トップ猫の体猫の体の構造猫の足と肉球・完全ガイド

猫の足と肉球・完全ガイド~種類・構造から隠された機能までを完全図解

 猫の足をよくよく観察してみると、驚くほど繊細で高い機能をもっていることがわかります。少しの間だけ猫の手を借り、前足や後ろ足の骨格・肉球・爪などを動画や画像を用いて詳しく見ていきましょう!

猫の指

 猫の指は左右の前足に5本ずつ、左右の後ろ足に4本ずつ、合計18本付いています。人間に置き換えると足の親指が2本足りないという計算です。前足の上の方についてる指は、英語圏では「狼爪」(ろうそう, dewclaw)などと呼ばれますが、日本では馴染みがないので普通に「手の親指」と言った方がわかりやすいでしょう。 猫の指は前足に5本、後ろ足に4本ついている  猫の指は基本的に全部で18本ですが、カナダの東部やアメリカの北東部には前足や後ろ足の指の数が多い猫がたまに見られます。これが「多指猫」(Polydactyl Cat)と呼ばれる猫です。 指の合計数にはバリエーションがあり、最も多いのが前足の指だけが左右一本ずつ多い合計20本というパターンです。後足の指だけが多いと言うケースは珍しく、また前後の足全ての数が多いというケースは更にまれです。ちなみにギネス記録では、カナダの「ジェイク」という名の猫が、1本の足に7本ずつ、合計28本の指を持っていたとされています。 多指猫とは、通常よりも多く指を持つ猫のことでポリダクティルキャットとも呼ばれる  多指猫は通常の猫よりも手先が器用だといわれており、転がるものを上手に片手でキャッチするなど、普通の猫には出来ないようなことができる個体もいるとか。こうした特質から昔の船乗りたちは、船の中でネズミをつかまえる「船猫」(ship cat)として、多指猫を好んで迎え入れたという逸話もあるくらいです。またアメリカの文豪・アーネスト・ヘミングウェイが船乗りから譲り受けた「スノーボール」という名のポリダクティルキャットは、その後子孫を残し、現在「ヘミングウェイ博物館」(THE ERNEST HEMINGWAY HOME & MUSEUM)の庭で暮らしています。英語圏で多指猫のことを「ヘミングウェイ・キャット」と呼ぶ人がいるのはそのためです。 指の数が多いことで有名な通称「ヘミングウェイ・キャット」  純血種の猫では「アメリカンポリダクティル」や「クリッパーキャット」で多く見られます。
なお2016年に行われた調査では、多指が猫の骨格や健康に悪影響を及ぼすことはないと確認されていますのでご安心を。詳しくは「指が多くなる多指症は猫に健康被害をもたらさない」という記事にまとめてあります。
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猫の肉球

 猫は前足にも後ろ足にも「肉球」(paw pad)と呼ばれるクッション素材を持っています。猫を飼っている人なら誰でも一度は「ぷにぷに」したことがあるでしょう。

肉球の種類と名前

 猫の肉球の一般的な種類および名称は以下です。 猫の肉球の名称、および色一覧~黒から乳白色まで、個体によって様々な色合いを見せます
  • 指球(しきゅう)指の根元に存在する、小さ目な5つの肉球。
  • 掌球(しょうきゅう)文字通り、たなごころ(掌=手の平のこと)に存在する肉球。
  • 手根球(しゅこんきゅう)前足のみに存在する肉球。下にある「豆状骨」(とうじょうこつ, pisiform)と呼ばれる小さな骨を守っていると考えられる。
  • 狼爪(ろうそう)人間で言うと親指に相当する指で、基本的に後ろ足にはない。第一指とも言う。

肉球の構造

 猫の肉球を顕微鏡を用いて断面的に見ると、外側から表皮層、真皮層、皮下組織層という3層構造になっています。猫の肉球の断面構造~外側から表皮・真皮・皮下組織層
  • 肉球の表皮層表皮層にはコラーゲン線維のうちタイプIと呼ばれるものが最も多く含まれています。このタイプは強い引っ張り強度をもっている線維です。地面と直接接触するという関係上、簡単には損傷を受けないような構造になっているのでしょう。また地面と接する一番外側は、角質層が厚く重なり合って「結胝組織」(けっていそしき=いわゆる足の裏に出来る”タコ”)を形成しています。
  • 肉球の真皮層真皮層には真皮乳頭と呼ばれる突起構造が多く観察されます。また弾性線維のほか、表皮層と同じタイプIのコラーゲン線維が大部分を占めています。ハニカム構造を形成するこの突起の中には神経や血管が豊富に含まれており、地面から受け取った感覚や周辺組織への栄養補給を行っています。また汗腺(エクリン腺)の導管が通っており、表皮層を湿らせて滑り止めにする役割も担っています。
  • 肉球の皮下組織層皮下組織層にはコラーゲン線維(タイプIII)で囲まれた小さな脂肪がたくさん観察されます。さらにこの微小コンパートメントを三次元的に解析すると、形と大きさが不揃いのラグビーボールをびっしりと詰め込んだような構造になっています。

