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猫とマタタビ

 「猫にマタタビ」のことわざに代表されるように、古くからマタタビは猫の大好物として知られていました。ここでは、よくよく調べない限り知り得ないようなマタタビの意外な側面に焦点を当てて解説していきます。

マタタビとは?

 マタタビとは、マタタビ科マタタビ属の植物で、学名は「Actinidia polygama」、漢字では「木天蓼」と書きます。 マタタビの実に虫が侵入するとボコボコに変形した虫えい果ができる  花が咲く前の5月頃、蕾(つぼみ)の中にハエの一種であるマタタビミタマバエが卵を産み付けると、正常な楕円形の実がならず、ボコボコしたコブ状の実が形成され、「虫えい果」(ちゅうえいか, 虫こぶとも)と呼ばれるようになります(→出典)。古くからこの虫こぶは、乾燥させると木天蓼(もくてんりょう)という名で人間用の生薬になる他、猫に多幸感を引き起こすことが知られていました。
 以下でご紹介するのは、マタタビを舐めて酔っ払ったような状態になる猫たちの動画です。横に寝そべって顔を擦り付け、体をくねくねねじるといった特徴的な行動を観察できます。 元動画は⇒こちら
 興味深いことに、猫に対して強烈な恍惚感を引き起こすのは虫こぶ(虫えい果)だけのようです。2016年、9頭の猫を対象としてマタタビの各部位がどのような効果を発揮するのかがアメリカの調査チームによって調査されました(→出典)。結果は以下です。
マタタビの部位別効果
  • 虫こぶ8頭が反応し、顔を接触させている時間は中央値で104秒
  • 未加工の実に対してもパウダーにした実に対しても反応した猫はおらず、顔を接触させている時間は中央値で13秒
  • ウッドチップここで言う「ウッドチップ」は、虫こぶがないマタタビの木を削ったもので、1頭だけが反応した
  • ここでいう「葉」は虫こぶがないマタタビからとった葉のことで、1頭も反応しなかった
 こうした事実から、猫に対する誘引効果を持つのはもっぱら「虫こぶ」である可能性が高まりました。
 マタタビ同様、猫に対する多幸感効果を持つイヌハッカの場合、植物につく害虫を追い払うため「ネペタラクトン」の生成量が増えるといいます。マタタビにおいても同様のメカニズムが働き、蕾の中に侵入したマタタビミタマバエの卵や幼虫をなんとかして追い払うため、防虫成分(猫にとっては多幸感成分)が活発に作られるのかもしれません。
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マタタビの有効成分

 猫に多幸感を引き起こす植物としては、マタタビのほか「イヌハッカ」(キャットニップ)、「アカバナヒョウタンボク」、「セイヨウカノコソウ」などがあります。しかし中に含まれる有効成分は植物間で微妙に違うようです。
 以下は2016年、上記4つの植物に含まれる多幸感成分を分子レベルで調査した結果です。数字は乾燥重量1g中に含まれる成分の量(μg/g)で、太字は推定上の有効成分を示しています。
多幸感植物の成分比較表
成分名マタタビイヌハアカバナセイヨウ
Nep/c-t31,010135
Nep/t-c03200
Act29011108172
Iri1670731
Iso1645570
Iso-1315000
Iso-21413300
Iso-3181000
  • Nep/c-t=シス-トランス・ネペタラクトン
  • Nep/t-c=トランス-シス・ネペタラクトン
  • Act=アクチニジン
  • Iri=イリドミルメシン
  • Iso=イソジヒドロネペタラクトン
  • Iso-1=イソジヒドロネペタラクトン異性体1
  • Iso-2=イソジヒドロネペタラクトン異性体2
  • Iso-3=イソジヒドロネペタラクトン異性体3
 成分の含有濃度から考え、イヌハッカの有効成分は「シス-トランス・ネペタラクトン」、アカバナヒョウタンボクとセイヨウカノコソウの有効成分は「アクチニジン」、マタタビの有効成分は「アクチニジン」と「イリドミルメシン」や「イソジヒドロネペタラクトン」だと考えられます。なお一般的に「マタタビラクトン」と呼ばれているのは、「イリドミルメシン」や「イソジヒドロネペタラクトン」の混合物です。 猫の多幸感植物に含まれる誘引成分の化学式一覧  マタタビに含まれる有効成分が完全に解明されているかというと、実はそういうわけではありません。2013年、青森にある北里大学の調査チームは、マタタビの葉から空気中に放散される揮発成分だけを取り出し、猫の反応を引き起こす物質が何であるのかを調べました(→出典)。その結果、「プレゴン」という分子が候補として挙がってきたといいます。この分子は「アクチニジン」や「イリドミルメシン」と同じモノテルペン化合物類に属することから、マタタビに含まれる新たな多幸感物質ではないかと目されています。ただ調査対象となった猫の数が少ないので、現在も猫の数を増やして確認作業が進行中です。
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マタタビの効果

