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猫の足をよく見たらすごかった!~肉球の種類から爪の構造までを完全図解

 猫の足をよくよく観察してみると、驚くほど繊細で高い機能をもっていることがわかります。少しの間だけ猫の手を借り、前足や後ろ足の骨格・肉球・爪などを動画や画像を用いて詳しく見ていきましょう!なお、猫の歩様に関しては猫の歩き方をご参照ください。

猫の肉球

 猫の足の裏には肉球(にくきゅう)と呼ばれるクッションがついており、この肉球のおかげで足音を忍ばせて歩くことが出来ます。肉球は外側から、主に角質細胞から成る「表皮」(ひょうひ)、主にコラーゲンから成る「真皮」(しんぴ)、そして主に脂肪組織から成る「皮下組織」(ひかそしき)という層構造になっており、表皮は角質層が厚く重なり合って「結胝組織」(けっていそしき=いわゆる足の裏に出来る”タコ”)を構成しています。肉球のごく小さなくぼみ部分には、真皮層にあるエクリン腺の開口部がつながっており、わずかながら汗を出します。汗腺から分泌された汗は、マーキング(縄張り誇示行動)の匂いつけに利用されると同時に、滑り止めの役割を果たします。汚い例えですが、人間で言うと、何か作業する前に両手に「ペッ!」とつばを吐きかけるような感じでしょう。動物病院の診察台の上で、猫の肉球がべちゃべちゃになるのは、足に滑り止めを利かせてとっととその場から逃げおおせたいという気持ちの現れだと考えられます。

猫の肉球の名称と色

猫の肉球の名称、および色一覧~黒から乳白色まで、個体によって様々な色合いを見せます
  • 指球(しきゅう)指の根元に存在する、小さ目な5つの肉球。
  • 掌球(しょうきゅう)文字通り、たなごころ(掌=手の平のこと)に存在する肉球。
  • 手根球(しゅこんきゅう)前足のみに存在する肉球。で、下にある「豆状骨」(とうじょうこつ, pisiform)と呼ばれる小さな骨を守っていると考えられる。
  • 狼爪(ろうそう)人間で言うと親指に相当する指で、基本的に後ろ足にはない。第一指とも言う。
 猫の後足には痕跡的な親指しかありませんので、前足の指は計10本、後足の指は計8本となります。しかしカナダの東部やアメリカの北東部にはポリダクティル・キャット(Polydactyl Cat)と呼ばれる、指が通常よりも多い猫が存在します。多指猫とは、通常よりも多く指を持つ猫のことでポリダクティルキャットとも呼ばれる。指の合計数にはバリエーションがあり、最も多いのが前足の指だけが左右一本ずつ多い20本というパターンです。後足の指だけが多いと言うケースは珍しく、また前後の足全ての数が多いというケースは更にまれです。ギネス記録では、カナダの「ジェイク」という名の猫が、1本の足に7本ずつ、合計28本の指を持っていたとされています(→出典)。
 通常の猫よりも手先が器用だといわれており、転がるものを上手に片手でキャッチするなど、普通の猫には出来ないようなことができる個体もいます。こうした特質から昔の船乗りたちは、船の中でネズミをつかまえる「船猫」(ship cat)として、多指猫を好んで迎え入れたという逸話もあるくらいです。ちなみに2016年に行われた調査では、多指が猫の骨格や健康に悪影響を及ぼすことはないと確認されています(→詳細)。
 アメリカの文豪・アーネスト・ヘミングウェイが船乗りから譲り受けた「スノーボール」という名のポリダクティルキャットは、その後子孫を残し、現在「ヘミングウェイ博物館」(THE ERNEST HEMINGWAY HOME & MUSEUM)の庭で暮らしているそうです(→出典)。 アメリカンポリダクティル クリッパーキャット

犬と猫の肉球の違い

 雪が降った時、犬は喜んで庭を駆け回り、猫はコタツで丸くなるとよく言われますが、こうした犬と猫のリアクションの違いには、どうやら彼らが持つ肉球の構造が関わっているようです。2013年に行われた研究により、犬の肉球は「表皮乳頭」と「動静脈吻合」という特徴的な構造を持っていることが発見されました。以下は、犬と猫の肉球の断面を模式的に示したものです。 犬と猫の肉球断面比較図  「表皮乳頭」(ひょうひにゅうとう)は、肉球の表面にあるデコボコした起伏のことで、冷たい地面と直(じか)に接する面積を少なくするための構造だと考えられます。猫の肉球がツルツルしているのに対し、犬の肉球がザラザラしているのは、おそらく表面がこの乳頭によって覆われているからなのでしょう。
 「動静脈吻合」(どうじょうみゃくふんごう)は、動脈と静脈を結び付ける連絡路のことで、「イルカの尾びれ」、「アヒルの足」、「クジラの舌」など、寒い環境で生きている動物種に広くみられる構造です。その役割は、冷たい地面と接している足先の血流量を増加させることと、静脈血の冷えすぎを防ぐことです。体表温度が0℃に近づくと、自律神経の作用によって動静脈吻合が拡張して血流量が増加し、足先の凍傷を防ぐと同時に、体温が下がりすぎて低体温症になることも防いでくれます。
 犬の祖先が、寒冷地帯に暮らすハイイロオオカミであるのに対し、猫の祖先は砂漠地帯に暮らすリビアヤマネコです。こうした祖先種の生活環境の違いが、犬と猫の肉球の構造を変化させ、雪が降った時のリアクションの違いを生み出しているのでしょう。猫からすると、「凍傷にかかってまで遊びたかないよ」といったところです。 Comparative Anatomy of the Vasculature of the Dog and Domestic Cat Paw Pad

