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猫の膀胱結石~症状・原因から検査・治療法まで

 猫の膀胱結石(ぼうこうけっせき)について病態、症状、原因、治療法別に解説します(🔄最終更新日:2022年8月)。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら。また猫の採尿と尿検査についてはこちらをご参照ください。

猫の膀胱結石の病態と症状

 猫の膀胱結石(cystolith)とは、腎臓で濾過された尿を溜め込む膀胱と呼ばれる袋状の器官の中に結石がとどまった状態のことです。 猫の泌尿器解剖模式図~上部尿路(腎臓+尿管)と下部尿路(膀胱+尿道)  猫の尿石が採取される場所は8割以上が下部尿路(膀胱+尿道)です。例えば1981年から2008年の期間、ドイツと近隣数ヶ国で採取された猫の尿路結石5,173サンプルを部位別に調べたところ、膀胱もしくは尿道から採取された割合が全体の93%に達したといいます出典資料:A. Hesse, 2012)。また2014年から2020年の期間、オランダ国内で採取された猫の尿路結石3,500サンプルを調べたところ、全体の85.5%までもが膀胱由来だったといいます出典資料:N.D.Burggraaf, 2021)。さらに2005年から2018年の期間、アメリカのカリフォルニア大学デーヴィス校が3,940の尿石サンプルを部位別に調べたところ、以下のような内訳になったといいます出典資料:L.Kopecny, 2021)。尿路結石全体の95.3%(4,464/4,681)までもが下部尿路由来という比率がおわかりいただけるでしょう。
成分上部下部
シュウ酸カルシウム7.0%91.9%
ストルバイト0.1%99.0%
尿酸0.8%98.9%
アパタイト3.8%95.2%
シリカ0.0%89.5%
血塊13.7%82.2%
 猫の膀胱結石の主な症状は以下です。小さいものなら尿と一緒に自然排出されることもあります。
猫の膀胱結石の主症状
  • ぐったりして元気がない
  • 食欲不振
  • 発熱
  • 水をたくさん飲む
  • おしっこの回数が増える
  • 尿の色が濃い
  • 尿がにごっている
  • 血尿(紅茶~コーヒー色)
  • 尿のにおいが強い

猫の膀胱結石の原因

 1998年から2014年の期間、カナダ獣医尿石センター(CVUC)に送られてきた合計20,183の膀胱結石を分析したところ、シュウ酸カルシウムが50.1%(10,115) 、ストルバイトが40.0%(8,071)、尿酸塩が4.4%(893)という構成比だったといいます。その他、シスチン、キサンチン、シリカ、リン酸カルシウム、血塊なども検出されましたが、割合はどれも1%未満でした。
 また以下に述べるような猫がもつ特定の属性が発症リスクに関わっていることが明らかになったといいます出典資料:D.M.Houston, 2016)

品種

 短毛種を基準とした場合、ある特定の品種において高い発症リスクが確認されました。数字はオッズ比(OR)で、標準を1としたときどの程度リスクが高いかを相対的に示した数値です(※OR2ならリスク2倍)。
シュウ酸カルシウム結石好発品種
尿酸結石の好発品種

毛の長さ

 短毛種を基準とした場合、長毛種ではストルバイトの形成リスクが1.31倍高いと判断されました。

性別

 不妊手術の有無までは不明ですが、性別によって特性の結石を形成しやすくなることが確認されました。
 メス猫を基準とした場合、オス猫において高い形成リスクが確認されたのはシュウ酸カルシウム(1.73倍)、尿酸(1.3倍)、血塊(3.49倍)でした。逆にオス猫を基準とした場合、メス猫において高い形成リスクが確認されたのはストルバイト(1.89倍)でした。
 猫におけるストルバイト結石はほとんど無菌性であるため、「メスの尿道の短さが感染リスクを高め、有菌性のストルバイト結石を形成しやすくなる」という、犬で確認されている現象は当てはまらないと考えられます。