 2016年3月から4月にかけ、アメリカ・テキサス州にある猫の保護施設「Cowboy Cat Ranch」が中心となった調査チームは、猫に対する多幸感効果を持つとされている4つの植物を用いた比較調査を行いました。

多幸感植物の反応率

 調査チームは、全米にある保護施設や一般家庭からランダムでリクルートした生後6ヶ月齢以上の猫合計100頭を対象とし、以下に述べる4つの植物に対する反応を観察しました。
実験に用いられた植物素材
  • マタタビ学名は「Actinidia polygama」。日本の企業「Smack」と「現代製薬」が市販している虫こぶ(虫えい果, ちゅうえいか)を乾燥して粉末状にしたもの。マタタビの虫えい果を乾燥させて粉末にした商品
  • イヌハッカ学名は「Nepeta cataria」で欧米では「キャットニップ」(cat nip)とも呼ばれる。アメリカの企業「Frontier」と「Smarty Kat」が市販している葉と花を乾燥させたもの。イヌハッカの葉と花を乾燥させた商品
  • セイヨウカノコソウ学名は「Valeriana officinalis」。アメリカの企業「Organic Bio Herbs」と「Frontier」が市販している根の部分。セイヨウカノコソウの根を乾燥させた商品
  • アカバナヒョウタンボク学名は「Lonicera tatarica」。カナダの企業「The Cat House Inc.」が市販している木と木くず。アカバナヒョウタンボクの木のうち幹の部分
 1頭の猫につき最低10分間からなる観察調査を最低2回行い、植物に対する「ポジティブな反応」を「匂いを嗅ぐ | 舐める | 顎を擦り付ける | 頬を擦り付ける | ごろんとひっくり返る | 猫キックを繰り出す | よだれをたらす | 背中から腰にかけての皮膚が波打つ」のいずれかと定義した所、各植物に対する猫たちの反応率に違いが見られたと言います。
植物に対する猫の反応率(100頭)
多幸感植物4種に対する100頭の猫の反応率一覧
  • マタタビ=79%
  • イヌハッカ=68%
  • アカバナヒョウタンボク=53%
  • セイヨウカノコソウ=47%
 上のデータで示したように、全ての猫が4つの植物に等しく反応するわけではないことが明らかになりました。「うちの猫はマタタビを食べない」という話をたまに聞きますが、それは猫が異常なのではなく、単なる体質だと考えられます。

マタタビ特有の多幸感効果

 代表的な多幸感植物であるマタタビとイヌハッカの反応率に統計的な差は見られませんでした。しかし猫の反応を「激しい反応」、「中間の反応」、「無反応」という3段階に分類したところ、各植物間で明白な違いが見られたといいます。どうやらマタタビは、多幸感植物の中でも激しい反応を引き起こしやすいようです(※=マタタビ | =イヌハッカ | =アカバナヒョウタンボク | =セイヨウカノコソウ)。 4つの多幸感植物の中で最も激しい反応を誘起するのはマタタビ
  • 激しい反応匂いを嗅いだり舐めたりすると同時に、顎や頬を擦り付けたりひっくり返ったりする行動を10秒以上継続する。
    【出現率】マ=72% | イ=52% | ア=45% | セ=40%
  • 中間の反応匂いを嗅いだり舐めたりすると同時に、顎や頬を擦り付けたりひっくり返ったりする行動が10秒未満 / 匂いを嗅いだり舐めたりする行動が15秒以上継続する。
    【出現率】マ=7% | イ=16% | ア=7% | セ=7%
  • 無反応最低2回のテストのうち1回も反応しない。
    【出現率】マ=21% | イ=32% | ア=47% | セ=53%
 さらに反応の強さを年齢別に算出してみたところ、若い猫(平均年齢1歳11ヶ月の45頭)と年老いた猫(平均年齢9歳2ヶ月の44頭)との間で違いが確認されました。具体的には、老猫(65%)よりも若い猫(88%)の方が激しく反応する割合が高いというものです。どうしてこのような違いが生じるのかに関してはよく分かっていませんが、嗅覚やヤコブソン器官の感度が関係しているのかもしれません。 猫の鼻・嗅覚 老猫よりも若い猫のほうがマタタビに対する激しい反応が出現しやすい Responsiveness of cats (Felidae) to silver vine (Actinidia polygama), Tatarian honeysuckle (Lonicera tatarica), valerian (Valeriana officinalis) and catnip (Nepeta cataria)
Sebastiaan Bol et al., DOI: 10.1186/s12917-017-0987-6, BMC Veterinary Research(2017)
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マタタビの適量は?