肉球の機能・働き

 中国にある北京航空航天大学を中心としたチームは、猫の肉球が持つショックアブゾーバー(衝撃吸収材)としての機能を調査するため、バイオメカニクス(生物力学)的にミクロ(顕微鏡)およびマクロ(肉眼)の解析を行いました。その結果、肉球の一番内側にある「皮下組織層」は驚くべき構造と機能を備えていることが明らかになったといいます。 肉球の皮下組織層で見られる楕円形の脂肪コンパートメント  調査チームは、皮下組織層を埋め尽くしている楕円形の脂肪コンパートメントに着目しました。この形状が持つショックアブゾーバーとしての性能を検証するため、ラグビーボール状および円柱状のシミュレーションモデルを作成して上下から圧力を加えたところ、ラグビーボールモデルにおいてのみ圧力が加われば加わるほどひずみの度合いが小さくなるという特性が確認されたといいます。楕円形の脂肪コンパートメントに上下から圧力が加わると円柱状に変形する  要するに「猫の足の裏が地面に接触→皮下組織層に含まれるラグビーボール状の脂肪コンパートメントに圧力が伝わる→瞬時にして円柱状に変形→ひずみが生じにくくなる→足に力を入れる→スムーズに筋力が地面に伝わる」ということです。プニプニした肉球には、驚くべき構造とクッション機能があるんですね。より詳しい解説は以下のページでも行っています。 猫の肉球に隠された秘密

肉球の色

 猫の肉球は、皮膚に含まれるメラニン色素の濃度によっておおよそ以下のような色になります。多くの場合、鼻の色と肉球の色とは一致します。

黒い肉球

 黒い肉球は基本的に、被毛の中に黒色が混じった猫で見られます。具体的には黒猫やブルー、鼻先や手足の先が黒くなるシャム猫、白と黒の2色からなる白黒猫(はちわれ)、オレンジと黒系統の2色からなるサビ猫、黒い縞模様が入るサバトラ(キジトラ)、サバトラの一部に白い被毛が混じったサバシロ(キジシロ)などです。三毛猫にも黒が混じっていますが、肉球が黒一色になることはほとんどなく、多くはピンクと黒のまだら模様になります。 猫の肉球の色~黒

ピンク色の肉球

 ピンク色の肉球は被毛の中に白やオレンジ(茶色)が混じった猫で見られます。具体的には白猫、アルビノ猫(色素が欠落した猫)、白黒(はちわれ)、茶トラ、茶トラに白い被毛が混じった茶白、サバトラに白い被毛が混じったサバシロ(キジシロ)、サビ猫に白い被毛が混じった三毛猫などです。ただしサバシロや三毛猫は肉球全体がピンク一色になることはほとんどなく、多くの場合は黒とピンクのまだら模様になります。 猫の肉球の色~ピンク

あずき色の肉球

 あずき色の肉球はメラニン色素の濃度が中等度のときに現れます。基本的には黒い肉球を持つ猫と同じですが、特に黒猫やブルー、鼻先や手足の先が黒くなるシャム猫、黒い縞模様が入るサバトラ(キジトラ)などでよく見られます。またブラウンやチョコレート色の猫でも肉球はあずき色を呈します。 猫の肉球の色~あずき

まだらぶちの肉球

 ピンクと黒が入り混じり、肉球がまるでアポロチョコのようなまだら模様を呈することがあります。このタイプの肉球は被毛に白と黒の両方を含む猫でよく見られます。具体的には白黒(はちわれ)、サバシロ(キジシロ)、三毛猫などです。 猫の肉球の色~まだらぶち  ただし今まで黒かった肉球が、加齢とともにピンク色に変色してきたという場合は要注意です。猫ではまれですが、尋常性白斑(vitiligo)と呼ばれる皮膚疾患の可能性があります。必ずしも命に関わる病気ではありませんが、日光の影響をもろに受けやすくなりますので、紫外線には注意してあげましょう。詳しくは以下のページでも解説してあります。 皮膚や毛の色が脱落する猫の尋常性白斑 猫の尋常性白斑症状(色素の部分的な脱落)が現れやすい場所

