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猫のうんちに現れる健康と病気~色や硬さのチェック方法から便通を良くする方法まで

 猫のうんちは健康のバロメーターです。色、硬さ、大きさ、頻度などを常にモニタリングし、異常のサインがないかどうかをチェックしてあげたいものです。では一体どのようなポイントに着目して見ればよいのでしょうか?1つずつ確認していきましょう。

猫のうんちに現れる病気

 猫のうんちは健康のバロメーターです。ちょっとした変化が病気のサインになっていることもありますので、飼い主は日常的にトイレの様子や出した排泄物をチェックしてあげましょう。

色に現れる病気

健康な猫のうんちの色は茶色  健康で正常な猫のうんちの色は薄い~濃い茶色くらいです。中に含まれる胆汁、ウロビリン(褐色)、ビリルビン代謝物であるステルコビリン(黄色)の濃度によって色合いが変わります。

赤い(血便)

赤く変色したうんちは肛門に近いほうの消化管に出血が起こっているサイン  猫のうんちが赤く変色している場合、下部消化管に出血があり、血液が便に混じったまま外に出てきたという原因が考えられます。具体的には大腸性下痢症、潰瘍性腸炎、炎症性腸疾患、直腸がんなどです。
 人間の場合は痔によって血がまじることがありますが、猫の場合は肛門嚢(こうもんのう)がやぶれて出血するというパターンが考えられます。肛門の左右を観察し、肛門嚢炎による妙な赤みや腫れがないかどうかを確認してあげましょう。

黒い(メレナ)

黒く変色したうんちは消化管の胃に近い方で出血が起こっているサイン  猫のうんちが黒く変色している場合、上部消化管における出血がうんちに混じり、直腸に至るまでの間に血液中の赤血球が分解されたことが原因と考えられます。「メレナ」とも呼ばれます。具体的な原因は胃潰瘍小腸性下痢症などです。
 人間においては動物の血液を材料とした食べ物(ブラックプリンやスッポンの生き血など)、色素を多く含んだお菓子(リコリスなど)、鉄分サプリメントを摂取した後に黒い便を出すことがあります。もし猫が放し飼いにされており、外で血だらけのネズミなどを食べてしまった場合、同様の黒っぽい糞便を出すかもしれません。さすがに海苔の佃煮を大量に食べるということはないでしょうが。

黄色

黄色く変色したうんちは原虫感染症のサイン  猫のうんちが黄色く変色している場合、ジアルジアトリコモナスといった原虫に感染している可能性があります。
 便が薄くなって下痢気味になり、うんちの姿勢を取るけれどもなかなか出なかったり、肛門周辺に赤い腫れ(炎症)が見られたり、うんちの表面に血液が混じることもしばしばです。ニオイもきつくなります。
 離乳前の子猫のうんちも黄色ですが、こちらは病気ではなく正常な色です。ミルクしか飲んでいませんので、人間の赤ちゃんと同様、どうしてもこうした薄い色合いになってしまいます。硬さは歯磨き粉ぐらいです。

緑色

緑色に変色したうんちは排泄物の腸管内移動速度が速すぎるサイン  猫のうんちが緑色に変色している場合、腸内における移動が早すぎて胆汁色素を分解できず、緑色の色素がそのままうんちに紛れ込んでしまったという原因が考えられます。例えば寄生虫感染症で下痢気味のときなどです。その他の原因としては抗生物質による腸内細菌叢の変化などが考えられます。
 人間においてうんちが緑色に変色している場合、ほうれん草やケールなど緑色のクロロフィルを含んだ食材を大量に食べたとか、リコリスや粉ジュースなど緑色の着色剤を含んだお菓子を大量に食べたといった理由が考えられます。しかし猫ではこうしたものを口にすることはありませんので、食餌が原因でうんちが緑色になるというケースは少ないでしょう。たとえ猫草を大量に食べたとしても、分解されずそのままの形でうんちにまぎれて出てきます。
 なお、生まれたばかりの子猫が緑っぽいうんちを出した場合は心配する必要はありません。これは「胎便」(Meconium)と呼ばれるもので、母猫の子宮内にいるときに飲み込んだ羊水、消化管上皮、胆汁などから構成されています。母乳を飲み始めると色が黄色くなっていきますので基本的に気にする必要はありません。

