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猫エイズウイルス感染症

 猫の猫エイズウイルス感染症について病態、症状、原因、治療法別にまとめました。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。なお当サイト内の医療情報は各種の医学書を元にしています。出典一覧はこちら

猫エイズウイルス感染症の病態と症状

 猫エイズウイルス感染症とは、正式には猫後天性免疫不全症候群(ねここうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん)といい、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)により引き起こされる諸症状のことを指します。名称が長いことから単に猫エイズとも呼ばれます。最初に発見されたのは1986年と比較的最近のことですが、おそらくそれ以前からも存在していたと推測されています。
 ウイルスの潜伏場は白血球のT細胞やマクロファージであり、動物病院等での血液検査によって感染の有無が確認可能です。感染確認の為の検査キットでは、ウイルスに対する抗体(ウイルスを排除しようとする体内の成分)を検出しますが、抗体が確認可能な状態になるまで約1ヶ月かかるので、それまでの間はたとえ感染していても陰性と誤判定される危険性があります。感染の可能性が高い場合は、初回検査から1ヶ月後以降(できれば2ヶ月後以降)に再検査することが推奨されます。
 逆に、生後2ヶ月から3ヶ月の子猫の抗体検査では陽性と判定されたのに、6ヶ月から8ヶ月以降に再検査をしてみたら陰性になっていたというケースがあります。これは、子猫が飲んだ初乳(子猫が生まれた直後に初めて飲む母乳のこと)の中に、母猫が持っているFIV抗体が含まれており、その抗体が検査キットに反応したためと考えられます。
 猫エイズウイルス感染症の症状には以下のようなものがあります。ウイルスに感染するだけですぐに発病するわけではなく、一般的には急性期無症状キャリア期エイズ発症期という時期を経ます。
猫エイズウイルス感染症の主症状
  • 急性期  まずは急性期の症状が現れます。エイズウイルスに感染した全ての猫に見られるわけではありませんが、一般的に感染後約1ヶ月ぐらいで風邪、下痢、リンパ節が腫れるなどの症状がみられるようになり、こうした軽い症状が1ヶ月~1年くらい続きます。
  • 無症状キャリア期  急性期に見られた症状が一旦影を潜め、無症状キャリア期と呼ばれるフェイズに入ります。急性期を過たウイルスがいったん攻撃をやめ、猫体内のリンパ球の中に潜んでしまった状態です。それに伴い症状も消えるため、あたかも病気が治ってしまったかのような体調になりますが、完治したわけではありません。この間にもウイルスは猫の体内でリンパ球を破壊し、次第に免疫力を奪っていきます。無症状キャリア期は通常4~5年、猫によっては10年以上続きます。
  • エイズ発症期  無症状キャリア期が終わると、いわゆるエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症し、エイズ発症期と呼ばれる時期に入ります。最も多く見られる症状が、歯肉、歯周組織などの炎症や細菌感染による口内炎、口の中の潰瘍(かいよう)、口臭、よだれなどの口腔内の疾患で、約半数の猫で認められます。その他には体重減少、嘔吐、下痢、よく風邪をひく、風邪がなかなか治らない、ダニや真菌といった日和見感染症(ひよりみかんせんしょう=通常なら無害な菌が、免疫力の低下につけ込んで症状を現すこと)による皮膚炎や、食欲減退、脱水、といった症状です。さらに免疫力が弱まると、肺炎胸膜炎悪性腫瘍(いわゆるガン)、その他、さまざまな臓器の障害が引き起こされます。
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猫エイズウイルス感染症の原因

 猫エイズウイルス感染症の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
猫エイズウイルス感染症の主な原因
  • 接触感染  ネコ免疫不全ウイルス(FIV)の主な感染経路は、交尾・ケンカによる体液の接触感染です。交尾による感染ルートに関しては、体液の交換よりもオス猫がメス猫の首筋にかみつく(ネック・グリップ)ことによる唾液を介したルートの方が臨床上は重大とされています。猫エイズウイルス自体の感染力は弱く、猫同士のなめあい、授乳、食器の共用などによって感染するということはほとんどありません。また、風邪のように空気感染することもありません。
     人間のHIV(いわゆる”エイズウイルス”)と同じ「レトロウイルス科レンチウイルス属」に分類されますが、犬や人に感染することはなく、ネコおよびネコ属に特異的なウイルスです。
  • 垂直感染 FIVに感染している母猫の胎盤を経由して、子宮内にいる子猫に感染するというルートもあります。その結果、胎仔の発達停止、死産、流産などが起こりますが、確率的にそう高くはありません。
猫エイズ感染の危険因子  米国農務省によれば、世界中の家ネコの2%から25%がFIVウイルスに感染していると推定され 、感染率は日本(約23.2%, 2010年)とオーストラリアで最も高く、米国とヨーロッパでは最も低い数字となっています。野外を散策する猫、高齢猫、および慢性疾患を抱える猫は感染している可能性が高いといわれますが、最も感染確率が高いのは、他の猫とケンカをする可能性が最も高い、野外を徘徊(はいかい)する攻撃的なオス猫です。
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猫エイズウイルス感染症の治療