猫は肉球で汗をかく

 猫の肉球には「エクリン腺」と呼ばれる汗を分泌する組織が分布しています。また肉球表面のごく小さなくぼみ部分には真皮層にあるエクリン腺の開口部がつながっており、肉球を効率的に湿らせるようになっています。汚い例えですが、人間で言うと、何か作業する前に両手に「ペッ!」とつばを吐きかけるような感じでしょう。動物病院の診察台の上で、猫の肉球がべちゃべちゃになるのは、足に滑り止めを利かせてとっととその場から逃げおおせたいという気持ちの現れだと考えられます。

汗腺(エクリン腺)の構造

 肉球に含まれるエクリン腺は人間の脇の下に含まれているアポクリン腺とは別物ですので、汗に含まれる脂質が微生物で分泌されて「酸っぱい匂いを発する」とか「汗臭くなる」ということは基本的にありません。人間と猫のエクリン腺は構造的にほとんど同じですが、以下に述べるような細かな違いもあります(Bryce L. Munger, 1961)猫のエクリン腺~顕微鏡拡大写真
  • 汗は血清と同じ等張液人間の汗は体液がもつ浸透圧より低い低張液ですが、猫の汗はほぼ血清と同じ等張液になっています。この違いは、人間の導管内腔を覆っているクチクラ縁(小皮縁)が塩素やナトリウムを再吸収することで生じると考えられています。
  • ミトコンドリアがない人間では導管の内腔を構成している基底細胞内部にミトコンドリアが豊富に観察されます。一方、猫ではほとんどみられません。ミトコンドリアはエネルギーを作り出す内燃機関ですので、人間ではイオンの再吸収をするために存在しているものと考えられています。
  • 汗腺は深いところにある人間のエクリン腺は表皮に近い部分に分布していますが、猫のエクリン腺は真皮層と皮下組織層の結合部より奥まった骨に近いところにあります。

汗に含まれるフェロモン

 汗腺から分泌された汗は滑り止めの役割を果たすと同時に、マーキング(縄張り誇示行動)の匂いつけにも利用されます。たとえば猫が爪とぎするときなどです。ガリガリと何かをこする際、主に掌球から分泌される微量分子(フェロモン=猫を一定の行動に駆り立てるメッセンジャー)を痕跡として残していると考えられます。
 フランスのCEVA社が行った調査によると、指間フェロモン(FIS=Feline Interdigit Semiochemicalの略)を塗りつけた場合、猫がスクラッチポストを好んで使用する頻度が高まったとのこと(Beck A, 2018)。具体的にどの物質がフェロモンとして機能しているのかに関しては不明ですが、組織学的な調査により以下に述べるような糖タンパクが関わっている可能性が示されています(Meyer W ,1989)
猫の指間フェロモン成分?
  • α-D-マンノース
  • α-D-ガラクトース
  • N-アセチル-α-D-グルコサミン
  • α-L-フコース
  • β-D-ガラクトース
  • β-D-ガラクトース-D-N-ガラクトサミン
  • シアル酸
 さらに日本で行われた別の調査では、エクリン腺からの分泌液と肉球の表皮層から抗菌作用を持ったいくつかの成分が検出されています。具体的には「ライソゾーム」「ラクトフェリン」「β-ディフェンシン」などで、肉球表面の健康を維持するために存在しているものと考えられます(Yasui, 2008)
 飼い主の間では猫の肉球が「ポップコーンの匂い」とか「枝豆の匂い」に近いという話もありますが、エクリン腺分泌液の他、床の匂いや唾液の匂いが混じり合い、肉球にいる細菌叢の発酵作用を受けてこのような匂いができあがると考えられます。確証はありませんが、鼻が良い人の場合、上記した「指間フェロモン」がポップコーンや枝豆の匂いに感じられるのかもしれません。 猫の爪とぎのしつけ アレルギーを抱えた猫と健康な猫における皮膚細菌叢の違い

肉球の感覚センサー

 猫の肉球には、外からの機械的な刺激(圧力や振動)を感じ取り、秒速40mを超える速さで刺激を伝える有髄の求心性線維が3種類ほど確認されています(W. JAnig, 1968)

パチニ小体線維

 パチニ小体線維とは、皮下組織層にある「パチニ小体」と呼ばれる感覚受容器に連なる神経線維のことです。この線維は非常に敏感で、平均すると5μ(0.005mm)というごくわずかな皮膚への圧力でも反応し、最も敏感な場所ではわずか0.15μ(0.00015mm)でも反応するとされています。以外なことに、最も敏感なのは肉球の中心部ではなく辺縁部や肉球を分ける溝の部分とのこと。

RA線維

 RA線維とは刺激に対する適応が早い線維のことです。この線維はピンポイントの刺激もしくは平面圧に対して最大で0.5秒間だけ反応した後、すぐ無反応になります。感度は5~27μで、290gの圧では70~100Hz、1,225gの圧では200Hzという具合に、加わる力が大きくなるほど神経の発火頻度が高まります。