白~灰色

白~灰色に変色したうんちは胆汁分泌障害のサイン  猫のうんちが白~灰色に変色している場合、胆汁の分泌が滞っている可能性があります。よくある原因は胆嚢障害、胆石症、ジアルジア急性肝炎膵炎肝硬変などです。下痢を抑えるために投与した薬によっても引き起こされることがあります。
 なお、うんち全体ではなく部分的に白いものが混じっている場合は寄生虫の可能性が大です。詳しくは「うんちの寄生虫・細菌・ウイルス」をご参照下さい。またトイレ以外の場所にくすんだ色のねばねば落ちている場合、うんちではなく肛門嚢液かもしれません。肛門の横についている肛門嚢をチェックし、液が溜まっているようであれば指で絞ってあげましょう。 猫の肛門嚢炎

硬さに現れる病気

 健康で正常な猫のうんちの硬さは、工作用の粘土くらいです。大きさは人差し指1~3本くらいで表面の割れ目が少なく、適度に含まれた水分でつやつやしています。 健康な猫のうんちは人差し指くらいの大きさで適度な水分を含む

ころころ~ひび割れ

 猫のうんちがまるでウサギの糞のようにコロコロしていたり、表面のひび割れが多く見られる場合、含まれている水分が少なすぎるという原因が考えられます。具体的には、食物の腸内通過時間が便秘で長くなりすぎ、うんちの中の水分が吸収されてしまうなどです。ネスレピュリナが開発した犬用の糞便指標(💩画像あり!)で言うと1~2に相当します。 猫の便秘  うんちをしてから時間が経つと水分が蒸発してカチカチになります。最初から水分が少なかったのか、それとも外に出てから水分が少なくなったのかが分かりませんので、猫のうんちを観察する際はお尻から出た直後のタイミングを狙うようにしましょう。

ゆるゆる~ドロドロ

 猫のうんちがまるで水性絵の具のようにゆるゆるだったり、雨が降った後の水たまりのようにドロドロしている場合、含まれている水分が多すぎるという原因が考えられます。具体的には、食物の腸内通過時間が下痢で短くなりすぎ、うんちの中の水分が吸収される前に出てしまうなどです。ネスレピュリナが開発した犬用の糞便指標(💩画像あり!)で言うと4~7に相当します。 猫の大腸性下痢症 猫の小腸性下痢症  猫がゆるゆる~ドロドロ状態のうんちを出した場合、すぐに捕まえてお尻を拭いてあげましょう。さもないと、片方の足を高々とあげ、排泄物が付いた自分のおしりを一心不乱になめる姿を見る羽目になります。

ニオイに現れる病気

 猫の食べている食餌に動物性タンパク質が多く含まれている場合、ニオイがきつくなる可能性があります。これは、動物性タンパク質に多く含まれている含硫アミノ酸(メチオニン)が体内で代謝され、メチルスルフィド、硫化水素、インドール、スカトールといった、いかにも臭そうな物質に変換されるためです。これがうんち臭の元になります。
 一方、病気によってもうんちのニオイがきつくなることがあります。原因の多くは硫化水素の増加で、具体的には慢性腸炎膵炎、消化管の感染症、消化不全などによって引き起こされます。ニオイだけで病気の有無を判定することは難しいですが、トイレの掃除をするタイミングでクンクンと臭いを確認する習慣をもっておけば、猫の体調の変化にいち早く気づくことができるでしょう。
 ちなみに人間用の商品としてベネッセが「うんちの臭いがお花の香りに変わるスプレー」というものを発売しています。これはトイレにふりかけることでうんち臭がフローラルな臭いに変わるという何とも不思議な商品ですが、猫は香りのついたトイレを嫌う傾向にありますので、使う場合は人間用のトイレだけにしておきましょう。

頻度や量に現れる病気

 猫のうんちの回数や量には、腸内細菌叢(フローラ)の状態や腸内の健康状態が反映されます。飼い主はしっかりと排便日誌を付け、1日に何回うんちをしたとか、どの程度出したかをしっかり記録しておかなければなりません。

猫のうんちの頻度・回数

 ドライフードを食べているにしてもウエットフードを食べているにしても、市販のキャットフードはエネルギー密度が濃いため、うんちの回数は1日1~2回です。2日に1回は少なすぎで便秘気味の可能性があります。逆に1日3回はやや多すぎで、単なる食べ過ぎのほか甲状腺機能亢進症による多食症の可能性があります。飼い主がしっかりとうんち日誌を付け、1日に何回排便したかを記録しておけば回数の増減にいち早く気づくでしょう。 肛門から出した排出物の異常

