トップ猫のしつけ方猫のひっかき・噛む癖

猫のひっかき・噛む癖

 普段はおとなしい猫でも、時として爪でひっかいたりキバで噛み付いたりすることがあります。こうした攻撃行動の原因は多岐にわたり、もし対策を間違うと、逆に凶暴性が激化してしまう危険性があります。

猫の攻撃行動がもたらすもの

 猫の攻撃行動とみなされるものを深刻度の順に並べると、おおむね以下のようになります。体を傷つけられたからと言ってその全てが「攻撃」というカテゴリーに入るわけではありません。
猫の攻撃行動
深刻度順に見る猫の攻撃行動
  • 威嚇(シャー/カッ)
  • 前足を上げて、けん制する動作
  • 爪を出さずにネコパンチ
  • 爪を出してのひっかき・噛みつき
 キバをむき出して「シャー!」と強がっているだけなら問題にはなりにくいですが、ひっかいたり噛み付いてしまうと、様々な実害が生じてきます。一例を挙げれば、跡の残るようなひどい「ひっかき傷」、人獣共通感染症である「猫ひっかき病」の発症、攻撃行動の結果としての「飼い主との関係悪化」、関係悪化の結果としての「飼育放棄」・「殺処分」などです。さらに近年では、猫の噛み付きとうつ病との間に、強い関連性があることも示唆されています。
 こうした最悪のシナリオを避けるためにも、ひっかきや噛む癖など猫の攻撃行動は早期に解決したいものです。幸い、猫の問題行動は適切な処置を施せば、高い確率で改善するというデータがあります。例えば、1997年にOverallが行った統計調査によると、「問題行動を抱えて行動クリニックに来院した飼い主の内、18%が猫の安楽死を考えていた。しかし、治療後に実際に安楽死させられた猫は1%以下だった」という結果が出ています。これは問題行動の多くは解決可能であることを示す有力なデータと言えるでしょう。
 重要なのは、問題の原因を適切に見極め、適切な処置を早期に施すということです。
前科のついた猫  アメリカのコネチカット州では2006年、攻撃的な猫に対して「裁判所から自宅軟禁命令が下る」という珍事が起こっています。
 問題を起こしたのは「ルイス」という名のオス猫です。近隣住民に対する度重なる攻撃行動を重く見た裁判所は、ルイスの飼い主に対して「病院に行くとき以外は家の中にとどまること」、および「外に出るときは必ずキャリーに入れること」という命令を下しました。
 この事件は、「動物に対して軟禁命令が下される」という珍しさも手伝い、全米中で話題となりました。 前科のついた猫ルイス
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猫の攻撃行動・発生頻度

 猫の攻撃は比較的ありふれた行動であり、猫を飼っている家庭ならば常に直面しうる問題です。例えば、イギリスでペットの問題行動を扱う「ペット行動カウンセラー協会」(APBC)が1997年に行った調査では、猫の攻撃行動の発生頻度に関して、以下のような結果が出ています。 ドメスティック・キャット(チクサン出版社, P307) 「ペット行動カウンセラー協会」(APBC)による猫の問題行動発生頻度
  • マーキング=29.4%
  • 猫に対する攻撃行動=16.8%
  • 人に対する攻撃行動=16.1%
  • 粗相=12.6%
  • 過剰な愛着=4.2%
  • 過剰な怖がり=2.1%
  • その他=18.9%
 「猫に対する攻撃行動」が16.8%、「人に対する攻撃行動」が16.1%を占めており、両者を合わせると、33%という高い割合になります。これはすなわち、「人に飼われている猫のうち、3匹に1匹の割合で何らかの攻撃行動を見せている」ということです。
 上記統計の他、Houptが1988年に行った調査では、問題行動があると報告された100匹の猫のうち、25%が攻撃行動に関わっており、またBeaverが1989年に行った調査では、179匹のうち13%が攻撃行動の徴候を見せたといいます。
 このように、ひっかきや噛む癖など猫の攻撃行動は、「対岸の火事」として軽視することのできない、重大な問題の一つであることがお分かり頂けるでしょう。
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原因別・攻撃行動と対策