猫の爪

猫の爪の構造~内側のクイックを囲む形で固い外層が付着している  猫を始めとするネコ科動物は基本的に爪の出し入れが出来ます。爪は内側と外側の二層構造になっており、クイック(Quick)と呼ばれる内側には神経と血管が通っています。
 猫が爪とぎをするのは、古くなった爪の最外層をはがすことで、常に新しい爪をむき出しにしておくためです。猫の爪は、鉛筆のキャップのように幾重にも重なった構造をしており、内側に新しい爪ができると、古くなった外側の層をはがす必要性が生じます。猫が主として用いるのは前足なので、爪とぎをするのも前足だけです。はがれた最外層の爪は、通常三日月型をしていますが、普段爪とぎをしない後足の爪がポロリと落ちると、爪の形がそのまま残っていることもあります。
猫の爪が飛び出す仕組み
猫の爪が飛び出す仕組み~爪の下に付着した「深趾屈筋腱」というケーブルが、「深趾屈筋」という筋肉に引っ張られることで、ちょうど滑車のように爪が外に飛び出す  猫の爪は、平常時は靭帯(じんたい=骨格同志をつなぎとめるケーブル)によって格納されています。これは爪の磨耗(まもう)を防ぐと同時に、足音を忍ばせて獲物に近づくためです。しかし爪につながっている腱(けん=筋肉と骨格を結ぶケーブル)を筋肉の力で引っ張り上げると、滑車(かっしゃ)の要領で爪が外に飛び出すメカニズムになっています。具体的には、爪の下に付着した深趾屈筋腱(しんしくっきんけん)というケーブルが、深趾屈筋(しんしくっきん)という筋肉に引っ張られることで、ちょうど滑車のように爪が外に飛び出す構造です。獲物を襲うときや滑りやすい場所を歩くとき、あるいは木に登るときなどは自分の意思で爪を出すことが出来ます。
チーターの足と爪~常に爪が出た状態になっているのはスパイクとして使うため  ちなみに、ネコ科動物の中でもチーターは爪の出し入れが出来ず、常に出しっぱなしの状態です。これはチーターが猫と違って「脚力型」の狩猟を行うためです。猫は「待ち伏せ型」の狩猟を行いますので、獲物に足音を気づかれないよう、爪を隠す必要があります。しかし脚力型のチーターはスピードで一気に獲物との距離を縮めますので、爪を隠して足音を忍ばせる必要性が、猫と比較するとそれほどないという訳です。

猫の利き手

 猫には、人間で言う「右利き」、「左利き」のように、どちらか一方の前足を多用する傾向があるようです。参考までに、テキサスA&M大学で、オス猫7匹、メス猫6匹を用いて行われた実験をご紹介します。カウントされたのは、全て前足です。 「猫の行動学」(インターズー, P343)
自由に手を伸ばす
「自由に手を伸ばす」というテストにおける、猫の前肢の優位性
チューブの中に手を伸ばす
「チューブの中に手を伸ばす」というテストにおける、猫の前肢の優位性
障害物へ手を伸ばす
「障害物へ手を伸ばす」というテストにおける、猫の前肢の優位性
全体
様々なテストにおける、猫の前肢の優位性・総合結果  このように、テキサス大学における観察では、わずかに左前足を優位的に用いるという結果が出ています。
 しかし猫の利き手に関しては、研究者によって結果はまちまちです。例えば、1990年と1993年にKutluが行った観察では、右手優位が49.5~51.5%、左手優位が36.4~40.4%、両ききが10.1~12.1%といった具合に、非常に大きな幅をもった結果が出ています。
 猫がどちらの前足を好むのかについては、大脳皮質感覚運動野の左右差や、「対象物にたまたま右足が近かった」などの利便性が影響します。また、テストステロンというホルモンは、左脳を抑制して左右両利きを引き起こすと推測されています。さらに、リチウムやイミプラミンなどの薬物が、未知のメカニズムを通して利き手に影響を及ぼすようです。
 ちなみに2016年、アイルランドで行われた調査により、利き手の有無が猫の性格を決定づけているという可能性が示されました。調査チームによると、利き手のある猫では「自信がある・愛情深い・活動的・友好的」という傾向、利き手のない(=両利きの)猫では「愛情が薄い・従順性と友好性が低い・攻撃性が高い」という傾向が見出されたとのこと。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