猫のうんちの量

 猫が体重4~5kgで普通体型の場合、1回に出すうんちの大きさは人差し指1~3本程度です。出したうんちはおよそ75%の水分と25%の固形成分からできており、固形成分はさらに微生物、炭水化物、タンパク質、脂質、その他などに細分されます。 猫のうんちの構成成分比率  猫のうんちの量は上記したような成分によって変わりますが、もっとも大きな影響を及ぼすのが「微生物」(腸内細菌叢)と「炭水化物」(食物繊維)です。
うんち量を増減させるもの
  • 腸内細菌叢 2013年にニュージーランドの調査チームが行った報告によると、ドライフードとウエットフードを切り替えて1ヶ月ほど様子を見ると、糞便細菌叢が大きく変化するそうです(Emma N. Bermingham, 2013)。エサのタイプを切り替えた後、うんちの量が増えたり減ったりした場合は、中に含まれる微生物量に増減があったのかもしれません。腸内細菌叢に関しては以下のページでも詳しく解説してありますのでご参照下さい。残念ながら今のところ「腸内フローラをこういう状態にするのがベスト!」といった結論は出ておらず、猫医学界の宿便になっています。 猫の腸内細菌(フローラ)
  • 食物繊維 猫が積極的に食物繊維を食べている場合、うんちの量が増える傾向にあります。これは消化されない繊維成分がそっくりそのままうんちの中に排出されるためです。人間で言うとトウモロコシ、ナッツ、マメが消化されずに出てくるのと同じ現象ですね。
     特に長毛種の場合は、食物繊維の摂取により飲み込んだ被毛がうんちとして出てきやすくなります(Mickael Weber, 2015)。うんちの中に被毛や猫草が含まれているようなら、被毛が繊維(猫草)とともに腸管を通過してうまく外に出てきたということです。その場合、うんちのボリュームは通常よりも多くなるでしょう。
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うんちの寄生虫・細菌・ウイルス

 猫のうんちには寄生虫、細菌、ウイルスといった病原体が含まれていることが少なくありません。下痢などの症状として現れることもありますが、全く症状を示さずピンピンしていることもしばしばです。飼い主は注意深く猫のうんちを観察し、異常の徴候をなるべく早く見つけてあげなければなりません。

回虫や条虫

 猫のうんちに含まれる寄生虫として多いのは回虫条虫です。回虫はちぎれた輪ゴム、条虫は白い消しゴムのカスのような見た目をしています。 猫のうんちには寄生虫が混じっていることがある  こうした異常が見られた場合は写真を撮って動物病院に行き、適切な駆虫薬を処方してもらいましょう。特に回虫の方は人間に感染してトキソカラ症を引き起こすこともありますので早期の対策が重要です。2009年にオランダで行われた報告(Paul A.M.Overgaauw, 2009)では、健康で何の症状も示していない猫の糞便を調べたところ、4.6%で回虫が検出されたと言いますのでなかなか油断できませんね。 猫の寄生虫症

トキソプラズマ

 回虫や条虫のように肉眼で確認できるくらい大きな寄生虫ならすぐに発見することができます。しかし原虫のように小さすぎて目に見えないような寄生虫の場合は厄介です。
 原虫感染症には様々な種類がありますが、人獣共通感染症という観点から重要なのはトキソプラズマです。免疫力が正常な人間においては、たとえ感染したとしても大した症状は引き起こしません。しかし万が一妊婦に感染してしまった場合、血液を通じておなかの中にいる赤ん坊に感染し、最悪のケースでは先天性トキソプラズマ症を引き起こしてしまいます。 トキソプラズマの生活環  猫の糞便にトキソプラズマのオーシストが排出されるのは「猫が初感染+2週間」という条件が揃った時だけですのでかなり限定的な期間といえるでしょう。「猫を外に出さない」「猫に生肉を与えない」といった初歩的なことを守っていれば感染の危険性はほぼありません。万が一オーシストを排出していたとしても「猫に手や顔を舐めさせない」「うんちの処理は手袋をして行う」といった注意点を守っていれば大丈夫です。 自分のお尻をなめてきれいにするという猫の習性が寄生虫の伝播に関わっている  もっとも危険なのは「気のゆるみ」です。例えば「トキソプラズマに感染した猫がうんちをする→自分の尻を舐める→餌を食べる→飼い主が皿を片付ける」といった状況があったとしましょう。猫の唾液がついたお皿を触った後でうっかり手を洗い忘れ、そのままポテチを食べてしまうとどうなるでしょうか?「猫のうんちを食べない限り感染することは無い」と安心しきっていると、思わぬところからオーシストが口の中に入ってしまいますので要注意です。