 飼っている猫の攻撃行動で悩んでいる方は、まず日誌を付けるようにします。「いつ」、「どこで」、「何がきっかけで」猫の攻撃行動が発生したのかを細かく記録しておけば、その原因についての予測を立てやすくなるでしょう。
 以下でご紹介するのは、多くの文献で共通して見られる分類法です。対策についても併記しましたので、問題行動を予防する際にお役立てください。
猫の攻撃行動一覧

猫同士の攻撃

猫同士のケンカは、そのほとんどがオス同士  「猫同士の攻撃」のほとんどは、オス猫間の攻撃(雄性間攻撃)です。単純に「ケンカ」と言い換えても良いでしょう。オス猫の数が過密である状況や、繁殖期でオス猫同士の遭遇回数が増える状況において頻繁に観察されます。
 オス猫の「ケッカッぱやさ」を作り出しているのは、テストステロンと呼ばれるホルモンです。ホルモンとは、動物の体に作用して、行動や体内環境を変化させる微量分子のことを指します。テストステロンがオス猫の攻撃行動に及ぼす具体的な影響は以下。
テストステロンと攻撃行動
  • 攻撃の促進  テストステロンは、ケンカ時におけるオス猫の攻撃行動を促進しています。
     例えば、動物行動学者のB・ハートの研究(1977)によると、去勢されてテストステロンの分泌が抑制されたオス猫では、80~90%でケンカをしなくなると言います。また脳神経学の領域では、テストステロンが脳内の攻撃を司る部位に、選択的に取り込まれることが確認されています。
  • 防御力の上昇  テストステロンは、オス猫が他の猫から攻撃を受けたときの防御力にも関与しています。
     このホルモンは、オス猫特有の「首の皮膚の緩い付着」と「皮膚の肥厚」という身体的な特徴を作り出します。「ジャウル」(jowl)とも呼ばれるこうした身体的な特徴の役割は、攻撃を受けたときの「防弾チョッキ」です。つまりテストステロンは、ケンカしていない時からすでに、来るべきケンカに備えて「面の皮を厚くする」という役割を果たしているのです。
 なお、本気のケンカと遊びを区別する際は、「うなり声の有無」が一つのポイントになるでしょう。本気の場合は攻撃に先立って、甲高い声で叫びあう姿が観察されます。一方、単なる遊びの場合は、こうした声を発せず、黙々と取っ組み合いをします。 猫の敵対行動

猫同士の攻撃・予防策

 猫同士の攻撃を予防するには、まず去勢手術を施すことです。精巣を取り除いてしまえば、そこから分泌されるテストステロンが減少しますので、結果として攻撃性が抑制されます。
 B・ハートの調査によると、オス猫のテストステロンは去勢後8~16時間で平均レベル(50ng/dl以下)まで急速に低下するそうです。その結果、約8割の猫においては、手術後、急激に行動が変化すると言います。また、約1割の猫に関しては、数ヶ月掛けてゆっくり行動を変化させていき、残りの1割に関しては、行動に変化が見られないとも。
 もし手術をしても攻撃性が低下しないようなら、第二の選択肢として環境操作をするしかありません。一例は以下。
猫同士の攻撃行動・予防策
  • いがみあっている猫を別々の部屋で飼育する
  • 一つの部屋を時間差で使わせる
  • 食事のときだけ時間限定で一緒にする
  • 一つの部屋の中で隠れ家を用意してあげる
 また、猫を自由に外出させる放し飼いでは、いつ何時(なんどき)、猫同士のケンカに巻き込まれるかわかりません。怪我や感染症を予防するためにも、室内飼いをすることが望まれます。 猫をどこで飼うか? 特発性膀胱炎

疼痛性攻撃行動

猫が痛みを感じているときは、暴れまわるのではなく逆にじっとおとなしくなる  「疼痛性攻撃行動」とは、痛みが原因で起こるひっかきや噛みつきです。「疼痛」(とうつう)とは聞きなれない言葉ですが、「じっとしていても感じる、うずくような痛み」のことを指します。
 猫の場合、「しっぽをドアに挟まれた」、「叩かれた」など単発的なものから、「関節炎」、「胃腸障害」、「抜爪術後の幻肢痛」など、持続的なものまでが含まれます。