猫のジャンプ力

 猫は非常に優れたジャンプ力を持っており、自分の体高の5倍近くを跳ぶともいわれています。この機敏な動き実現しているのは、後足に多く含まれる「速筋」と呼ばれる白っぽい筋肉です。特に多く含まれているのは「TypeIIx」と呼ばれる筋線維で、「疲れやすいけれども瞬間的に非常に強い力を出す」という特徴を持っています。猫の後肢における速筋「TypeIIx」の含有率18頭の猫を対象とした調査では、後足の筋肉における「TypeIIx」線維の割合が69.7%にまで達するという結果が出ていますので相当なものです(→出典)。こうした筋組成を持った結果、猫は「高い木に飛びつく」、「短距離を全力疾走する」、「狙った獲物にとびかかる」といった動きが得意になりました。しかし逆に、犬のように長距離を延々と走るという運動は、よほど必要がない限りしようとしません。猫が一日中寝ていたり、10分くらい遊ぶとすぐに疲れて寝ころんでしまうのは、後足の筋肉に疲れがたまりやすいことが、一因としてあるのでしょう。
サバンナのジャンプ力
 以下でご紹介するのは、優れたジャンプ力を持っていることで有名なサバンナという猫の動画です。垂直跳びで1.5メートル近くを軽々と跳んでいます。 元動画は⇒こちら
 なお2002年に行われた実験により、猫のジャンプ力は、後足が長くて体脂肪率が低いほど大きくなることが明らかとなりました(→出典)。調査の対象となったのは、性別も体重もばらばらの18頭の猫。後足の長さ(大腿骨+脛骨+足根骨+中足骨)、体重、脂肪率、筋肉の質量、筋肉のタイプといった変数と、ジャンプによって足が地面から離れるときの速度(TOV=Take Off Velocity)との関係が精査されました。その結果、後足が長ければ長いほど、また体脂肪率が低ければ低いほどジャンプ力が大きくなることが明らかになったといいます。また筋肉の質量や筋肉のタイプは、それほど離陸速度に影響を及ぼさなかったとも。 後ろ足の長さがまったく違うマンチカンとサバンナ  猫の中でもサバンナは非常にジャンプ力があることで知られていますが、その理由はこの種が持つ非常に長い足で説明がつくかもしれません。逆にマンチカンのような短足種のジャンプ力が小さくなるのは、仕方のないことです。

猫と木登り

 猫を始めとするネコ科動物は、木登りが得意です。小型の猫はもちろんのこと、ライオン、トラ、ヒョウといった大型の動物でさえ楽々と木に登ることができます。ネコ科動物の木登りを可能にしているのは以下に述べるような身体的な特徴だと考えられます。
木登りと身体的構造
  • 鉤爪猫の鉤爪は木登りに適している 平べったい人間の爪とは違い、猫の鉤爪(かぎづめ)は円柱状にカーブしながら伸びます。また断面が楕円形になっているため、縦方向の力には非常に強いというのも特徴です。さらに爪の先端は鋭く尖っており、デコボコした表面に容易に引っかかるようにできています。こうした鉤爪の構造は、獲物を仕留めるときに役立つのはもちろんのこと、木に登るときにも威力を発揮します。
  • 回外が得意猫の回外動作は木登りに適している 「回外」(かいがい)とは、前腕をねじって親指を外側に向ける動きのことです。人間では当たり前のように出来る動作ですが、実は霊長類以外の動物はあまり得意ではありません。例外はネコ科動物です。自分の前足の爪を噛む仕草からもわかるように、猫は自力で親指を外側に向けることができます。この前足の動きは、幹にしがみつく際に大いに役立ちます。
  • グリップができる猫のグリップ能力は木登りに適している 猫の肉球を触っていると、手を握り締めてぎゅっと丸めることがあります。このように猫は、握るという動作によって指と爪の角度を自在に変えることができるのです。このグリップ能力は、爪の先端を木の幹に効率的に食い込ませるときに役立ちます。
 上記したような身体的な特徴により、猫を始めとするネコ科動物は、一般的に木登りが得意です。樹木の少ない都会や、完全室内飼いの猫ではほとんどお目にかかれませんが、野生環境で暮らすネコ科動物では、敵から逃げるときや獲物を探して周囲を見回すとき、あるいは獲物を追い詰めるときなどにしばしば観察されます。 木に登るライオンとトラ  ただしあまりにも調子に乗って高いところに登ってしまうと、自力では降りられなくなってしまうこともあるようです。木の上に取り残された猫が救助される場面を、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。こうした「行きはよいよい帰りは怖い」という現象は、子猫の頃、十分に木登りの練習をしなかったツケなのかもしれません。
木登りと猫の親指 猫の親指は木に登る際に役立っている 猫の前足には、他の4本からかなり離れた場所にポツンと親指がついています。日常生活においてはほとんど役に立っていませんが、木に登る時だけは別です。木の幹を抱え込んだとき、この親指が表面に食い込むことで体重の支持を補助しているのです。一方、後足の親指は退化してありません。これは恐らく、後ろ足が木に登るときの抱え込み動作に関わっていないからでしょう。