猫の膀胱結石の検査・診断

 猫の膀胱結石症において一般的に行われる検査は以下です。
  • 血液検査高窒素血症、高リン血症、高カルシウム血症、低カルシウム血症、高カリウム血症などの基礎疾患をスクリーニングします。
  • エックス線検査2mm超の結石、腎臓のサイズ・数・位置を特定する際に有効な検査です。エックス線を透過する血塊は検知できず、腸内ガスや便が溜まっている場合は結石が見えにくくなるため注意が必要です。
  • 超音波検査血流変化、腎盂の拡張評価、尿のエコー輝度、小さな結石、尿管の狭窄、炎症、後腹膜浸潤、異所性尿管、腫瘍、リンパ節の病変を特定する際に有効な検査です。
  • CTスキャンエックス線では検知できないような2mm未満の結石を特定する際に有効な検査です。デメリットは実施できる施設が限られる点、および検査費用が高額な点です。
  • 尿検査等張尿、血尿、膿尿、細菌尿、結晶尿を特定する際に有効な検査です。採取してから時間が経過すると尿サンプル内で結晶が形成されてしまうことがありますので、できるだけ新鮮な尿を検査に回すようにします。尿pHに関しては7.0超の場合はストルバイト結石、7.0未満の場合はシュウ酸カルシウム、尿酸塩、シスチン結石の存在が示唆されます。

猫の膀胱結石の治療

 2016年にACVIM(米国獣医内科学会)が公開した尿石症の治療ガイダンス内では、膀胱結石の大きさに関わらず、まずは外科手術を避けて侵襲性が少ない治療法から検討することを推奨しています。理由は、尿石再発のうち9%程度が膀胱切除術に起因しているという報告があるからです。切開を伴わない治療では麻酔の時間と入院期間が短くなり、その分回復時間が早くなります。 ACVIMガイドライン(英語) ACVIMガイドライン(日本語)

膀胱結石が小さい時

 膀胱結石が尿道を通過できるほど小さい場合は医学的溶解(シュウ酸カルシウム結石以外)が優先的に行われます。最も多いストルバイト結石に関しては以下のページで詳しく解説してありますのでご参照ください。 猫のストルバイト結石療法食・完全ガイド

膀胱結石が大きい時

 膀胱結石が尿道を通過できないほど巨大な場合もまた医学的溶解や経皮的膀胱結石摘出術などを優先し、可能な限り膀胱切開は避けるようにします。
 経皮的膀胱結石摘出術(PCCL)とは尿道が小さすぎて膀胱鏡を挿入することができない小型犬や猫に対して行われる外科手術の一種です。猫においてはヘソの下2cmほどのところに1~1.5cmの小さな切開を施し、切開部レベルまで膀胱尖を引き上げて小さな穴を開けます。そして穴にトロカールを挿入し、そこから膀胱鏡を膀胱内に潜入させてバスケット鉗子で結石を直接把握して膀胱外に取り出します。 尿道の小さい犬猫に対して行われる経皮的膀胱結石摘出術の施術模様  2012~2017年の期間、経皮的膀胱結石摘出術を受けた59頭の犬と9頭の猫を対象とした調査では、術中の合併症は1例だけで83%(58/70)が術後24時間以内に退院したといいます。また術後3週における軽い合併症の割合は24%(16/68)だったとも。重症例は術部の解離が見られた犬1頭だけでした。術後1年における結石の再発率は21%(7/33)だったそうです出典資料:Crutiani, 2020)
 形がいびつで尿道を完全に閉塞する恐れがない膀胱結石に関しては、定期的なモニタリングと適切な飼い主への教育だけで十分なケースも少なくありません。

緊急の場合

 血尿、排尿障害、尿道感染症といった緊急症状が現れた場合はそれ以上の悪化を防ぐ目的で外科的な除去が考慮されます。結石の大きさや位置、および結石の組成を確かめるため、超音波検査やエックス線検査を行って綿密に計画を進めます。