疼痛性攻撃行動・予防策

 猫の疼痛性攻撃行動を予防するためには、まず猫が怪我をしないよう環境を整備することが重要です。例えば、ドアが閉まりきらないようにするには、ドアの下にストッパーを挟んだり、ドア上部にタオルを挟むといった方法があります。猫が頭をぶつけないよう、角張った部分に緩衝材を取り付けるのも良いでしょう。 猫を飼う室内環境の整え方 猫の怪我と事故  慢性的な病気が原因の場合、猫の様子を飼い主が観察することで早期発見につなげるようにします。具体的には猫の症状一覧を日頃からチェックする習慣をつけておけば、かなりの確率で病気や怪我を早期発見できるでしょう。
 なお、猫は具合が悪いとき、積極的に異常行動を示すというよりも、むしろ不活発になると言います(McCune, 1992)。ですから特に「引きこもって出てこようとしない」などの徴候があった場合が要注意です。

恐怖性攻撃行動

 「恐怖性攻撃行動」とは、猫が強い恐怖を感じ、なおかつ逃避が不可能であると判断したときに出る反撃のことです。恐怖心の強い小心系の猫に多いとされます。
 通常、攻撃に先立って「毛を逆立てる」、「尾をすばやく振る」、「シャーという音を出す」などの威嚇行動が見られますが、特に猫が仰向けになったときが要注意です。犬では「服従」を表すこの姿勢は、猫では「攻撃の構え」を意味しています。猫からのサインを誤解して不用意に近づいてしまうと、前肢で人の手や足を抱え込み、後肢でネコキックを放ってきます。このときの爪は出っぱなしなので、かなり重大な怪我を負ってしまうでしょう。

恐怖性攻撃行動・予防策

 恐怖性攻撃行動を予防するためには、猫に恐怖を与えないことが第一です。猫が怖がるものは、大きな音、急な動き、初めて見るものなどたくさんあります。また、人間の不適切な触り方が、期せずして猫に恐怖を与えてしまうこともあるでしょう。具体的には猫の怖がるものを参照し、生活環境の中から猫に恐怖を与えるものを排除するよう努めます。
子猫の性格形成上、社会化期におけるハンドリングは極めて重要  また、社会化期における環境整備も重要です。社会化期とは子猫の性格を決定付ける限定的な期間のことで、猫の場合は生後2~7週齢時を指します。この社会化期において、なるべくたくさんの人間がハンドリングをしたり、なるべくたくさんの事物に接触させてあげると、成猫になったときの恐怖心が緩和されると言われています。例えば、1965年、Wilsonらが行った実験では、生後45日齢で1日5分だけ手にとって触れるという「ハンドリング」を受けた子猫は、見慣れないおもちゃや人に、ためらいなく近づくそうです。
 その他、猫の性格形成に影響を与える様々な要因に関しては猫の性格をご参照ください。

母性攻撃行動

子猫を守ろうとして敵に対して攻撃的になる現象を、母性攻撃行動と呼ぶ  「母性による攻撃行動」とは、妊娠中、もしくは出産したばかりの母猫が見せる威嚇、ひっかき、噛みつきです。
 猫が恐怖を感じて逃げ出そうとする限界の距離を「逃走距離」(とうそうきょり)と言いますが、通常は2メートル前後です。しかし母猫ではこの距離がやや長くなり、かなり離れた場所からでも「シャー!」という威嚇をしてくることがあります。

母性攻撃行動・予防策

 母性による攻撃行動は期間限定のものですので、その行動自体をとがめる必要はありません。人間が「不用意に子猫を母猫から引き離そうとしない」、「母猫のそばで急な動きをしない」などの注意点を守っておけば、攻撃を受けることはまず無いでしょう。

縄張り性攻撃行動

縄張りの中でオス猫同士が鉢合わせすると、縄張り性の攻撃行動に発展する  「縄張り性攻撃行動」とは、縄張りに侵入してきた部外者に対してみせるひっかきや噛みつきのことです。繁殖期のオス猫同士が出会ったときや、先住猫と新参猫が初対面する状況などで観察されます。
 そもそも猫の制空権には幾つかの段階があり、大きい順に列挙すると「生活圏」、「縄張り」、「社会的距離」、「逃走距離」、「臨界距離」、「個人的距離」となります。このうち「縄張り」は、自分の匂いを残すことで他の猫が侵入することを積極的に拒む領域のことを指し、「テリトリー」(territory)とも呼ばれます。
 縄張り誇示のための匂い付けとしては、「スプレー」と呼ばれるおしっこの撒き散らしが有名で、これはメス猫よりもオス猫において頻繁に見られる性的二型性をもった行動です。オス猫が縄張りにこだわるのは、食料資源を確保するためというよりも、安心して交尾できる領域を確保するという意味合いの方が大きいと考えられます。 縄張り意識がある