SA線維

 SA線維とは刺激に対する適応が遅い線維のことです。この線維は持続的な圧力に反応し、力が加わっている間ずっと神経が発火し続けます。また80%以上の線維では1Hz未満の自発的な発火が見られるとも。

犬と猫の肉球の違い

 雪が降った時、犬は喜んで庭を駆け回り、猫はコタツで丸くなるとよく言われますが、こうした犬と猫のリアクションの違いには、どうやら彼らが持つ肉球の構造が関わっているようです。
 2013年に日本で行われた研究により、犬の肉球は「表皮乳頭」と「動静脈吻合」という特徴的な構造を持っていることが発見されました。以下は、犬と猫の肉球の断面を模式的に示したものです(Ninomiya, 2013)犬と猫の肉球断面比較図  「表皮乳頭」(ひょうひにゅうとう)は、肉球の表面にあるデコボコした起伏のことで、冷たい地面と直(じか)に接する面積を少なくするための構造だと考えられます。猫の肉球がツルツルしているのに対し、犬の肉球がザラザラしているのは、おそらく表面がこの乳頭によって覆われているからなのでしょう。
 「動静脈吻合」(どうじょうみゃくふんごう)は、動脈と静脈を結び付ける連絡路のことで、「イルカの尾びれ」、「アヒルの足」、「クジラの舌」など、寒い環境で生きている動物種に広くみられる構造です。その役割は、冷たい地面と接している足先の血流量を増加させることと、静脈血の冷えすぎを防ぐことです。体表温度が0℃に近づくと、自律神経の作用によって動静脈吻合が拡張して血流量が増加し、足先の凍傷を防ぐと同時に、体温が下がりすぎて低体温症になることも防いでくれます。
 犬の祖先が、寒冷地帯に暮らすハイイロオオカミであるのに対し、猫の祖先は砂漠地帯に暮らすリビアヤマネコです。こうした祖先種の生活環境の違いが、犬と猫の肉球の構造を変化させ、雪が降った時のリアクションの違いを生み出しているのでしょう。
猫からすると「凍傷にかかってまで遊びたかないよ」といったところです。
NEXT:爪の構造から働きまで

猫の爪

猫の爪の構造~内側のクイックを囲む形で固い外層が付着している  猫を始めとするネコ科動物は基本的に爪の出し入れが出来ます。爪は内側と外側の二層構造になっており、クイック(Quick)と呼ばれる内側には神経と血管が通っています。
 猫が爪とぎをするのは、古くなった爪の最外層をはがすことで、常に新しい爪をむき出しにしておくためです。猫の爪は、鉛筆のキャップのように幾重にも重なった構造をしており、内側に新しい爪ができると、古くなった外側の層をはがす必要性が生じます。猫が主として用いるのは前足なので、爪とぎをするのも前足だけです。はがれた最外層の爪は、通常三日月型をしていますが、普段爪とぎをしない後足の爪がポロリと落ちると、爪の形がそのまま残っていることもあります。
猫の爪が飛び出す仕組み
猫の爪が飛び出す仕組み~爪の下に付着した「深趾屈筋腱」というケーブルが、「深趾屈筋」という筋肉に引っ張られることで、ちょうど滑車のように爪が外に飛び出す  猫の爪は、平常時は靭帯(じんたい=骨格同志をつなぎとめるケーブル)によって格納されています。これは爪の磨耗(まもう)を防ぐと同時に、足音を忍ばせて獲物に近づくためです。しかし爪につながっている腱(けん=筋肉と骨格を結ぶケーブル)を筋肉の力で引っ張り上げると、滑車(かっしゃ)の要領で爪が外に飛び出すメカニズムになっています。具体的には、爪の下に付着した深趾屈筋腱(しんしくっきんけん)というケーブルが、深趾屈筋(しんしくっきん)という筋肉に引っ張られることで、ちょうど滑車のように爪が外に飛び出す構造です。獲物を襲うときや滑りやすい場所を歩くとき、あるいは木に登るときなどは自分の意思で爪を出すことが出来ます。
チーターの足と爪~常に爪が出た状態になっているのはスパイクとして使うため  ちなみに、ネコ科動物の中でもチーターは爪の出し入れが出来ず、常に出しっぱなしの状態です。これはチーターが猫と違って「脚力型」の狩猟を行うためです。猫は「待ち伏せ型」の狩猟を行いますので、獲物に足音を気づかれないよう、爪を隠す必要があります。しかし脚力型のチーターはスピードで一気に獲物との距離を縮めますので、爪を隠して足音を忍ばせる必要性が、猫と比較するとそれほどないという訳です。
猫の爪の構造に関しては「猫の爪切りの仕方・完全ガイド」でも詳しく解説してあります。
NEXT:猫にも利き手はあるのか?

