トップ猫の健康と病気猫の泌尿器の病気猫の特発性膀胱炎

猫の特発性膀胱炎

 猫の特発性膀胱炎について病態、症状、原因、治療法別にまとめました。病気を自己診断するためではなく、あくまでも獣医さんに飼い猫の症状を説明するときの参考としてお読みください。また猫の採尿と尿検査についてはこちらをご参照ください。

特発性膀胱炎とは何か?

 特発性膀胱炎(とくはつせいぼうこうえん)とは、体内で作られたおしっこを一時的に溜めておく「膀胱」という袋状の器官に炎症が起こった状態です。特発性膀胱炎とは、膀胱炎のうち原因がよく分からないものを指す 通常の膀胱炎は尿検査、レントゲン検査、超音波検査などを行うと、結石や細菌などが見つかりますが、この「特発性膀胱炎」の場合はそうした明確な原因が見つからず、症状だけが現れます。
 アメリカ・ミネソタ大学の統計データでは、下部尿路症候群にかかっている猫のうち54%、オハイオ州立大学では79%が、特発性膀胱炎の病歴があるとしています。
猫の特発性膀胱炎トップへ

特発性膀胱炎の原因

 特発性膀胱炎の原因はよくわかっていません。恐らく、神経系、副腎、膀胱、環境因子など複数の要因が複雑に絡み合って発症しているものと推測されています。このことから、ギリシア神話に登場するさまざまな災いが入った「パンドラの箱」にちなみ、「パンドラ症候群」(Pandora Syndrome)と呼ぶ人すらいます。以下で列挙するのは、現在原因として考えられている危険因子の数々です。
特発性膀胱炎の危険因子
原因は不明ながらも、「特発性膀胱炎」の危険因子は幾つかわかっている
  • オス猫
  • 肥満
  • 純血種
  • ドライフード
  • 飲水量不足
  • ストレス
 最後に挙げた「ストレス」の中には、「旅行」、「引っ越し」、「新しいキャットタワー」といった環境の変化や、「新しいペット」、「赤ちゃんの誕生」、「ペットシッターの訪問」といった新参者の存在、および「寒い」、「梅雨に入った」、「雷が鳴った」といった気候の変化など、ありとあらゆるものが含まれます。
 なお、2014年に「日本ヒルズ・コルゲート」が公表した「愛猫のストレスと病気に関する意識調査」では、ストレスと特発性膀胱炎の因果関係を示唆するような結果が出ています。 愛猫のストレスと病気に関する意識調査(日本ヒルズ・コルゲート, 2014)  調査対象となったのは、猫を飼っている20代以上の男女536 名。そのうち「猫はストレスを感じやすいタイプか?」という質問に対し、「あてはまる」、もしくは「ややあてはまる」と解答した人の割合は、合計49.8%に上ったといいます。さらに上記「ストレスを感じやすい猫」のうち、「粗相」、「血尿」、「排尿痛」といった特発性膀胱炎に関連した症状を示した猫の割合は、41.2%に上ったとのこと。これは「ストレスを感じにくい猫」の27.5%と比べると、約1.5倍に相当する数字です。
 特発性膀胱炎の原因はストレスだけではありませんが、少なくとも密接な関係にあることがうかがえます。
猫の特発性膀胱炎トップへ

特発性膀胱炎の症状

 特発性膀胱炎の症状には、目や耳といった五感を通してわかるものと、病院における検査を通してわかるものとがあります。猫と同居している飼い主が覚えておくべきは、以下で述べるような「疾病行動」(しっぺいこうどう, Sickness Behaviour)と呼ばれる数々の変化です。通常は1週間程度で自然と症状がなくなりますが、1年以内の再発率は50%程度と言われています。
特発性膀胱炎に伴う疾病行動
特発性膀胱炎にかかった猫は「血尿」、「粗相」といった特徴的な行動を見せる
  • おしっこの回数が増える
  • おしっこの姿勢をとるが出ない
  • おしっこするとき声を出して痛がる
  • おしっこに血が混じる
  • トイレ以外で粗相する
  • 陰部をしきりに舐める
 上記したような症状に気付いた場合、飼い主は「特発性膀胱炎」の可能性を疑い、念のため動物病院に連れて行った方が良いでしょう。そして動物病院の獣医さんが検査によって確認する臨床所見には、以下のようなものがあります。なお(※)が付いた項目は、人間の女性に多い「間質性膀胱炎」(かんしつせいぼうこうえん)と共通する所見です。
特発性膀胱炎に伴う臨床所見
  • 腹部を触ると痛がる
  • 膀胱が小さい
  • 膀胱壁に肥厚が見られる
  • 血尿
  • X線・超音波検査でポリープ・腫瘍・結石が見られない
  • 尿採取による培養で細菌が検出されない(※)
  • 膀胱鏡検査で粘膜の出血が見られる(※)
  • 粘膜におけるグリコサミノグリカンの生成が少ない(※)
  • 膀胱粘膜に通常よりも多いマスト細胞と求心性神経線維が見られる(※)
 上記したような臨床所見が確認された場合、原因がよくわからない膀胱炎、すなわち「特発性膀胱炎」と診断されます。
間質性膀胱炎
 間質性膀胱炎(かんしつせいぼうこうえん)とは、頻尿、尿意切迫感、膀胱痛などを主症状とする難治性の病気で、40歳以降の女性に多いとされています。猫の「特発性膀胱炎」同様、細菌など明確な原因が見つからないやっかいな病気の一つです。
猫の特発性膀胱炎トップへ