縄張り性攻撃行動・予防策

 縄張り性攻撃行動を予防するためには、まず不妊手術を施すことです。性欲が減少することで縄張り意識も低減し、スプレーを予防すると同時に、縄張り性の攻撃を予防するという一石二鳥の効果が期待できます。
 また、先住猫と新参猫を顔合わせするときは、いきなりご対面させるのではなく、ゆっくり時間を掛けて慣れさせることが重要です。具体的には、新参猫をキャリーなど攻撃の及ばない状態にして入室させ、先住猫が興味を引かれて近づくのを待ちます。先住猫がシャーシャー威嚇しなければ、少しずつ入室時間を延ばし、1週間くらい掛けて慣れさせます。

競合性攻撃行動

 「競合性攻撃行動」とは、限られた資源を奪い合う猫同士の間で見られる攻撃性です。「限られた資源」には、エサ、トイレ、寝床、おもちゃ、日向ぼっこスペース、高い場所、飼い主の愛情などが含まれます。

競合性攻撃行動・予防策

 競合性攻撃行動を予防するためには、猫同士の競合が起こらないよう、資源を均等に分配することが重要です。食料(エサ・おやつ)はもちろんのこと、スペース(トイレ・寝床・休憩所・高い場所)、おもちゃ、飼い主の愛情を、猫の数だけ等しく分配するよう心がけます。
飼育条件を考えずに、闇雲に猫の数を増やすのが「アニマルホーダー」  ちなみに世の中には「アニマルホーダー」(animal hoarder)と呼ばれる人がいます。これは、十分な飼育環境が整っていないにもかかわらず、次から次へと猫を家に迎え入れ、「猫屋敷」を形成してしまう人のことです。室内の衛生状態や猫の福祉状態が劣悪になりやすいという点で問題視されます。
 「野良猫を助けているんだ!」という大義名分を掲げて行為を正当化している人もいますが、たくさんの猫に対して資源を均等に分け与えなければ、すぐに競合性の攻撃行動が激化してしまいます。猫同士のいがみ合いは、特発性膀胱炎の最も大きな危険因子と考えられていますので、猫の生態に関する十分な知識と、十分な敷地、そして十分な資金力がない限り、やってはいけない飼育方法です。 猫を飼う室内環境の整え方 猫の欲求

学習性攻撃行動

ひっかきや噛み付き行為と報酬とが結びつき、攻撃行動が激化してしまうのが学習性攻撃行動  「学習性攻撃行動」とは、攻撃することと報酬とが結びついたために繰り返されるひっかきや噛みつきのことです。
 例えば、しつこくしっぽを引っ張ってくる男の子に対しネコパンチを繰り出したところ、うまく撃退できたとします。こうした経験を持つ猫は、以後「不快なものがきたら、ネコパンチをする」という行動パターンを強化します。その結果、猫をなでようと手を伸ばしただけで、その手に向かって攻撃を仕掛けてくるかもしれません。
 このように「嫌なことから逃れるために、ある特定の行動を起こすようになること」を「回避条件付け」といい、動物ではしばしば見られる現象です。

学習性攻撃行動・予防策

 学習性攻撃行動を予防するためには、人間の体を用いて遊ばないことが重要です。人の手に噛み付いたりひっかりたりすることと「楽しい」という感情が結びついてしまうと、人に危害を加えることに抵抗を示さない猫が育ってしまいます。猫と遊ぶときは必ず猫用のおもちゃを用いることが鉄則です。 猫と遊ぶ 猫のおもちゃ・玩具

遊戯性攻撃行動

遊びの延長線上で攻撃を加えるのが遊戯性攻撃行動  「遊戯性攻撃行動」とは、遊びの延長で見られるひっかきや噛みつきのことです。
 そもそも猫の遊びには、兄弟猫と行う「社会的な遊び」と、自分ひとりで行う「単独の遊び」とがあり、前者は生後4~7週齢頃、後者は8~14週齢頃活発になります。
 特に重要なのは、社会的遊びであり、猫は「どのくらいの力で噛まれると痛いか」ということや「爪を出して叩かれるとすごく痛い」といったことを、兄弟同士で行う遊びを通じて学習していきます。例えば、1980年にGuyotが行った観察では、「兄弟猫との社会的遊びが極端に少なかった子猫は、兄弟猫と一緒に遊んで育った子猫に比べ、噛み付く頻度が高く、また強く噛み付く傾向がある」という結果が出ています。
 このように社会的遊びは、「攻撃抑制」の学習において決定的に重要な役割を果たしているのです。