猫の利き手

 猫には、人間で言う「右利き」、「左利き」のように、どちらか一方の前足を多用する傾向があるようです。参考までに、テキサスA&M大学で、オス猫7匹、メス猫6匹を用いて行われた実験をご紹介します。カウントされたのは、全て前足です。 「猫の行動学」(インターズー, P343)
自由に手を伸ばす
「自由に手を伸ばす」というテストにおける、猫の前肢の優位性
チューブの中に手を伸ばす
「チューブの中に手を伸ばす」というテストにおける、猫の前肢の優位性
障害物へ手を伸ばす
「障害物へ手を伸ばす」というテストにおける、猫の前肢の優位性
全体
様々なテストにおける、猫の前肢の優位性・総合結果  このように、テキサス大学における観察では、わずかに左前足を優位的に用いるという結果が出ています。
 しかし猫の利き手に関しては、研究者によって結果はまちまちです。例えば、1990年と1993年にKutluが行った観察では、右手優位が49.5~51.5%、左手優位が36.4~40.4%、両ききが10.1~12.1%といった具合に、非常に大きな幅をもった結果が出ています。
 猫がどちらの前足を好むのかについては、大脳皮質感覚運動野の左右差や、「対象物にたまたま右足が近かった」などの利便性が影響します。また、テストステロンというホルモンは、左脳を抑制して左右両利きを引き起こすと推測されています。さらに、リチウムやイミプラミンなどの薬物が、未知のメカニズムを通して利き手に影響を及ぼすようです。
 ちなみに2016年、アイルランドで行われた調査により、利き手の有無が猫の性格を決定づけているという可能性が示されました。調査チームによると、利き手のある猫では「自信がある・愛情深い・活動的・友好的」という傾向、利き手のない(=両利きの)猫では「愛情が薄い・従順性と友好性が低い・攻撃性が高い」という傾向が見出されたとのこと。
詳しい内容は「猫の利き手を調べれば性格もわかる?」をごらんください。
NEXT:猫のジャンプ力の秘密

猫のジャンプ力

 猫は非常に優れたジャンプ力を持っており、自分の体高の5倍近くを跳ぶともいわれています。この機敏な動き実現しているのは、後足に多く含まれる「速筋」と呼ばれる白っぽい筋肉です。特に多く含まれているのは「TypeIIx」と呼ばれる筋線維で、「疲れやすいけれども瞬間的に非常に強い力を出す」という特徴を持っています。猫の後肢における速筋「TypeIIx」の含有率18頭の猫を対象とした調査では、後足の筋肉における「TypeIIx」線維の割合が69.7%にまで達するという結果が出ていますので相当なものです出典資料:Michell A, 2002。こうした筋組成を持った結果、猫は「高い木に飛びつく」「短距離を全力疾走する」「狙った獲物にとびかかる」といった動きが得意になりました。しかし逆に、犬のように長距離を延々と走るという運動は、よほど必要がない限りしようとしません。猫が一日中寝ていたり、10分くらい遊ぶとすぐに疲れて寝ころんでしまうのは、後足の筋肉に疲れがたまりやすいことが、一因としてあるのでしょう。
サバンナのジャンプ力
 以下でご紹介するのは、優れたジャンプ力を持っていることで有名なサバンナという猫の動画です。垂直跳びで1.5メートル近くを軽々と跳んでいます。 元動画は→こちら
 なお2002年に行われた実験により、猫のジャンプ力は、後足が長くて体脂肪率が低いほど大きくなることが明らかとなりました出典資料:Michell A, 2002。調査の対象となったのは、性別も体重もばらばらの18頭の猫。後足の長さ(大腿骨+脛骨+足根骨+中足骨)、体重、脂肪率、筋肉の質量、筋肉のタイプといった変数と、ジャンプによって足が地面から離れるときの速度(TOV=Take Off Velocity)との関係が精査されました。その結果、後足が長ければ長いほど、また体脂肪率が低ければ低いほどジャンプ力が大きくなることが明らかになったといいます。また筋肉の質量や筋肉のタイプは、それほど離陸速度に影響を及ぼさなかったとも。 後ろ足の長さがまったく違うマンチカンとサバンナ  猫の中でもサバンナは非常にジャンプ力があることで知られていますが、その理由はこの種が持つ非常に長い足で説明がつくかもしれません。
逆にマンチカンのような短足種のジャンプ力が小さくなるのは、仕方のないことですね。
NEXT:猫はなぜ木登りが得意?