 猫エイズウイルス感染症の治療法としては、主に以下のようなものがあります。ウイルスを死滅させる特効薬は今のところ存在しませんので、予防が重要となります。
猫エイズウイルス感染症の主な治療法
  • 対症療法 体内にはびこったFIVを駆逐する特効薬がないため、現れた症状に対するその場その場の対症治療が基本となります。具体的には、歯肉炎や口内炎の治療、下痢や外耳炎に対する抗菌薬や抗真菌薬の投与、ネコインターフェロンによる免疫力の補助、貧血に対する輸血などです。
  • ウイルスとの接触を避ける  ネコ免疫不全ウイルス(FIV)の主な感染経路は、交尾・ケンカによる体液の接触感染です。放し飼いで猫が自由に家と外とを行ったり来たりできる状況だと、必然的に他の猫との接触機会も増えてしまいます。猫エイズウイルスを保有した猫と接触させないためには「完全室内飼い」を徹底することが重要です。また二匹以上の猫を同室内で飼育する際は、あらかじめ猫エイズ検査を受け、猫がエイズに感染していないことを確認してから共同生活を始めるという手順が必須です。 猫を飼う室内環境
  • ワクチン接種  日本では2008年8月から「フェロバックスFIV」という商品名の猫エイズワクチンが発売されています。初年度は2~3週間隔で3回接種し、翌年からは一年一回のペースで再接種します。ワクチンはあくまでも予防に特化したものであり、一度感染したウイルスを死滅させる効果はありません。
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猫エイズワクチンについて

 日本では2008年8月からフェロバックスFIVという商品名の猫エイズワクチンが発売されていました。しかしワクチンの効果に対する獣医師の意見は「大絶賛!」とは言いがたく、人間がインフルエンザ用のワクチンを接種するのと同じ感覚で、気軽に猫にエイズワクチン接種するというわけにはいかないようです。以下ではその理由について解説します。

ワクチンの限定的な効果

 猫エイズウイルスは、遺伝子構造によりA~Dまでのサブタイプが存在します。猫エイズワクチンの効果が確認されているのは、これらサブタイプのうちA、B、及びD1だけであり、中部~近畿地方で散見されるサブタイプCや、富山や石川県で散見されるサブタイプD2に対する効果は未確認です。つまりワクチンを打ったにもかかわらず、全く効果がなかったということもありうるわけです。ちなみに日本における猫エイズウイルスのサブタイプ比率は、2010年に行われた調査でAが30.2%、Bが42.2%、Cが5.5%、Dが22.1%程度と推計されています。 日本におけるFIVサブタイプの分布図 An Updated Nation-Wide Epidemiological Survey of Feline Immunodeficiency Virus Infection in Japan

ワクチンの副作用

 ワクチンの使用上の注意には、以下のような注意事項が記載されています。ワクチンとはいえ体内に異物を注入するわけですから、いいことばかりではないようです。
猫エイズワクチン・使用上の注意
  • 使用上の注意1  猫において不活化ワクチンの注射により、注射後3ヶ月~2年の間にまれに(1/1,000~1/10,000程度)線維肉腫等の肉腫が発生するとの報告がある。
  • 使用上の注意2  本剤注射後、注射部位に腫脹、硬結等が認められる場合がある。
  • 使用上の注意3  本剤注射後、一過性の副反応(発熱、疼痛、元気・食欲の不振、下痢又は嘔吐等)が認められる場合がある。
  • 使用上の注意4  過敏体質の猫では、まれにアレルギー反応[顔面腫脹(ムーンフェイス)、掻痒、じんま疹等]又はアナフィラキシー反応[ショック(虚脱、貧血、血圧低下、呼吸速迫、呼吸困難、体温低下、流涎、ふるえ、けいれん、尿失禁等)]が起こることがある。アナフィラキシー反応(ショック)は、本剤注射後30分までに発現する場合が多くみられる。

ワクチンを打つべきか?

 さて、猫エイズに関する基本的な知識を述べてきましたが、最終的にワクチンを接種するかどうかは、やはり飼い主の判断にかかっています。以下の項目を判断材料にして、最終的にご決断下さい。
猫エイズワクチン・判断基準
  • 他の猫と接する機会がある猫にとっては、感染の確率が下がる
  • ただし、感染予防のデータは、サブタイプA、B及びD1型に基づいており、CやD2型に対するする防御能は未知
  • 完全室内飼いを実行しており、他の猫と接する機会が無い猫の場合は、必要性は低い
  • しかし完全室内飼いでも、他の猫と同居していたり、お友達の猫が遊びに来たときは、猫同士の接触がありうる
  • ワクチン接種による副作用(肉腫の発生など)が、ゼロではない
ワクチン販売中止  2008年から日本国内で発売されている「フェロバックスFIV」は、突然の販売中止や再開がありますので、かかりつけの動物病院が在庫を保有しているかどうかを事前にご確認ください。
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