遊戯性攻撃行動・予防策

 遊戯性攻撃行動を予防するためには、まず子猫の内に攻撃抑制を学習させることです。攻撃抑制とは、相手に攻撃を加えるとき、致命的な怪我を負わせないよう自制することを指します。
猫の遊戯性攻撃行動を予防するには、人の手で遊ぶのをやめ、猫用のおもちゃを用いるよう徹底することが必要  兄弟猫がいるときは、自然の流れに任せて遊びを放置していれば問題ないでしょう。兄弟猫がいない場合は、母猫が遊びの相手になってあげることが多いようです。もし兄弟猫も母猫もいない場合は、猫の幼稚園で他の子猫と接触させるというのも一案です。「猫の幼稚園」とは、同じ週齢にある子猫を一ヶ所に集め、自然な遊びを促すというものです。知り合いの中に子猫を飼っている人がいる場合は、一度相談してみると良いでしょう。ただし、寄生虫感染症の危険性がない場合に限ります。
 また、人間の手を用いて子猫と遊ばないことも重要です。「人間の手=遊び道具」と覚えてしまうと、成猫になってからも人の手に対して攻撃を仕掛けてくることがあります。猫と遊ぶときは必ず猫用のおもちゃを用い、人間の体の一部や、日用品は絶対に用いないようにします。
 さらに、遊びが足りない猫は、ストレス発散として人の足などに攻撃を仕掛けてくることがあります。猫は完全肉食であり、空腹かどうかに関わらず、獲物を狩ろうとする習性をもっています。猫の狩猟本能を解消する際は、同居猫同士で遊ばせたり、飼い主がおもちゃを用いて遊ばせたりすることが効果的です。 猫と遊ぶ 猫のおもちゃ・玩具

捕食性攻撃行動

猫が捕食するときの特徴は、姿勢を低くして忍び足で獲物に近づくこと  「捕食性攻撃行動」とは、獲物に対して条件反射的に繰り出す攻撃のことで、怒りを伴わないことが特徴です。「忍び足で近づく」、「姿勢を低くする」、「尾をピクピク動かす」、「急に飛びかかる」など、狩りをするときに特有の行動を見せます。
 猫の本能的な行動を引き出すきっかけのことを「解発因」(かいはついん, リリーサーとも)と言います。猫の狩猟行動を引き出す解発因には「視界の中のすばやい動き」、「高い鳴き声」、「胴体と首の間のくびれ」、「カサコソという小さな音」などがあります。「オス猫の子殺し」という現象がありますが、これも、生まれたばかりの子猫が、上記したような解発因を体中に持っているから生じる怪現象だと考えられています。

捕食性攻撃行動・予防策

 猫の捕食性攻撃行動を予防するためには、生活の中から解発因を取り除くことです。例えば、猫と遊ぶとき、袋の中に手を入れてカサカサと音を立てるやり方は避けた方が良いでしょう。獲物と勘違いした猫が袋に飛びつき、勢い余って飼い主の手を傷つけてしまうかもしれません。遊ぶときは必ず猫用のおもちゃを用い、人間の体の一部や日用品を用いないよう気をつけます。 猫と遊ぶ 猫のおもちゃ・玩具  また、小鳥やフェレットなどの小動物と猫を同居させることは、基本的に諦めた方が無難です。「子猫の頃から一緒に育った」という条件がない限り、猫が小動物を仲間とみなすことはありません。こうした小動物は猫の狩猟本能を刺激する様々な解発因をもっていますので、長期間、猫と同居させることは不可能と考えた方がよいでしょう。

転嫁性攻撃行動

 「転嫁性攻撃行動」とは、欲求が満たされないイライラから出るひっかきや噛みつきのことで、平たく言うと「八つ当たり」です。空腹、恐怖、大きな騒音、不快な匂いなど、あらゆるストレスが引き金になりえます。

