ)についてまとめました。異常徴候の読み取り方も併記してありますので、病気の早期発見に役立ててください。

猫の正常な排尿

 排尿(はいにょう, urination)とは、膀胱に溜まった尿を体外に排出する生理現象です。排尿行為に関わる神経機構は、脳の一部である視床下部への電気刺激実験により、生後2週齢において既に確立していることが証明されています。1日に行うおしっこの回数は1~4回と幅があり、平均は2.3回程度です。なお、繁殖期に多く見られるマーキングは排尿行為とは別物で、行う時の姿勢も全く違います。 猫が見せる排尿とマーキングの姿勢の違い
 ペットとして飼われている猫でも野良猫でも、おしっこをする時の手順や姿勢はほとんど同じです。
猫の排尿手順
  • 軟らかい土や砂に小さな窪みを作り、簡易便所を作る
  • 前足を伸ばして後ろ足を広げ、硬直した尻尾を後方に突き出す
  • 腹筋の圧力と膀胱の収縮により一気におしっこを放出する
  • 排尿が終わると立ち上がり、前足で土や砂をひっかいておしっこを隠そうとする
 猫がおしっこをするときは、人間のように目をつぶったりせず、周囲の様子を伺いながら行う個体が多いようです。おしっこした後に妙にテンションが上がり、急に駆けずり回ったりガリガリと爪を研ぎ始める猫がいるのは、無事におしっこを終えた安心感が関係しているのかもしれません。またペット猫の中には、ペット用トイレの縁に前足を乗せ、まるで「立ち小便」のような格好で排尿をする猫がいたり、人間用のトイレで器用に用を足す猫もいます。
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排尿に現れる病気の徴候

 猫は泌尿器系の疾患が多いことで知られています。飼い主はおしっこの回数、排尿の長さ、出た尿の量や色などを毎日チェックするようにしましょう。以下に列挙するような異常が見つかった場合は、何らかの疾患にかかっている可能性がありますので、すぐ獣医さんに相談します。なお具体的な病名に関しては尿道から出した排出物猫の泌尿器の病気にまとめてありますのでご参照ください。
排尿行為やおしっこに現れる症状
特発性膀胱炎にかかった猫は「血尿」、「粗相」といった特徴的な行動を見せる
  • おしっこに時間がかかる
  • おしっこの後陰部を舐め続ける
  • トイレ以外の場所での粗相
  • おしっこの総量が多い
  • 1回量が少なく、尿の回数が多い
  • おしっこの総量が少ない
  • 尿が臭い
  • 尿がにごっている
  • 尿が濃い
  • おしっこに血が混じっている
 上記した以外にも、尿漏れや排尿困難の原因として知っておきたいものがいくつかありますのでご紹介します。

異所性尿管

 異所性尿管(ectopic ureter)とは生まれつき尿管に奇形があり、一方もしくは両方の尿管が正常な場所から外れてしまった状態のことです。猫における泌尿器系の先天的な病気として多く報告されています。
 原因は母猫の体の中にいるとき、後腎管と呼ばれる組織が分化していく過程で異常が発生し、尿管が女性器(メス)、子宮(メス)、精管(オス)など間違った場所に開いてしまうことだと考えられています。 猫の異所性尿管レントゲン写真(左外側から)  主な症状は子猫の頃から見られる持続的~断続的尿失禁です。ちょびちょびと漏らしたまま歩いたり、腹部の被毛がおしっこでべちゃべちゃに汚れたりすることで飼い主が気づきます。合併症として多いのは感染性の尿路感染症、膀胱炎、尿道炎、膀胱低形成、腎低形成、水腎症、水尿管などで、治療としては外科的に尿管膀胱吻合術が行われます。
 生後6ヶ月齢に満たない子猫がトイレを覚えないだとか、いつまでたってもお漏らしをするといった場合は、しつけやトイレのセッティングの問題ではなく、尿管の異常が関わっているかもしれませんので、動物病院で診察してもらいましょう。

腹部の手術?