猫と木登り

 猫を始めとするネコ科動物は、木登りが得意です。小型の猫はもちろんのこと、ライオン、トラ、ヒョウといった大型の動物でさえ楽々と木に登ることができます。ネコ科動物の木登りを可能にしているのは以下に述べるような身体的な特徴だと考えられます。
木登りと身体的構造
  • 鉤爪猫の鉤爪は木登りに適している平べったい人間の爪とは違い、猫の鉤爪(かぎづめ)は円柱状にカーブしながら伸びます。また断面が楕円形になっているため、縦方向の力には非常に強いというのも特徴です。さらに爪の先端は鋭く尖っており、デコボコした表面に容易に引っかかるようにできています。こうした鉤爪の構造は、獲物を仕留めるときに役立つのはもちろんのこと、木に登るときにも威力を発揮します。
  • 回外が得意猫の回外動作は木登りに適している「回外」(かいがい)とは、前腕をねじって親指を外側に向ける動きのことです。人間では当たり前のように出来る動作ですが、実は霊長類以外の動物はあまり得意ではありません。例外はネコ科動物です。自分の前足の爪を噛む仕草からもわかるように、猫は自力で親指を外側に向けることができます。この前足の動きは、幹にしがみつく際に大いに役立ちます。
  • グリップができる猫のグリップ能力は木登りに適している猫の肉球を触っていると、手を握り締めてぎゅっと丸めることがあります。このように猫は、握るという動作によって指と爪の角度を自在に変えることができるのです。このグリップ能力は、爪の先端を木の幹に効率的に食い込ませるときに役立ちます。
 上記したような身体的な特徴により、猫を始めとするネコ科動物は、一般的に木登りが得意です。樹木の少ない都会や、完全室内飼いの猫ではほとんどお目にかかれませんが、野生環境で暮らすネコ科動物では、敵から逃げるときや獲物を探して周囲を見回すとき、あるいは獲物を追い詰めるときなどにしばしば観察されます。 木に登るライオンとトラ  ただしあまりにも調子に乗って高いところに登ってしまうと、自力では降りられなくなってしまうこともあるようです。木の上に取り残された猫が救助される場面を、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。こうした「行きはよいよい帰りは怖い」という現象は、子猫の頃、十分に木登りの練習をしなかったツケなのかもしれません。
木登りと猫の親指 猫の親指は木に登る際に役立っている 猫の前足には、他の4本からかなり離れた場所にポツンと親指がついています。日常生活においてはほとんど役に立っていませんが、木に登る時だけは別です。木の幹を抱え込んだとき、この親指が表面に食い込むことで体重の支持を補助しているのです。一方、後足の親指は退化してありません。これは恐らく、後ろ足が木に登るときの抱え込み動作に関わっていないからでしょう。
NEXT:足と肉球・Q & A集

猫の足と肉球・Q & A

 以下は猫の足や肉球についてよく聞かれる疑問や質問の一覧リストです。思い当たるものがあったら読んでみてください。何かしら解決のヒントがあるはずです。

猫の足が短いのは病気?

骨格の病気を人間が意図的に固定化したものです。

 猫の品種の中には前足と後ろ足が極端に短いものがいます。最も有名なマンチカンのほか、マンチカンを基礎猫としたジェネッタスクークムメヌエット(旧名:ナポレオン)などです。この短い足を作り出しているのは軟骨形成不全症と呼ばれる骨格の病気で、「ネコB1染色体」に含まれる遺伝子が関わっていると考えられています。この染色体は人間のヒト第4染色体に相当するもので、人医学の領域でも軟骨形成不全や軟骨無形成を引き起こすことが確認されています。
 ですからマンチカンの短足は、骨の病気をわざわざ品種として固定化したともいえるでしょう。海外において繁殖が非難されているのはそのためです。

足の裏にこぶができました…

それは骨瘤と呼ばれるものかもしれません。

 スコティッシュフォールドの最大の特徴である折れ耳には「TRPV4」と呼ばれる遺伝子の「V342F」という部位が関わっています。この遺伝子は細胞のカルシウム透過性イオンチャンネルを正常に保つ作用を持っており、健全な骨を形成する上で重要な役割を担っています。しかしこの遺伝子に変異を持ったスコティッシュフォールドにおいては骨がしっかりと成長せず、ゴツゴツとした「骨瘤」と呼ばれるこぶが足の裏にできてしまいます。これが「スコティッシュフォールド骨軟骨異形成」(SFOCD)と呼ばれる品種特有の疾患です。頻繁に前足を上げたままにしているとか、いつも後ろ足を浮かせて「スコ座り」をしているような場合、すでに骨瘤を発症しているのかもしれません。
 スコティッシュフォールドに関しては、イギリスでは品種団体(GCCF)が内規によって、そしてベルギーのブリュッセル市では条例によって繁殖を禁じています。治療法のない病気の苦しみからこの品種を救うためには、繁殖自体を禁止するしかありません。猫が置かれている苦境に関しては以下のページで詳しく解説してあります。 スコティッシュフォールド~特徴・歴史から遺伝性の病気(骨瘤)まで