転嫁性攻撃行動・予防策

 転嫁性攻撃行動を予防するには、まずストレス管理です。猫の好き嫌い猫の欲求を理解し、生活環境の中で猫にストレスを与えているものが無いかどうかを総チェックします。特に、窓の外から見た見知らぬ猫の姿に触発され、攻撃性が高まるという状況がよくあります。そうした場合は、窓の一部を覆ったり、外猫を追い払うといった環境操作が必要となるでしょう。 猫のストレスチェック  また、猫のケンカを止めようとして不用意に割り込むと、本来相手の猫に向かうべきネコパンチが、なぜか飼い主に向けられることがあります。これも転嫁性攻撃行動の一種ですが、ケンカを止めるときは力づくで割り込むのではなく、「定位反射」を利用するようにします。定位反射とは、大きな物音があったとき、音源の位置を確認しようとする反射のことで、猫を始めとするほとんどの動物に備わっているものです。例えば、風船を割ったり、バケツを落としたり、クラッカーを鳴らしたりすれば、猫が驚いてケンカを中断し、音の方を向いてくれるでしょう。

愛撫誘発性攻撃行動

 「愛撫誘発性攻撃行動」とは、気持ちよさそうになでられていた猫が急に豹変し、人に攻撃をしてくるというものです。
 理由としては、「触るの下手だなぁ、という不満」、「もういいよ、という合図」、「もっとやって、という命令」、「浅い眠りに落ちた後の寝ぼけ行動」、「衣服と被毛が擦れ合って静電気が発生した」などが考えられますが、確かなことは分かっていません。

愛撫誘発性攻撃行動・予防策

攻撃前の猫が良く見せるデビルフェイス~横に寝た耳と開いた瞳孔  愛撫誘発性攻撃行動を予防するためには、まず猫の表情を見ることが重要です。猫はうっとりしているとき耳を前に向けて目を半開きにします。しかしちょっと不機嫌になると、耳を横に向けてピンと立て、目の瞳孔が開きます。こうした「デビルフェイス」の徴候が見られたら、すばやく猫から離れましょう。猫の集中力の限界はだいたい20分ですので、この時間を目安にスキンシップを切り上げるようにします。 猫の心を読む訓練

疾病性攻撃行動

 「疾病性攻撃行動」とは、病気に起因する攻撃性のことです。猫の攻撃性に影響を及ぼす疾患としては、甲状腺機能低下症 てんかん、脳腫瘍、視覚障害、聴覚障害などがあります。視覚障害と聴覚障害に関しては、周囲の状況に対する認識力が低下しているため、急な刺激に対してビックリしやすいことが一因です。

疾病性攻撃行動・予防策

 疾病性攻撃行動を予防するためには、日頃から猫の健康をチェックし、病気の徴候をいち早く発見してあげることが重要です。 猫の症状一覧

社会化不足による攻撃行動

 「社会化不足による攻撃行動」とは、社会化期において周囲の環境への馴れが足りなかったために生じる攻撃性のことです。
 社会化期とは子猫の性格を決定付ける限定的な期間のことで、猫の場合は生後2~7週齢時を指します。この時期における人間との接触や外部刺激との接触が制限されると、成猫になったとき、臆病で人見知りの激しい猫に育つと言われています。
 残念ながら、ひとたびこの時期を逃してしまうと、後から穴埋めすることはできません。 猫の性格

社会化不足による攻撃行動・予防策

 社会化不足による攻撃行動を予防するためには、まず社会化期において、子猫をさまざまな刺激にさらすということが重要です。猫の性格を決定付ける要素は多々ありますが、こうした社会経験が最も重要なものの一つです。
 社会化期における学習を逃してしまった場合は、「系統的脱感作」(けいとうてきだつかんさ)や「拮抗条件付け」(きっこうじょうけんづけ)という手法を用いて、ゆっくりと猫を慣らしていくしかありません。系統的脱感作とは、苦手な刺激に対して段階的に慣らしていくことで、拮抗条件付けとは、苦手な刺激を好きな刺激に逆転してしまうということです。
 例えば、人間の手を怖がる猫がいるとしましょう。上記した手法を用いたアプローチの一例は以下です。決してあせらず、数週間~数ヶ月かけて行います。
猫の恐怖症克服
  • 系統的脱感作  物陰から指1本だけを猫に見せる→猫が慣れたら指を2本に増やす→3本に増やす→・・・→手のひら全体を見せる
  • 拮抗条件付け  おいしいおやつを人の手から猫の近くに投げてあげる→投げる場所を徐々に近づけていく→人の手から直接おやつを与える