エキノコックス

 エキノコックスはテニア科エキノコックス属に属する寄生虫の総称です。キタキツネ、タヌキ、イヌといったイヌ科動物を終宿主とし、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ネズミといった多様な哺乳動物を中間宿主として生活環を形成します。一見すると猫には無関係に思えますが、外に出る機会がある場合はこの厄介な寄生虫を媒介してしまう危険性があります。 エキノコックスの虫卵と成虫の外観  2016年にフランスの調査チームが行った報告によると、エキノコックス流行地域において屋外生活している肉食動物の糞便調査をしたところ、キツネの34%(15/32)、猫の9%(4/43)、犬の1.6%(1/62)でエキノコックスのDNAが検出されたといいます。陽性と出た猫をさらに詳しく調べたところ、そのうち2頭の糞便中から実際に虫卵が検出されました(Jenny Knapp, 2016)
 野良猫が媒介動物になる可能性は日本においても同じです。2008年、北海道大学を中心とするチームが行った報告によると、北海道で放し飼いされている猫の糞便からエキノコックスが検出されたとのこと(Kobayashi, 2008)
 エキノコックスは主に東北から北の地域で見られる寄生虫ですが、人間にも感染して重篤な肝障害を引き起こす厄介な寄生虫ですので「猫を放し飼いにしない」という鉄則は守る必要があります。

細菌やウイルス

 猫のうんちには寄生虫や原虫よりもさらに小さい細菌やウイルスが含まれていることがあります。具体的にはアストロウイルス、ロタウイルス、仮性結核菌などです。感染した場合、一体どのような症状を引き起こすのかがよくわかっていないものもありますが、素手で触ってはいけないことだけは確かです。

糞便検査の種類と料金

 動物病院で猫のうんちを調べてもらう場合、いくつかの方法があります。病院に着いてから採取してもらうと500~1,000円程度の別料金がかかりますので、自宅で取ったものを持参した方が安上がりです。
猫の主な糞便検査法
  • 直接塗抹法スライドグラスの上に生理食塩水を1~2滴垂らし、爪楊枝で糞便サンプルを少量混ぜ込みます。よくかき混ぜたらカバーガラスを乗せ、顕微鏡で虫卵やオーシストを見分けます。料金は500~1,000円程度です。
  • 集卵法試験管に糞便サンプルを少量入れ、生理食塩水を加えてよくかき混ぜます。ガーゼでろ過した後遠心分離機にかけ、今度はホルマリン液を加えてよくかき混ぜます。しばらく放置してたらエチルエーテルを加え、再び遠心分離機にかけると下の方に沈渣が残りますので、これをスライドグラスに移して顕微鏡で観察します。料金は手間がかかる分、やや割高で1,000~2,000円程度です。 遠心分離機とスライドグラスを用いた糞便検査方
  • ジアルジア抗原検査原虫の一種「ジアルジア」の抗原を検知できる検査キット(SNAP Giardia)が開発されたことから、素早く正確に感染の有無を確認できるようになりました。料金は2,000~5,000円程度です。
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うんちが出るメカニズム

 猫の排便は神経と筋肉による絶妙な調整によって成り立っています。
 まず大腸におけるくねくねとした運動(蠕動運動)によって内容物(うんちの元)がジェットコースターのように一回転し、肛門付近に送り出されて直腸にたまります。
 直腸の内壁がうんちに押し広げられると、そこに分布している神経が興奮し、脳に「糞便がたまったよ!」という合図を出します。 【画像の元動画】The Poo in You 大腸の蠕動運動により排泄物が肛門に移動する  すると脳が「じゃあ出していいよ!」という司令を出し、直腸に分布している筋肉が収縮すると同時に肛門に分布している筋肉(内肛門括約筋)が緩み、うんちが体の外に押し出されます。

うんちの失敗

 猫がトイレ以外の場所で糞便(うんち)をしてしまった場合、トイレに行こうとしたけれども我慢できずに途中で漏らしてしまったのか、それともトイレを自らの意思で避けたのかが問題になります。前者の場合は「便失禁」、後者の場合は「トイレの忌避」や「ストレス」であり、まったく別物として扱われます。詳しくは以下のページで解説してありますのでご参照下さい。 猫のトイレの失敗・うんち編