特発性膀胱炎の治療

 特発性膀胱炎の治療には、動物病院で獣医さんが行う「通院治療」と、飼い主が自分の家で行う「自宅治療」とがあります。

通院治療

 動物病院における特発性膀胱炎の治療は、今出ている症状に対する対症療法がメインとなります。しかし病気の原因自体が定かでは無いため、鎮痛薬以外の効果はまちまちです。
特発性膀胱炎への投薬治療
  • ブプレノルフィン(鎮痛薬)
  • ブトルファノール(鎮痛薬)
  • 鎮痙剤(痙攣や疼痛を緩和する薬)
  • 抗生物質
  • 抗コリン薬
  • アミトリプチン(抗うつ薬の一種)
  • グリコサミノグリカン(動物の結合組織に存在するムコ多糖, GAG)
  • 抗炎症薬

自宅治療

 自宅における特発性膀胱炎の治療は、「ストレス管理」の一言に尽きます。猫にとって最適な環境を整えてあげることは、通常「環境エンリッチメント」と呼ばれますが、特発性膀胱炎の改善を目的とした場合は、特に「多面的な環境調整」(multimodal environmental modification)の頭文字を取って「MEMOセラピー」と呼ばれることもあります。具体的な内容は以下です。より詳しい内容は、各項目ごとに設けたリンク先に掲載してありますので、そちらもあわせてご参照下さい。
特発性膀胱炎へのMEMOセラピー
  • エサ 水の摂取量を増やす目的でドライフードからウエットフードに切り替えてみる。猫の食事を邪魔しないよう、食器の周辺に余計なものを置かない。例えば空気清浄機、扇風機、エアコンの送風口、食事を邪魔しようとする他の猫など。また近年は猫のストレスに配慮した「加水分解ミルクプロテイン」と「トリプトファン」を含んだ療法食もあるので試してみる。猫の食欲不振
  •  水を飲む機会が増えるよう、水飲み場を複数箇所用意し、常に新鮮な水を補充するように努める。水を入れる容器も清潔を心がける。市販されている「マタタビ添加物」などで飲水量が増えるかどうか試してみる。猫に水を飲ませるコツ
  • トイレ トイレの数は飼っている猫の数+1が基本。おしっこやウンチをこまめに取り除く。トイレの周辺から猫の気を散らすようなものを徹底的に排除する。粗相しても絶対に怒らない。猫のトイレのしつけ 猫のトイレの失敗
  • 住空間 猫が安心して生活するためには、他の猫からの適切な距離と、すっぽり身を隠せる隠れ家が必要。壁際+高所であればなおよい。猫の欲求
  • 遊び 遊びによって猫の狩猟本能を満たしてあげることは、運動不足と共にストレスの解消にもつながる。猫と遊ぶ
  • 猫同士の関係 多頭飼いの家庭においては、猫同士の間に対立がないかどうかを常にチェックする。もし対立がある場合は、「職場や学校における気の合わない人」のように、多大なるストレスの原因になりうる。猫同士が喧嘩しないよう、エサ、水、トイレ、寝床といった資源を平等に分配し、場合によっては猫ごとに部屋を分割する。猫のひっかき・噛む癖
  • 人との接触 猫は孤独な動物と思われがちだが、実は非常に愛情を求める動物でもある。特に室内飼いで刺激が不足しがちな家庭においては、定期的に猫と触れ合い十分な愛情かけることが必要。猫マッサージ
  • 猫用フェロモン 猫の顔から抽出したフェイシャルフェロモン(FFP)には、疾病行動を減らす効果があると報告されている。また見知らぬ環境における猫のストレスを軽減する効果も報告されているため、場合によっては適用する。猫のフェイシャルフェロモン
 上記した項目は、数あるストレス管理の中でも比較的優先順位が高いものです。その他のストレス管理に関しては猫の幸福とストレスにまとめてありますので、あわせてご確認ください。私達人間は気にも留めないような些細なことが、デリケートな猫にとってはストレスの原因になっていることが多々あります。
猫の特発性膀胱炎トップへ