特発性攻撃行動

 「特発性攻撃行動」とは、原因が良く分からないひっかきや噛みつきのことです。「特発性」は「とくはつせい」と読みます
 脳内で受け渡しされる化学物質のことを神経伝達物質と言い、そのうち、ドーパミン、ノルエピネフリン、アセチルコリンは攻撃性を高め、セロトニンは抑制すると言われています。脳内で何らかの不具合が発生し、こうした神経伝達物質にまで影響が及んでしまうと、その結果として攻撃性の増減が起こるかもしれません。
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知っておきたい対処法

 前のセクションでは、原因別に攻撃行動対策を見てきました。ここでは、原因に関わらず知っておきたい対処法について解説します。

人工フェロモン

 「人工フェロモン」とは、猫の顔から分泌されるフェイシャルフェロモンを、人工的に合成したものです。この微量分子には鎮静効果があるといわれており、猫の問題行動に対してしばしば用いられます。確認されている効果は以下。
人工フェロモンの効果
  • 爪とぎに対して  爪とぎをしてほしくない場所に合成フェイシャルフェロモンをスプレーしたところ、28日後には、引っかく行動が96%減少した。
  • スプレーに対して  33.3%の猫でスプレー行動(おしっこのひっかけ)が完全になくなり、全く効果が見られなかったのは9.3%に過ぎなかった。
 こうした鎮静効果は、フェロモンを通じて「近くに仲間がいる」と錯覚した猫が、持続的に安心感を抱くようになった結果なのかもしれません。
 一方、猫の攻撃行動に関してもその効果を示す報告があり、「F3」と呼ばれる種類では、軽度の攻撃性に効果があると言われています(Ogata, Taguchi, 2001)。またフェロモンは、スプレー型よりも蒸散型の方が効果が高いとも(Mills, 2001)。
 ただし同じフェロモンでも「F4」と呼ばれるものに関しては、パニックを起こす猫や、逆に攻撃性が高まってしまう猫の報告もあるため、F3のように気軽に用いることはできません。 猫のフェイシャルフェロモン

爪切り

 「爪切り」とは文字通り爪の先端を切り落とすことです。ただ切っただけではまだ先端が尖っていますので、爪やすりなどて滑らかにすると、ひっかき予防効果が一層高まります。 猫の爪切りの仕方

爪キャップ

爪キャップは、爪切り後の猫の爪にかぶせるプラスチックカバー  「爪キャップ」とは、爪切りをした後、猫の爪に接着するプラスチック製のカバーのことです。月に1度程度の交換が必要なため、手を触ってもおとなしくしている猫に適しています。
 ひっかき行動の根本的な解決にはなっていませんが、仮にネコパンチされても怪我さえ負わなければ、飼育放棄や殺処分という最悪のシナリオにまで発展することは無いでしょう。

外科手術

 「外科手術」とは、猫の攻撃行動で問題となる爪自体を使えなくすることです。代表的なものとして「抜爪術」(ばっそうじゅつ)と「深趾屈筋腱切除術」(しんしくっきんけんせつじょじゅつ)があります。
 前者は猫の指を第一関節から骨ごと切断してしまう手術で、後者は、爪を出し入れしている筋肉の一部を使えなくする手術のことを指します。
 動物愛護の観点から、ヨーロッパの多くの国では禁止されています。しかし日本においては、「最終判断は担当獣医師と飼い主に任せる」となっており、法的な規制は掛かっていません。
 この方法は、他のあらゆる選択肢を試した後でようやく考慮される、最後の選択肢であることは言うまでもないでしょう。 猫の爪を除去する手術

投薬治療

 猫の攻撃行動を治療する目的で認可された薬物は存在しません。しかし猫の攻撃性が激しく、「もう一緒には暮らしていけない!」という切羽詰った状況においては、選択肢として考慮されることもあります。
 投薬治療には副作用というリスクが伴いますので、その点を理解した上で、かかりつけの獣医師に相談します。