トイレ前のうんちコール

 猫の中にはニャーニャー鳴いて飼い主をトイレに呼びつけてから排便をするものがいます。「うんちコール」とでも言うべきこの行動の理由は謎ですが、ひょっとすると無防備になって不安なので見張っていて欲しいのかもしれません。
 人間の場合、気持ちよくてうっとりとした恍惚の表情に陥る人もいますが、猫の場合はたとえ馴染みある家の中でも目をパッチリと開いたまま周囲に対する警戒心を怠りません。おそらく排便の最中が外敵に襲われやすい最も危険な時間帯であるということを本能的に知っているのでしょう。もし猫に呼ばれたら、召使いのようにそばに寄り添って見守ってあげてください。

猫もいきむ?

 人間においては排便を促すために息を止めてお腹に力を入れることがよくあります。「いきみ」とも呼ばれるこの行動は腹圧を高めてうんちが出やすくするという効果がある一方、目が充血したり立ちくらみを起こしたり、最悪のケースでは脳動脈りゅうが破裂したりすることもあります。 猫の典型的な排便姿勢  猫の場合、上の図で示したように腰を空中に浮かせて背中を丸め、おなかに力が入りやすい姿勢を整えてからうんちに入ります。人間のようにいきむこともありますが、せいぜい「ん!」という可愛い声を出して終わりです。

トイレ後のウンチングハイ

 猫が排便をした直後、「ニャッ!」と奇妙な声を上げてドタバタを部屋の中を走り回り、ガリガリと爪とぎを始めることがあります。「ウンチングハイ」とでも言うべきこの一過性のハイテンションは、排便という危険な時間帯を乗り越えたことによる安心感から生み出されているのだと推測されます。人間で言うと「あ~!」と解放感に満ちた声を発したり、「ふぅ~」と安堵のため息をつく感じに近いのでしょうか。謎です。 うんちをするとテンションが上がる

排便をしやすい時間帯は?

 24時間を1サイクルとするリズムは日内リズム(サーカディアンリズム)などと呼ばれます。猫の消化管にはどうやらこの日内リズムがあり、うんちをしやすい時間帯というものがあるようです。
 猫の大腸における筋肉の動きをモニタリングしたところ、胃袋に近い近位部と肛門に近い遠位部とでは明確に違ったリズムを見せたと言います。肛門に近い方の大腸では午前3時から4時、および午前11時から午後5時にかけて活発な運動が見られ、実際の排便は夕方から午前1時にかけて多く見られたと言います(M. Wienbeck, 1976)
 また公園の砂場で行われた観察調査によると、1ヶ所の砂場は4~24頭の猫でトイレとして共有されており、午後6時~午前6時に排便される割合が80%に達したといいます。猫たちは複数のトイレを持っており、砂場の中で他の猫の痕跡を見つけたときはその場所を避けて排便する傾向があったとのこと(Uga, 1996)猫の体内リズムにはうんちをしやすい時間帯がある  飼い主が夜眠っている時にどこからともなく「シャカシャカ」という音が聞こえてくる場合、それは妖怪「小豆とぎ」ではなく、うんちを終えた猫が砂を引っ掻き回しているのでしょう。
NEXT:うんちの処理法

うんちの処理の仕方

 猫が外に出したうんちはどのように処理すればよいのでしょうか?家庭動物等の飼養及び保管に関する基準では「所有者等は、自らが飼養及び保管する家庭動物等が公園、道路等公共の場所及び他人の土地、建物等を損壊し、又はふん尿その他の汚物、毛、羽毛等で汚すことのないように努めること」と定められていますので、外に持ち出してポイ捨てするのはダメです!

肥料として再利用できる?

 できません。猫のうんちには高い確率で寄生虫の卵や原虫が含まれている危険性がありますので、肥料として再利用するのは危険です。
 2009年にオランダの調査チームが行った報告によると、60頭の臨床上健康な猫を対象として糞便検査を行ったところ、回虫が4.4%、ジアルジアが13.6%、クリプトスポリジウムが4.6%の確率で検出されたと言います(Paul A.M.Overgaauw, 2009)。またアメリカの調査チームが屋外、動物病院、猫を飼育している家庭などから猫の糞便を採取し、合計326のサンプルを検査したところ、0.9%の確率でトキソプラズマのオーシストが検出されたとのこと(Haydee A., 2007)猫の糞便中には症状の有無にかかわらず高確率で寄生虫が含まれている  こうしたデータから見えてくるのは「たとえ猫が健康だったとしても、うんちまで健康優良児とは限らない!」ということです。こうしたうんちを用いて庭やベランダで家庭菜園など行ってしまうと、手や葉っぱに虫卵や原虫が紛れ込み、飼い主が感染してしまうかもしれませんね。

忌避剤として使える?