 腹部の手術が尿漏れの原因になっている可能性がいくつかの症例で示されています。
 15ヶ月齢のときに避妊手術を受けたノルウエージャンフォレストキャットの症例では、術後半年くらいから尿もれが始まり、徐々に悪化していったといいます(Pisu, 2013)。2歳になったころに動物病院を受診した結果、後天性の尿道括約筋機構の機能不全(USMI)と診断されました。
 治療には発情期の抑制に用いられる避妊薬剤がインプラントという形で用いられ、25日後から回復して15ヶ月間の寛解を保ったと言います。
 腎臓にも膀胱にも異常はなく、尿も血液も正常の範囲内だったため、避妊手術が何らかの影響を及ぼしたものと推測されていますが、はっきりとした原因はよくわかっていません。
 その他の症例としては、避妊手術から64日経過してから排尿障害を発症し、膀胱捻転と診断された猫の報告があります(James, 2015)猫の膀胱捻転(レントゲン写真)  腸内にある「網」と呼ばれる結合組織の癒着が原因ではないかと考えられていますが、こちらも避妊手術との因果関係ははっきりしませんでした。膀胱固定術で回復しています。その他には帝王切開や子宮切除術の後に排尿障害を発症した症例がありますが稀です。

キーガスケル症候群

 キーガスケル症候群(Key-gaskell syndrome)とは自律神経が機能障害に陥る原因不明の神経系疾患。最初に報告されたのは1982年で、イギリスやスコットランドを中心として今でも散発的に症例が確認されています。 自律神経失調症のため瞬膜が出たまま戻らない猫  発症原因としては食事、毒物、遺伝、感染症などが想定されてきましたが、未だにはっきりとした答えは出ていません。自律神経失調症を発症した40頭の猫のデータを元にしたときの主な症状は以下です。
キーガスケル症候群の症状
猫のキーガスケル症候群の症状(自律神経失調症)で多く見られる症状一覧リスト
  • 沈うつ・食欲不振=100%
  • 便秘=95%
  • 鼻鏡の乾燥=95%
  • 涙の分泌低下=93%
  • 巨大食道症=92%
  • 瞳孔散大=90%
  • 吐出・嘔吐=82%
  • 瞬膜の突出=71%
  • 瞳孔対光反応消失=70%
  • 口腔粘膜の乾燥=69%
  • 徐脈(120未満)=59%
  • 肛門反射消失=29%
  • 便の垂れ流し=20%
  • 尿の垂れ流し=18%
  • 不全麻痺・虚脱=18%
  • 固有受容器の異常=14%
 キーガスケル症候群は自然回復することがあまりなく、多くの場合は合併症で死亡するか飼い主の判断により安楽死が施されます。安楽死の理由として多いのが排尿や排便問題です。
 原因が分かっていないため予防のしようもありませんが、瞬膜が出たまま戻らないなど特徴的な症状が見られたら念のためを疑った方がよいでしょう。 猫のキーガスケル症候群 猫の自律神経失調症(キーガスケル症候群)に関する深い謎

仙尾部外傷

 仙尾部外傷(せんびぶがいしょう)とは骨盤からしっぽにかけてのエリアに脱臼や骨折が発生することです。ほとんどは仙骨と尾骨の境界線、すなわちしっぽの付け根に発生します。
 このエリアには骨盤神経や陰部神経が通っているため、外傷に伴って炎症、伸張、分断などが起こると排泄能力に様々な悪影響がもたらされます。主な症状は下肢の痛み、歩行困難、荷重不全、しっぽが動かない、排尿障害、血尿などです。 猫のしっぽの付け根に発症した仙尾部外傷のレントゲン写真  アメリカ・オハイオ州立大学が51頭の猫を対象として行なった調査(1973年~1983年)でも 、スイス・チューリッヒ大学が26頭の猫を対象として行った調査(1993年~2000年)でも、原因の90%以上は交通事故でした。仙尾部外傷は猫を迷子にしないこと、そして無責任な放し飼いをやめることによって100%予防が可能です。「猫が喜ぶ部屋の作り方」を見ながら完全室内飼いを徹底してください。 猫ふんじゃった症候群 猫の馬尾症候群
猫のおしっこに関しては「猫の腎臓・おしっこ」、トイレのしつけに関しては「猫のトイレのしつけ」でも詳しく解説してあります。