体罰を用いずサプライズを

 猫の攻撃行動に対して、叩いたりつねったりといった体罰をもってやり返してはいけません。理由は、猫の興奮レベルが高まって、一層攻撃性が増してしまうからです。
 ただし、猫が攻撃のサインを見せた瞬間を見計らって、「サプライズ」を加えることは許容範囲です。サプライズとは、猫に苦痛を与えるのではなく、「ハッ!」と驚かせて攻撃意欲を萎(な)えさせるために与えるショックのことを指します。一例は以下。
猫へのサプライズ
  • 風船を割る
  • 猫だまし(手をパン!)
  • クラッカー・カンシャク玉
  • 水鉄砲・霧吹き
  • トレーニングディスク(小型のシンバル)
  • キーボードクリーナー(圧縮空気)
 こうしたサプライズをすばやく繰り出せるように練習をしておくと、猫が実際の攻撃行動に移る前に予防できます。 猫に対するサプライズ

ストレスを緩和する

 ストレスが猫の攻撃性を高めることがあります。
 猫の好き嫌い猫の欲求をよく理解し、猫のストレスチェックを参考にしながら生活環境の総点検をして見ます。 猫の幸福とストレス
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猫の噛み付きとうつ病

 2013年、ミシガン大学は10年間の医療記録を分析し、猫の咬傷とうつ病との間に、強い関連性がある可能性を突き止めました。

犬猫の咬傷とうつ病

 同大学の研究チームは、1,300万人に及ぶ医療記録をデータベース化し、動物による咬傷とうつ病の発症確率について調査しました。結果は以下。 Describing the Relationship between Cat Bites and Human Depression(David A. Hanauer)
うつ病患者と咬傷患者数
  • 患者総数=約1,300万人
  • うつ病患者数=約11万7,000人(0.9%)
  • 猫に噛まれたことがある人=750人
  • 犬に噛まれたことがある人=1,108人
 さらに上記データを深く掘り下げ、「犬に噛まれたことがある人の中でうつ病にかかっている人」、及び「猫に噛まれたことがある人の中でうつ病にかかっている人」というクロス検索をかけ、その男女比を明らかにしました。
犬の咬傷とうつ病併発率
犬の咬傷とうつ病併発率、およびその男女比
  • 犬咬傷+うつ病=28.7%
  • 男性=35.5%
  • 女性=64.5%
猫の咬傷とうつ病併発率
猫の咬傷とうつ病併発率、およびその男女比
  • 猫咬傷+うつ病=41.7%
  • 男性=14.5%
  • 女性=85.5%
 患者全体の中におけるうつ病患者の割合がわずか0.9%であることを考え合わせると、上記うつ病の発症率(犬に噛まれた人の28.7%, 猫に噛まれた人の41.7%)が異常なくらい高いことがお分かりいただけるでしょう。また犬の咬傷にしても猫の咬傷にしても、なぜか女性の方が多くうつ病を併発するという事実も浮き彫りとなりました。
 こうした結果から研究チームは、猫の咬傷とうつ病の発症確率には強い関連性があり、特に女性では顕著であるという可能性を示しました。また上記関連性から逆算した場合、猫に噛まれたことがある人のうち、「うつ病」と診断される人の割合は女性で47.0%、男性で24.2%にまで及ぶとのこと。

うつ病発症のメカニズム

 咬傷とうつ病との奇妙な関連性については、いまだ議論の最中ですが、可能性としては以下のような仮説が検討されてます。
猫の咬傷とうつ病発症のメカニズム
  • うつ病にかかる人は、心の隙間を埋めるためにペットを飼う傾向にある
  • 女性の方が猫の飼育率がそもそも高い
  • 飼い主の変化をきっかけとして猫の噛み付きが起こった可能性がある
  • トキソプラズマによる「危険な情事現象」
 このように、猫の咬傷が最初にあってうつ病を発症したのか、それとも逆に、うつ病を発症したから猫の噛み付きが起こったのかに関しては、いまだにはっきりしていないのが現状です。しかし猫を飼っている家庭においては、とにかく猫に噛み付かれないよう心がけるに越したことはなさそうです。
危険な情事現象
 「危険な情事現象」とは、自分の身に危険を及ぼすようなものに対し、なぜか魅力を感じて近づいてしまう現象のことです。トキソプラズマという原虫の一種に感染したげっ歯類や人間において、嗅覚や恐怖心に変化が起こることが知られています。 トキソプラズマ症
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