 猫のうんちは古くからネズミを遠ざけるための忌避剤として用いられてきました。捕食者である猫のうんちの匂いを嗅ぐとネズミが生息域を変えたりメスネズミの繁殖能力が低減し、結果的に数が減るものと推測されています。しかしすべてのうんちが有効というわけではありません。
 2014年、中国の揚州大学が行った報告によると、ハタネズミは新鮮な猫の糞便に対しては強い恐怖反応を示すものの、時間が経った古い糞便には弱い反応しか示さなかったと言います(Ibrahim M.Hegab, 2014)。猫のうんちにも「旬の時期」のようなものがあるのでしょうか。
 理由はどうあれ、猫のうんちを敷地内にばらまくことによってネズミを遠ざけることは現実的ではありませんし、不衛生でもあります。近所の人から変人扱いされてしまいますのでやめておきましょう。

うんちの処理法

 再利用の方法がないことがわかった以上、猫のうんちは速やかに処分してしまいましょう。
 犬の場合、散歩の途中でうんちをしてしまうと表面に砂、土、小石などが付着し、そのまま家に持ち帰ってトイレに流すと配管を傷つけたり目詰まりの原因になってしまいます。一方、完全室内飼い猫の場合、うんちはトイレの中でしますので人間用のトイレに流しても大丈夫です。ただし猫砂は「トイレに流せる」と記載されているものを選んでください。
 なお猫のうんちに砂、土、小石が付着していたり、トイレに流せないタイプの猫砂が大量に付着している場合は、新聞紙などで包んで燃えるゴミとして出しましょう。
NEXT:猫の便秘予防

猫の便通を良くする方法

 猫の体型にもよりますが、体重が4~5kgの場合、1日の排便回数は1~2回です。2日に1回とか3日に1回という場合はやや便秘気味ですので、飼い主が工夫して便通をよくしてあげましょう。試す前に排便日誌を付け、前後でうんちの回数がどのように変化したの確認してください。例えば排便の平均回数に関し「対策前0.8回→対策後1.2回」など、効果が明確に把握できます。

食物繊維を与える

 食物繊維とは腸内細菌が分解できない炭水化物の総称です。分解できないため、そのままの形で糞便として出てきます。
 2017年ブラジルの調査チームが行った報告によると食物繊維(ビートパルプ)を1ヶ月間給餌した所、消化管通過時間が短くなり糞便量が増えたといいます(Loureiro, 2017)。通過時間が短縮すると吸収される水分量が少なくなり、カチカチうんちが改善するかもしれません。また糞便量が増えると直腸膨大部に対する機械的な刺激が増え、排便反射が起こりやすくなる可能性もあります。
 ビートパルプは一例ですが、その他の食物繊維にも同様の効果があると考えられますので、ラベルに「食物繊維含有」と記載されたものを与えてみると便秘が改善するかもしれません。

猫草を与える

 猫は食べても大丈夫な植物の1つとして「猫草」があります。これも食物繊維の一種ですが、フードに含まれている繊維質よりも一度に大量に摂取することができるというのが特徴です。
 代表的なものはエンバクで、マイナーなものとしては大麦や小麦の若草があります。種類や栽培の方法については以下のページで解説してありますのでご参照ください。上手くいけばうんちの中の「つなぎ」となり、ウサギのようなコロコロしたうんちではなく、一本にまとまったうんちができやすくなります。 猫草の種類と栽培方法

マッサージをする

 マッサージが好きな猫の場合、下腹部をなでてあげることで腸の蠕動(ぜんどう)運動が促され、うんちが出やすくなる可能性があります。 猫の下腹部にコリコリとした宿便が溜まっているときはマッサージをしてあげるとうんちが出やすくなる  下行結腸がある左側の下腹部を触ってみましょう。コロコロとした抵抗感がある場合うんちがたまってる可能性が大です。ゴリゴリ強引に圧迫するのではなく、ひらがなの「の」を書くようにゆっくりと時計回りに腹部をなでまわします。猫がリラックスしてくれれば副交感神経が優位となり、腸の動きが活発になってたまっていた便が直腸のほうに押し出されます。
猫マッサージ」とあわせ、日常的に行うようにすれば一石二鳥ですね!