猫の足が急に動かなくなりました

神経や血管の障害が考えられます。

 足が自分の体重を支えられなくなる荷重不全には様々な原因があります。まず圧倒的に多いのが動脈血栓塞栓症です。これは心臓でできた血栓と呼ばれる血の塊が血管の中で目詰まりを起こす病気のことで、猫においては腹部大動脈の三叉分岐部(サドル部)が好発部位になっています。後ろ足が急にフニャフニャになったという場合はまず血栓塞栓症を疑い、早急に動物病院を受診しましょう。 猫の動脈血栓塞栓症(FATE) 猫における動脈血栓塞栓症(ATE)の好発部位~腹部大動脈下端にあるサドル部  心血管系のまれなケースではフィラリアの成虫が足の血管に詰まったという症例があります。突如として右後足に力が入らなくなった猫の検査を行ったところ、腹部大動脈を経由して右後ろ足の大腿動脈に成虫が紛れこみ、血流を阻害していることが判明したとのこと。この症例では、世界初となる太ももからフィラリア成虫を除去するという手術が行われ話題になりました。 猫の大腿動脈からフィラリア成虫を除去するという世界初の手術  神経の障害で多いのが椎間板疾患です。背骨と背骨の間でクッションの働きをしている椎間板は、大きな衝撃によって破れやすく、中から飛び出した髄核と呼ばれる組織が神経根や脊髄を刺激して荷重不全を招きます。原因として多いのは高所からの落下や交通事故です。 猫の後ろ足が急に動かなくなった場合、椎間板が損傷しているかも  ガンが原因と考えられる荷重不全の症例もあります。体内のどこかにガンが発生していると、血液の凝固能が亢進して血栓ができやすくなります。この血栓が血流に乗って体内を巡り、構造が入り組んだ脳内などで目詰まりを起こすと、人間でいう「虚血性発作」や「脳梗塞」が引き起こされ、足が麻痺して歩けなくなるというメカニズムです。 ガンが原因と考えられる猫の脳血管障害(血栓塞栓症)  いずれにしても放置して良くなるということはありませんので、猫の足に力が入らないとか麻痺の兆候が見られるような場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。

毛が円形に抜けています

白癬菌に感染しているかもしれません。

 白癬菌は水虫の仲間に属する真菌(かび)の一種で、猫において非常に高い確率で確認されています。東京都内のペットショップで行われた保菌率調査では、3.6%だったという報告もあるくらいです。 ペットショップで売られている猫は高い割合で病原体を保有している ウッド灯検査によって猫の耳に浮かび上がった白癬菌  英語の「リングワーム」(ringworm)が示すように、白癬菌に感染した部位は被毛が抜け落ち、円形のハゲができてしまいます。前足の一部に不自然な脱毛部位がある場合は、白癬菌を疑ったほうがよいでしょう。 猫の白癬  一方、脱毛の原因がカビではない場合、舐性皮膚炎の可能性が考えられます。これはストレスが原因で自分の前足を舐め続け、部分的にハゲてしまう病気のことです。治療に際しては投薬よりもストレス管理が優先されますので、以下のページを参考にしてください。 猫の舐性皮膚炎

猫用の義足ってある?

あります。

 世界で初めて義足を装着したのはチャンネル諸島のジャージー島に暮らす「オスカー」という黒猫で、2010年のことです。この義足は骨の中に金属製のボルトをはめこむというデザインでした。その後さまざまなタイプの義足が開発され、現在でも世界中で試験的に使用されています。以下は一例です。
猫の義足いろいろ
  • アメリカ・ウィスコンシン州ウィスコンシン大学マディソン校の学生が3Dプリンターでテイラーメイドの義足を製作。不幸にも両方の後ろ足を失った猫の「スタッブス巡査」に試してもらう。猫の義足例~3Dプリンター製
  • アメリカ・ミシガン州先天的奇形のため動くたびに痛みが走る猫の「ワトソン」。特注の義足によって普通に歩けるように。猫の義足例~はめ込み式
  • カナダ後足に障害を抱える子猫の「キャシディ」(8ヶ月)。猫では初となるブレード型義足の装着手術を受ける予定。猫の義足例~ブレード型
  • アメリカ・ネバダ州後足が欠損した捨て猫「ヴィンセント」。インプラント型の義足でそこそこの運動性を取り戻す。猫の義足例~インプラント型
  • ロシア氷点下40℃のシベリアで凍傷にかかり、四肢先端の切断を余儀なくされた猫の「リージック」。3Dプリンターで作った義肢で再び歩けるように。4本すべてに装着する例としては世界初。猫の義足例~3Dプリンター製・四肢用
 近年は3Dプリンタによって個々の猫に合った、かなり精巧な装具を作ることが可能になっていますので、今後も同様の義足は増えていくでしょう。

前足でふみふみする理由は?