 マタタビの適量に関しては元となる実証データがありません。メーカーが独自の調査を行っているかもしれませんが、何頭の猫を対象に1日どの程度与えたのかという具体的な数字は、直接聞いてみるしかないでしょう。

マタタビの安全性

 マタタビの安全性に関するヒントとしては、2010年にオクラホマ州立大学の調査チームが行った調査があります(→出典)。調査チームが1973年以降に公表されたマタタビに関する英語圏の研究論文をしらみつぶしに調べてみたところ、マタタビが猫に害を与えるという証拠は何一つ見つからなかったそうです。
猫の帝王とも呼ばれたドイツの動物学者パウルライハウゼン(Paul Leyhausen)  そして「マタタビは猫の脳にダメージを与える」という都市伝説の出どころが、ドイツの動物学者パウル・ライハウゼンが1973年のシンポジウムで述べた逸話的な報告であることを突き止めました。大まかな内容は「大阪動物園で大型のネコ科動物にマタタビ与えたところ、実験者の姿を見るやいなや、食事すら中断して檻の前に近づきマタタビの匂いを欲しがるようになった。脳に対する何らかのダメージがあるかもしれない」といったものです。しかしこの報告は科学的な手法に則って行われたものではなく、単なる観察の結果です。
 その後この逸話は10を超える様々な書籍の中で繰り返し引用されるようになり、いつしか事実として定着してしまいました。こうした伝言ゲームの結果が「マタタビは猫の脳にダメージを与える」という都市伝説だと考えられます。ですから現時点では、マタタビが猫の脳にダメージを与えるという逸話には、少なくとも科学的な根拠がないと考えてよいでしょう。 月岡芳年作「猫鼠合戦」(1859年)~マタタビに夢中になる猫の姿を確認できる  日本国内においても「マタタビは猫の中枢神経を麻痺させる」といった表現をネット上で非常によく目にします。しかし誰一人として出典を明示していないことから考えると、これもライハウゼンに端を発する伝言ゲームの一部なのだと考えられます。あるいは浮世絵に描かれた猫の姿などから想像を膨らませた結果なのかもしれません。
 マタタビが猫の脳に与える影響を具体的に調べてみると、「麻痺させる」と言うよりむしろ「活性化させる」作用の方が強いようです。1963年と非常に古い資料ですが、マタタビに含まれる「β-フェニルエチルアルコール」、「アクチニジン」、「マタタビラクトン」が猫の脳にどのような影響を及ぼすのかを調べた結果があります。この調査では、以下のような事実が明らかになりました(→出典)。
マタタビの中枢神経への影響
  • 呼吸数には影響を及ぼさない
  • 迷走神経を通じて血圧をやや低下させる
  • 大脳辺縁系(海馬・扁桃体)、視床下部、網様体、視床中継核、尾状核、大脳新皮質などに作用する
  • 海馬、視床下部、網様体において突発的な放電が時折起こる
  • もっぱらコリン作動性の神経細胞に作用する
 突発的で不規則な電気信号の放電が脳内で起こることにより、一時的におかしな行動を取ることはあっても、「麻痺する」ことはないようです。

マタタビの中毒性

 猫にとってのマタタビが単なる大好物なのか、それとも人間にとってのタバコのように定期的に摂取しないとイライラしてしまうタイプのものなのかはよくわかりません。マタタビに対して示す反応がせいぜい数十分しか継続しないという点から考えると、意外に早く慣れが生じるものと推測されます。
 慣れが生じてしまうと、使用量を少しずつ増やしていかないと刺激が物足りなくなり、嗜好品としての魅力を失ってしまいます。人間で言うと、1日1本から始めたタバコが、いつの間にか1日2箱吸っても物足りなくなるのと同じです。
 マタタビの魅力を維持するためには、請われるままに与えるのではなく、一定のルールを決めた上で与えたほうがよいでしょう。たとえば以下のような感じです。
猫にマタタビのタイミング
  • 留守番中のパズルフィーダーに仕込んでおく
  • 病院に行く時のキャリーの中に振りまく
  • 名前を呼んで来てくれたらほんの少し与える
 マタタビが猫に害を与えるという科学的な根拠はないものの、飼い主の逸話レベルでは「心臓に負担をかける」、「攻撃的になる」といったものが散見されます。こうしたものは恐らく、酔ったような反応からの推測なのでしょうが、恍惚感を生み出す機序がはっきりとはわかっていない以上、あまりにも大量に与えるのはやめたほうが無難だと思われます。また靴下などの繊維素材にマタタビを入れておもちゃにしまうと、猫がガジガジかじって糸がほつれ、誤飲事故の原因になるので注意が必要です。 マタタビ商品一覧
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