子猫時代の名残だと考えられます。

 猫がクッションや飼い主のおなかなど、柔らかいものの上で前足を交互に動かす動作は「ニーディング」(kneading)やミルクトレッド(milk tread)などと呼ばれます。このモーションはちょうど、子猫が母猫のお乳を絞り出すときに見られるものです。1歳を超えた成猫がこの動きをする理由は、おそらく気持ちが子猫に帰っているからでしょう。保護者の前でしっぽをぴんと立てたり、子猫のような甲高い声を出すのも同じ理由です。 もみもみマッサージをする理由は?

肉球の上の方にあるイボは何?

それは触毛隆起と呼ばれるものです。

 猫の手首付近の手根球と呼ばれる肉球から、親指の幅(2cm)ほど肘寄りにの場所に、5mmくらいの小さなイボがあります。飼い主の中には「できもの」「ほくろ」「腫瘍」「食いついたマダニ」などと勘違いして心配する人がいますが、これは「触毛隆起」(しょくもうりゅうき)と呼ばれる器官です。 猫の手首に付いている謎のイボ(触毛隆起)  触毛隆起から生えている触毛は「手根触毛」(carpal vibrissae)と呼ばれ、その根本には「血洞」と呼ばれる静脈のたまり場があります。役割に関しては「獲物を捉える補助」「木登りに役立つ」「速度センサー」「怪我の予防」などさまざまな仮説があるものの、いまひとつよくわかっていません。飼い主にとっても猫にとってもあって困るというものではありませんので、やみくもに切ったりせずぞのままにしておきましょう。 猫の手首にある小さなイボと毛は何?

胸の前で前足をたたむのはなぜ?

上半身が安定化するからでしょう。

 胸の前で前足を折りたたむ姿勢は「香箱座り」、英語では「ローフ」(loaf)などと呼ばれます。猫がこうしたユニークな座り方をする理由には、胸郭の形と前足の特性が関係しています。
 肋骨で囲まれた猫の胸郭は人間とは違い、胸の中央部が尖ったドングリ型をしています。また猫の前足は犬とは違い、回外(親指が外側に向くようにねじること)させることができます。胸の中央にある胸骨を地面につけると、そこだけに体重が集中して不安定になるため、回外させた前足を両脇にはめ込んで安定化を図っているというわけです。胸が平べったい人間や、回外運動ができない犬で香箱座りが見られない理由はここにあります。 猫が香箱座りをする 猫が香箱座りをするのは前足で胸郭を安定させるため  なお胸の中央にある「胸骨」(sternum)と呼ばれる細長い骨が折れると、痛みから香箱座りができなくなります。骨折の主な原因は高所からの落下や交通事故ですので、安易にベランダや屋外に出さないようご注意ください。 胸骨を骨折した猫は香箱座りができなくなる

足の裏の毛は切った方が良い?

スリップを予防するために切った方が良いでしょう。

 短毛種ではそれほどでもありませんが、長毛種では指の隙間に生えている毛が伸びて足の裏まで覆い尽くしてしまうことがあります。 長毛種では指間のムダ毛が肉球を覆ってしまうことがある  こうしたムダ毛が肉球にまで達してしまうと滑り止めとしての機能が低下し、ジャンプする時や着地する時にスリップしてしまう危険性があります。ですからあまりにも伸びている時はカットした方が良いでしょう。長さの目安は、毛が肉球にかからない程度です。はさみを使う時は切り傷、バリカンを使うときは音響ストレスにご注意ください。

肉球に人間用の薬を塗ってよい?

やめといたほうがよいでしょう。

 肉球に擦り傷、切り傷、火傷、ひび割れ等ができても、人間用の皮膚薬は使わない方が無難です。アメリカで行われた調査では2001年1月から2018年1月の17年の間で、皮膚薬に関連した猫の中毒相談件数が14,880件に達したといいます。このうち動物用医薬品が関係していたケースが85%で、残りの15%では人間向けの薬が関与していたとのこと。中毒の主な原因は皮膚薬そのものというより、皮膚に塗った薬を誤って舐めとってしまうことでした。
 猫には被毛をなめるグルーミングという習性がありますので、ペット向けだろうと人間向けだろうと、肉球に皮膚薬を塗るときは獣医師の指示を仰ぎ、エリザベスカラーと併用するのが安全です。 猫が中毒に陥る危険が高い皮膚薬が判明
猫の歩様に関しては「猫の歩き方」をご参照ください。また歩き方が変だという場合は取り急ぎ「歩き方の変化や異常 」でチェックしてみてください。